第227話 デートの旅~邂逅~

 黒煙を解除してから、気配をガチめに抹消しながらシャーリーちゃんに見つかったあの路地裏に避難した。そこで、お嬢様と俺の共同作業について振り返っていた。


 ふふふ......我ながら惚れ惚れする程の証拠隠滅っぷりだ。お嬢様と俺の力を合わせたから当然なんだけどね。


 血とかが染み込んでいたら変な模様を地面に刻まなくてはならなかったけど、そこはもうマイスゥイートエンジェルの麗しいスキルのおかげで、「え? 惨殺現場だったんすか此処!?」ってレベルに綺麗になっている。

 その筋の清掃業者も真っ青な仕上がり。染み込む前に処理しないとシミになっちゃうからね。


 地面に落ちている肉片も、ル〇バを大量生産してスキルアップしたのか、綺麗にゴミだけを処分できるようになっていた。


 物証が無ければただの集団行方不明で処理できるよね。野次馬がどれだけ騒ごうと、現場に何も無ければ集団幻覚でしかない。


「ふっふっふ......やっぱりあんこは凄いね。さすが俺のあんこちゃんだ」


 語彙が死んでるのはいつもの事なので気にしないでほしい。この子を褒め称える為の言葉が思いつかない俺を許しておくんなまし。


「くぅん、くぅん」


 めっちゃ甘えた声で俺にスリスリしてくるこの子は何でこんなに可愛いのだろうか。

 あぁ、俺はもう死んでいるのか......天使がお迎えに来てくれているんだね。あの有名な少年とワンコの物語のラストみたいな状況だったんだね......気付かなかったよ。


「あんこが可愛いすぎて、俺はいつの間にか生きるのに疲れちゃっていたのか......」


「くぅん?」


「ごめんごめん、ちょっと召されかけていただけだよ。好き」


「くぅーん」


 しばらくの間モフった。目の前のこの子以外の事は考えられなかったからね、仕方ないよね。




 ◇◇◇




 俺の意識が戻ったのはそれからしばらく後の事、表の方から何やら汚くて煩い叫び声が聞こえてきやがったからだ。至福のひとときを邪魔しやがってクソがっ!


 トロントロンに蕩けたあんこお嬢様を、丁寧に定位置まで持っていき、気配を消したままこれまた再集合していた野次馬に紛れて観察を始める。


「だから此処で何があったかを聞いているんだ! さっさと吐け!」


「知りませんよ。私たちはある尊い御方をお迎えする為に頑張っていただけですもの」


「嘘を言うなッ!! 我が国の侯爵が殺されたという証言が民から多数上がっているんだぞ!!」


「それは私たちも聞きましたよ。ですが、そのような事が起こっていたのなら貴方達はすぐ駆けつけるのではないでしょうか。そのような事があったと聞いていた時間に貴方達は駆けつけてこなかった。私が思うに、そんな事は起きておらず、民が流した狂言だったからではないのでしょうか」


「侯爵は未だ行方不明だ。我らは侯爵の行方を知らない。だからお前らに聞いているんだ!! さっさと知っていることを話せ」


「何度言われても私たちにはわかりませんのでお引取りを。聞くところによるとその行方不明の侯爵様は民達の間では黒い噂が絶えないご様子です。きっと悪事がバレそうになったので貴方達の言う事件の幻覚を見せた。その隙に雲隠れしたと考えるのが正解のような気がするのですが?」


 ......うん、俺の企みを完全に理解して利用しているね。さすがっす。

 最後の方を聞いた野次馬共も「あー......」って納得した顔をしている。お前の負けだよおっさん。


「クソッ!! 今回は一度引くが、また来るからその時はしっかり隠している事を話せよ!!」


「今回話した事以上の事は知りません。何度来られても進展はありませんよ」


「チッ......行くぞっ! 集まってるお前らもさっさと散れッ! しょっぴくぞっ!」


 清々しいまでに三下なセリフを発して去っていくおっさんwith手下と、しょっぴくと言われて慌てて解散する野次馬の群れ。


 さて、静かになった店の前。いつ姿を現そうか、若しくは逃げようかなーとタイミングを探っていた俺だったが、何故かミステリアス商会の皆様の目線がこちらに向いているのに気付く。


