第229話 デートの旅~身柄引受~

 マイエンジェルたちの様子を覗いた俺は驚きからか変な声を出してしまい、半分以上夢の中に居たお嬢様を現実に引き戻してしまった。


 眠気からかポヤポヤしたお嬢様が挙動不審になった俺をジーッと見ている。その視線には若干の不機嫌さが見て取れて心が痛い。


「ご、ごめんよ......ちょっとだけ衝撃的な映像が見えちゃって声が......」


 むくれるお嬢様を宥めて撫で回す。緊急事態なので弱い所を重点的に攻め込み、トロントロンに蕩けさせて速攻でゴートゥー夢の中へご案内。あんこにこんな事はしたくなかったけど、仕方ない......後で全力でお詫び致しますのでお許しください。


 万が一お嬢様が途中で起きてしまった時の為に書き置きを残してから部屋を出る。向かう先はミステリアス商会。


 相手の都合なんて関係無い。寝ていても叩き起こして事情を聞かないといけない。


 さっき訪れた時に転移部屋を用意してもらっておいて良かった......




 うん、作ってもらったのはちょっと前だよね? 何故もう完璧な部屋に仕上がってるんでしょうか。

『グランド』の最上級のお部屋にも勝るとも劣らないレベルのベッドを筆頭に、高そうなテーブルや椅子、ソファーや姿見などが完備されていた。


「......もう王都に来た時に宿を取る必要ねーなコレ......HAHAHA」


 思わず出てしまった独り言に呆れつつ部屋の外へ出て、昼間に会った責任者のお姉さんが居る部屋へと急ぐ。

 部屋の前に着くとノックだけして返事を待たずに開けた。急いでいるから許してくれ。


「夜分にすまないが、緊急事態だ。デリカシーが無いとは思わないでくれ」


 部屋の中に居たのは責任者の子を含む三人の女の子。ロリロリしい子が二人居て、目を見開いて驚いていた。

 急に男が来たからね......ホントにごめんね。


「......夜這いとかじゃないから警戒しないでくれ。聞きたい事があるのよ......ねぇ、ここに居ないという冒険者組の六人って、何処の調査に向かわされたのかな? それと、その子たちの装備とか特徴とかも教えてくれないかな」


「......す、すみません。思ってもみなかった展開で放心してしまいました。お見苦しい所をお見せして申し訳ありません」


「「ご、ごめんなさい」」


 シューンとしてしまった三人の女の子......そりゃ放心するよね、急に男が来たから。


「変なことはしないよ。用が済んだら直ぐに出てくから、心配しないで......それで、聞いた事に答えてくれたら嬉しいんだけど」


「してくれても構いませんのに......いえ、すみません。詳しい事はこちらも把握していないのですが、冬頃に黒い光の柱が立ち上ったという魔族領と亜人族領の間の山......そこの調査に赴いています」


「特徴は全員がシアン様に貰った剣鉈と外套を付けています!」


「私やこの子とは違って、全員が綺麗なお姉様です! 冒険者やお客さんの間でも大人気なんですよ!」


「私たちはもう一度シアン様にお会いしたくて頑張っていたので、あの黒い柱が見えた時はきっと貴方様の御力だと確信して歓喜しました......そして春になってあの山脈を四カ国で調査するという話が出たので、ウチのエースたちを派遣したのです」


「国からの強制依頼だったんです!」


「途中でアイツらと逸れてシアン様を探すと意気込んでいました!」


 ......ふむ、ふむふむふむ。


 なるほどー、これはもう確定ですね。てか、あん時のストレス発散黒レーザーがこんな大事になっていたとはっ......!!


 人間界の方にも見えてたのかよぉぉぉ!!



 ふぅ、まぁいい。ロリっ子たちが言うには、面倒なクソ人間と逸れてでも俺に会いたい。


 その一心であの人外魔境の悪辣山を攻略してきたんだね。

 そんで、今ウチの隠蔽空間に入り込んでピノちゃんたちに拘束されている......と。一応俺の魔力で作成されている剣鉈と外套を持っているから、問答無用で排除はされていない現状、天使たちがあの子たちの扱いに困ってオロオロしている訳ですね。


「......うん、教えてくれてありがとう。あのね、落ち着いて聞いてね。君たちと別行動している冒険者組の目的は達成されたよ」


「まぁ!?」

「えっ!?」

「ほんと!?」


「うん、俺の拠点まで無事に辿り着いているけど、俺不在だからウチの子たちに捕まってる。侵入者は問答無用で排除してもいいよって言ってあるけど、俺があげた剣鉈と外套を持っているからとりあえず俺の判断待ちみたいな扱いになってる」


「良かったぁ......」

「うぅっ......お姉ちゃんたちが無事で良かったぁぁぁ!」

「心配だったんだよぉ......」


 魔族領と亜人族領の間だもん心配になるよね、この子たちは本当に仲がいいんだなぁ......ここまでロリっ子たちに思われているなんて、いいお姉ちゃんしてるんだね。おじさん感動しちゃったよ。


「まぁそんな訳だからちょっとその子たちをお迎えに行ってくるね。そんなに時間は掛かんないと思うから待ってて」


「はい」

「うん」

「ありがとうございます......」


 はい、というわけで拠点にワープっと。




 ◇◇◇




 はい、ただいま戻りましたよー。


 こんなに早く戻るつもりはなかったけど、まぁ緊急事態だし仕方ない......

