第221話 デートの旅~困惑~

 あんこは龍さん、俺は明王さんに抱っこされたまま寝たので、起きると真っ黒な腕に包まれていて驚く。


 どうやら骨喰さんたちは戦いの時以外は俺らの事を孫や曾孫のように思っているらしく、何かしたいことあるかと聞いたら甘やかしたいと仰られ、寝る前にあんこは龍さんの鬣で、俺は明王さんに抱っこされて寝る事になったのを思い出した。


 時々生暖かい目線で見られるなーとは思っていたけど、まさかその目線が孫を見守る老夫婦のような目線だとは思ってもみなかった。

 最初期からのお付き合いなので骨喰さんたちにとってあんこと俺は特別可愛いらしく、そんなお願いをしてきたので俺らは大人しく甘やかされた。


 まさかこの歳になって頭を撫でられながら寝るとは思わなかったけど、意外と悪い気はしなかった。


 ......ただ懸念すべき事が一つある。

 それは、覗き魔のモチモチにこのシーンを覗き見されているかもしれないということ。もし見ていたらあのモチモチは絶対に弄ってくる......モチモチがこれを見てない事を切に祈るしかないとは、俺はなんて無力なのだ......



 あ、そうそう。

 寝る前に様子を覗いたウチの子たちは、全員で固まって寝ていて微笑ましかったです。ぐへへへへ......



 あんこの朝食は美味牛のビーフジャーキー、俺はおにぎりと味噌汁、骨喰さんたちには俺の魔力とをすりおろしたのをあげてみた。

 骨喰さんがソレを見た瞬間にガチでカタカタして怖かったので、収納の肥やしとなった。骨喰さんの先っちょをソレに挿入れたら、リンゴを吸収して何か変わるかなと思ったのに......


 食べさせてみたい俺と、絶対に食べたくない骨喰さん。いつかこの不毛ないたちごっこに決着がつく日は来るのだろうか......



「さて、まぁ色々あったけど、そろそろ王都に向かおうか。龍さんと明王さんはさすがにそのサイズでは一緒に王都に入れないからごめんね。ありがとう。外に出た時はまた一緒にお散歩したりしようね」


 龍さんと明王さんには骨喰さんに戻ってもらい、王都に向かって歩き出した。


 ギルドカードを使って中に入るときっと問題になるから、カードを見せずに身分証がない体で中に入るしかない。

 あの頃のように急ぐ訳でもないし、穏やかな気持ちのままで並べるはず。でも、少しくらいは効率の悪さが改善されている事を祈っている。


「あんこいくよー」


「わんっ」


 普通のわんこ程度のスピードで草原を走るあんこを追いかける。あの頃と比べたら最早別の生き物レベルにまで育ったあんこなので、本気で走ったら一瞬で王都に着いてしまうし、衝撃波で周囲は大惨事になってしまう。

 無意識な力のセーブか、はたまた単純に俺とのお散歩を楽しみたいからそのスピードかはわからないけど、可愛い姿を見れて俺は満足でございます。


「あはははっ、まてまてー」


「わんっ」


 浜辺のバカップルみたいな雰囲気を醸し出しながら王都へと向かって進んだ。




 ◇◇◇




 はしゃぎまわってご満悦なあんこお嬢様を抱っこしながら入場待ちの列に並ぶ。相変わらずのアレ具合い。人多すぎぃぃぃ!!


「めっちゃ人居るねー......あんこはこの待ち時間退屈じゃない?」


「くぅーん」


 しっぽをパタパタさせながらほっぺにスリスリしてくるお嬢様。退屈ではないと伝えてくれ、それにプラスして俺にご褒美もくれる懐の深さを見せつけてくれた。


「よーしよしよーし、俺、あんこちゃん、好き」


 幸せで語彙が死んだのは仕方の無いことである。しゃーない。


「まだ時間掛かりそうだしオヤツ食べようか。あんこは新作のしっとりめのジャーキーだよー」


 ひとくちサイズにちぎって可愛いお口に運ぶ、もぐもぐしてるのを眺める、ちぎってお口に......このループを繰り返していたらいつの間にか列は進んでいて俺の番になっていた。


 まだこの子が食べている途中でしょうが!! と言いそうになったけど、なんとか思いとどまって素直に応じる。


 ちょっとした問答と入場料を払っただけで無事に王都へ侵入する事が出来た。

 ガバガバ警備すぎひん? あの頃と変わった点は髪色が青く変わっているのと、目の色を幻影で誤魔化しているってだけなのに......危機意識が足りてなさすぎだろ。


 あっ......それとも俺は本当に指名手配されてないのか!? 関わるなみたいな事を言ったアレが本当に受け入れられていたとかか?