 ......フーッと一つ息を吐き、天を仰ぎながら考える。


 なんでバレてるのか......と。


 落ち着いてる場合じゃないけど、ちょっと落ち着こう。うん。


 今の俺はガチめに隠蔽を掛けている。

【千里眼】という空間を隔離しないと防げない反則技を持つモチモチ、ピット器官という世を忍ぶ者殺しなモノを持っているピノちゃん、人間の何億倍かの嗅覚を持つお嬢様、エコーロケーションで周囲数キロに潜むモノを丸裸にしてしまうウイちゃん以外にはバレないレベルの隠蔽なのに......



 ............ウチの子凄すぎだね。ツキミちゃんも正解率五割くらいだし、なんなのウチの天使たちは。


 おっと思考が逸れた。何故人の域に収まっている者たちにバレたんだろう。

 ......偶然な可能性があるから、もう一度確認してみ......




 ......バレてるね。さっきよりも見ている子の数が増えてる。

 熱視線と言っても過言ではないくらいの視線が飛んできている。もう......誤魔化しようがないね......行くか......


 でも、外で姿を現すのは恥ずかしいし、彼女たち以外に見られてたら面倒になるから中に入ってからにしよう。

 誘われてるし、歓迎するとも言ってたから不法侵入にはならないでしょ......



 ソーッと歩き出した俺、打撃カーソルがロックオンになっているかのように俺の動きに着いてくる視線。せめて打撃レベルが全真芯になっていない事を祈ろう......ははは。


 動く度に追ってくる視線に怯えながらも店内に入っていき、俺を追っていた視線の主が全て店内に入ってきたのを確認してから隠蔽を解いた。


「あーどうもー、お久しぶりの方もはじめましての方もどうぞよろしく。俺はシアンで、この子はあんこだよー。

 あー、そうそう、今後の死活問題になりかねない事なんで聞くけど、なんで君たちは俺の隠蔽状態を見破ったの?」





 ............えっと、なんで黙るのかな?

 もしかしてあんなバレバレなのは隠蔽と言わねぇよって事?


 ま、まさか!? ウチの天使たちはそんな俺に気遣ってくれていたのか!?


 ウチの天使たちは皆とっても優しいからなー......そっかー......泣きたくなってきちゃった......


「くぅーん......」


 慰めてくれるのかな? ははっ、あんこは優しいなー。温もりが俺を癒してくれる......


「あ、あの......発言よろしいでしょうか?」


 ......あ、あの論破お姉さんか。クソ雑魚隠蔽に言葉の弾丸をぶち込むんですね。おーけー、覚悟は決めた。いつでも来いや!


「......どうぞ」


「ありがとうございます、では失礼します。シアン様の隠蔽は完璧で全く見えませんでした。ですが、あんこ様に隠蔽が掛けられていなかったので......その......」


「............」


「............」


「えーっと......あ、いた。ねぇシャーリーちゃん、君が俺を見つけた時も......そうだったの?」


「へっ!? あ、その......はい」


「マジかー......そっかー......じゃあそん時の俺らの事は君たちにはどう見えてたの?」


「......あんこ様が浮かんで見えていました」


 おっけー、俺の凡ミスだったんだね。

 あんこの視線に呆れが含まれてる気がするけど、気のせいだね。

 さ、この空気をどうにかしようか。この子たちがどうしていいかわからずに、物凄く戸惑ってるのが伝わってくるよ......


「なんかごめんね、こんな空気にしちゃって......あと、大変だったね、さっきのクソ貴族とか」


「あ、ありがとうございます」


「元気そうにしていてよかったよ。よく頑張ったね......あの後の事とか、この店の事とかを教えてくれないかな?」


「......は、はいっ」


 変な空気をどうにかしようとしてそう伝えた瞬間、泣き出しちゃった女の子たちにどうしていいかわからなくなる。


「あんこちゃん、あの子たちの事癒せる?」


「わふっ」


 頑張ってみるって感じのあんこが体を中型犬サイズにして闇鍋の中心へと向かっていった。

 異世界でもアニマルセラピーの力が通じるって所を見せてくれ!! 頼みますよ!!

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