第220話 デートの旅~出発~

 突発的夏祭りから三日、まだまだ暑い日が続いていますが、秋の香りが強くなってきています。


 あれから毎日わたあめやかき氷をおねだりされるようになったけど、遠慮のなくなった皆のおねだりが嬉しいので毎日幸せです。


 鳥居や櫓、提灯とかは片付けなくていいって言われたのでそのまま残してある。

 俺としてもこの日本の雰囲気に癒されるのでこのままでいいかなってなっている。忙しい日々に疲れきった人間が、田舎に癒しを求める気持ちがよくわかります。



 そんな感じで自分が癒されながらも皆を甘やかしつつ、皆が気分良くなった頃合を見計らって外出許可を取り付ける交渉をしたりしていた。


 そして昨日の午前中に、とうとうあんこと二人きりのデート権を勝ち取った俺は、何の憂いも無くデートに行く為の準備に一日を費やした。


 長女やパパが居なくてもしっかり者の皆がいるから末っ子姉妹のお世話も問題は無い。

 ご飯などはしっかり収納袋に納め、俺が居ない間の注意点も伝えた。隠蔽空間に侵入してきた相手の対応もお任せした。


「じゃあ皆、俺とあんこが留守の間、此処は任せたよ!! 最低でも一日に一回は【千里眼】で見て、その時に対応出来なそうな案件があったら戻ってくるから気楽にね」


『任せて』

『行ってらっしゃい』

『楽しんできてね』

『頑張る』

『うん』

「キュッ!」

「メェェェ!」


「うん、よろしく! 末っ子姉妹も気合い入ってるね、頼んだよ。行ってきます」

「わんっ!」


 ハートフルなお見送りに感動しながら最愛のお嬢様と共に歩き出した。

 俺の後ろをチョコチョコついてくるあんこが可愛い。飛べるんじゃないかってくらい振られているしっぽもキュート!


「さて、あんこはどっか行きたい所はあるのかな? 悪いけどあんこが考えるって言ってたから俺は完全にノープランだから」


『ふふん! 考えたよ! ......でも、あのね、ご主人は嫌かもしれないんだけど......』


 前半部分はちょー可愛くドヤ顔をキメていたあんこが、後半に行くにつれて耳としっぽをペターンとさせていく。

 ......俺の大事なお嬢様が行きたい所を俺が嫌がる理由ないじゃないか!! そんな悲しそうにしないでっっ!!


「......あのさ、あんこがしたい事を嫌がるなんて......そんな事する訳ないじゃないか。ほら......怖がらずに言ってごらん」


『......うん。あのね、あのね......』


 可愛い。好き。


「うん、どうしたいのかな?」


『......おーと? って所にまた行きたいの』


 ......おーと。嘔吐。Auto。


 ............まさか......王都......!?


「んーと、おーとって王都の事かな? 初めてのダンジョンに行く前と後に行ったあそこ?」


『そう。ご主人は嫌な思いしたと思うけど、まだ私とご主人だけの時に街の中を一緒に散歩したりしたのが楽しかったから......また行きたくなったの』


 ......この子が可愛すぎて体毛が全て抜けそう。何これ可愛すぎりゅ......


「あんこが行きたいなら、俺は例えあのクソジジィのダンジョンでも何度でも行くくらいの覚悟はあるよ。それに、あれから一年くらい経ってるし、もうあの事件のほとぼりも冷めてる頃だから大丈夫でしょ。それじゃあ王都に行ってデートしようか」


『いいの? 本当に?』


「いいんだよ! あの頃は俺が人間関係に疲れきっていたのと、あんこに人間の汚い部分をあまり見せたくないって思いがあっただけだし」


『じゃあ行きたいっ!!』


 嬉しさを全面に押し出して俺の胸に飛び込んでくるお嬢様。

 だがしかし!! この優しすぎる大天使に気を使わせてしまっていた事は反省しなくてはならない。俺の個人的な感情如きでこの子が我慢せざるを得なくなるなんて許されん。

 それならば俺はクソくだらない感情如き完全に制御して見せようじゃないか!!


