第240話 閑話:異世界ハロウィン
──────────────────────────────
※帰宅後の話になります。
※現実の物とは全くの別物です。
ㅤ皆さん! ハッピーハロウィン!!
──────────────────────────────
今日は年に一度、怪しいカボチャが幅を利かせ、物の怪が我が物顔で街を練り歩き、悪戯をして人を困らせたり人からお菓子を巻き上げる事が合法とされる日。
地球のイベントとは似て非なるもの。
お菓子を用意していなければ情け容赦の無い悪戯が待ち受けているし、用意していたお菓子は容赦なく取り立てられる。
味にうるさい物の怪は、お菓子の味が気に入らなければ手心は加えてくれるが悪戯をされる。そんな殺伐とした一日。
合言葉は......
【Trick or Treat】
【悪戯かお菓子か、好きな方を選べ】
【悪戯もするしお菓子も貰う】
大人たちは戦々恐々とし、その日が近付いてくると街はピリピリしだす。だが、子どもたちは普段滅多に口に出来ないクオリティ高めなお菓子......そのお零れが貰えるので子どもには人気が高い。
何故か物の怪たちは子どもには優しい。そこも人気に拍車をかける要因でもあったりする。
そして......日付けが変わった瞬間、街の雰囲気や装いはおどろおどろしく変化し、物の怪たちの祭典が幕を開けた。
◇◇◇
やってきましたよ、ハロウィンです。
こっちにもあるかわかんねぇけど、子どもたちにはこういったイベント事を色々体験してほしいからね。ウケの悪かったイベントは、来年から規模を縮小するか、開催を取り止めればいい。
『ねぇ、朝っぱらから何してんの?』
今日も額の宝石がセクシーなピノちゃんが話しかけてきた。
「ん? あ、おはよう。起こしちゃったかな? これはねー飾り付けしているんだよ。今日は年に一度のお菓子の強要と悪戯が公認されているイカれた日だからね。それらしい雰囲気にしなきゃ勿体ないやん?」
『何日が前にカボチャをくれって言ったのは、それに使うためだったんだね』
「そうそう。【ジャック・オー・ランタン】って言って、このイベントの顔になる存在なんだよー。ピノちゃんから見てどう?」
『出来はよくなくてもいいから大っきいのくれって言われて謎だったけど、納得したよ。とりあえず雰囲気はあるね』
「うーん、淡白、だがそれがいい。説明に戻るね、強要する側のルールはお化けやそれに準ずる者に衣装チェンジして、可愛く『お菓子くれなきゃ悪戯するぞ!』って言うんだよ。そうすると強請られた方はお菓子を渡して、お菓子を貰えなかった場合は悪戯しまくってオーケー。言う前に悪戯したり、貰っても悪戯したりはダメなんだよ」
『......人間ってそんな事するんだね。ヤバくない?』
「ヤバいんだよ......よくそんなん思い付くよね。怖いわー。まぁそんな理由だから大人しく待っててよ! 夕方くらいから始まるから」
『わかった。それまでは何してればいい?』
「普段通りでいいよ。衣装も用意するから、開始前にそれに着替えてね。他の子にも説明しておいてくれたら嬉しい」
『うん!』
「じゃあまた後でね!」
その後飾り付けやお菓子のラッピングをしていると起きてきた子たちに質問攻めにされたが、ピノちゃんに説明を丸投げ。
ふふふ......楽しみだにゃあ。
◆◇◆
『ケケケケ、Trick or Treat』
『お菓子をよこせ! 悪戯しちゃうぞ!』
「ど、どうぞ」
本番が始まった。
街中には棺桶や十字架、墓が現れ、普段の街とは別物になっている。物の怪や子どもたちがキャッキャウフフと騒ぎ立て、大人たちは延々とエンカウントするちびっ子モンスターや物の怪の対応に追われている。
『キャッ......キャァァァァァ』
『グワァァァァァァァ』
女の人の悲鳴や野郎の野太い声がそこかしこから聞こえてきた。哀れなり。
お菓子の在庫が切れたか、用意が出来ていなかったか......はたまたどちらも要求するような悪魔が現れたのか......それはヤられた本人にしかわからない。
『うわぁぁぁぁ! もうおしまいだ......』
その時、絶望の声があがる。喧騒は一度ピタッと止み、その後は堰を切ったように続々と同様の声が上がり出す。
『な、なぜ......【渦巻く甘い誘惑】がここに来ているんだ......』
◇◇◇
「やっぱ渦巻きキャンディは鉄板だよな。後は......クッキー、飴、チョコは用意しないとね。んー、他になんかあっかな?」
ウッキウキでお菓子を用意しているシアンを遠くから眺める天使たち。今日の夕方から日付けが変わるまでは堕天使や小悪魔に変わるのだが。
『楽しみだねー』
『お菓子貰っても悪戯するの!』
「キュッ!」
「メェェ!」
◆◇◆
「あぁ......【渦巻く甘い誘惑】だけじゃないだと......【漆黒の悪夢】、【嗤う焼き菓子】、【一粒の罪業】までも......この街はもうおしまいだぁ......」
悲観に暮れる彼らが見つめる先にいる物の怪たち、ヤツらは自分のお気に入りのお菓子を貰えないと途端に機嫌が悪くなり、人々を襲う。
地球ならまだしも、砂糖が高価で甘味の少ないこの異世界......彼等の納得するモノなど用意出来る筈も無く......
