第209話 ブラシ事件とお月見
おーはようございまーす。
はい、二度寝から目覚めた俺です。とても気持ちのいい朝ですね。おー、今日は皆早いねー起きるのがー。よーしよしよしよしよし......
さて、現実から目を背ける為にした二度寝だったが、どうやら俺はまだ現実から目を背けきれていなかったようでございます。
......うーん、どうしまょうかコレ。
変化が一番少ないのがあんことワラビとダイフク。美しくなったのと触ると気持ちいいってだけだ。
見た目は変わっていないけど何か内面が変わったツキミちゃん。
ここまではいい。俺がちょっとツキミちゃんにバブみを覚えて、あんこ、ワラビ、ダイフクの触り心地に心奪われるだけだ。何も問題はない。
だがしかし、ピノちゃん、ウイちゃん、しるこよ......君たち、ただのブラッシングで化学変化でも起こっちゃったの?
とりあえずピノちゃん、光の止めてほしいな。それ、オンオフできますでしょうか。できるならお願いします。
ウイちゃんは......よく見たら色が変わっただけか。体調が悪くなっていないのなら問題視しなくていいや。この色綺麗だし。
......一番の問題はお前だ、しるこさんよ。アフガンハウンドだよね......どう見ても。角が無かったらアフガンハウンドにしか見えないです。
......いや、可愛いよ。可愛いんだけど、違和感が凄い。せめてワンワン鳴いてくれ......その姿でめぇめぇ言われると脳がおかしくなりそう。
......あっ!!
「しろこーちょっとおいでー。しるこはさ、自分の毛を弄るスキルあるでしょ? それを使って昨日までの姿に戻ってくれないかな? その格好も可愛いけど、俺は昨日までの姿の方が好きだなー」
俺の言葉に首を傾げたしるこだったけど、少し考える素振りを見せた後、俺が何をしてほしいのか理解したのかめぇーと鳴いた。
なんということでしょう!
しるこの変化は劇的だった。
サラッサラのストレートヘアが淡く光った次の瞬間、掃除機のコードが巻き戻されるかのように見慣れた羊毛に戻っていく。
呆気に取られる俺を余所に、ものの十秒足らずで元の黒羊に戻ったしるこが、得意気にめぇーと鳴いた。うん、衝撃映像。何これ怖い......俺、このスキルをこの子から貰っちゃったんだよね?
鼻毛を自由自在に操ったりする存在や、体毛を自在に操って攻撃や防御に使う存在、髪の毛で敵を縛ったりする存在は知っている。もちろん現実ではないが。
それらと同じ事が出来るようになってしまったという現実から目を背けたい。アレはフィクションだからこその能力だ。
「なんかダメだ。糸を出したり出来る俺が言うのもなんだけど、このスキルは俺に合わない......頭頂部が焼け野原になった時みたいな緊急時以外では使わないようにしよう。俺に生えてる毛たちが別の生き物に見えちゃう」
体中にある産毛や無駄毛が自由意志を得て自分勝手に動く想像をしてしまう。
「このスキルは、俺じゃなくてこの子たちに与えて欲しかった。この子たちなら有効活用してくれるだろうし......自分の毛じゃなければ気持ち悪いとは思わないのに......人の感情って不思議......」
あわよくばアフロ猪狩みたいにしてみようとか思っていたけど、無理だコレは。うん、封印決定!!
そんな事を考えるよりも、ヒツジに戻ったしるこを堪能しよう。
「あーやっぱりその姿がしっくりくる......可愛いなぁしるこは......」
この後めちゃくちゃ羊毛を触った。
◇◇◇
さて、問題のひとつを解決(目を背けた)した俺は残った特大の問題に目を向ける。
「ねぇピノちゃん......君はなんで発光してるのでしょうか。ピノちゃんの鱗って刺激を与えると光を放つ素材だったの?」
そう、後光を放つピノちゃんに目を向けたのだ。いやもう本当訳わかんない......なんでブラシで擦ったら翌日光るようになってんねん......
『わかんないよ。気持ち良くブラシで体を擦られていただけだもん』
ですよねー!!!