 やるやんけ王都の為政者共! ちょっとだけ見直したぞ!


「ふふふ......煩わしいアレコレを覚悟していたけど穏便に済んでよかった。さ、先ずは宿を取ろうか。あんこはどこがいいとかある?」


『最後に泊まってたあそこがいいっ!』


「おっけー! 俺もあそこはよかったと思う。それで決まりだね。名前は覚えてないから途中で聞き込みしながら行こっか」


『うんっ!』


 俺に抱っこされてルンルンなあんこのお腹をこちょこちょしながら歩く......が、やけにこちらを伺うような視線が飛んでくる。


「なんかめっちゃ見られてる......でも見られてるのは俺じゃなくてあんこなんだよなぁ......ねぇ、なんかあんこは心当たりあったりする?」


「くぅーん......」


「そっかー、無いかー。それならヤツらはあんこのアルティメットな可愛さにヤられてるだけだろうね。うんうん、気にしなくていいや。あんこがこの視線をウザいと思ったらどうにかして追い払うから言ってね」


「わんっ」


「よーしよしよしよー......し............」


「くぅん?」


「......なぁにぃこれぇ......え!? ちょっと待って。本当に何これ......」


「......ひゅーん」


 俺はガチでメダパニり、マイエンジェルから今まで聞いたことのない音が漏れてくる程度には理由のわからない映像が目に飛び込んできた。


『ミステリアス商会』


『大人気!! 謎の生き物グッズ大量入荷!!』


『可愛いわんこグッズも追加販売中!!』


『大量に購入してくださったお客様には、王都ナンバーワンのクランが荷物をお届けに伺います』


『新商品も鋭意製作中! ご期待下さい!』



 ............


 ..................うん、マジで何だこれ。


 どうしてこうなった。何で畜ペンが公式グッズみたいに扱われてるのさ。意味がわからんぞ。


 まさか、去年のアレが誰かに見られてた? アレの目撃者が畜ペンを美化して、義賊的な感じで扱ってこうなったとか?

 ダメだ......全然理解できない。助けて、誰か助けて!! ピノちゃぁぁぁぁん!!


「......あんこグッズは欲しいから後で買いに行こう。でも今はちょっと落ち着きたいから人目の少ない所へ避難しよう、そうしよう」


「くぅん......」


 わけがわからずふしぎなおどりを踊る前に幻影で姿を消して逃亡。急いで向かった路地裏で見つけたよくわからない木の箱の上に座ってようやく落ち着く。

 勝手にグッズを作られて困惑しているはずのあんこが、混乱している俺をぺろぺろして慰めてくれている。優しい、可愛い、大好き。


 ......きっと王都入りしてからの俺が覗かれていたとしたら、今頃あのモチモチは腹を抱えて笑っている事だろう。完全に傍観者の立場だったとしたら俺も今頃は抱腹絶倒して呼吸困難になっている。


「ふぅ......何が起きているんだろうねコレ、あんこはわかる?」


 ふるふると首を横に振る。わかる訳ないよねーHAHAHAHAHA。


「なんでこうなったかはわからないけど、とりあえずあんこに視線が集まっていた理由は理解した。めっちゃ売れてたもんなぁ、あんこのグッズ......」


 思わずセールの目玉商品に群がるおばちゃんの集団を思い出しちゃうくらいに、先程の店のあんこグッズコーナーは大盛況だった。

 グッズは欲しいけどあの中に飛び込んでいかなきゃ入手できない。ほら行け!! と言われても、行くのを躊躇ってしまうくらいには戦場の様相を呈していた。


「よしよーし、あんこは可愛いねー。可愛すぎて何処に行っても人気者だねー。君は俺の誇りだよ......うふふふふ」


 気持ちが落ち着くまでひたすら二人でイチャイチャした。あんこも少し怖かったみたいで、めっちゃ甘えてきてくれた。


 マイエンジェルのおかげで精神が持ち直してくると、思考が全然別方向に向かっていく。

 さっきの独り言があんこに聞こえちゃっていたのか、聞こえていた場合にはそれをあんこがどう思っているのか......それが物凄く気になってくる。


「ね、ねぇあんこちゃん......さ、さっきさ、俺g「あ、あのっ......!!」a言った事......ナニかな?」


 えっ......誰? 誰ですか!? まさかミステリアス商会の店員かなんかか? あんこを狙ったりしてんのか?


 よし、殺そう......!!


「あの......貴方様は、シアン様であっていますか?」


 ..................は!? なに、怖っ。


「あ、あ、全然知らない人です」

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