 ん? あらあらまぁまぁ! この気配はツキミちゃんじゃないですか。


 お出迎えしてくれてありがとう。さぁパパの胸の中に飛び込んでいらっしゃい!


『おかえりーーー!!』


「ただいまーーー!!」


 甘えんぼな子ってなんでこんなに可愛いのでしょうか。好き。


『えへへ、抱っこされるの好き! 撫でられるのも好き!』


「寂しくさせてごめんね、俺も好きだよ」


 全速力で飛んできてたから抱きしめる時に嘴が若干めりこんだ。常人なら多分穴が開いていたと思う。

 だけどそんな事を指摘して俺とツキミちゃんの感動の再会に水を差すのは無粋ってもんよ。このストレートな愛情表現たまらん。


「よしよし、いい子にしてたかな? 問題が起きてるんでしょ? 一度皆の所に戻ろうか。......抱っこしたままで行くからそんな悲しそうな顔しないでいいよ」


『うん!』


 フワッフワの羽毛が気持ちいい......あったかぬくぬくさいこー。ひんやりした空気が混ざってきてるから余計に際立つ気持ちよさです。


 クルルと喉を鳴らしながら体を擦りつけてくるツキミちゃんにデレデレしながら皆の元へと向かう。敷地内に入ると、ピノちゃんの魔法で操られて作られたと思われる竹の籠が見えてくる。


 その周囲にはワラビ、ヘカトンくん、ピノちゃん。ダイフクは末っ子姉妹のお守りをしている......いや、違うな。末っ子姉妹にオモチャにされてるダイフク。


「ただいまー。監視とお守りをしてたんだね、お疲れ様でした。あ、さっきまでその子たちの所属先に居たから身元ははっきりしてる。だから出しても大丈夫だよー」


 警戒心を隠そうともしないワラビとヘカトンくんとピノちゃんと対峙してしていた女の子たちは、ようやく俺に気付いたらしく安堵した表情で地面にへたりこんだ。同時にウチの子たちも警戒を止めた。

 見た目的にはそうでもないんだけど、この子たちの生き物としての格やら威圧感やらはえげつないからね......よく頑張ったと思うよ。


「俺があげた武器と外套に気付いたから手出しはしなかったんでしょ? ありがとう。俺が居なくて寂しくなかった?」


 緊張の糸が切れて呆然としている女の子たちを前にしてアレだけど、俺はこの子たちが好きなんだ。後回しにさせてくれ。


「キュゥゥゥ」

「メェェェェ」


 末っ子姉妹いらっしゃい! 俺の腕の中に甘えんぼ三姉妹......あかん、幸せすぎる。よーしよしよし......じゃれてるんですねー。


「手が塞がってて撫でられないからごめんだけど、ピノちゃん、ダイフク、ワラビ、ヘカトンくん警備やお世話ありがとう」


 両肩に乗ってくるピノちゃんとダイフク、ツノでツンツンしてくるワラビ、何故か敬礼してくるヘカトンくん。皆大好き。


「えーっと、この女の子たちはまだ俺とあんことピノちゃんだけだった頃に、縁があって助けた子たちなんよ。その時にその剣鉈と外套をプレゼントしたのさ」


「シャァァァ」


 ピノちゃん、喋ってくれてもいいんだよ。なんかその声を出されると威嚇されてる気になるんだ、俺。


「ピノちゃんとあんこに黙って外出した時の事だからね、知らなくて当然だよ。ピノちゃんだけでなくて俺とあんこの事もダンジョンで殺そうと企んでたヤツがいて、それを俺が夜中にこっそり始末した時に偶然助けたの」


「キシャァァァァ」


 ......ピノちゃん怖いよ。ピノちゃんだけじゃなくて他の子も殺気立つのは止めなさい。女の子たちがこの世の終わりみたいなツラしてるから!!


「ハイ、ストーップ! 大丈夫、関わってたヤツは全員しっかりぶち殺したし、その一部はピノちゃんに作ってもらった魔法をぶち込んで蒸発させてあるからね! あと、この場には普通の人間がいるんだから殺気は出さないであげて」


 この子たちに愛されてるって凄くわかるのが嬉しすぎてヤバい。好き。

 とりあえず......この子たちをお家まで送ってあげよう。それで今日はあんこを連れてきてこっちで寝ようかな。


「来てそうそうアレだけど、この子たちを送ってくるね。......うん、そんな悲しそうな顔しないで。今日はあんこも連れてきてこっちで寝るからね、一緒に寝ようね」


「キュゥ」

「メェッ」

『待ってる』

『絶対だよ』


「おうよ! 直ぐに戻ってくるから寝る準備して待っててね! それじゃまた後で」


 名残惜しさに後ろ髪を引きちぎられながら、未だに呆然としている女の子たちを連れて帰還。


 泣きながら仲間を迎える女の子たちの百合百合しいシーンを見て和みながら俺はフェードアウト。


 宿の部屋に戻ってワープポイントの設置をし、あんこを抱きしめて拠点に帰還。


 三日ぶりなのに既に恋しかった家族の温もりに包まれながら眠った。普段は素っ気ないダイフクやピノちゃんもベッタリでとても気持ちよく眠れた。

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