「よーしよしよしよし。俺のせいで我慢させちゃってたんだね......ごめんよ。でもね、これからはもっとワガママ言ってくれていいから我慢しないで」


「くぅん」


 スリスリと体全体を使って甘えてくるお嬢様が尊すぎて死にそう。まだまだ甘えたいお年頃なのにごめんね。

 甘えんぼモードになったあんこを抱っこしたまま骨喰さんを抜いて龍さんを顕現させる。さすがに山道を進むのは面倒だからショートカットさせてもらいます。


 龍さんは状況を把握していたみたいで、「はよ乗れ」って顔でこちらを見ている。龍さんに乗るのは最初の頃やダンジョン以来だったかな? 物凄く久しぶり......うん、あんこは龍さん好きだったね、めっちゃしっぽが振れてる。

 あの頃を思い出したのか、腕の中から抜け出して懐かしの定位置にゴソゴソと入っていってチョコンと顔を出していて可愛い。


「......相変わらず物凄く綺麗だけど、乗るには苦労するスベスベな鱗だね。糸で体を固定して......後は幻影で空と同化させてっ......よし、完成だ。よーーーく見てたら違和感に気付かれるかもしれんけど、危険が身近にある異世界で空を眺めてボーッとしてる人間なんていないよね。たぶん」


「わんわんっ」


 乗ったのにまだ出発せんのかいっ! とでも言ったんだろう。

 あんこが吠えた次の瞬間、龍さんが空に浮かび上がった。あんこの命令も聞くんだね。


「さぁ目指すは......えーと、何とか王国の王都!! 方角は確かあっちだね。じゃああんこ艦長、龍さんに出発の合図を」


「きゃんっ!!」


 お嬢様の号令に頷いた龍さんが動き出す。

 物凄く運転の上手いドライバーさんの運転のように全くGも掛からない動き出し。気付いたら発進していた。

 結構なスピードなのに空気抵抗もそよ風程度にしか感じないとは......龍さんやりよる。ウチのお嬢様も大変ご機嫌になっております。


「はははっ、気持ちいいね! めっちゃ快適だよ。龍さんありがと」


「わふっ」


 俺とあんこのお礼に気を良くしたのか、さっきよりもスピードが上がった気がする。早すぎるので体感でしかわからないけど、きっとスピードが上がっている。メーターが付いていればわかったのに......残念。


 この分なら夜頃には王都に着くかな? 途中で野宿するのも懐かしくていいかな。まぁなるようになるか。




 ◇◇◇




 龍さんのスピード舐めてたわ。


 いやー早すぎる......もうそろそろ夜になるかなーって頃には見た事がある城壁が見える位置にまできていた。


「龍さん龍さん、そろそろスピード落としてゆっくり飛ぼうか。ここから見えているアレが目的地の王都だよ。あの時も思ったけかなり人が居て、今から行くと中に入るのは夜中になるか途中で打ち切りになっちゃう......はず。ちゃんと覚えてないけど。

 だから今日は何回か野営した事のある川のところで休もうか。そんで明日はゆっくりと王都探索をして、あの宿に泊まろう」


「わんっ!」


 あんこも覚えていたみたいで、川って言った時にしっぽの往復ビンタが俺のお腹を襲ってきた。可愛い。

 小動物ってなんでこう心揺さぶる攻撃をしてくるのかしらね......部位で感情が丸分かりになるの好き。


「龍さん龍さん、あそこの川の付近に降ろしてくれるかな? 今日一日お疲れ様だよ」


 龍さんも明王さんも声を出せたらいいのに。なんでその見た目で発声器官無いねん!!

 骨喰さんですらカタカタしてきたりするのにー。念話できるようにアップデートしてくだせぇ。


 ............こんな時こそアレの出番なのかな。いや、むしろこーゆー時こそアレをアレするべきなんじゃないか。うん。


 ゆっくりと高度を落としていく龍さんがブルッと震えた気がした。どーしたのかなー? 高低差で耳がキーンとしたのかなー?


「快適な空の旅をありがとね!! 今日はこの後明王さんも出して一晩過ごそうか。龍さんは飛んでて疲れたかもしれないけど、この後飯の準備してる間あんこと遊んでくれたら嬉しい」


 コクッと頷く龍さんと目をキラッキラさせてソワソワしてるあんこが可愛い。それじゃあ頼んだよ!!



 この日の俺らの夕飯は思い出の焼き魚。龍さんと明王さんはサイズ的に焼き魚は無理なのでトカゲの丸焼き。

 俺の魔力が飯代わりになるので飯を食う必要は無いらしいけど、こういう雰囲気が楽しいらしく喜んで食べてくれた。



 でも普段は気にしないでいいと食後のデザートを出した時に言われた。

 そう......デザートにと出したを見た骨喰さんが、俺にガチトーンでそう伝えてきた。


 ......味覚あるのかな? 龍さんと明王さん、御二方に同期するように骨喰さんにも。


 ガチトーンで怒られたので、仕方なく引っ込めて焼きリンゴを渡したけど、警戒心がバッキバキにあがったらしく食べてくれなかった。


 ※普通の焼きリンゴはその後あんこが美味しくいただきました。

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