第233話 デートの旅~磯の香りと血の香り~
胃の中にちょっと戻りかけている乾燥わかめが詰まって、お腹がぽっこりしているドリルロリをストーキングしている男が王都に発生した。そうだね、俺だね。
貴族が住む心做しか高貴そうに見えなくもない道を気配を消しながら進んでいく。
お腹が苦しいのか、怖いおじさんから逃げたいのか、お淑やかさの欠片も無い走り方をするドリル。
貴族の令嬢なんて移動はどんなに短距離でも馬車で......なイメージだし、走る事なんてそうそう無さそうなのに、結構早く走れているのには少しだけ驚いた。
五分程走っただろうか、ドリル令嬢が一つのクソデカい建物の前で止まり、門番らしい男に怒鳴った後、その建物の敷地内に入っていった。
「うわぁ、デカすぎだろコレ......この屋敷を全壊させるにはあんピノ玉の中サイズでは足りないかもしれない」
『その時は私かご主人がやればいいの!』
「そだね、余った物は俺がぶっ壊せばいいかもしれないね。あんこはあんピノ玉好きなのかな?」
『あたー! あたー!』
「あんピノ玉の改良は帰ってからやろう。そんな事よりも、プリティなあんよでパンチを繰り出すあんこが尊すぎてヤバい」
『あたたたー!』
またあんこの事を一つ知れた。お家に帰ったらあんピノ玉の改良をして、もっと綺麗な爆発が出来るようにしよう。そう思った。
爆発は芸術だからね。うん。
それとは別にあんこに発勁的な力を教えて、敵を爆散させる技を教える。それもやろう、そう思った。
「二足歩行を教えておいてよかったっ......これならいつでもパンチを繰り出せるね。あの時は可愛いもの見たさ故の欲望だけだったけど、何が役に立つかはわからないもんだなー」
『アレ、教えてくれるの? やったー』
「ふふふ、あんこの為ならなんだって教えてあげるよ。知ってる事だけだけど」
喜びからか少しだけパンチを繰り出すスピードが上がった。可愛い。
おっと、時間を無駄にしてはいかん。早くこの変なイベントを終わらせなきゃ。
◇◇◇
幻影で姿を消して貴族屋敷に侵入。見失いかけたドリル令嬢を再発見し、その後をつけていく。
あの子が向かった先は食堂で、俺が教えた嘘の忠告通り水をがぶ飲みし始めた。使用人達はドリル令嬢の変わり果てた姿に困惑し、ザワザワしている。
「儞已經死了」
これで死亡までのカウントダウンが始まった。もうコイツは俺が胃の中のモノを消滅させない限り、ワカメを撒き散らす爆弾になる以外の未来は無い。
もう飲めないってなるまで飲んだ令嬢は、お腹からたぷんたぷんと音を出しながらも移動を始める。離れた位置にいる俺にも聞こえてきた。なんか健気すぎて可哀想になってきたかもしれん......
「お、お父様......うっ......入りますわ」
向かった先は執務室かなんかだろう。思いがけずターゲットの元に案内して貰えた。ありがとう!!
「プリメラか......入りなさい......むっ?」
親娘感動の対面。だが、血塗れ、イカ腹になっている娘を見て眉間に皺が寄る。
「どうしたその腹と姿は、何があった!?」
「ウゥ......お父様......野蛮な冒険者に襲われて、護衛や傍付きは全員殺されました......そしてワタクシも、不浄な物を食べさせられてこうなってしまいました......」
「何だとっ!? 何処のどいつだ!! 我が娘にこのような仕打ちをした馬鹿は!!」
......うん、先程感じた気持ちは、一時の気の迷いだったみたいでした。このドリル令嬢は死んだ方が世のため人のため。
「......うっ......去年から人気なあの獣の人形に似た獣を連れた若い男です。......うぷっ......そいつが......そいつがっ......」
「わかった、ソイツは殺して獣は持ち帰って来てやる。お前は下がって身を清めてきなさい。おい! お前はプリメラに湯浴みを。お前はプリメラにこんな仕打ちをした馬鹿の情報を集めてこい」
「「はっ!」」
――バカの手下が行動を開始しようとしたまさにその時......クズ親の執務室が漆黒の闇に覆われた
「はい、ドリルちゃん道案内お疲れ様でした。そしてこんにちは、野生のラスボスです。ラスボスにランダムエンカウントするなんて、鬼畜ゲーにも程があるよね。でもさ、ラスボスから逃げられるゲームなんてある筈がないよね」
「いやっ!! お、お父様......こ、こいつです!! こいつですっっ!!」
「そうか......貴様か......貴様がプリメラに非道な行いをしたゴミクズかぁ!!」
「HAHAHA、何を仰るのかこのアホは。お前が娘を大事にしているように、俺も娘を大事にしているんだよ。金を払うからお前の娘を寄越せと言われ、それを断ったら脅しをかける......そんなヤツが現れたらお前はどうする?」
「そんな身の程知らずの輩が居たら殺すに決まってるだろ!!」
「そう、それだよ。お前の馬鹿な娘がソレをやってきたんだよ。だから殺す。本当に改心していたのなら死ぬ直前に助けてあげてもいいかなーと思ってもいたかもしれないけど、全くそんな事は無かった。だから今ここで、王都に住まう害虫を駆除するのさ」
「何を馬鹿なことを!! そんな獣と我が娘が同等な訳ないだろうが!!」
「そう、そこなんだよ。この子は獣ではないし、お前の娘らしい爆発物よりもとっても賢くて良い子なんだよ。俺の大事な大事な......生命よりも大事なこの子が、そこの破裂までのカウントダウンが始まっているドリルと同等な訳ないんだよなぁ」
