第226話 デートの旅~後片付け~

 side~某医者の助手~


「ギョー(わー、すごいねー。ちぎっては投げ、ちぎっては投げって言葉がぴったりだよ。人数差をものともしない戦いっぷりだよ! でもさすがに疲れが見えてきてるね、がんばえー)」


「わふっ」


 見た感じあの娘たちにアホな貴族が因縁を付けてきて、それに抵抗してるって雰囲気。

 それにしても......よくもまぁあんなに数を集めたモンだ......衛兵とかはなにしてんの? まさか貴族にはなんもしないのかね。


「ギョー(最悪の展開になりそうな時がきたら手助けしてあげますか。あの娘たちにはマイエンジェルたちのグッズを作ってもらうからねー)」


「わんわんっ」


「ギョー(さて、詳しい事は野次馬に聞いてみようか。あんこはちょっとだけ大人しくしててね......あ、あれ? 商会側の指揮してる子......こっち見てる?)」


「わんっ」


 ......よし、単体で観戦してるヤツで、ちょっとだけこういうのの内容に詳しそうなヤツはいるかなー。

 それよりも、かなーり気配を薄くしてるハズなのになんで気付いたんだろうか......こわっ......


 あ、コイツは良さげ雰囲気を醸し出してる。よっしゃ、君に決めた!!


「ギョー(ねぇねぇ、ちょっと話聞きたいんだけど今時間いいかな?)」


「うわぁっ!? え? え? 何これ、誰? 不審者ですか!?」


「ギョー......(失礼な......あ、やべっ、外道くんのままだった......それにしても、何故布を被っただけなのにギョーとしか言えなくなってるんだろうか......)」


「僕を誘拐しても大して金にならないのでやめてください......」


「あ、いや......誘拐犯ちゃうねん。ちょっとだけ変装してただけだからね!? いいから君、とりあえず落ち着こうか」


「えっ!? あ、ハイ」


「ふぅ......じゃあ聞きたいんだけど――」




 ◇◆◇




 side~リーリャ~


 ど、どうしましょう!? まるで抱っこされてるような体勢のまま浮いているお犬様を見つけたと思ったら、紫色の布を被った怪しい人が見えるようになりました......


 でも......あれはどうみてもウチで作らせて頂いているあの御方の相方であるお犬様にしか見えません......


 ま、まさかっ!?


 もうこちらに来られていたというのですか!?


 ......こ、こんなはしたない場面を見られてしまったのでしょうか......こんなのに手古摺っていて失望されていないでしょうか......


 ど、どどどど、どうしましょう......もう今更どう取り繕っても、貴族相手に大立ち回りするような野蛮な戦闘集団程度にしか、あの御方に認知して貰えないですよね......


「ゆ、許さない......あのクソ貴族め......」


「リ、リーダー......どうされたんだすか?」


「ウフフフフ......えぇ、わかりましたよ。いいでしょう......こうなったら一方的に、そして惨めに殺してあげます。貴族なんて大嫌いです......一度ならず二度も私たちから大事な物を奪いやがって......」


「あ、あの......」


「貴女、今からこの場の指揮権は貴女に移します。大丈夫、貴女は何も心配しなくてもいいんですよ......すぐに終わらせてきますので」


「ちょっと!? 何言ってるんですか!! 私には無理です!! 待って!! リーダー待って!!」


 自分の一番近くに居たという理由だけで現場指揮の全てを任せ、この事態を招いた元凶に向けて走り出す。


 一刻も早く始末をせねば......と、自身の力の全てを移動に用いて最短距離を駆け抜ける。常人には知覚不可と言える速さで対象に近付き、一目で情勢は決したと見えるよう、ある一点に向けて自身の全てと胸を張って言える愛刀を振り抜いた。



 彼女の属性は闇



 偶然にも自らが慕う相手と同じ、全ての色を飲み込む漆黒を纏った刃は、彼女の通った道に綺麗な黒い残光を残しつつ抹殺対象の首元に吸い込まれていった。


 目標を斬り裂いたという手応えだけを確認した彼女は残りの虫の駆除へと動き出す。

 汚い液体を撒き散らしながら倒れていく虫けらの死体には一切の関心を見せずに――



 貴族の血は青いと言われたりもするが、そんな事実は無く、自らが穢れた血と蔑む赤い血を撒き散らしながら崩れ落ちる蛋白質の塊と成り果てる。

 周囲に降り注ぐ液体と、倒れ伏す二つに分かたれた肉塊を見て己らの雇い主が殺された事を悟る蛮族達。

 街中で問題を起こしても、その問題を揉み消してくれる存在はもう居ないという事実を理解して戦意喪失し、武器を落としていく。


 普段ならばそこで戦闘が終わるのだが、タイミングがすこぶる悪かった。

 一世一代の晴れ舞台を邪魔されるだけではなく、万全の状態で迎える筈だった人物にこんな醜い諍いを見せてしまった彼女たちの怒りはこんな事では収まらない。


「従業員全員に通達します! 元凶は殺しました! 各自、これより全身全霊を以てゴミの掃除を行いなさい!! かの御方はもう既にこの場に到着しておられます......あの御方の大切な時間をこれ以上無駄に浪費させる訳にはいきません。全力を尽くしなさい!!」


 指揮を任された女性はこの発言を聞き、ようやく気付く。いつも冷静で優しい彼女がブチ切れ、取り乱していた理由に......


