第210話 資格を取得する為に

 あんな事があったのに関わらず、懲りずにブラッシングを続けた。日に日に艶やかさがまして妖艶になっていくのを見るのがマイブームとなっている。


 このブラッシングを毎日続けていた影響は素晴らしく、いっつもツンツンしているピノちゃんとモチモチも、ブラッシングの時間になると擦り寄ってきて甘えるようになった。あのピノちゃんとダイフクがだ。遂に俺の時代が来たと言っても過言ではないだろう。


 ただ、ブラシを放り出して手を使おうとすると一目散に逃げだすのはいただけない。普通のマッサージだよーって熱弁しても逃げていくのは悲しい。とても悲しい。


 少しずつ少しずつ......そう、ブラッシングをおねだりしてくるようになった現状のように、じっくりねっとりジワジワと慣れさせていこうと思っている。気の長い作戦だが、これはもう俺の意地だ。絶対に堕としてやるから覚悟してくれ。



 ......その為に何をすべきかはわかっている。

 0か100かでしか行使できないピーキーな性格の【指先の魔術師】を、今後は完璧にこちらの制御下におけるように特訓する事。これが至上命題だと思っている。


 とまぁそういう理由で、これから俺は......


 毎日外に出て野生動物を揉みしだく毎日を送るつもりだ。ウチの子たちで実験できないから仕方ないねん。すまんな、これから野生動物達は俺のスキルの犠牲になるのだ。



 ちゃんと皆には伝えたよ。撫でテク向上&マッサージスキルを完璧に使いこなせるように頑張ってくるって。

 甘えんぼな末っ子二人はこの理由がよくわかっていないらしく、私たちを撫でればいいじゃんと嬉しい事を言ってくれたけど(通訳あり)、長女たちが無垢な末っ子たちを説き伏せちゃったので......俺は一人寂しく武者修行の日々を送ることになった。

 ......特に色が白いヤツらが鬼気迫る勢いで末っ子と話し合いしていた事実は俺の心に深い傷を残しました。


 スキルを完璧に使いこなせるようになったその時には............お披露目の場では最初に君たちを思いっきり揉みしだくから、楽しみに待っててね。




 ◇◇◇




 この日から俺は修羅の如く野山を駆け回り、目に付いた毛のある生き物を片っ端から撫で回していった。



 修行初日、イノシシの家族を発見。

 可愛かったウリ坊に理性が軽く溶けて暴走してしまったのは反省しなければならない。

 結果、一家全員を蕩けさせただけに終わり失敗。イノシシのアヘ顔を見るという、普通に生きていたら絶対に見ることの出来ない光景が見れた。


 そのままアヘっているイノシシ一家を放置し、バイト代として日本産どんぐりを大量に置いて帰宅。ごめんね本当に。



 修行二日目、リスを発見。

 ......リスには見えない大きさだったけど鑑定にはリスと書いてあった。どうみてもカピバラです。リス要素はしっぽだけ......おのれ、げっ歯類め。

 のっけから困惑する事態となってしまったが、ここはファンタジー世界だからと割り切って本来の目的を遂行する為に動いた。


 結果は今回も失敗。まだまだやり始めて二日目......今後の糧とさせてもらいます。カピリス君の尊い犠牲は忘れないよ......

 確かリスもどんぐりを食べていたという記憶から、今回も大量のどんぐりを置いて帰宅。



 修行三日目、この日はオフにして温泉の改装を行った。ウチの子たちは大きさがバラバラの為、一箇所に固まってお湯に浸かれない問題点を解消したかった。

 まずはワラビが頭だけ出して浸かれる深さまで浴槽を削り、後は個々がリラックスして浸かれるように削った岩を設置し、その上に昼ドラウッドで作った簀子を敷いていった。


 頑張ったよ俺......ちょーがんばった。

 このおかげで皆一緒にお湯に浸かれるようになったのでめっちゃ嬉しい。この日、我が家自慢の血の池温泉に家族風呂が出来上がった。いずれサウナルームとかも作りたいと思っている。



 修行四日目、カモシカを発見。心の中でヤツをヤッ〇ルと呼びながら突撃。ワラビと同系統の貴重な動物なので丁重に揉みしだこうと思っていた。

 しかしまぁ暴れた。それはもう全力で。


 抱っこできるサイズじゃないのは面倒とわかった。イノシシは暴れなかったので忘れてたよ......

