第237話 デートの旅~グッバイ王都2~

 貴族屋敷消失事件から三日が経過した。


 侯爵が二人行方不明になるという大事件からか、王都は色々とギスギスしていた。やーねー、あんなのを放置しているお前らが悪いのに。王都民は何も悪くないのよ。


 ウチの子たちも特に変わりなく平穏無事に過ごしていた。飼い主ックになっていなくて普段通り楽しそうなのはちょっとだけ悲しかったけど、内心は寂しいって思っているのは一時帰国した時に判明してる。もっと素直に甘えてくれていいんだよ!


 俺とあんこはというと、あの粛清の次の日は完全オフにして宿でダラけた。なにもする気が起きなかったし、外もなんか色々喧しかったからね。邪魔の入らない空間で思う存分イチャイチャした。


 完全オフの翌日はデートの続き。

 お嬢様のエスコートで色々な場所を回る。


 前に行った家具屋で和風建築物にもギリギリ使えそうな家具を買ったり、露店を回って俺の知らないファンタジー世界産の調味料や食材を買ったり、市場でファンタジー世界に生きる民族の織物や布、日本では見たことの無い植物の種や苗などを購入。


 あんこたんグッズが浸透しているからかどの店の店員も、あんこを見てデレッとした表情を浮かべたり、おまけや値引きをしてくれたりと可愛いは正義なのは何処の世界でも有効なのだと思わされた。ミステリアス商会グッジョブ! この調子でお嬢様の可愛さを広めてくれ。



 その後、王都中を俺と一緒にガッツリ回って満足したお嬢様が腕の中で眠り始めたので、ミステリアス商会に足を運んだ。

 俺が保護した冒険組の六人は疲労で丸一日寝込んだ以外は特に何事もなく回復したらしい。その子たちは俺が預けた劇物を紹介員が見守る中摂取し、無事に悶苦しんだそうだ。


 見たかったけどしゃーない。お嬢様とのデートの方が大事だもん。


 悪辣な山での事を聞いて同情したり、なんか知らんけど天井裏から俺を観察する忍者みたいな子がいたり、助け出した事をガッツリ感謝されたりと色々あった。

 忍者みたいな子は俺と対面したら恥ずか死ぬから、どうかこのままソッとしといてあげてくださいって説明を受けた時はどんな顔をすればいいかわからなかった。笑えば......よかったのかな?


 王都への帰還履歴が無いとヤバいらしいので、俺がこっそり王都外へ出てワープポイントを設置し、そこへ運んであげて改めて王都へ帰還させた。恥ずか死忍者はこの所為で俺の前に出てくる以外の選択肢が無くなり、無事に恥ずか死んだ。


 人間ってあそこまで挙動不審になれるモンなんだね、俺......初めて知ったよ。


 王都外へ運んだ後はそのまま商会の中に転移で戻り、貴族屋敷から押収した悪事の証拠品や書類をリーリャちゃんに渡した。

 この時に見たリーリャちゃんの顔はとてもいい笑顔だった。うん、水を得た魚って表現がこんなに似合う場面は今後二度と目にする機会は無いだろうって事は理解した。鬼に金棒って言った方がいいかな? あんま変わらないからどっちでもいいか。



 謀略に長けた美人って怖いよね。俺はなんでも力技でごり押せるからなんとかなるけど、コソコソやるようなヤツからしたら同じ土俵に立たれたらもうどうしようもないだろうね。ご愁傷様でした。



 やる事を終えた俺は生産組の元へ行き、開発途中のエンジェルグッズを堪能。試作品をもふもふして改善点を伝えたり、可愛さについて語って可愛さやモフみには更なる高みがある事を説いた。頑張ってくれ。君たちにはとても期待している。



 こうして王都でやるべき事を全て終えた俺はこのまま最初に行った街に行きたいと、あんこが俺に提案してきたので早速移動しようか......ってなった。

 だけど料理が全て完成していないのを思い出したので、まだ王都に待機する事になった。

 通常業務に加えて俺から大量の肉料理のオーダーって状況。本当に料理長さん及び料理人達には苦労を掛けます。報酬としてかなり出来のいい牛一頭とお金を考えていますので、どうか俺の食生活向上の為に頑張ってくださいませ。


 この世界で初めてガチで美味いと思った料理なんだもの......固執してしまうのは仕方ないのです。




 ◇◇◇




 料理が全て完成したのはそれから一週間後だった。もっと掛かると思っていたけど、早くてびっくりしたよマジで。


 料理長......お前がナンバーワンだ......


