第244話 帰宅&モーニング

 お出迎えってなんでこんなに嬉しいのでしょうか。お帰りって言葉は魔法の言葉。


 一人暮らしでも帰宅したら「ただいま」と言ってしまう謎の現象......無意識下でも誰かに「お帰り」と言って欲しいのだろうか。でも、本当に「お帰り」と言われたら恐怖で帰宅出来なくなるけどね。


 まぁそんな悲しいアレはどうでもいい。大事なのは可愛い子が俺の帰宅を喜んでくれる事が幸せという事だ。


 俺はこれだけで頑張れる。社会の歯車にもなれるし、畜生として飼い慣らされるのも許容できそうという事だ。

 何故俺はあっちで一人暮らしする時に、無理してでもペット可の物件にしなかったんだろう。そうすれば毎日がもう少し彩られていたかもしれないのに......


「あははは、うふふふふふっ」


 俺は今、俺大歓喜大絶賛、空前絶後のもみくちゃフィーバーを味わっている。ずっと一緒に居たあんこも参加してくれていいんだよ。ほら! 恥ずかしがらずに君も参加しなさいな。遠慮なんて必要ないんだよー。


「皆良い子でお留守番してたかなー? 可愛いなぁ。よーしよしよし」


 イノシシたちはどうしていいかわからなくて、フリーズしている。ウリ坊はもうウリ坊じゃなくなって可愛くない......悲しい。


「あっ、そうそう。皆にお土産あるんだよ! あんこお姉ちゃんが皆に渡してくれるから、受け取りにいっておいで。頑張って選んでたからさ」


「キュゥー」

「メェー」


 末っ子姉妹が真っ先に離脱していった。こんなに音速で離れられるのはちょっと寂しい。


 これはアレだな。お年玉とかお小遣いを強請る時の甘えまくる子ども現象だな。

 目的の物を手に入れたらサァーッて消えていくアレ。なんか泣けてきた。


「よしよーし、いつも頑張ってくれているピノちゃんには色んな種とか苗を買ってきたよー」


 ......純白のお餅以外を、心を痛めながはあんこお姉ちゃんの元に送り出した。


「なぁダイフクよ。昨日はどんなモノを見た?」


『あー、目と鼻と耳から血を出しながら倒れたアレ? 何があったの?』


 ............お!? まさか詳細は判っていないのか??


「あー......アレね、物凄く臭いヤツがいてさ......目と鼻にダメージを受けた。耳はわからん」


『そっかー大変だったね、もう今は何ともないの?』


 イエスっっ!! 見るだけだと何が起きたのかわからないみたいだ!! モチモチ敗れたりっっ!!


「見てたならわかると思うけど、倒れた俺をあんこが保護してくれたから何とか無事でございます。あと臭いの元と空気中を漂う臭いをあんこが凍らせたからスリップダメージを回避できた」


『ならよかったけど、あんまり僕たちを心配させないでね。血を出して倒れた事を知った時のピノがかなり怖かったから』


「......ぐすんっ」


『なんで泣くのさ......』


「ダイフクとピノちゃんが俺の事心配してくれたぁ......ウウッ......嬉しい......」


『......えっ、ちょっ......』


「いつも結構辛辣だから......好きじゃないのかもって思ったりしてた......」


 突然泣き出した俺にテンパるモチモチ。めっちゃポジティブに考えるようにしてても、時折り不安になる事があるねん。ツンデレって高等技術すぎんだよ! 反省して!


 この後少し思う事があったのか、モチモチの羽毛で俺の顔を包み込んでくれた。これからはデレの部分を増量してね。頼むよ。

 俺はデレ甘が好きなの。そこらへん理解してください。


「ごめん......情けないとこ見せたね。ありがとう。ダイフクの分もちゃんとお土産あるからあんこにもらっておいで」


『う、うん』


 この日の夜はピノちゃんとダイフクが俺の顔の横で寝てくれた。嬉しかった。




 ◇◇◇




 二人っきりの旅はとてもよかった。でもやっぱり俺はこの子たち全員のパパである。

 この子たちが大好きだし、この子たちも俺が大好きだってわかって、より一層この天使たちを愛していこうと決めた。


 愛が重いとか言わないでね。


「よし、今日からまた頑張ろう。とりあえず今日は天使たち感謝祭だ。バトラーシアンがおぼっちゃま、お嬢様をおもてなしする日にするのだ」


 極限まで気配を殺して寝床から脱出。ぽっかりと人型に空いたこの幸せ空間に包み込まれていたかったけど、涙を飲んで動き出す。


 執事スタイルで和食は変だよね。でも英国スタイルのモーニングとかはよくわからん。


 俺がわかるのはスコーンやクッキーを肴に紅茶を飲んでオホホウフフしてるアレだけだ。完全にそのイメージで固定されている。

 紅茶を淹れるのを習ったあの店もソレだったからね、仕方ないよね。


 何となく、俺の独断と偏見で貴族のオホホウフフなモーニングを作ろうと、思います。ハイ拍手!!


