第238話 デートの旅~自損事故~
草原をあんこに乗って駆ける幸せ。
俺という荷物を乗せているのに、そんなモンなんて乗せていないかのような軽やかさで走るあんこたん、
騎乗スタイルでも、だいしゅきホールドでも、とても気持ち良くて素晴らしい。
前者はバイクで疾走してるかのような爽快感を、後者はモフみで。たまらん。
俺らの爆走を遮るモノは何も無い。邪魔になりそうなモンはいつの間にか赤色のキラキラしたモノに変わっている。
こういう時のあんこたんの無慈悲さはしゅごい。疑わしきは殺害。
ただ、顔とかに付着したキラキラが溶けた時だけ切ない気持ちになる。......よし、これくらいの問題ならばチートマフラーを巻けば解決だね。
あ、あんこたん優しい......スピード緩めてくれた......細かい所にもよく気が付くええ子やで!
◇◇◇
山道をバイクで走っていたらヘッドライトに誘われちゃったカブトムシが腹に刺さったとか、鳥がエンジンに突っ込むバードストライクとか、走る船の上で釣りをしていたらダツやカジキが刺さるとか、まぁまぁな確率で起こる乗り物に乗っている最中に起こる悲しい事故たち。
普段は凶器になり得ないモノでも、高速移動中は凶器になり得るわけなのです。
ましてや高速移動と言うのも烏滸がましい程の超スピードで爆走していれば......ね。
......何故今このような事を俺が話しているかというと、アレだよ、アレ。そう......悲しい事故が起こってしまったのです。
だってさ、マフラーを装備した事であんこたん騎乗時の快適さが、最早
人は余裕が出来れば更にその上を望む、人の欲には上限なんてないのさ。
それはそれはもう、アレなわけで、神々しいまでのもふもふに身体を埋めているだけで満足なのか!? と自問自答してしまったのです。
そこからはもう......ね、雪山を転がり落ちていく雪玉みたいに、どんどん行為がエスカレートしていったのです。
どうせ通行人なんてマトモな道を進んでいるのでこんな道は通っていない、俺らの邪魔をできる存在もいない......そう高を括ってしまったんです。交通事故を起こした人の言い訳で似たような事をよく聞きますよね。
まぁアレですよ。
こちらの過失100%の事故が起こってしまった訳です。
あんこのセンサーと俺の探知はどうしたんだって思うよね。俺もそう思う。
ながら運転しても俺なら問題はない。事故なんて起こすはずがない。俺の運転で事故は起きない。そんな根拠の無い自信、ダメゼッタイ。
快適になりすぎたあんこドライブに気を良くした俺は、指テクを駆使したマッサージやブラッシングを始めてしまった。
それがいけなかった。
急にあんこたんの体から力が抜け、蕩けてしまった。
さて、ここで突然ですがクイズっス。
Q、超高速で走る屋根や座席のない乗り物に乗り、シートベルトをしていない状態でその乗り物がバランスを崩したらどうなるでしょうか......?
A、吹っ飛ぶ
B、ビッグフライシアンサン
C、豪快に墜落
D、奇跡的に何も起きない
......難しいかな? オーディエンス使う? それともテレフォン?
あ、使わないっすか。では回答をどうぞ。
ほうほう、AでFA?
正解は............D以外全部でした。残念。
そして吹っ飛んだ先に居たどっかの国の商隊らしきモノが休憩していて、その内の馬車の一台に突っ込み全損させてしまいました。
そして散乱するガラス瓶や樽の中身の中心で正座しています←イマココ
ㅤチラッと見えたけど、某畜生なペンギンのロゴがあったような無かったような......
......はぁ。どーしよ。
「えー......なんというか、その、ごめんなさい」
とりあえず素直に謝りました。それ以外に何も出来ないもん。しゃーない。
正座を維持したまま彼らに謝罪していると、あんこお嬢様が合流。こちらもプリプリ怒っておりました。可愛い......あ、ごめんなさい。
「で......お前コレどうしてくれんの?」
商隊のリーダーらしき男が俺に詰め寄る。
「代わりになる馬車の提供及び、被害に遭われた商品を補填出来れば補填し、売りきった時と同額の金額を払います。補填出来ない場合はその分の金額の倍を払いますので、ソレで手を打ってもらえませんか?」
「......お、おう。出来んならそれでいい」
手ぶらだし金を余り持っていなさそうな青年に見えているだろう。やれるモンならやってみなという感情が見える。あとアレだけの勢いで突っ込んで来たのに無傷なのを見てかなりヒイている。
「では、まず私が壊してしまった馬車に似た車体の馬車をお見せください」
「お、おう」
あんこたんが戻ってきてくれたおかげで俺の心が安らいだ。俺の生活になくてはならない存在です。ずっと一緒だよ......
