第222話 デートの旅~暴露~
「............いやいやいやいや!! どう見ても貴方様はシアン様ですよね!? なんで誤魔化そうとするんですかぁ!!」
「あ、あ、全然知らない人です」
「......くぅーん」
「えっ......と、あのー」
「あ、あ、全然知らない人です」
「でも......」
「まいねーむいずどあら」
「......えぇぇ」
「わふぅ......」
動揺しながらも俺がシアンだと確信を持っているっぽい謎の女。なんかちょっと呆れてるようだけど俺は悪くない。
なんでこうなっているのか理由がわからず、とりあえずこの状況をどうにかして誤魔化したい俺。こんな状況で冷静でいられる人間はそうそういないはずだ。俺は正常。
何故か呆れたような目線で俺を見ているあんこ。いつも可愛いよ。永遠にこのままでいて欲しい。
とまぁ、闇鍋みたいなカオスっぷりな現状でありんす。誰か助けてください。
「......あ、あの、髪の色と目の色は変わってますけど、シアン様とお犬様で合ってますよね......お願いがあります。私からの依頼という形で、どうかお姉様たちと会って頂けないでしょうか」
......ほう、お犬様と......な。なるほど、この娘はあんこを軽んじるわけでもなく、リスペクトしているのか。よろしい、ならば話だけはちゃんと聞いてあげようじゃないか。
話だけならば。それ以降の事はなるようになれだ。
「......はぁ、わかったよ。とりあえず目的がわからないから、そこら辺を詳しく話してくれ。あと声が大きい」
「ありがとうございます!! あっ、ごめんなさい......」
ㅤテンション上がりすぎて声が大きいよ。注意したばっかりなのに......
あんこたん、ごめんね。知らないところで俺は何かをやらかしていたみたいです......
気持ちを落ち着かたいからちょっとだけ、ちょっとだけでいいからお腹をムニムニさせて。
あぁ......この何とも言えないモチスベ触感......気持ちいい。あんこの体温をダイレクトに味わえるのもまたグッッッド!!
......うっ、ふぅ。
よし、落ち着いた。さぁどこからでもかかってきやがれ!!
「とりあえず自己紹介しようか。君は知ってるみたいだけど俺はシアン、この子はあんこ。よろしくね」
「きゃんっ」
「はぁうっ......やはりシアン様でした。間違ってなくてよかったっ......あ、あの、急に声をお掛けしてしまって申し訳ございません。私はミステリアス商会の従業員のシャーリーと言います」
......何で自己紹介したら悶えたんだろうこの子。なんなんだろうか、怖い......怖いよ。理由のわからない好感度の高さに戦慄。
そんな恐怖はさておき、ちゃんと挨拶出来たあんこちゃん偉可愛い。さすがです。
「おーけー、シャーリーちゃんね。まずはそのミステリアス商会というものから説明してくれるとありがたいんだけど」
「はうっ......ありがとうございます。それでは説明させていただきます」
えーっと......なんで君は今身悶えたのかな? なによ、マジでわけわからなさすぎて怖いよ。
「あのですね、ミステリアス商会とは貴方様に助けてもらい、生きる術も与えていただけたお姉様方が立ち上げた商会でございます」
ふむふむ、なるほどー。えーっと......俺、そんな事したっけ?
「お姉様方の中で戦闘の得意な方々は冒険者としてクランを作成、戦闘の得意でない方々は商会を立ち上げました。今では王都一の冒険者と商会として、私含めて皆様は日々頑張って生きています」
戦う女性は美しいよね。うんうん。
その武器がペンや書類だとしても、剣や魔法だとしても。
「えーっと、俺が王都を離れたのは去年だから......たったの一年足らずで冒険者としても商会としてもトップクラスになったということか。女だから野郎共に舐められたりして大変だっただろうに......凄いじゃん、よく頑張ったんだね」
「......うっ......ううっ......」
「えっ!?」
泣いてしまった。現状がよくわからない中、当たり障りのない事を言っただけなのに......
この娘たちにとって経営はそんなに茨の道だったんだろうか。
いやね、女というだけで舐め腐るバカはどこでもいるのはわかるよ......あっちの世界でも女性の人権問題はようやく改善されてきた程度なのに、色々と遅れてるこっちの世界だとそりゃあもう女性にとっては地獄だろうよ。
まぁあっちはあっちで、よくわからない圧力が増えてきて面倒な部分が多すぎるんだけどね。
政治家達はちょうどいいバランスをもっと考えろや! と思っていました。とりあえずすぐセクハラ認定するのはやめてもらいたい。
......さて、とりあえず泣いているこの娘はどうすればいいんだろうか。
落ち着くまで待てばいいか。HAHAHA。
◇◇◇
はい、三十分ほど目からおつゆを垂れ流していたシャーリーちゃんが落ち着きました。目と鼻が真っ赤です。
小柄な体格、ふわもこで肩までのくりんくりんの茶髪。胸部装甲は控えめ、プリンとしたヒップをしています。
泣いた後なのでお顔は酷いことになってるけど、まぁ可愛いと思える。なんていうかウサギっぽい。
泣きやみかけたシャーリーちゃんのそのちっちゃいお口に人参スティックを押し付けてしまったけど、これはなんかやらなきゃいけない気がしたからだ。
今は人参をカリカリポリポリと齧っているシャーリーちゃんを眺めながら一服しています。あんこは待つのに疲れたのかフードの中でスヤスヤです。
ごめんね、せっかくのデートなのにこんな事になってしまって......
「さて、そろそろ落ち着いたよね。続きを話してもらってもいいかな?」
「はい......お見苦しい所をお見せしてしまい申し訳ありません......」
落ち着いたシャーリーちゃんが話してくれたのは、驚きの事実だった。
・彼女たちのグループの初期メンバーは俺がクソ貴族から助けたあの子たち
・俺と別れた後は畜ペンをシンボルマークにした集団を立ち上げ、同じような目に遭った女の子を集めながら勢力を伸ばした
・初期メンバーはそれはそれはもう、俺の事を現人神かってくらいにまで想ってしまっていて、俺を御神体に据えた宗教を作ろうかとしているレベル
・初期メンバーと組んだ元冒険者の女性二人組があんこの情報を彼女たちに伝えた所、生産組のやる気が爆上がりしてあんこグッズ大量生産
・結果、畜ペンとあんこの知名度と人気が偉い事になった
・一年前までは地獄だったのに、今はとても幸せに暮らせています
・あの後すぐに居なくなってしまったので、どうにかして俺にもう一度会ってお礼を言いたいという一心でここまでやってきた
・勝手にグッズ販売したのは悪いと思っているが、俺の手掛かりが全く無い状態なのでコレを見たら訪ねてきてくれるかなと淡い期待をしていた
......とまぁ要約するとこんな感じの事を、熱く語られた。
このままスルーしたい気持ちもあるけど、それをしてしまったらこの娘が殺されそうなので止めよう。
......でももうお腹いっぱいで今日は行きたくないから、明日にしてもらいたい。大丈夫かな?
「そっかぁ......なるほどー。よくわかったよ......とりあえず俺らは今日こっちに着いたばっかりで疲れてるから、明日君たちのお店に伺おうと思う。それでいいかな?」
「あっ! はい、お疲れの所を長々と引き止めてしまってごめんなさい。面識の無い私にも丁寧に対応してくださってありがとうございます。明日シアン様が来てくださるのを、従業員一同心よりお待ちしております」
熱量が凄い......なんかアレだなぁ......
この娘見てるとあの受付嬢ちゃんを思い出すわぁ......元気さに浄化されそうになってたあの頃が懐かしい。俺と関わったばっかりにあんな事になって申し訳ない。
......あっ、ちょっ......君にはまだ聞きたい事あんねん。帰ろうとしないでっ!!
「ちょっと待ってちょっと待ってお姉さん。ステイ!! よーしいい子だ。あのさ、前に王都に来た時に泊まっていた宿に行きたいんだけど、そこまで案内してくれない? ペット可で王都で一番高級な宿ってのは覚えてるんだけど、名前も場所も忘れちゃっててさ」
「......よ、よろしんですか? わかりました!任せてくださいっ!! シアン様が以前泊まっていた宿は把握しております。それでは僭越ながら私が案内させていただきます。どうぞこちらへ」
えっ......えぇぇぇぇ......
この娘たちの情報網どうなってんだろ......いや、まぁ手間が省けていいんだけどね。
よし、深く考えるのは止めよう。懐かしのあのお宿、楽しみだなぁアハハハハ。
あの料理長のおっさんまだ居るかな? 居たらあの山賊焼き沢山作ってもーらおっと。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます