第211話 公認マッサージ師とペット

 なんとなくだけどコツを掴んだ俺は、コツを掴んだその日から野生動物に対価を払いながらトライアンドエラーを続ける日々。それは十日間。合計で十七日......半月以上を使ってようやく理想とするモフテクにまで到達した。




 現在は修行十八日目、俺の周囲には......初日にアヘアヘにされてしまったイノシシの一家が転がっている。


 初日と違う点は、そのイノシシ一家がアへ顔を晒していないという事。

 ウリ坊たちは気持ち良さそうな顔をしながらスヤスヤと眠り、父イノシシは自分の順番が来るのを大人しくお座りしながら待っている。


 母イノシシ? 母イノシシなら今、俺に抱っこされながらモフられてるよ。


 うっとりとした表情でされるがままの母イノシシ......父イノシシはその事に嫉妬するでもなく、ただただ早く自分の番になれと思いながら待っている。



 ......そう、俺は修行の集大成として劇的に改善された【指先の魔術師】のビフォーアフターをお披露目していたのだ。


 このスキルは、フェザータッチのように動かすと確定でクリティカルになる。人間が触られてくすぐったいと思える触り方をするとヤバい。多分一子相伝の暗殺拳の使い手みたいな使い方をしても効力が出ると思う。

 ......うん、だけど手のひらをメインにして触り始めればスキルの効力が薄まり、ただ単純に気持ちのいい指先になるという事がわかった。


 そして、その気持ちのいい指先を使いながら揉みほぐすように触っていくと、それはそれはもう超極上のマッサージになるらしい。


 その事に気付いてからは、ひたすら野生動物を捕まえて実験台にし、モミモミサワサワナデナデとスキルの熟練度をあげる日々......


 偶然再会した時にアヘアヘにされた事を思い出し、俺を確認した瞬間に回れ右して一目散に逃げ出したイノシシ一家......それが今現在こうなっている事で、このスキルが完成したという証明となるだろう......



「ふふふふふ......ふははははは......はーっはっはっはっは!! ようやく完成したぞ!! これでもうウチの子たちは俺無しでは生きられない身体になるのだ!!」


 これで大丈夫な筈だ。可愛い可愛いウチの天使たちを心行くまで触れるようになったぞー!!




 ◇◇◇




 天使たちよ! 俺は帰ってきたぞ!


 だけどね......なんかよくわからないんだけど、イノシシ一家が俺に着いてきてるのはなんなんだろうか。お土産にと置いたどんぐりには目もくれず、俺に甘えてきているのだ。


 ......俺としてはイノシシ一家に好かれるつもりはなかったんだけどなぁ。


「着いてくるのはいいけど、君たちはどうしたいの? 俺に保護されたいならそうするけど、テイムはしないよ。そっちはそっちで家族がいるんだし」


「フゴッフゴゴッ」


 なるほど、全然わからん。まぁいいや......この子たちを連れていってピノちゃんかワラビに通訳してもらおう。そうしよう。


 ......あー、御神体の設定を変えなきゃダメだった。このまま一緒にこの中に入っても迷子空間に飛ばされちゃう。


「ちょっとここで大人しく待ってて。ここから先は着いてきても迷うだけだから......いい? わかった?」


「フゴゴッ」


 わかったのかな? それなら大人しくしててね。着いてきちゃったらそこから先は自己責任だよ。


「じゃあちょっと用事を済ませてくるからここで大人しく待ってるんだよ。いいね」


 返事は聞いてもわからないから、言うだけ言ってそのまま拠点へと進んだ。外から見たらどうなってるかわからないけど、きっと俺が消えたように見えたんじゃないかと予想。


 先ずは御神体の設定からだね。父イノシシが一匹、母イノシシが一匹、ウリ坊が合計八匹......っと。数え方は匹でよかったのかな? 頭だったけ? うーん忘れた。わかればいいんだしどっちでもいいや。


 んで、次は......あー、【千里眼】発動。


 ピノちゃんは農園かぁ......楽しそうに土弄りしておる。次行こうか。

 ワラビは......あー、末っ子姉妹におもちゃにされておられる......いいなぁ。妬ましいからといって邪魔をしたら、ウイちゃんとしるこが悲しむよね......諦めよう。


 ......羨ましいぞちくしょう!


 さてお次は......ヘカトンくんは会話はできないから除外して......

 あんこはツキミちゃんとおねんね中、俺も仲間に入れてほしい......ぐすん。


 残るはモチモチか。アイツは......おし、暇そう。押し入れの中で呑気に羽繕いしているな。ではレッツ拉致タイム!