「貴様ァァ!! 我が娘を愚弄するかっ!! もういい、お前ら殺れ!! 不快だ!!」
「所詮お前もアレか。ご先祖さまの功績のお陰で貴族なんていう特権階級に居る事が許されているのに、自分が偉いと勘違いしてしまったカスなんだね。お前、下々の者の為になんか役立つ存在なのか?」
「うるさい! 平民が何を言おうと私は選ばれた存在なんだ! おい、早く殺れ! 何をしているお前ら!!」
「......嘘みたいだろ......死んでるんだぜソレ。大した傷もないのに、ただちょっと急所をどついただけで、動かくなるんだぜ......」
「何を馬鹿な事を! おい! 何をしている! 早く動いてその平民を殺せ!!」
「人に命令してないで自分で動けよ。後はトドメを刺すだけって状態にまでお膳立てされないと、貴族様(笑)はなーんにも出来ない臆病者なんでちゅねー」
「うるさいっ! もういい、私自ら殺してやろう! ......えっ!?」
傍に立っているバトルも出来そうな執事から剣をひったくったおっさん。その行為の衝撃で執事(故)の体が床に倒れた。
「あーあ、故人はもう少し丁重に扱ってあげないと......お前のようなヤツにも仕えてきてくれるような心の広い人だったのに......」
「うるさいっ!!」
ブルブル震える足、カタカタと落ち着きの無い剣先、右往左往する瞳のアホ侯爵。
「チキりまくってんじゃねぇか。だっせぇ。まぁお前のそんな情けない姿はどうでもいい。お前の娘がフリ〇ザ様にアレされる前のクリ〇ンみたいになってきているぞ」
「はっ!?」
俺の忠告により意識を娘に向ける侯爵閣下。変わり果てた姿を晒す娘を目にして、形容しがたい表情をしている。
「プリメラァァァ!!」
「.....ぐっ」
あっ......もう既にリバース防止装置が作動しているみたい。卵を産む時の某大魔王みたいに喉が膨らんでいる。
気道は塞いでいないから、ワカメとワカメの間の僅かな隙間のおかげで呼吸は出来ているらしい。辛うじてってレベルでだが。
「お前......娘に何をしたっ!!」
大声で叫ぶなよ。空気の振動で娘がダメージ受けてんぞ。
「......そうだ。俺も水魔法使えるんだよな、よし......少しだけ後押しをしてあげよう」
胃の中に収まっている水を媒体に水を増やそうとしてみる。出来たら御の字、出来なければ水を注入すればいい。
......むむむむむ......
......あ、出来た。
「あぎゃぁ」と言う令嬢にあるまじき声を出してより一層苦しむドリル。膨らむスピードがマシマシになってきました。
水なのかワカメなのか......まぁどっちでもいい。
「やめろ......やめてくれ!!」
「おぶっ......ぶぶぶぶぶ」
うん、そろそろだな。
「黒より黒く、闇より暗き漆黒に 我が真紅の混交に(省略)エクスプロー〇ョン!!」
思っていたよりも破裂しなかった。
喉と腹を突き破ってワカメが飛び出る。というか、体内から這い出るナニかという表現が正しいのだろう。ブリュブリュと出てきていてぶっちゃけ気持ち悪い。
ワカメ特有の香りと、血と臓物の臭いが部屋いっぱいに広がる。女の子から出る物は~って熱弁していたヤツがいたけど、俺には理解出来そうにないです。
目は血走り、破裂するのかと思うほど見開き、顔は苦悶の表情を浮かべ口からは涎を垂れ流した顔をしていた。安らかな死に顔です。
「あっ......あぁぁ......」
「さて、侯爵閣下。貴方に与えられる選択肢は二つでございます。
一つ、俺とこの子の時間を奪い、不快にさせた事に対する慰謝料を払って安らかに死ぬ事。
二つ、俺を殺そうとして奮起し、無様に殺されて全てを奪われ破壊される。
さぁ選べ。早く選べ。お前が子どもの教育を間違え、増長させた結果だから潔く受け入れろ。お前も数えきれない程の人の人生をぶち壊してきただろ? 因果応報だよ」
「......家族や使用人はどうなる?」
「なんだっけ? ほら、罪を犯したヤツの家族が芋づる式に殺されるヤツ。アレだね、お前と娘、側近を見ていて他がマトモとは思えない」
「......ならば刺し違えてもお前を殺す!」
「じゃあ君は此処で惨めに死んでね。この処刑方法がご褒美になるか、苦痛か......それは君の資質次第だよ」
「死ねぇぇぇ!!」
「おいで、女王様......ここでコイツと一時間程遊んでおいて」
喚んだ瞬間に響き渡る鞭の音、そして潰された蛙のような声。
目を爛々と輝かせた女王様がタイムラグなく顕現し、豚を踏み潰しながら恍惚とした表情を浮かべている姿が目に飛び込んできた......
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対象が対象なのでキツい意見が来るかと思いましたが、そんな事なくてびっくりでした。
エクスプロージョンと打った予測変換で、某爆裂狂さんの詠唱が全文出てきて更に驚きました。最近の予測変換ってしゅごい。
次回は実験的な回になります。投稿してから描き直す事になるかもしれませんが生暖かい目で見てください。いつもお読み頂きありがとうございます。
ㅤ......アウト判定でも一発BANは無いよね? イエローカードを挟むよね?
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