第245話 職場見学

 自由時間......それは自由に過ごす時間。


 皆でワイワイ過ごすもよし、やりたい事をやるのでもよし、一人でボーッと過ごすのもよし。そんな何をしていても誰にも文句を言われない崇高な時間である。


 それでは、ウチのアークエンジェルたちの自由時間の過ごし方を観察してみましょう。

 先ずは末っ子のしるこちゃんから......



 case1~しるこ~


「メェェェ」


 ......あざとい、実にあざとい。

 もう既に普通に歩行できたり、俺の腹に羊ロケットをぶち込めるくらいなのに、今あの子はとってもヨチヨチ歩いている。思わず我が子の初めてのおつかいを見守る親のような目線や気持ちになってしまう。


「......可愛い」


 俺の留守中にピノちゃん辺りが制作したと思われるなんかの草の蔓を編み込んで作ったハンモックに飛び乗って、メェメェ言いながらゆらゆらしている。

 心地よくて無意識に声が出ちゃってるんだろうなアレ......あざといなぁ。でも好き。


「メェェ......」


 寝落ちた。瞬殺だった。


 あのハンモック、後で俺も使わせてもらおう。


 永遠に眺めていられるけど、他の子たちもいるんだよね......ゆっくり眠って下さい。

 後ろ髪をバリカンで刈り取られながらその場を後にする。自由時間を満喫してて実にグッドでした。さ、次はウイちゃんだ。



 case2~ウイちゃん~


 温泉アザラシちゃんはどこかなー? と、わざとらしい探してますよアピールをしながら迷いなく歩いていく。


「いましたー。温泉で泳いでいますねー。かわいいですねー」


 R指定されそうなビジュアルの温泉で泳ぐウイちゃん。地上波ではモザイクですね。


「キュッキュッ」


 尾びれ? ヒレって言っていいのかな? 足? しっぽ? ......コホン、尾びれとしておきましょうか。

 尾びれは全く動いていないのに、スイスイ泳いでいるしるこちゃん。胸びれも動いていない。


「キュゥゥゥ」


 よく見ると、口の近くの水面が細かく振動している。もっと目を凝らして見てみると、水流が発生していた。

 どんな原理かわからないけど、音波で水を動かしているらしい。さすがファンタジーだね。この子、生き物相手には無敵なんじゃないだろうか。


 癒し系な見た目とは裏腹に、かなり物騒な力を持っているな......体内の水分や血液をグルングルンされたらやばい。

 でも可愛いは正義だから俺には関係ないね。ははは。俺に牙を剥かないでね。


 さ、次行こうか。次はワラビかな。



 case3~ワラビ~


 いましたー。特徴的な立派な角が見えますねー。

 ウチの子たちはちっちゃい子たちばかりだからあの子は異質ですねー。


 今は何をしているのでしょうか。


 ............円なおめめをぱちぱちさせながら、角には電気を帯電させ、悪魔のような羽を出してパタパタさせてます。ヤツは一体何をしてるのかな?


 虫干し的な行動? 全然わからないけど、目がトロンとしてきたからきっと意味があって、そしてヤツにとっては気持ちのいい行動なのでしょう。


 ......んー、ウチの子たちの行動原理が全然わからない。観察や話し合いの機会をもっと増やすべきなのだろうか。


 ......平和だなー。よし、次行こう。ヘカトンくんだ。



 case4~ヘカトンくん&肉牛~



 はい、やって参りました。ウチ一番の働き者兼ウチ一番の良心。

 この子が居てくれてよかった。物凄く感謝しております。


「おっふ......」


 そんな彼? ですが、ちょっとだけ感謝の気持ちが引っ込みそうな事をしていました。

 牧場かコンテナハウスかなーと思って向かったら、案の定牧場で見つかったヘカトンくんは牛を鍛えているようです。


 一際大きい牛が牛っぽくない鳴き声を発したと思ったら、口から魔貫〇殺砲みたいのが出ました。きっとアレがボスで、アレはボスが得意な攻撃なのでしょう。


 それをヘカトンくんが素手で払うと、牛の攻撃は消失。何アレ。どっちもかっこいい。


 ボスの攻撃が効かないと見るや、取り巻きの牛も攻撃に参加。

 突進、角を使っての突き刺しなど、多種多様な物理&魔法攻撃を放っていく......が、その全てを華麗に回避、無効化させ、どんどん牛を地面に転がしていく。


 牛は敵対心も憎しみも持っていない純粋な目でヘカトンくんに向かっているので、ヤツらは師弟関係的なモノなのだろうか......

 一通り転がし終えるとヘカトンくんが牛へ向かい、いつものボードを使って何かを伝えているようなご様子。


 ......まさか、牛は文字を理解しているのでしょうか。


 ダメだ。これ以上見ていたら情が移る。肉質だけ上げてくれ。マジで。


 次行こう次。さーて、モチモチを視察してこよう。



 case5~ダイフク&ツキミ~



 モチモチした白いのを探し回っていると、白と黒の丸みを帯びた鳥さんが飛んでいるのを発見。

 まさか一緒に行動しているとは思わなかった。もしやアレか? デートなのか?