『う、うわぁぁぁぁぁぁ』
ヤツらが現れたら終わり......そう言われて恐れられている。
◇◇◇
お昼ご飯の時に、天使たちそれぞれに用意した衣装を配る。
メイドインアラクネの衣装は全員分揃っていないので封印し、今年は男の子には堕天使コス、女の子には小悪魔コス、ヘカトンくんとワラビには血塗れトナカイと血塗れサンタコスを用意。
「自分で着られない子がいたら誰か手伝ってあげてね。それでも無理そうなら俺が着させてあげるけど、本番に初めて見たいなーってのが本音」
『頑張ってみる!』
『ねぇ、蛇にコレ......無理じゃない?』
『飛べなくなる』
『楽しみ!』
一部以外には概ね好評。うむうむ。
「じゃあ俺は仕上げが残ってるから! また後でね!」
◆◇◆
「なんで......なんで俺らがこんな目に......」
「簡単な物以外は用意出来ないのに......」
「貴族とかも同じだ......我慢しろ......」
「えぇ......これはたった一日だけの災害ですからね......ただ、しばらく貴族の八つ当たりが酷くなりますから......私たちにとってはそちらの方が......」
ヤツらはただ只管襲う。王族も、皇族も、貴族も、平民も、商人も、貧民も......誰彼構わずに......後に残るのは悪戯され尽くした大人たちと、いつもより嬉しそうにした子どもだけ。
この世界の住人はこの日襲い来るヤツらを諦めを持って迎え入れる。
蝗害みたいなモノと思って......
◇◇◇
『じゃあいくよ......せーのっ!』
『『『『とりっくおあとりーと』』』』
「キュキュッキュキュキュー」
「メェェメェェェェェ」
「なっはぁぁぁぁぁぁんっ」
あまりの愛らしさに精神が限界を迎え、奇声を発しながらクネクネするだけの生物に成り果てた。あかん......可愛すぎる!!
天使が堕天しちゃったよぉぉぉ!!
小悪魔ちゃんがガチ小悪魔になっちゃいましたぁぁぁぁ!!
頑張ってトリックオアトリートって言おうとした末っ子小悪魔ズがかーわーいーいー!
惨多さんズもいいよいいよー!!
しゅき、生きてきてよかった。やばい。
『お菓子をよこせー!』
『悪戯しちゃうぞー!』
「キューウ!」
「メェェェ!」
あぁぁぁぁぁぁ!! 桃源郷はここだったのか!!
あまりの衝撃にお菓子を渡し忘れてしまった俺を待っていたのは、小悪魔ちゃんズに群がられて悪戯されるというご褒美。
ちょっと白い堕天使からの目が痛いけど、今はそれどころじゃない。堕天使も悪戯してきていいんだよ!! むしろ来いや!!
「あぁんっ、しょ、しょこはらめぇぇぇぇ」
全員ふわもこさらさらだから全身がこそばゆい。もうダメだ......逝くぅぅぅ......
冷めた目で俺を見ていた白い子やサンタさんたちは、悪戯には参加せずにお菓子を奪っていった。参加しろやテメェらも!!
「あっ......あっ......」
思考は冴え渡っているのに体はポンコツになってしまって動かない。きっと顔もだらしなく緩みきっている事だろう。見えんからわからんけど。
魔法は使えるみたいなので糸を使って皆にお菓子を渡して休憩。俺はもうしばらく動けない。
「ちょっと幸せの過剰摂取で逝きかけたから俺は休憩するね。謎解きをしたり、悪戯する事でお菓子を手に入れられるギミックがあるから、探して遊んでみてね」
『おー!』
『おー!』
「キュー!」
「メェ!」
「皆とっても可愛いね。ほら行っておいで! 特別なオヤツもあるから。説明を聞かずに離れていったあの子たちにも教えてあげてね」
『『うん』』
ポコポコ叩くとお菓子が出てくるように細工したジャック・オー・ランタン、謎解きをすると開くお菓子が詰まった棺桶、ガチお菓子の家など俺の力作たちは、可愛い侵略者たちに次々と攻略されていった。
お腹いっぱいになった子から俺の所やってきて、『撫でてくれなきゃ悪戯するよ』と言って甘えてきた。可愛い。
夜は地獄っぽく飾り付けした温泉でまったりし、皆で仲良く就寝となった。
翌日、甘味の過剰摂取をした罪を懺悔しつつ、皆に感想を聞いてみた。
すると皆いい笑顔でまたやりたいとハモってくれた。よーし! 来年はもっと張り切ってやっちゃうからね!
「あ、これ言うの忘れてた。皆、ハッピーハロウィン!!」
『『『ハッピーハロウィン?』』』
......あっ。名前言ってなかった。
「そうそう、このイベントはハロウィンって言うんだよ。覚えてね」
『『『おー』』』
来年はもう少し、俺に可愛さの暴力に耐えられる鋼の心が備わってるといいなぁ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます