第208話 蹂躙とブラッシング

 ピノちゃんのバースデーが終わり、一ヶ月程度の時間が経過した。


 この一ヶ月、誕生日がわからなくて、当日に渡すことができなかったピノちゃんへのプレゼント二つ目の作成にずっと掛かりっきりだったが、つい先日ようやく完成したのでピノちゃんに渡すことができた。渡したプレゼントを見た他の子たちにも、同じものが欲しいとおねだりされたので全員分作った。

 季節も夏なのでちょうど良かったから、頑張って作ったよ俺。


 それでまぁ、俺が何を作っていたかというと、夏といえばコレ!! って装備である定番の麦わら帽子でございます。ピノちゃんのサイズで作るのは本当に苦労しましたよ......最初は既製品の麦わら帽子を分解から始まり、どんな構造をしているか理解するまでがとても大変だったよ......


 本当はそこに白Tシャツとオーバーオールの畑仕事スタイル装備を追加したいところだったけど、ピノちゃんの蛇ボディには動きの邪魔にしかならないので断念。

 でもまぁ麦わら帽子だけでも物凄く可愛いし喜んでくれたから俺は満足だ。


 メイドイン俺のクオリティでは多分来年にはボロボロになっているだろうけど、その時はまた来年作るから遠慮なく使い潰してほしい。




 そんな事をしていた今の俺はというと......最近はずっーとちまちました作業をしていたわけで、凝った体を解したいという名目でストレス解消がしたいのです。思いっきり体を動かしたい気分。

 なのでワラビに今日一日付き合ってくれと依頼したら即了承してくれたので、麦わら帽子を被って庭で遊ぶ皆を遠目に眺めながらワラビに騎乗して移動している。


「それじゃあちょっと外に出て狩りをしよう。別に外に出なくてもいいんだけど、どうせなら実戦形式で試したいからよろしくね」


『うん』


 こうして随分ご無沙汰になっていた薙刀モードの骨喰さんを持った俺を乗せたワラビが、隠蔽結界の外に向かって走り出した。




 ◇◇◇




 薙刀装備でワラビに乗って駆ける。


 まぁ俺が何をしたかったのかというと......無双したかっただけです。


 ダンジョンへの転移石を使って草野ダンジョンに転移、その中のフジエリアで時間が経って復活した雑魚モンスターを狩って回る。


 戟や矛とは違って馬上で使う武器ではないけど、そこは骨喰さんクオリティ。


 物凄い斬れ味を誇り、多少扱いをミスっても問題の無い耐久力を持つチート武器。

 扱いをミスるとお小言が飛んでくるのはこの武器の仕様なので諦め、指示に従いながらバッサバッサと切り捨てていく。


 ワラビもワラビで異常な性能。この子の進路に居たモンスターは轢かれて肉片へと変わっていく。ジェット機の最高時速と正面衝突してもきっと無傷だと思う。

 テンションが高く、楽しそうにケーンと鳴きながらワラビが敵に突っ込んでいく。


「ハハハハハッ!! めっちゃ気持ちいいっ!! 快感っ!!」


 俺は俺でテンションが上がりまくっている。慣れないチマチマした作業、ミスをしたら解き、また編んで......の繰り返しで、鬱憤が溜まっていたんでしょう。

 罪もないモンスターだけど、済まない......俺らの糧になってくれ。


 ダンジョン産のモンスターは厳密に言えばモンスターのコピーみたいなもんらしいから、地上の生物とは違ってゲームの敵みたいな感覚で倒せる。楽しい。


「敵の塊がいなくなったね。じゃあ次の狩り場に行こう。バラけてるヤツの処理は任せるよ」


 蹂躙が終わり、残ったモンスターはワラビの電撃に貫かれて絶命。何ヶ所かにバラけてると移動したりが面倒なので、次回ストレス発散に来た時用に、この下の階層はモンスターハウスにするように設定させよう。


「ワラビは楽しめてるかな? もし不完全燃焼なら次の場所のモンスターはワラビだけで殺ってもいいよ」


『いっしょにやる』


 見た目でこの状況を楽しめてるのはわかっているけど、万が一楽しめていなかった場合を考えてそう提案したが、どうやら要らぬ心配だったみたい。


「じゃあ次も頼むね。やりたい事が出来たら言うんだよ」


『おー』


 見た目(目以外)と話し方のギャップが凄い。いつかこの子も流暢に話す時が来るのかしら......




 ◇◇◇




「いやー狩った狩った。俺はもう大満足! ワラビはどう? 満足できた?」


 フジエリアだけでは満足できず、何度か階層を変えて蹂躙して回った。


『たのしかった。またつれてきて』


 ワラビも満足できたみたいでホクホクした顔をしながらそう言ってきた。ありがとうね。


「ならよかったよ。んー......あ、そうだ。今日一日付き合ってくれたお礼に、いつもよりも念入りにブラッシングしてあげよう。ほらおいで」


 これだけスッキリさせてくれたお礼にと、ブラッシングを提案。ワラビの移動速度のおかげでまだ夕方ちょっと前くらい。

 時間はまだまだあるから、じっくりねっとりブラッシングしてあげるからね。


 ツヤッツヤのサラッサラにしてあげるから俺に全てを委ねていなさい。ほーらここがいいんだろ君は......ふふふふふ......





 キラキラしたエフェクトが見えるような仕上がりになったワラビ。うんうん、いいね。イケメンさんになったよ。


「じゃあ帰ろっか。フワッフワになった毛の感触を楽しみたいから帰りも乗せてね」


 もこふわな毛を味わいながら転移して帰宅。ちょっとの間だけだったけど、幸せな時間でございました。



「ただいまー」


 俺の帰りを察知した我が子たちによるお出迎えの後、ワラビの毛並みが変わっているのを発見した天使たち......特に女の子たちが物凄く甘えてきた。


 うん、やれって事ですね。わかります。

 だけど今はこのまま幸せを味わいたいので、もう少しだけ鈍感野郎を続けさせていただきます。



 ......あっはい。お腹空いたんですね。

 ご飯を用意しますので少々お待ちくださいませ。今日はピノ農園で採れた野菜を使ったサラダと、ドロップのカマスっぽい魚とホタテのフライにしようか。

 俺はご飯と味噌汁で定食風にしよう。タルタルも作らなきゃね。




 飯を食べて風呂に入り、さぁ後は寝るだけとなったが、寝る前に全員のブラッシングをさせられた。明日やろうかなって思っていたけど、皆は我慢出来なかったらしい。


 しょうがないなぁ......美人さんにしてあげますからねー。かかってこいやァァ!




 ◇◇◇




 明日やればいいかなぁなんて思わなくてよかった......寝る前にしたブラッシングのおかげでふわふわモコモコサラサラになった天使たちは、それはもう極上の睡眠を俺に提供してくださいました。


 まだまだ底が知れないポテンシャルを持っていましたよ......くそっ!! まだまだ上があったのに、俺はそこそこ程度で満足していたのかっっ!!


 それと技術的な面でもまだまだ俺は成長できるとわかったのだ。これからも精進していかなければならん。


 俺の隣で寝ている、国どころか世界を傾かせかねない美貌になったあんこ。俺はもう傾かされすぎて直立に戻ったよ......うふふふふ。


 ピノちゃんはなんか鱗が薄ら光ってる。この部屋真っ暗なのにふっしぎー。

 モチモチはより一層モチモチに、ツキミちゃんは包容力が増した。俺を抱きしめて羽根でよしよししてくれた時は危うくバブりそうになった。

 ウイちゃんは何故かブラッシングで赤みが増し、しるこは直毛になってヒツジには見えなくなった。元のヒツジに戻るよね?


 てかブラッシングしただけで変わりすぎて怖いよ。......それでも今後続けるんだけど。俺も大概ファンタジーに馴染んだ気がする。


 理解不能な現象に出会っても、はいはいファンタジーファンタジーって流せるようになったコレは成長と言ってもいいのかな? 決して考える事を止めたわけではないよ。うん、人間諦めが肝心。



 変な事を考えるくらいのはここまでにしよう......なんかもうこれ以上考えてはいけない気がする。

 俺は思考する必要なんてない......俺はただこの子たちが望むように成長していけばいいのだ。アハハハハ......ウフフフフ......


 よし、この子たちに埋もれながらもう一度寝よう。ガッツリ寝て全てを忘れよう。俺のブラッシングで起こった変化とかも全て......

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