第241話 デートの旅~逃避行~

 もうなんか色々と満足したあんこと俺は、次の日は普通に街を目指して進み、昼過ぎにはじめての街へ到着した。

 昨日はしゃぎすぎたからなのか、あんこはずっと眠そうだったので抱っこしたまま進んだ。お昼ご飯の時も半分寝ながらでとても可愛かった。


 王都の下位互換なこの街、人の並びは少なくヌルッと入ることが出来たが門番のあの男は居なかった。異動でもしたのかな? まぁ特に思い入れはなかったし別にどうだっていいか。


「あんこ着いたよー。このまま定位置にいる? それとも抱っこする?」


「くぅーん」


 グリグリと鼻を胸に押し付けて甘えてくる姿に悶えそうになるが、鋼の意思でポーカーフェイスを維持して顔面崩壊を堪える。

 人のふり見て我がふり直せ......いい言葉だよね。恥ずか死ストーカー忍者の挙動不審っぷりを見ていたので、人前で人格崩壊は我慢した。人は成長するのだ。


 可愛い......好き。


「あんこたん、今すぐ何かしたい事ある? 無いんだったら先に俺のやりたい事を済ませちゃっていいかな?」


「わんっ!」


 俺に向けて向けてドキュートな肉球を向けてくる。きっとサムズアップみたいな雰囲気なんだろう。人目も憚らずにぷにぷにし倒したい......


 揉みしだきたい衝動に駆られるけど心で血の涙を流しながらその衝動を抑え、そのぷにっぷにの肉球にハイタッチをする。ぷにゅんとして気持ちよかったです。



 ......ハッ!? いかん、余りの気持ちよさにトリップしてしまった。これはオーケーという事かな。


「ありがとう。じゃあ俺のやりたい事を先にやらせて貰うよ」


「わん」


 というわけで服屋へレッツゴー!


 執事服と燕尾服を手に入れるんだ。似合う似合わないは二の次。




 あんこナビに従って街をうろつき、ドヤ顔でここがいいよと店をしっぽで示すあんこを撫でてから入店。


 店内は清潔で、一目見るだけで高級店、それも優良店の部類とわかった。一見さんお断りとか金持ってんのかコイツといった雰囲気は皆無で助かった。さすがマイエンジェルの嗅覚だ。


 ちょっとテンションが上がったので他にも頼む事にした。


「執事用の服と燕尾服、それと夜会とかに出ても恥ずかしくない服を。あまり派手ではない感じで頼みたい。追加でこの子に合う装飾品があればそれも頼みたい」


 採寸をされた後は細かい要望、既存の物を仕立て直すかオーダーメイドにするか等を聞かれ、オーダーメイドをチョイス。どうせならオーダーメイドがいいよね。

 チラッとあんこの方を見ると、あんこは女性店員に着せ替え人形にされていた。あんこの可愛さにやられて虜になっている様子。


「可愛くしてあげてねー」


 無言でサムズアップ。住む世界、種族が違おうとも、こういう時に取るリアクションは同じなんだね。




 ◇◇◇




「五日程お時間を頂きます。今は立て込んではいませんので、早まる事もあるかと思います。本日はありがとうございました」


 アレからあれよあれよと話が進み、後は作るだけとなった。この世界は甘味文化以外は物凄く進んでいる。

 あんこは結局首輪を作って貰うことになった。リボンとかはもうたくさんあるので、欲しいものは首輪ってなった。わんこのDNAが結構強いらしい。でもそんなあんこもプリティだよ。


 やる事がなくなった俺は、首輪作成が決まった嬉しさでどこか上の空になっているあんこを抱っこして街ブラ。


 目的もなくボケーッと歩いていると、見た事のあるお店を発見。記憶を掘り返すと俺が懐中時計を購入したあの店だと思い出せたのでその店に入って店内を物色。


 ワンコ連れの野郎は結構インパクトが強かったらしくて相手も俺のことを覚えていた。ちょっとびっくり。


 覚えていてもらった事が嬉しかった俺は、ヘカトンくん用にシンプルな懐中時計を、俺用にネクタイピンや、貴族の描写でネクタイ代わりに使っている変なアレを購入。



 買い物を終えた俺は今度こそ本当にやる事が無くなった。どうしようか......俺の琴線に触れるようなお店も無い。あんこは未だに喜びに浸っていてポンコツになっている。可愛いからいいんだけど。


 さて......本当にどうしよう「あぁぁぁ!」かな......って何だようるせえな! あんこがビクッとしたじゃねぇか!