「馬車を確認している間に目録や見積りを用意しておいてください。お手数をお掛けして申し訳ありません」
「あ、あぁ......」
とりあえず馬車みたいなモンを出せるのかの実験。大正とか明治時代にあったような馬車が出てきた。なんで英国とかそっち系じゃないんだろう。
とりあえず出る事はわかった。今出したモノを収納に仕舞って、似ている馬車と同等なモノを出そうとしてみる......
......出た。大きさが三割マシくらいになったけど、余計な能力や設備は付いていない普通の馬車が出た。
馬車を見て興奮し始めたお嬢様。まさか馬車を引きたいのかな? やりたいなら止めないけど、きっとワラビが対抗意識燃やすよ。
「二人きりの時は馬車はやだなー触れ合っていたいし。せめてソリがいい。今度皆が一緒にいる時にソレをしようか。ね? ソレじゃダメかな?」
『うん......我慢する。約束だよ!』
「約束。お家に帰ったらやろうね」
『うん!』
よかった。ソロで馬車は寂しい。
「おぅ、持ってきた......ぞ......」
ナイスなタイミングでごぜぇます。おかえり。またヤツのドン引き度が上がった気がするけど、これはきっと気のせいだろう。
「ちょっとサイズが変わったけどコレでいいかい? ......ん?中身はポーションと塩だったのか。それなら物納できるな」
「お、お前ナニモンだ? こんなデケェモン何処に隠し持っていたんだよ」
「仲間にデカいウマっぽい子が居てね、その子に使わせようと思って買った馬車だ。それを収納していたのを思い出したから出しただけだよ」
これでまぁ納得してくれるでしょ。いやー、馬車まで出せてよかった。護衛しろとか言われても面倒だったし。
「なぁ、俺らは王都に向かってんだが、収納に俺らの荷物を入れてってくんねぇか?」
「......迷惑はかけたから協力してやりたいのはやまやまなんだけどさ、俺らも予定があるからそれは無理なんだ。あ、この目録に書いてあるモンと金額は馬車に入れとくから後で確認してくれ」
「そうか......」
馬を殺ってしまっていたり、護衛や商隊のメンツを殺ってしまっていなくてよかった。危ねぇ。
自業自得な事態だけど、俺はロングバケーションの最中なんだ。邪魔しないでほしい。
「いや本当に悪かったね、久しぶりにこの子と二人きりになれてはしゃぎすぎて吹っ飛んだんだよ。じゃあ俺はこれで......アンタらが無事に王都まで辿り着ける事を祈ってるよ」
「おう、俺らは結果的に儲けられたし馬車も新しくなったから文句はねぇ。お前らも気をつけろよ」
「あぁ、じゃあね。縁があったらまた会おう」
殺気を放っている護衛や、あんこたんに厭らしい視線を送る輩も居たし、さっさとコイツらから離れよう。
「ふぅ、ここまで来ればいいか。あんこちゃんゴメンね......怪我はない? ちょっとテンション上がりすぎて前後不覚に陥っちゃった」
『大丈夫だったけど、走ってる時にはやんないでね!』
「うん......反省しています」
『ならいい!』
ちょうどいいからここらで休憩しようか。
「懐かしのあの山も見えてきたし、天気もいいからココで休憩しよっ。あんこに満足してもらえるような美味しい紅茶を淹れられるように頑張るから、楽しみにしててね」
『うんっ!!』
広げたシートの上でチョコーンとお座りするお嬢様が可愛い。しっぽも振れてる。
......今度執事服や燕尾服でも調達しようかな。あの街にあれば買うか仕立てて貰おう。
「お待たせしました。お嬢様、こちらをどうぞ」
あの店で買ったお嬢様お気に入りのクッキーを添えて。
俺は適当にインスタントコーヒーで。
「美味しい? 上手く淹れられたかな?」
『美味しいよ!! でもまだあのお店の方が美味しい』
違いのわかるお嬢様。悔しいなぁ......
「飲みながらでいいから聞いて、山越するか迂回ルートを進むか。あんこはどっちがいいと思う?」
『んー、今はいっぱい走りたいから山は行かなくていいー』
「おけ。そんじゃ下道を進もうか。今度は余計な事しないから安心してね」
『絶対だよ!』
「男に二言はない!」
午後のティータイムの後は本気になったお嬢様とドライブ。夜になるまでの数時間であの街側の登山道入口まで着いた。あんこたんマジすげーっス。
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