 いつかあの子たちが卵を産んだら、白と黒のミックスになってパンダ柄やゼブラ柄、牛柄の子どもたちが産まれるのかな?


 あの子たちの子どもや孫に囲まれて過ごせるようになったらいいなぁ......でも、パパ離れするのはまだまだ先にしてね。まだ早いからね、寂しくさせないでね。



 うん、次行くとしようか。たっぷり愛を育むんだよ!! でも俺にも甘えてね!!


 スローライフを今一番楽しんでいるピノちゃんの所へ行こうか。



 case6~ピノ&イノシシファミリー~



 やって参りましたよピノ農園。

 見てください! 可愛らしい白蛇が、魔法を駆使しながら自らの畑の作物を収穫しております。まだ子どもなのに、とてもしっかりしています。保護者よりも。


 野菜などはもう、あの子の魔法のおかげでほとんど季節とか関係ないオールシーズン対応の畑になっています。凄いですね。


 間引かなければいけない物や雑草などは、全てピノ農園の従業員であるイノシシがやってくれています。えらいですねー。


 フゴフゴフゴフゴと鼻を鳴らしながら生えている雑草をもしゃもしゃ、間引くべき野菜ももしゃもしゃと......ピノちゃんが指示を出したり出さなかったりなのに......きっともうこの農園はこの子たちで完成されている。


 俺がお手伝いするよって言っても、絶対に邪魔にしかならない。やれて収穫くらい......うん、それすらも戦力外通告を受けそうな気がしてきた......イノシシファミリーは俺よりも農業についての知識を持っている。悲しいなぁ......


 俺が出来る事は、珍しい種や苗を持ってきてあげる事くらいかな......これが親離れってものなのかね......



 しんみりしちゃったな。今回の催しの大トリであらせられるあんこお嬢様を視察しに参りましょう。



 case7~あんこ~



 魔族の領域と亜人の領域に挟まれた山の中にあるシアンさんのお宅。ここで暮らしているのがあんこちゃん、一歳の可愛い女の子です。


 あんこちゃんは最近買ってもらった首輪がとっても大好き。その首輪を見せびらかすように歩いています。


 時折り立ち止まって振り返ってしょんぼりいますね。やはり大好きなご主人が居なくて寂しいのでしょうか。最近は毎日ずっと一緒に居たらしいので。


「............出ていきたい......抱きしめたい......」


 おや、ご主人があんこちゃんの事を見守っています。ご主人も最近ずっと一緒に居たので寂しいのでしょうか。相思相愛ですね。


 あんこちゃんは大好きなご主人が隠れている方向をチラチラと見ていますが、ご主人は寂しさに耐えようと頑張っていて見えていません。前を見てあげて!!


 情けないご主人を見て溜め息を一つ、あんこちゃんはお散歩を再開しました。悶えていたご主人も慌てて後を追っていきます。一緒に散歩すればいいのに。



 そんなストーカーとストーカー被害者の鬼ごっこは十五分程続きました。


 が、それは唐突に終わりを迎えます。


 あんこちゃんの様子を見るのに夢中になりすぎて、ストーカーの検挙を狙う存在に対しての注意が疎かになっていました。



 後方から襲いかかる七つの影。


 その事に気付いた時にはもう遅く、ご主人は抵抗する術もなくアッサリと御用になってしまいました。


「......ちゃうねん。ワイは何も疚しいことはしてへん。今日は皆の様子を影から見守るデーな......の......」


「ワン」


 囮捜査をしていたあんこ刑事が、取り押さえられている現行犯の前に立ちました。


 大捕物ですね。これにてストーカー事件は解決する事と相成りました。めでたしめでたし。




 ◇◇◇




「......え!? 最初からずっとバレてたの?」


「メェェ!」

「キュゥー!」


 バレないように全力で隠蔽を掛けていた筈なのに、一番チョロそうな末っ子姉妹にもバレていたらしい。

 さすがにイノシシファミリーと牛ーズにはバレていなかったらしいけど、ウチの子たちにはバレバレ。恥ずかしい......


『こっそり見てないで普通に来なよ』


「はい......」


『寂しかったんだからね!!』


「はい......」


『絶対変な勘違いしてたよね?』

『違うから』


「言わなくて大丈夫です......」


 謝罪をしてから皆で夕飯&お風呂。


 夕飯は変に凝らないでいいからと言われ、採れたてピノ野菜と、新鮮な牛肉をふんだんに使った肉野菜炒めになった。


 お風呂は全員で入り、寝るのも全員。みっちみちになったけど幸せだった。



 それからは何事も無く月日が進み、山の中で迎える二度目の冬がやってきた――

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