「だーいふーくーくーん。あーそーぼー」


 襖を開けてから声を掛ける。驚いてるね......すまない。

 動きが止まっているダイフクを即座に捕獲し、イノシシ一家の元へと向かう。はいはーい暴れないでねー。ちょーっとお願いがあるだけだからー。


『急に何すんの!!』


 おこです。でもね、ダイフクは可愛いから全く怖くないんですよー。


「お願いしたい事があって......強引でごめんね。ちょっと急いでたから」


『......なにをさせたいの?』


「通訳。ピノちゃんは畑仕事で忙しそうにしてて、ワラビはウイちゃんとしるこのおもちゃだったから。ヘカトンくんは会話出来ないし......で、ダイフクにホワイトウイングのアローがスタンダップしたのよ」


『意味わかんない事言わないで。......わかった。やるよ』


「ごめんなさい。ありがとうございます。終わったらダイフクが好きなウインナーをあげるからよろしくね」


『......うん』


 好きな食べ物に釣られてちょっとだけ機嫌が治ったダイフク。もーね、そういうところが可愛いっ。好き。


『もう!! 早く終わらせるよ!! ニヤニヤしないで!!』


 おっと、ニヤニヤしてたら怒られてしまった。申し訳ございません。

 では急ぐので、現場に着いたらよろしくお願いします。


 プンスコしているダイフクの頭を撫でながら、歩いてイノシシ一家の待つ入口へと向かった。




 ◇◇◇




「フゴッフゴッフゴッ!!」


「「「プキュキュ」」」


 戻ってきた俺を見つけたイノシシたちが俺に向かって走ってきた。ウリ坊たちも短いあんよで一生懸命走ってくる。

 寂しかったよーかな? ふふふ......可愛いなぁ。永遠にウリ坊のままでいてくれたらいいのに。


「おーよしよし。いい子にして待っててくれたみたいでよかったよ。今からこの白いモチモチ......ごめんなさい。このダイフクくんが話をするから、よろしくね」


 モチモチって言ったら手の甲を突っつかれた。真面目に話せよって事でした。

 それからは真面目な話し合いとなり、無事にイノシシ一家の処遇が決まった。いやー、会話出来るって素晴らしい。


 ・イノシシ一家はテイムせずにウチの敷地内で放し飼い

 ・住むのはピノ農園の果樹エリアで家はいらない

 ・たまにどんぐりや野菜が欲しい


 こうなりました。棲み家についてはピノちゃんに許可を取ったので問題はない。

 快諾はしてくれたけど、木や野菜の畑を荒らしたら許さないと付け足された。


 この事についてもイノシシ一家は了承。いつでも猪突猛進な馬鹿かと思っていたけど、このイノシシたちは結構頭がいいみたい。


 夕飯の時に残りの皆にも面通しし、皆がイノシシ一家を好意的に受け入れられた事で、名実共にイノシシ一家はウチのペットとなった。食用にはせずにただの放し飼い。


 ピノ農園にお世話になるので、ピノ農園の雑草取りのお手伝いをする事となった。


 うん、これにて一件落着。俺のモフり修行の所為でこうなった事をチクチク言われたけど、小言を言ってきた子たちもウリ坊の可愛さにやられて大人しくなった。

 ありがとうウリ坊ちゃんたち......この時俺の中で、草むしりに加えてお説教時の緩衝材としての仕事が追加されたのは仕方のない事だろう。うん。仕方ないんだ。




 ◇◇◇




「よーしよしよしよしよし......どう? 俺の進化したマッサージは。これならいつもみたいにイヤイヤしないでしょ」


 トロトロになって甘えてくるあんことツキミちゃんが可愛い。進化したマッサージは皆に大好評。


 ただ......このマッサージを受けると力が抜けてトロトロになってしまうからか、寝る前にしかこのマッサージはさせてくれないのが悲しい。だけどもういいんだ。

 俺のマッサージが罰ゲーム扱いにならないだけで俺は幸せなのだ!!


 凄く警戒していたダイフクやピノちゃんも既にこのマッサージの虜で、される事を嫌がる所か積極的にされたがるようになっている。

 寝る前のマッサージの順番が、いつもダイフクかピノちゃんから始まり、ツキミちゃんとあんこで終わる。すごく微笑ましい。


 このマッサージとブラッシングを続けた事により、また少しだけ皆の毛質などに変化が起こったけど、これはもう些細な事として処理しよう。

 木の洞の中で強い光を放つピノちゃんとか、真っ赤なウイちゃんとか、ドレッドヘアや編み込みになるしることか......俺、何も知らないよ。ははは。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る