第217話 畜ペンたずねて三千里
「この山での生活も悪くないわね。煩わしい男のナンパや視線も無くて素晴らしいわ......これで虫さえ出なければ完璧なのに」
「そうよねぇ......あの御方の居場所もわかった事だし、王都から撤退して人の少ない場所へ引越すのも手かもしれないわ。本音を言えばあの御方のお側に住まわせて貰いたいですけど」
「リーダー......私、この山であの御方の事を遠くから眺めながら一生を終えたいです......許可をください」
「ダメよ。あの御方の許可があるならまだしも、迷惑になるような事を許すわけないでしょう!! それをしたいのならあの御方にその事を話して許可を取りなさい」
「......許可を......私が話かけられないのをわかってそう言うなんて......リーダーひどい」
「あなた......私たち全員の大恩人に迷惑行為をしようとしているのを理解してますか? 恩を仇で返すのは許しません。絶対に」
「......じゃあどうすればいいんですか? 話しかけられないんですもの......直接話しなんてしたら私死んでしまいますよ......」
「どうにかしてください。まだまだあの御方の住んでいる所まで距離はあるのですから、その時が来るまでに覚悟を決めればいいのですよ。何も出来ずにストーカーになるのなら私はあなたを殺してでも止めます」
「......うわぁぁぁん」
「遊んでないで早く野営の準備をしてください。ただでさえ険しい山なのですから、そんな事で体力を使わないで。明日へばっていたら許しませんわよ」
「「ごめんなさい......」」
「はい、キリキリ働いてください。今回の任務は来れなかった冒険者組や経営組の思いも背負っているんですからね」
「はい......」
「ごめんなさい」
謎の生き物たちはG襲来の混乱に乗じて集団から脱出して森を抜け、現在はアップダウンの厳しい山道へと移っていた。
その混乱で荷物の大半を失ってしまっていた彼女たちだが、経営組が頑張って入手した三つの収納袋の内の二つを預けられていたおかげでガチの自給自足生活にはならずに済んでいた。
彼女たちは気付いていないが、このクソ広い山の中、適当に進んでいたらシアンの元に辿り着くなんて夢のまた夢。
......なのだが、彼女たちの狂信っぷり、女の勘、リアルラックが上手い具合に作用し、シアン一行が進んでいた道程を偶然ではあるがなぞりながら進めていた。
その後も上へ行くか、下へ行くかの二択......ピノちゃんの選択により川の方へ進む事になったシアンたちだったが、ここでも彼女たち偶然下へ行くという正解を選んだ。
普通は先へ進みたいのなら上へ行くべきなのだが、荷物を失っていた事により水の確保や食料の確保を優先。
ゴールの見えない旅路を行く彼女たちは、急がば回れの精神で遠回りするかもしれない道を選んだ結果、大幅なショートカットに成功していた。
そしてこの十数日後......彼女たちの運命が動き出す。
◇◇◇
「......はっ!? 皆、起きて!!」
「はい、リーダーが何を言いたいのかわかります。私は偵察に出ますので後はよろしくお願いします」
「はぁぁぁぁ......ようやく、ようやくですわね......」
「おうっ、こっちは任せろ!!」
シアンの放ったゴキ掃除機が、このだだっ広い山の中の全てのゴキを掃除し終わらせ、自らの創造主の元へと戻るために移動を開始していた。
ソレが放たれた当初から勘づいてはいたが、縦横無尽に動き回るソレの行動目的がわからないのでスルーし、巻き込まれないよう細心の注意を払いながら山を進んでいた。
普通なら役目を終えればその場で消えるのだが、シアンがル〇バを想定して創り出した所為で、掃除を終わらせたル〇バたちが一斉に放たれた場所に戻っていくという行動を取り始めたのだ。
何を差し置いてでも知りたかったシアンの情報、一度たりとも忘れた事のなかったシアンの魔力。
その内の一つであるシアンの魔力に悶々とする日々を過ごしていたが、ソレが一斉に同じ方向へ向けて動き出したとなれば、それはもう......そういう事なのだろう。