 先ずは......うん、フレンチトーストでいいか。それとコーンスープとシーザーサラダとオムレツ。ごめんなさい、レパートリーと知識が貧弱で......英国紳士の優雅なモーニングをと意気込んだのに、初っ端に出てきたのがフレンチトーストでごめんなさい。

 俺の英国のイメージはフィッシュアンドチップスくらいしか無いねん。


 現代日本人の一般庶民、それに加えて人生経験皆無と言えるクソ若造がそんな文化知ってる訳無いじゃないか。

 調べればすぐわかるかもしれないけど、興味のない事を社畜が調べるわけがない。


「まぁね、うん。逆ギレも甚だしいけど仕方ないねん。なんとなく、ふんわりとして、それでもそれっぽく見えるようにして何が悪いのか! えぇ、先ずは形から入る。趣味なんて始まりはそんなものなんだ......



 ..................今度ミステリアス商会の誰かにこっそり習おう。あの子たちは確か元貴族令嬢や、元大店の商会の子とかもいるって言ってた気がするし。うん」


 貴族の見栄や意地なんてくだらねぇ......そう思っていた時期が俺にもありました。

 それらしい小物や食器を揃えれば、なんちゃってモーニングに見えるようになりました。審美眼なんて無い俺でも、おぉぉ! ってなった。


「さて、我が家のお嬢様方を起こしてこようかね。こんなんでも喜んでくれたらいいな」


 一人一人丁寧に起こして、半分寝ている状態のお嬢様方の身嗜みを整えていく。完全に目が覚めた子たちはキレイで可愛くなっていた姿に目を見開いて喜んだ。可愛いよ。



 そんなこんなでモーニング開始。

 ナイフとフォーク、スプーンはピノちゃんとヘカトンくん以外にはちゃんと使えないから一口大にカットした物を取り分け、飲み物は飲みやすい皿に注いであげる。


 味は問題ないらしく、いつもより少しだけ優雅に食べてくれている。末っ子姉妹もガッツいていないがモリモリ食べてくれているのでお気に召していないわけではないと思う。


 バケツに顔を突っ込んで生臭くなっていたあの子がこうなるなんて......成長したにゃあ。可愛いにゃあ。


 食後は全員に紅茶を振る舞った。ミルク、砂糖、レモンを用意して皆の好みに合うように、各自の意見を聞きながら調整していく。


 ミルクティー派、レモンティー派、ストレート派と綺麗に別れた。

 ストレートはあんこ、ワラビ

 ミルクティーはピノちゃん、ダイフク、ヘカトンくん

 レモンティーはツキミちゃん、ウイちゃん、しるこ


 予想外デース。


 辛辣チームwithヘカトンくんは甘ったるいミルクティーにお熱になった。本当に意外。この子たちは砂糖無しのレモンかストレートと思っていた。

 レモンティー派のツキミちゃんと末っ子姉妹。砂糖少な目のスッキリした味わいがお好みらしい。オホホウフフしてないクールな令嬢なイメージになった。飲んでる最中だけだけど。

 ワラビはガブガブ飲んでいる。熱いのはアレらしいので水槽に入れたアイスティーを用意したらこうなった。


 ......美味いと鑑定に言われている馬肉の部分が紅茶の成分で余計に美味しくなったりしないかな。紅茶豚とかみたいに。



 ごめん、食わないからビクビクしないでいいよ。考えてしまっていたの内容は気の迷いだから......お前思考読めてたりするんか?


「この後は自由にしていいよ。汚したくないなーって思ってる子は後でまたお色直しするから外してあげるね」


 しばらく放任してたからね、俺が帰ってきてすぐルーティンを崩すなんてさせたくない。

 後で俺が居ない間に何をしていたのか聞こうかな。


 家庭訪問......? いや、ここは既に家庭だから違うな。職場見学?


 うん、今日はおもてなしタイム以外は職場見学をしよう。成長した姿を見せておくれ。

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