 感動してメイドイン地球のワイン詰め合わせも報酬に追加してしまった。初日に飲んだ味が忘れられなかったのか、料理長は涙を流しながら喜んでいてちょっとヒいた。


 ふふふ......これで数年は楽しめる。



 俺とあんこは、この一週間のほとんどを紅茶のお店で過ごした。

 あんこはあの店の紅茶にハマり、わんこ用の深皿ではなく普通のティーカップで紅茶を嗜めるくらいに成長した。ティーカップを前足で持ってぺろぺろするあんこが可愛すぎて萌え死んだ。今ではすっかり店の看板娘としての姿が板につき、来店した客やスタッフに愛嬌を振り撒きまくっている。


 俺はというとひたすら紅茶を淹れ続けた。それはもう死ぬ気で淹れ続けた。

 俺の収納には練習で淹れまくった紅茶が物凄い量入っている。これ......どうやって処理しようって途方に暮れるくらいヤバい量だ。


 金に糸目をつけない形振り構わない猛特訓のおかげか、一週間でなんとか及第点をもらえる程度までは成長できた。いやぁ......長く苦しい戦いだったぜ......


 だがこの頑張りのおかげでウチの子たちにも美味しい紅茶を振る舞えるから良かったと思おう。


 店に通っていない残りの時間は商会でグッズ制作の打ち合わせや雑談、宿でまったり等とても有意義な時間でした。

 商会に行った時や街歩きの最中に恥ずか死忍者からの視線が痛かったけど、彼女はシャイすぎて俺と直に話したりできない......ならば斥候技術を磨いて遠くから眺める方向で......と、頑張った結果ああなったと聞いた。


 完全にストーカーやんけ! と思ったけど、冒険組には欠かせない存在になっているのでどうか許してあげてくださいと懇願されたので黙認という形に落ち着いた。

 宿の中まで来たり、プライベートな時間とかはしなかったし、お嬢様も嫌がらせなかったからね。節度を持ってる間は大丈夫。


 バレバレだからもっとバレないようになるまで頑張れって伝言と、あんピノ玉は中規模な貴族屋敷程度なら軽く吹き飛ばせるから取り扱い注意って旨を伝えておいた。


 軽々しく扱って店が吹き飛ぶなんて事が起こったら大変だからね。

 あんピノ玉の中と小を詰め込んで大樽爆弾、大を詰め込んで大樽爆弾G、特大を詰め込んで惑星破壊爆弾......って感じの物を遊びで作成していた時に、注意点を伝え忘れていたのを思い出した。危なかったぜ......



 なんか王都に来てから色々あったなぁとしみじみ思うわ......問題児が多すぎるからもっと取り締まりを強化してください。王都なんて国の顔みたいなモンなんだからさ。


 さて、明日からは移動日になる。王都最後の日をまったり過ごそう。


 あんこも王都滞在は楽しかったと言ってくれたから良かった。またお忍びで遊びに行こうね!!




 ◇◇◇




 約半月滞在した王都と遂にお別れ。

 宿の従業員や料理人は俺の帰りを物凄く惜しんでくれた。金払いがよくてクレームとかはいれない楽な客、そしてストレスの溜まる業務の日々を癒してくれる天使を連れてるから帰したくないんだろう。

 俺も逆の立場ならそう思う。まぁまたきっと泊まりに来るからこれからも頑張ってくだせぇ。


 ミステリアス商会の面子や紅茶専門店の面子は泣きながら俺らをお見送りしてくれた。

 仲良くなった天使との別れは特に辛いよね......俺なら耐えきれないもん。


 この二店舗は俺御用達の店として仲良くなり、今後は業務提携する事になったらしい。アドバイスとしてスタイルのいい女の子を男装執事にしたりとか、ガチ執事を雇うとかしたらどう? と伝えたりしたらめちゃくちゃ乗り気になっていた。


 異世界で男装執事喫茶......きっと流行ると思う。いつかドッグカフェとか、動物と触れ合えるカフェとかも作ってほしい。

 でもまぁ、それよりもまずはウチの天使グッズで溢れる紅茶専門店をよろしく......また来るからしっかり流行らすんだよ!!


 恥ずか死ストーカーは着いてこようとしないで。ほら、手裏剣と苦無をあげるから大人しくしなさい。


「それじゃあまたね。今度は他の子も連れてくるから、その子たちとも仲良くしてねー」


 こうして王都滞在は終わった。次に来る時が楽しみだよ。色々と。



「わんわんわんっ」


 しっぽを振りまくるあんこ。可愛い。


『わたしに乗って! ご主人乗せて走るの』


 見蕩れているとお嬢様が素敵な提案をしてきた。可愛すぎて生きるのが辛い。


「い、いいの? じゃあよろしくね」


『うん! いくよー!』


 俺たちのデートはまだ終わらない......もう少しだけ続くんじゃ。

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