「あ、あの!! シアンさんですよね!? お久しぶりです!!」



 ............だれだコイツ? よし、街でやる事も無いし逃げよう。なんだか面倒臭いスメルがプンプンしている。


「いつこの街に来たんで......す......アレ? いない......」



 シアン は にげだした▽




 ◇◇◇




「......ふぅ、何だったんだアイツ。見た事のあるような顔でも無かったし......んー? 商会絡みのアレか?」


 一応知り合いor顔見知りの可能性もあるので記憶を探ってみたが、シアーグルの検索結果には何も表示されず。


 よし、考えてもわからん。赤の他人として忘れよう。


「結構ガチめに逃げたのにあんこたんはスヤッスヤだなぁ......街に戻るか五日間を野生児として過ごすか聞きたかったけど、寝ちゃったんならしゃーない」


 天使を起こすなんて俺には無理なので今日はキャンプに決定。街に来たはずなのに野営するとは......なんて日だ!!




 ~二日目~



 龍さんに乗ってはじまりの森に向かう。

 本日は森の中のキャンプ。心が少しだけザワザワしたけど、これくらいならまだ平気。

 最初の謎森に入れるようになっているかなと思ったけど、全然そんな事はなかった。


 アレは異世界転移特典だった?

 それとも周期的に開くボーナスステージ?


 まぁいいや。懐かしい気持ちの方がでかいしあんこもはしゃいでるからもう少しここにいよう。



 ~三日目~



 今日はあんこと森で遊んだ。


 自然の中を駆け回るあんこは可愛いけど、自然の中ならば別に山の中でもいいよね。


 ちょっと心が病んできたかもしれない。


 ブーメランで遊ぼうってなって取り寄せた物が、何故か伊達政宗の兜に付いているナ〇キのマークだったのは何故だろうか。


 投げたら戻ってこなかったけど、木をスパスパ切断して真っ直ぐ飛んでいった。それをあんこたんが器用に空中キャッチ。


 あんな危険物とは聞いていない。無事でよかった......


 伐採した木の根っこを引き抜き、そこへあんこに地面を掘ってもらって簡易的な湯治場を作成。

 露天風呂はやっぱり気持ちいいね。湯船で入るよりも心が安らぐ。



 ~四日目~


 森を切り拓いた。


 切った木の水分をあんこに抜いてもらい、ソレを組み上げて超巨大キャンプファイヤーをやった。


 やっぱり火はいいね。心が落ち着く。

 謎のザワザワも綺麗さっぱり無くなった。


 二足歩行モードのあんこと一緒にダンス出来たことは一生の思い出。


 燃え盛る火を見ながら真っ赤な血の池に浸かる......なんかヤベー奴みたいだ。ハハッ。



 ~五日目~


 オーダーした物を引き取る日は今日なのか明日なのか、多分明日だろうな。


 昨日のキャンプファイヤーの跡地には灰がたくさんあったので回収。確か灰は肥料になったよな? うろ覚えだけど。モノを渡しさえすれば農家のピノちゃんが判定してくれるでしょ。


 今日で最後なので昼の間は湯治場にぬるま湯を注いで温水プールにしてたくさん泳いだ。やっぱわんこの犬かきスタイルは尊い。

 ラッコスタイルでしっぽの動きだけで泳ぐのも可愛いけど、やっぱ犬かきよ。


 ビート板を出してみたら、あんこはそれに乗って休んでいた。バランス感覚エグすぎて草。

 小学校のプールの授業でソレをやろうとして水飛沫をあげているガキンチョたくさんいたよね。


 夜は普通に温泉に浸かる。もう人里にいる必要無いよね俺たち。


 夜は贅沢に料理長のあの肉を食べたらあんこのテンションがブチあがった。料理長......あんた、マジ最高だよ......



 ~六日目~


 今日は受け取る日。長かったような短かったような森生活......森でいいよね? 大分すっきりしてるけど一応森って事で。


 潰す前にもう一度という事で朝風呂。

 野外で寝た所為で凝り固まった体が解れていく感じが気持ちいい。途中で目覚めたあんこが乱入してきた。

 起こしてよと言われたけど、それだけは無理なんだ。ごめんよ......


 夢のような時間を過ごして朝飯を食べた後、湯治場を抹消してさぁ街へ向かおう!


 そうなった時に......こちらへ向かってくる無粋な輩の気配を大量に感じた。


 俺は深いため息を吐き、あんこは威嚇の声を発した。


「そうだね、許せないよね......俺らの幸せな時間を最後の最後で邪魔しやがって......」


「グルルルル......」


 あんこがガチで怒っているのは初めて見たかもしれない......まぁ俺も怒ってるけど。


ㅤここまでイライラしたのは天才型がケガ率3%で大怪我した時や、金特を複数取れた選手が最後の大会前に改造手術失敗した時以来ですよ......


 俺の腕から飛び降りて周囲にキラキラした氷の結晶を浮かべた所で、俺らの逢瀬を邪魔する間男の群れが現れた。

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