空腹状態で餌を目の前に置かれ、「待て」をさせられていた犬が、「よし」と言われた時のように......彼女たちはシアンの魔力に食い付き、迅速に行動を開始する。
魔力探知があまり得意では無い肉体労働担当の者はよくわかっていなかったが、リーダー及び魔力探知に長けた仲間の異様な興奮を目の前にして、自分たちの悲願がすぐそこまで来ている事を察知。
テキパキと荷物を片付け、一分も掛からずいつでも動きだせるような状態にまで持っていった。
魔力探知に長けたメンバーは、魔力を追って進んでいった斥候役の彼女が進んでいった方向に意識を集中させる。自らの限界ギリギリ......いや、限界以上にまで探知を広げてメンバー全員が最短で進めるルートを探っていく。
脳に多大な負荷が掛かるため多用は出来ず、使用後はしばらく動けなくなってしまう。
だが、この時の為に必死に磨いてきた自分の長所。ここで使わないでいつ使うのか。
シアンでさえ最初の方は脳が破裂するんじゃないかという恐怖と戦っていたソレを、時に毛細血管を破裂させ、鼻血や血涙を流しながらも自分なりに必死にカスタマイズしていった。
そこまでしてようやくモノにした魔力探知は直線距離で凡そ五十キロ、幅二百メートルにまでなっており、人の枠からはみ出した探知能力を得るに至った。
ストーカーに並ぶ狂信者の成せる技なのだろうか。
そしてストーカーの彼女、彼女はとても引っ込み思案であった。助けられた当初は混乱により喋れず、落ち着いてきてからは物語のように王子様が颯爽と助けにきてくれた......そう思い込み、話す事が不可能な状態にまでなってしまった。
コミュ障と吊り橋効果と相手の神格化のハイブリッドで何とも説明のし難い状況に落ち着く。
......その結果、話す事が無理なら遠くからその御姿を眺められればいいとなり、その為の技術を磨きに磨き......ハイスペックストーカー兼凄腕の暗殺者が爆誕した。
だがそれだけでは飽き足らずに、日夜そのストーキング技術を磨き上げていった。
ストーキング技術によりクラン内では斥候、諜報を担当し、暗殺技術はクランに手を出す者や畜ペンを馬鹿にする者に向けて振るわれる事になった。
その磨き上げたストーキング技術もシアンの前では......シアン一家の前では無力になるのだが、この話は今する事では無いだろう。
そして今......ストーキング技術と暗殺技術をフルに用いて、闇ル〇バのストーキングを行っていた。
「早い......それと物凄い魔力......はぁっ......今が追跡中でなければ、今すぐにでも体を慰めたいのに......」
圧倒的肉欲に抗いながらも自らの任務を遂行していく。現れる魔物は徹底的に無視し、商会のメンツが意地と根性で作り上げたスタミナ回復ポーションと魔力回復ポーションを飲みながら山を駆け回る。
全力で追い続けるもル〇バとのスペックの差により引き離され、遂に追うのを断念せざるを得なくなる。だが、その瞳はル〇バの行く先をしっかりと見続け、凡その終着点に当たりを付けた。
「はぁっはぁっ......最低限の役割は果たせましたわ。迷惑かもしれませんが私たちは貴方様にもう一度会いたいのです。私たちの訪問をどうかお許しください......」
その場に跪き、ル〇バの消えていった方向に祈りを捧げてから、彼女は残してきた仲間の元へと帰っていく。
......その前に、茂みに隠れて火照った体を慰め始めた。
そしてこの行動は肉体派のクラメンに背負われた探知の子にはガッツリバレていて、その子は顔を真っ赤にしながら探知を続けていた。
◇◇◇
side~???~
「お、ルンバが戻ってきてる。なんでだろ? まぁ消せばいいか。これからはコレを少しずつ改良していけばいいか」
「くぅん」
「ははは。あんこはコレに乗りたいの? でもね、これに乗ったらあんこでも無事では済まないから我慢して。お家に帰ったら本物を出してあげるからそれまで待っててね」
「きゃんっ」
「シャァァァ」
「メェー」
「はっはっは、ピノちゃんとしるこも乗りたいのね。おっけー!! 三台出すよ。他の子も乗りたがったら乗せてあげるんだよ」
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