第224話 デートの旅~深夜の攻防~

 どんな職種の人でも一流クラスだと思える人ってやっぱすげーわ。


 この世界の酒よりもグレードの高い酒が大量にあるのに、自制しながら飲めるとは......俺ならべろんべろんになる自信あるわ。


 結局あの後酒盛りは日付けが変わる頃にお開きとなり、料理長とお姉さんたちはほろ酔い以上にはならずに帰っていった。


 お姉さん方にはクッキーと果実酒を数本、料理長には未解体の鳥一羽を含む俺が所持している肉全種類がパンパンに詰まった収納袋をお持ち帰り頂いた。


 料理長のおっちゃんが肉を目にしてから物凄く燃えていたので、きっとあの肉共は美味しく調理されて帰ってくると思われる。



 酒盛りの後は先に眠ったお嬢様を抱っこしながらあっちをチラ見してから就寝。今日も問題無く可愛かった。


「騒がしくしてごめんね、あんこちゃんおやすみ」


 寝ているお嬢様の背中に顔を埋めてながら眠りについた。




 ◇◆◇




 side~ミステリアス商会~


「これより裁判を執り行います。被告人シャーリー......前へ」


「......は、はい」


 シアン来訪という一大イベントの切欠をミステリアス商会に齎し、一部の狂信者からその功績を盛大に称えられたシャーリーだったが、直接話をした事や街中を一緒に歩くデート紛いの事をしたとして、その他の狂信者からは有り得ない量の嫉妬やヘイトを稼いでしまった。


 それ故、事後報告を受けたミステリアス商会の面々、それに加えて仕事から帰ってきた冒険者組の意見が真っ二つに別れ、こうして裁判にまで発展する事態となった。


 シャーリーちゃんの弁護人功績を称える派VS狂信者連合軍


 いざ開廷っ!!


 実質最高幹部ともいえる遠征組がこの場に居たのなら、単純に功績を称えるだけで終わったのだろう。


 哀れシャーリーちゃん、法廷で会いましょう。


「被告人シャーリーは街の中の路地裏で偶然シアン様に遭遇し......」


 傍から聞けば、ただシアンと会話したシャーリーに恨み妬み嫉みをぶつけているだけなのだが、崇拝というレベルにまで心酔しきった彼女たち。

 自分らや初期メンバーを差し置いて、後発のメンバーがシアンを発見、会話をしたという事実に心が追い付かず、とりあえず有罪にしておけとなっている。




 嫌な......事件だったね......



 となりそうだが神は彼女を見捨てておらず、そうはならなかった。


「この様な一大事に貴女たちは何をバカな事をしているンですか!!」


 功績を称えたい派がジェラシー派の熱意に少しずつ押され始めたその時、満を持して口を開いた女性がいた。


 そんなアホな状況を打開すべく声を上げたのは経営組のリーダーであるリーリャという女性。しっかり者のお姉さんだが意外とノリノリである。


「先程からずっと静観していましたが、そろそろこの茶番がバカらしくなってきたので口を挟ませてもらいます。

 まずはシャーリー、貴女は我々の悲願であったシアン様を見つけ、私たちの商会への招致を成功させました。この事について感謝してもしきれません、ありがとうございます。

 ......ただ、私とて経営組のリーダーである前に一人の女です。偶然であろうとも貴女がシアン様とお話をしたり、道案内をしたり、名前を呼ばれたり......あの御方に直接助けられた私たちからすれば、貴女のした行いは羨ましすぎて気が狂いそうなのは理解してください」


「......は、はい」


 さすが経営組のリーダーという所か、あれだけ騒がしかった法廷(笑)が、彼女が話し始めた瞬間に水を打ったように静まり返った。


 前半は穏やかな口調をしていたのだが、後半になるにつれて、いつもはクールなお姉様が嫉妬の感情を露わにしながら話している姿を見れば当然かもしれない。


 自分よりもキレている人を見れば冷静になるあの感覚に近いものだろう。

 シアンに実際に会った事のないメンバーは、初期メンバーのお姉様方にシアンがどれだけ素晴らしいのかということを、日夜英才教育洗脳を受けさせられていたので、自分達よりも熱い想いをぶちまけられれば大人しくなるのは仕方ない。

 シャーリーちゃんを見てわかるように、実際に会ったことがないにも拘わらず、名前を呼ばれただけで甘イキするような具合いに仕上がっているのだから......