 そして、この爆弾発言による衝撃は指揮を任された女性だけではなく、この場で戦っている全ての女性に波及していき、短い時間だが戦場は時が止まったかのように静まり返った。


 ――それはとても大事な......それこそ全てを犠牲にしてでも優先しないといけない程の大事な予定を滅茶苦茶にされた怒りからか。


 はたまた到着予定時刻までに終わらせられなかった己への怒り、または失望か。


 それとも敬愛して止まない存在が既にこの場に来ていたという驚きからか。


 それともまた別の感情か......


 各々がどういう思いを抱いたのかは彼女たちにしか分からない。


 だが、齎されたその言葉は、彼女たちを全力のその先へと押し上げるモノだった。



 彼女たちが再起動してから数分後、ミステリアス商会の店先は真っ赤に染まり、彼女たちに敵対していた生物は......全て血と臓物と肉片へと変わり果てた。




 ◇◇◇




 side~某医者の助手の中の人~


「ふむふむ......なるほど。エースが不在なミステリアス商会に、ロリぺド侯爵が幼い見た目の商会員を手に入れようとして攻め込んだという訳ですか......ただのクソやん......ほんっっと人間ってクソだわ」


「アレが侯爵という地位の為にあまり大事に出来なかったのが痛いですね......でもここまであからさまに手勢を集めて武力行使すれば、さすがにお上が黙っていないでしょう。多分ですが彼女たちが罪に問われる事は無いかと」


「ふーん......なら安心かな。貴族の言うことは絶対!! ってならないならこの国もまだ捨てたもんじゃないって事か」


「......ここだけの話、高位貴族の令嬢や奥様方にもこの商会のファンは居ますからね。天秤にかければゲスが消される方を選ぶと思いますよ」


「はえー、マジかー......なるほど、色々とありがとう。そろそろ終わりそうだしこっちも準備しようかな。とりあえずコレ、情報料。コレで美味い酒でも飲んでよ」


「......アッハイ。こちらこそありがとうございます。最初は不審者と思ってすみませんでした」


「ダイジョーブデース、俺も完全に不審者だったと思ってるから。あ、そうだ。もし不審者扱いしたのを悪いと思うなら、彼女たちが今回の件で責められた時に味方してあげてよ」


「あ、それは言われなくても。それでは」


「うーい」


 ......ファーストコンタクトの後、よく逃げられなかったと思う。アイツ、見た目によらず結構肝が据わってるんだな。

 俺ならばこんなんに話し掛けられたら速攻で距離を置くのに(笑)。


「とりあえず目立たなそうな位置で待ってようか、あんこも大人しくしていてくれてありがとうね」


「キャウンッ」


 不意打ちのお腹サワサワに驚いて声を上げたお嬢様。嫌そうな感じはなく喜んでくれているっぽいのでそのまま続ける。


 それにしても辺り一面真っ赤っ赤だなー。200は居そうなのに、終わってみれば圧勝。包丁以上の武器なんて持った事なさそうな子たちだったのに......あれから頑張ったんだろうなー。


 よし、ちょっとだけおじちゃんが手助けしてあげよう。


 殺害現場に死体証拠が無ければ、殺人事件として立証できなくなるでしょ。多分。


「ねーねー、これからここを綺麗にしようと思うんだけど、俺がここら一帯を真っ暗にするから、その隙にあんこは血を宙に浮かせて、汚い物の残骸は凍らせてくれる?」


『うん! 任せて!』


「ありがと、じゃあ行くよー」


 死に戻りをする某ジャージを着た男のように体から黒い煙を放出する。

 あんこが仕事をし易いように、人が逃げ出す隙を作れればいいなーと思って出した。


 狙い通りに黒い煙に驚いて逃げ出す人が多くて思わずニヤリとしてしまう。


 じゃ、よろしくね!


「わふん」


 こんなんよゆーよゆーって感じのあんこにキュンキュンする。

 俺のオーダー通りに血は全て纏めて浮かせ、汚物は凍りついた。


 後は簡単。小型のブラックホールに吸い込ませておしまい。あっという間に惨殺現場が元通りぃ。


「いぇーい! あんこちゃんグッジョブ!」


「わふっ」


 ドヤ顔のお嬢様とハイタッチしてから黒煙を解除した。

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