本当になんなんですかこの不思議な現象は。幸いな事にピノライトは、目がヤられるような光量じゃない淡い光な事が救い。
「そっかー......俺のブラッシングスキルが異常な効力を発揮した訳でもないし、変なスキルが生えていた訳でもないから原因は不明。ねぇピノちゃん......その光は消したり出来そう?」
原因が何一つわからない現状では手の施しようがない。ならばその問題の解決は先送りにし、違和感の元をどうにかしようと考えた。
『うーん......わかんない。どうしよう?』
「そっかー......まぁ眩しいって訳じゃないからそのままでもいいんだけど、なんかいつものピノちゃんと違うから違和感が凄いんだよね......あ、そうだ!! 光の事だったらダイフクに頼めば何かわかるかも!! ちょっとあのモチモチを呼んでくるから、ピノちゃんはそこで待ってて」
『う、うん......』
少し元気の無い返事を返したピノちゃん。やっぱり自分の体が光ってる事が悲しいんだね......うぅっ、可哀想......パパがどうにかしてあげるから待っててね。
ブラッシングでモチモチ感の増したモチモチはすぐに見つかった。押入れの座布団の上で優雅に眠っているモチモチ。この一大事に鏡餅っぽい事しやがってコノヤロウ!! 可愛いじゃねぇか!!
そんなお休み中のモチモチを無慈悲に捕獲し、今も発光して苦しんでいるピノちゃんにマッハでデリバリー。
「ちわー。ウーバー〇ーツでーす。こちら、ご注文のモチモチしたモノになりまーす」
『......うん』
やっぱり元気の無いピノちゃん......嘆かわしい......早くこの子には元気になってもらいたい!!
「ダイフク起きてー。ちょっと相談に乗ってほしいんだよー。おーきーてー」
モチモチを揺する。起きない。
モチモチをモチモチする。起きない。
「......起きないとー全力で揉みしだいちゃうぞー(小声)」
「ホーッ!?」
起きた。どうせならモチモチを堪能しようと思っていたのに......ぐぬぬぬ......
落ち着きのなくなったモチモチをなんとか宥め、ピノちゃんの発光現象をどうにかしようとしている事を説明した。
......光魔法のスペシャリストは伊達ではなく、ずっとペカっていて元気の無かったピノちゃんにあっさりと発光の制御を習得させた。
そして、この発光事件の後ピノちゃんには【鱗光】というスキルが生えていた。効果は鱗が光り、光を見た者に安心感を与えるだけだったが、何かウチの子たちの間で大人気になって寝る前に光ってもらっている。
アレだね、常夜灯みたいな。これは俺にも効果があって、寝付くまでの時間が早くなった。スキルってすごいね。
とりあえず今回のブラッシングパンデミックはこれにておしまい。今後はこの原因の究明を頑張る。
あ、でも、サラッサラでフワッフワになって綺麗になった皆を見たいから、今後もブラッシングはやりたいと思っております。
◇◇◇
~一年目秋のある一日~
「......あー、日付けなんてわかんねぇけど、めっちゃ満月。ちょっと俺の知ってる月よりもデカいし、月の模様も違うけど......」
「くぅーん」
「ん? あぁ、俺のいた所ではお月見って文化があってね、月を眺めながらお団子や目玉焼きを使った料理を食べたりするんだよ」
季節的には秋で、月が綺麗。
それならばやる事は一つ。お月見だ。
丁度名前にツキミって入れた子もいる事だし、やらなきゃダメだよね。
「ふふふ......やるか。ご飯はもう食べちゃったから団子だけになるけど、それだけでも雰囲気は出るでしょ。あんこちゃん、悪いんだけど皆を呼んできてくれないかな? その間に俺は用意しておくから」
「わんわんっ」
いいお返事だね。じゃあよろしくお願いします!!
しっぽブンブンで走っていくあんこを見送った。いつまでもおしりを見ていたいけど、用意してなかったら白い目で見られちゃうからね......頑張ろう。
レジャーシートでは色気が無いので御座を取り寄せて地面に広げる。
そして人数分の座布団を敷き、実際には使った事はないけど、お月見団子を乗せている映像や絵で見た事のある木の台を取り寄せて設置。
これを置くだけでもかなり月見っぽくなった。すげー。
そこにピノちゃん特製白玉を積み上げ、皿には各種餡子。俺とピノちゃんには日本酒、あんこたち用にはそれぞれが好きそうな飲み物して準備は万端。
丁度いいタイミングで戻ってきたあんこたちを出迎えて、急遽開催となったお月見を開始した。
「......んー、まぁアレだね。感覚や年齢が違うからだろうけど、まぁ見事に団子に夢中だわ。可愛いから何も問題はないけど......寧ろ俺も、月なんかよりこの子たちを眺めるのに忙しい」
お月見と銘打って開催したこの催しは、諸事情により急遽天使見と名を改る事になったが、皆が楽しそうにしていたので大満足でした。
また来年も皆でお月見しようねー。
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今日は中秋の名月らしいですね。
月が綺麗に見れるかは運次第ですが、皆様も団子片手に月を見て日本の四季を味わってみてはいかがでしょうか。
一日も早くコロナが収束して、またワイワイガヤガヤと何の憂いもなく、イベント事を楽しむ事の出来る日常が戻って来てくれることを祈っております。
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