第218話 可愛さには勝てない
ゴキ王襲来の翌日、この拠点最大の問題に対して向き合っていた。それは......突然の来客や、招かれざる客の対応についての事。
「んー......これはどうすればいいのかさっぱりわからん。俺らの存在を隠すのは絶対に必要......これを切るなんてとんでもない。だけど、不快な存在に此処を気付かれて外に居座られるのは許せん......」
凄くいい気分の時を邪魔された事に憤っていた。
「俺の気分を頂点から底辺まで急降下させるだけならまだいい......だけどウチの子をそうさせられたのが納得いかない......どうにかしてこの隠蔽力のまま外の様子を把握できるようになんねぇかなぁ......くそっ!! その事について考えたいのに意識が違う方へ流れていく......」
大きな問題が目の前にあるのに深く集中できない。何故ならば、暴力的なまでの可愛さを持つ天使がくるくる回っているからだ。そっちに意識が行ってしまうのは仕方のないことだろう。
この誘惑には絶対に誰も抗えない。抗える人間がいるのならば、そいつは精神が壊れてるに違いない。
一つだけなら苦手な場合もある。だが、俺の目の前で繰り広げられているのは可愛さのバリエーションは三つもあるのだ。
「......この光景を見ていると、俺のような矮小な生物の悩みなんて些事の中の些事に思えてくるわぁ......超絶プリチーなあんこ、プリチーイケメンのピノちゃん、もこもこプリチーなしるこのクルクルショー......たまらん......それに加えてソワソワしながら順番待ちをしている乗れていない子たち......なんだ、ここはただの天国か」
約束通り与えたル〇バ、その上にチョコーンと乗って不規則な動きを楽しんでいる姿を見てしまえば、大抵の悩みなんて吹き飛ぶよね。うん、吹き飛ばない方がおかしい。
あぁ......お嬢様がとても麗しい。しっぽはもうちぎれんばかりに振れている。笑顔が眩しすぎて浄化されそう......あ、懐かしい......クソジジイのダンジョンで教えた感情表現をやってる......氷のハートがキラキラしてて綺麗だなー......
あーサラッサラなあんこの毛が風に揺れていてキレーだなぁ......何故ウチの子たちはこんなにも美しいのでしょうか!!
おぉっと!! お嬢様だけに見蕩れている場合じゃなかった......くそっ!! 何故俺は目が二つしかないのだ......悔しいっ!!
あんこに触発されてピノちゃんも火を浮かべ出したなー。ピノちゃんは音符マークか......ハートでもいいんだよ......あ、出しませんかそうですか。ふふふ......でも俺の目は誤魔化せないぞピノちゃん、ハートマークを出したいくらい喜んでいるのに......ふふふ、素直になればいいのに......
君は気付いていないかもしれないが、いつからかいい気分になるとしっぽをユラユラさせる癖が発現しているよ。その揺らし方は気分が最高潮の時の揺らし方なのだよ......
恥ずかしがって拗ねるから指摘しないけどね......ふふふふふ。
しるこも可愛いなぁ......体をユラユラさせているのはなにかなー。お姉ちゃんたちを見て感情表現のお勉強かなー??
..................ッッ!!!
な、何アレ......やばい......何アレ......!!
ちっちゃくて短いしっぽが暴れ回ってる!!
体に隠れて見えなかったけど、後ろを向いたら丸見え......可愛い!!
僕は君たちに逢うために生まれ、そして転移してきたのかもしれない......いや、その為に転移してきたんだな。好き。
エアコンとウォシュレットを開発した人を死ぬ程尊敬していたけど、これからはそこにル〇バを開発した人を加えるよ......
ありがとう、名も知らない偉大な発明家たちよ......あっちに居た時なら偉大な発明家様の御名前を調べられたのだろうけど......こちらでは無理なので許してほしい。
異世界からですが、どうかこの感謝の気持ちをお受け取りくださいませ......
............うん。祈りは届いたな。きっと発明したお方に届いたでしょう。
さて、可愛いウチの天使たちを見る事に集中しようか、時間は有限だ。初めてのル〇バにはしゃぐ天使たちは今日この時しか見る事が出来ないのだから......