 内心嫉妬でどうにかなりそうなリーリャちゃんだったが静まり返ったこの場を好機と捉え、最早裁判とは言えなくなった場を仕切り、明日注意しなければいけない事を一気に話し出した。


 さすが経営組の元締め。強権を発動させまくって自分がシアンに付きっきりで案内美味しい思いしたいのをグッと堪える。


「どれだけ私たちがシアン様を想い慕っていようとも、シアン様は現状を知りません。明日、幸運にもこちらに訪問して頂ける事になりましたが、あの御方に迷惑行為や無礼を働くのは許しません。

 これは絶対に遵守して貰います......いいですね? 明日は直接声を掛けられた者のみお話する事を許します。来店時のご挨拶、退店時のご挨拶以外では絶対に自分からはお声掛けしてはいけません。声を掛けられた者に対しての嫉妬や苛めは許しません」


「「「「はいっ!」」」」


「よろしい。後、貴女たちの店内配置については各々で話し合って決めてもらってもいいですが、醜い言い争いなどは絶対にやめてください。そのような兆候が見られた場合は即刻話し合いは終了、私が勝手に決めます。元凶となった者は、明日は王都の外で活動してもらいます」


「「「「......わかりました」」」」


「では私はこれで......」


 見事にカオスな現場を捌ききり、華麗に退場していくリーリャの姿を見て反省する狂信者たち......


 ――しかし、反省するのも一瞬だけ......彼女たちの本当の戦いはこれから始まるのだった......


「勝っても負けても恨みっこ無しです。いくらなんでも明日外に放り出されるのは死刑と同等の刑なので、絶対に喧嘩は無しで」


「「「「了解」」」」


「では行きます......じゃーん......けーん......」


「「「「ポンッ!!」」」」


 大人数でのじゃんけんはそう簡単には終わらない......




 ◇◆◇




 side~謎の生き物たち~


 これはシアン発案の夏祭りが開催された日の事。


「もう少し......あの黒い物体が消えた辺りまでもう少しですね......この山、厳しすぎませんか......」


「垂直で水に濡れている崖ってあんなにも登り辛いんですね......初めて知りましたよ......」


「ストーカーが滑り落ちそうになって偶然洞窟を見つけられたのは本当に幸運だったな......」


「あのまま崖登りしていてたら何人か落ちて死んでいましたね......その代わり、あの謎の迷路みたいな洞窟と、無限に湧くコウモリ、物凄く敵対的なスライムと......ヤバかったです」


「あれはキツかったですよね......何なんですかあのカラフルなスライム達は......あの御方にもらった剣鉈が無ければ殺されてましたよ......」


「あぁぁっ......御一緒していなくても、あの御方はいつも私を守ってくれているんですよね......あはぁ......幸せすぎてやばいです。早くあの御方の御姿を私の網膜に焼き付けたいですっ......」


 ヘロヘロになりながらも洞窟を抜け、全員その場に倒れ込む。


 ヌルヌルスベスベの直角の崖、迷路洞窟、シアンがミキサーの刑に処したエンドレスコウモリ、そして多種多様な属性を持つ業突く張りなカラフルスライムの群れ。


 ちなみにスライムが敵意剥き出しだったのは、シアンから送られた剣鉈の所為。

 魔力プールで味を占めたスライム共は、シアンの濃厚な魔力がこびり付いた剣鉈にご執心となっていたからだ。

 恐れの対象であり、また最高のご飯でもあるシアンの魔力に、目をギラつかせながらホイホイ着いてきちゃったスライム共。


 ドンマイ、謎の生き物たち。


「一名トリップしていて使い物にならないし、我々も疲労困憊。今日はもうここで休もう......はぁ......」


「さんせーい......もうクタクタだよ......」


「あの規模の洞窟なのにボスっぽい魔物がいなくて助かりました......あの、動き出すのはもう少し後でもいいですか? 今は動けそうにありません」


「私も無理です......暗くなっていなくてよかった......」


「ウフフフフフフ......」


 疲労困憊ながらもゴールが見えてきたからか、洞窟内よりも目に光が戻ってきている彼女たち。


「暗くなる前までには体力を戻して動けるようになりましょう......」


「「「「おー......」」」」


「ウフフフフフフ......」




 ◆◆◆




 side~カラフルスライム~


『あの人間の魔力と似た臭いのする武器があるが、あの人間達よりも今来たヤツらは怖くはない......!! 武器を奪え!! 魔力を吸って進化するぞ!!』


『『『『おぉぉぉ!!』』』』


『盛り上がってるけど、あの人間の関係者なんでしょ? 無理だよ......あのスライム達殺されちゃうよ......』


『美味しかったけどあの魔力を感じるだけで寒気がするので、ワタシは隠れます』


『ですねよ......ワタシも一緒に隠れます』


『『『行くぞぉぉぉぉー!!』』』




 この日、洞窟内に居るスライムの九割が居なくなった......

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