 仕方ないのでちょっと強引にお座りしてもらってから撫で回して揉みしだいた。


 アヘアヘしてたヤ〇クルだったけど、時折普通に気持ち良さそうな声を出した時があったので、そこを重点的に触らせてもらったが......その後は普通にアヘアヘするだけだった。

 お土産は何にしてあげようかと考えていた隙に逃げられた。生まれたての子鹿よりも子鹿していたのに......必死すぎて可哀想だから追いかけなかった。ごめんね。


 結果は今日も大失敗。だが、次に繋がる部分が見えたのは収穫。多分あの時はスキルが運良く丁度いい感じになったという事だろう。

 一瞬すぎて感覚はわからなかったけど、確かな手応えを感じた一日だった。


 ......この日は帰ってすぐ、ワラビが俺に擦り寄ってきて甘えてきた。

 どうしたのかなワラビきゅん、まさかジェラっちゃったのかなー? それならば撫でてあげよう......と、手をワキワキさせた途端に逃げ出した。悔しい......



 修行五日目、昨日の失敗を活かして撫でやすそうなサイズの生き物に狙いをつけて動くが、丁度いい感じのヤツがなかなか見つかなかった。

 悔しかったので上空を飛んでいた鳥を捕獲して撫で回した。エストックホークという細長いクチバシの刺突特化のタカを捕獲。

 昔の体なら余裕で貫通されるだろうなーと思いながら撫で回した。


 この日、気持ち良さそうな声を出したのは数回だったが、昨日よりも数が増えたことが喜ばしかった。

 それと、この子だけかもしれないが、フェザータッチがとにかくクリティカルヒットしたのは何かのサインだろうか。


 まだ謎の多い撫でスキルさん......少しずつ制御が出来るようになってきてるのかな? お土産としてトカゲ肉をタカさんに渡してから解放。

 次回撫で回す動物にはフェザータッチ多めにして試そうと思います。


 そして帰宅後、ツキミちゃんやダイフクがワラビのように寄ってきてくれるかなと思ったけど、そんな事はなくて少しだけ寂しかった。



 修行六日目、この日は家族サービスデー。

 たくさん遊んでたくさん触れ合った。ここ数日は手入れされていないもふもふを触ってる時間が多かったからか、余計にウチの子の優秀さが際立つ。

 この日の夕飯はピノ農園産の野菜をたっぷり使ったトカゲ肉の蒸ししゃぶ。ピノちゃんの作る野菜が美味しすぎてもう普通の野菜が食べれない......



 修行七日目、この日も獲物を求めて山の中を彷徨う......修行に付き合ってくれる子はいねがぁぁぁぁ!?

 探し回っているが撫でにくそうなサイズの動物しかいない。仕方ないので巣穴に隠れていた野ウサギを捕獲して撫で回した。


 フェザータッチの時だけヤケに甲高い声を出す野ウサギちゃん。どうやらフェザータッチの時だけは、普通に撫でている時と違って確定クリティカルになるっぽい事がわかった。

 ......確かにフェザータッチはゾクゾクするもんね。これは仕方ない。俺もそうだもの。


 触り方や力加減を工夫しながら触っていると、野ウサギが気持ち良さそうな感じになる回数が徐々に増えていった。

 どうやら指だけで触るとクリティカルヒットする確率が高く、掌も同時に使えば気持ち良くなる確率が上がるっぽい。


 スキルの名前が【魔術師】というだけあって、指オンリーだとえげつない効果を発揮すると結論を出した。今後何度か試せば感覚が掴めるかもしれない。


 ......ごめんね野ウサギちゃん。君の犠牲は忘れないよ。さぁ巣穴におかえり......


 巣穴に野ウサギを詰め込み、地球産の人参も詰め込んで帰宅。本日はとても有意義な一日でございました。



 帰宅してからはご飯の準備、今日もピノ農園のお野菜をたくさん使う。

 本日のメニューはミートブルの挽肉とピノちゃんの野菜をたっぷり使ったキーマカレー。

 本当にピノちゃんの野菜は美味しい。俺のお肌も、なんかハリが出てきたような気がする......凄いなぁピノちゃんは。



 それと食事中に気が付いたんだけど、俺が天使たちの公認マッサージ師の資格を得ようと努力している裏で、ウチの子たちも色々と頑張っているらしいのよ。

 皆器用に闇糸を扱えるようになっていて、スプーンを使ってカレーを食べていた。一口食べる毎に得意気な表情を浮かべてて鼻血出そうになる。


 バケツに頭から突っ込んでいたウイちゃんも、糸でアジを持ってきてもしゃもしゃしている姿に思わずウルッときてしまった。


 うん、こんな姿を見せられたら気合いも入るってもんよ。早くマッサージスキルを極めなきゃ......!! 是非ともリラックスしながら俺のモフりを味わってくれ!!


 おっしゃ! 明日からもまた頑張るぞー!!

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