◇◇◇
「あー可愛かった......余は満足じゃ」
結局全員の分+ワラビ用の八個を用意しちゃったけど俺に悔いはない。可愛すぎるからね、仕方ないよね。
ピノちゃんの痴態を見て待ちきれなくなったダイフクの上目遣いおねだりとかレアなモンも見れたし、ツキミちゃんとウイちゃんのダブルおねだりは鼻血モンだったわ。
巨体の所為で乗れなかったワラビが悲しそうにしていたから、強化して潰れなくしたル〇バを一つの脚につき一個あげたらめちゃくちゃ喜んだけど、人の思考では読めない動きをするル〇バに翻弄されて股裂きを食らうワラビには笑った。
ヘカトンくんは無表情を気取っていたけど、ニヤニヤしながら乗ってたのは俺にバレている。でもあの子はいつも牛の世話を頑張ってくれているから、ここは一つ大人の対応をしてあげる優しさを見せようではないか。
という感じで天使たちによるル〇バ試乗会は終わった。あまりの可愛さに成仏しかけたわ。
裏表がなくただひたすら純粋。ただお互いが大好きなだけ......毎日毎日顔色を伺って媚び諂ったり、汚ねぇ腹の探り合いなんて全くしなくていい関係って素晴らしい。
やっぱ人間ってクソだわ。人社会から離れる事ができて本当によかったよ。
隷属化や眷属化みたいにただ従わせるような関係じゃないから言える事。
出来ればこの子たちからは主人とかじゃなくてパパって呼んでほしいところだけど......いつかパパって言ってくれないかなー......特にあんことかあんことかあんことか......
うん、まぁそこらへんは気長に待とうか。
「さぁご飯にしよっか。めっちゃ遊んでたから日が暮れてきてるしね。ほらールン〇から降りなさーい。聞き分けてくれないと月一でしか出してあげないぞ」
「......くぅーん」
「キュゥゥ......」
「メェェェ......」
ものすごく未練がましい目で見られ、悲しそうな声を出されたけど、心をオーガにしてル〇バを回収。
......世の中のパパさんママさんたちはいつもコレに耐えていたのか......よく心折れないな......くっ!! 鬼っ!! 悪魔っ!! パパさんママさんっ!!
「はいはい、また明日出してあげるから今日はもうおしまい。......ね? お願いだから皆と一緒にお家にいこっ。俺の心が耐えきれなくなる前に......」
視線にもしょんぼりしたした姿にも耐えきれなくなった俺は、駄々っ子天使たちを抱きしめてお家まで走った。パパは君たち限定で魅了耐性が無いんだから誘惑しちゃダメなんだよっ!
招かれざる客への対応について考えていたのだが、その事について綺麗さっぱり頭から抜け落ちてしまっていた事に気付いたのは、この日から数日経ってからであった。
◇◆◇
side~狂信者たち~
追跡担当のストーカーと合流した彼女たちは、一心不乱に山の中を進んでいた。
そして遂に、シアンの楽園までの道程の中で一番の難所と思われるエリアにまで到着していた。
「滝、そして崖......ですね」
「あの......その......ご、ごめんなさい......最短ルートしか見ていませんでした......これ、人間に登れるんですか?」
「ねぇ、これが最短ルートであってるのよね? 一度此処で休憩にするから、迂回ルートに進んだ場合の距離や時間を計算してもらえるかな?」
「はい......わかりました。気が逸ってしまって皆さんの事を考えられていませんでした。すみません、急いでやります」
「......ごめんなさい。私も冷静ではなかったようです。今日は此処で一泊しましょう。今のように消耗したままではどうせ此処は越えられません。この子が探知している間に、私たちは食料になりそうな物を探したり洗濯したりしましょう」
「「「はい!」」」
必要最低限の休息しか取らずに突き進んでいた彼女たちだが、無策では進めない状態になり一度冷静になるとドッと疲れが押し寄せてきた。
今の彼女たちの中で大きくなりすぎたシアンへの思いが、シアンの存在を近くに感じた事と重なり、ランナーズハイのような状態になっていた彼女たち。
まだ日のある内からする休憩だったが、ここまでずっと張り詰めていた気がここで緩み、彼女たちは食事をとった後翌日の準備を行う前に全員すぐに眠ってしまった......
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