第223話 デートの旅~依頼~
シャーリーちゃんに案内された先にあったのは、間違いなく俺が前に泊まったあの宿『グランド』だった。
「おぉぉ! 確かに見た事あるお宿だよ。ありがとね!! いやー助かったよ」
「わんっ」
あんこちゃんも思い出の宿を前にしてご満悦のご様子。フードの中から俺の頭の上に場所を移動してしっぽブンブンで可愛い。
「えへへっ、シアン様のお役に立てて嬉しいです。それでは私はこれで......明日、ウチの商会へ顔を出して貰えるのを楽しみにしてますね」
「おっけー、ちょっとやりたい事があるからそっちに行くのは明日の昼過ぎになると思うから、責任者の子にそう伝えておいて」
「はいっ! それでは失礼します!」
直角と言える程に腰を折った礼をしてから立ち去るシャーリーちゃんを見送る。ぶっちゃけ行くって言ったのを後悔してるけど、行かなかったら俺の事を探しにあの山まで来そうな気がするから大人しく顔を出そうと思う。
「折角のデートなのに邪魔されまくってごめんね......明日あの娘たちとの因縁に決着をつければ完全フリーに自由になると思うから......」
『大丈夫、それより早く中に入ろっ!』
あんこは優しいなぁ。
「うん、じゃあ行こっか」
「わんっ」
◇◇◇
中に入り、無事に受付けを済ませて部屋の中に入る。俺が前に泊まっていた部屋は取られていて入れなかったが、一番お高級なお部屋を取れたので大満足。
「あの部屋も素晴らしかったけど、さすがに一番良い部屋は凄いなぁ......」
異世界の調度品のセンスは豪華すぎてあまり理解できないけど、全てが高クオリティなのは辛うじてわかる。
そんな事よりもベッドのフカフカさがやばい。ちょー気持ちよさそう。
テンションが一瞬でマックスまで上がり、ベッドにダイブしていったあんこを椅子に座って眺める。俺もそのまま飛び込みたいけど、体を大きくしてゴロゴロしているお嬢様の邪魔はできない。
「きゃんきゃんっ!」
取ってよかった高級宿! お嬢様のこんな姿を見られただけで俺は幸せでございます。
しはらくの間その微笑ましい御姿を見続けていると、一人でトリップしながらゴロゴロしていたあんこがいきなり正気に戻って、恥ずかしそうにしながら俺をベッドに誘ってきた。
『......一緒にベッドでゴロゴロしよ』って、照れまくりながら言われた俺はその後、某大泥棒三世の如くベッドにダイブしてめちゃくちゃもふもふゴロゴロした。
あんこが魔性の女すぎてヤバかった。何アレ!? 可愛すぎるだろ......俺に子宮があったらキュンキュンして、次代の胤を孕もうとして下りてきていた所だよ。
......そんなことがあったが、今は二人とも落ち着きピロートークなう。
俺に覆い被さり抱き締められながら肩をハムハムと甘噛みするあんこが可愛すぎて死ねる。この思い出だけで俺は後十年は戦えるよ。幸せをありがとう。
「めっちゃ甘えてきてくれて俺は嬉しいよ。よーしよしよし......楽しかった?」
『うん!! ご主人ありがと!! 好き!!』
俺も好きだよ。この世の何よりも。
俺が持っている人間界の金、その全てが尽きるまでこのままあんこと此処に泊まり続けたい。料理を運ばれる時以外はずっと二人で居られるね......ふふふ......
......危ない、幸せすぎてちょっとだけ思考がヤバい方向に向いてしまった気がする。どうしよう......明日外に出たくない......
『あ、あのー......お客様ぁー』
コンコンというノックの音と、申し訳なさそうな声が聞こえてきた。
ボーッとした頭のまま周囲を見渡すと、明るかった部屋はいつの間にか暗くなっている。
「......ハハッ、寝てたみたいですねぇ。他人が居ない生活に慣れすぎてたわ......とりあえず起きなきゃな。はいはーい、少々お待ちをー」
お嬢様とのまぐわいによって乱れた服装を正してから部屋の扉を開けた。
「あ、お休みになられていたんですね。起こしてしまい申し訳ありません。あのー、そろそろお食事の時間が終わってしまいますので......」
「あ、あー......すいません。久しぶりのベッドが気持ちよすぎて寝ちゃってました。飯は食べたいけどまだ間に合います? 大丈夫なら運んでください」
「かしこまりました。それではお食事をお持ち致しますので少々お待ちください」
「ありがとう、あー......そうそう、後で頼みたい事があるんだけど、食器を下げに来る時に此処の料理長を連れてきてもらう事って出来る? それが無理ならこっちから顔を出したいんだけど」
「すみません、私の一存ではお返事をする事ができません。料理人の方にお聞きしておきますのでお待ちください」
「わかった、ありがと」
「では失礼します」
いやー......さすが高級宿。この世界の人間全てがこれくらいの知性を持っていればよかったのに。
さてと、スヤスヤな天使を起こそうか。この宿の飯はあんこも気に入ってた気がするし。
「あんこちゃーん、そろそろご飯だから起きてー。起きないとアレをしちゃうぞー」
ぷにすべなお腹をさすりながら声を掛ける。アレって言った時にピクンッと反応があり、その後すぐに起きたのがなんか悲しい。
「......くぅん......くぁぁぁぁ」
あくび!! 皆さん見ました? あくびしましたよ!! かわいいですね!!
寝惚けながら前足でお顔を擦ってます。目がトローンとしてて色っぽいですね。
あぁ、好き。可愛いあんこを見てれば白米を無限に食えそうだわ。
『起きた......ご飯食べる......抱っこ』
まだ四分の三くらい寝てるような気がするけどちゃんと起きましたねー。偉い偉い。
「なんかデートとは程遠い感じがするけど、これはこれでなんかゲロ甘な新婚旅行みたいな感じがしていいかも。......幼い子どもとの初めての旅行って気もするけど」
優しく撫でながらあんこの覚醒を待つ。このまま二度寝に突入しそうな気配もあるけど、この子なら大丈夫でしょう。きっと。
前回よりも飯が運ばれてくるまで時間が掛かっているが、これはきっと料理長とかに交渉でもしているからなんだろう。
ポヤポヤしているお嬢様を撫で続けること十分ちょい、ようやく飯が運ばれてきた。この頃にはあんこもしっかり目覚めていた。すこーしだけ蕩けているけども。
「お待たせしました、こちらが本日の夕食となります。お食事が済みましたらそちらの魔道具を使ってお呼びください。その時には料理長と一緒にお伺い致します」
「うん、ありがと」
綺麗な礼をして去っていく従業員のお姉さんを見送り、運ばれてきたご飯を食べる。
大きめな白身魚のソテーとそら豆っぽい味のするスープ、サラダとパンに白ワインが本日のメニューだった。
相変わらず美味しい夕食でした。
お魚が好きなあんこも大満足なようで、しっぽをブンブンしながら食べていた。夢中で食べていたあんこは食べ終わってから悲しそうな顔をしたので、俺の分のソテーを半分あげた。
「いいの?」って顔でこちらを見てきたあんこに「いいんだよ」と伝えると、満面の笑みで食べ始めた。
俺はその顔を見れただけでお腹いっぱいになれるよ......ふふふ。
◇◇◇
食べ終わって少しまったりした後に魔道具を使ってお姉さんを呼び出すと、宣言通りに料理長と一緒に部屋にやってきた。
「あっ、やっぱりあの時の兄ちゃんじゃねぇか......グホッ......失礼致しました、お久しぶりです。またお越し頂けて感無量でございます」
お姉さんの恐ろしく早い肘打ち......俺じゃなきゃ見逃しちゃうね。
さて、俺の事を覚えていてくれたおっちゃんが肘打ちを食らってから猫の皮を被った。さすが高級宿のスタッフですねって感想しか出てこない。
「覚えててくれたんだ。よかったよかった、これで少しは頼みやすくなったよ。あと、なんか気持ち悪いからおっちゃんは猫被らなくていいよ」
「いや、でもなぁ......」
チラチラとお姉さんを見るおっちゃん。パワーバランスが読めない。
「お客様がよろしいのでしたら構いませんよ。でも、他のスタッフやお客様の前ではしないでくださいね」
「あぁ、わかってる」
......よし、そっちの話は終わったっぽいな。ではここからは俺のターン。
「料理長さんに依頼したい事がある。貴方の作る料理の味がめっちゃ好みで忘れられなかったから、貴方に俺の手持ちの肉を使ってあの時の肉料理とか他の料理をなるべく沢山作って欲しい。報酬はそちらの言い値で、俺は何泊かするし収納があるから、作るのは時間がある時に少しずつ作ってくれればいい」
「......はっ? まぁ、それくらいなら......」
「いいのか!? よっしゃ!! これでもう王都に思い残す事は無い!! あ、そうだ。確か酒でも飲もうって約束したよな。報酬とかは飲みながら話そうか......あ、お姉さんも一緒に飲もうよ」
強引かもしれないけど、やっぱ無しと言わさない為に混乱しているおっちゃんとお姉さんを巻き込んで酒盛りへ。お姉さんも巻き込んだ方がいい気がしてるから仕方ないよね。
ㅤなんか人間とのコミュニケーションが久しぶりなせいか、丁度いい距離感がわからない......
ラベルを剥がしたあっち産のワインを沢山机に並べながら、混乱したままのお二人を座らせグラスにワインを注いで飲ませた。
ㅤこっちのワインよりかは上等なモンじゃ! とりあえず飲め。話はそれからだ。
「おっ......これは」
「まぁ......」
よし、とりあえずはお口にあったみたい。まま、おかわりはまだありますのでどーぞ。
強引に始まった酒盛りだったが、最終的にはノリノリになったので大成功だろう。
途中でいつまでたっても戻ってこないお姉さんを心配した他のお姉さんが食器を下げてくれたり、その後はそのお姉さんも酒盛りに混ざってきたりと色々あったが、無事に目的であったおっちゃんとの約束も取り付けられました。めでたしめでたし。
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なんかデートっぽくならないので、後日サブタイを変更するかもしれません。ご了承ください。
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