第203話 解放と情報

 シアン牧場産の牛肉を食べたハイエルフは、それはそれはもうテンションが猛り狂った。

 なんとなーくでだけどベジタリアンかなーと思っていた俺の思い込みは打ち壊された。

 初期の魔力熟成が足りていない牛でアレだもの。しっかり熟成された今の牛を食べさせたら、アイツらはリアクションで死ぬかもしれない。


 幻想は、所詮幻想。エルフもただの人。

 勝手にこうなんじゃないかって思っていただけなのに、ハードルが上がりまくった状態で遭遇して、イメージと現実の差に打ちのめされて勝手に幻滅される......なんかもう今は残念な美形としか思えない。


 いくら森や自然を愛する者だからって、衣食住を完璧にしなければ生活出来ないよね。うん。

 普通の人よりもちょっとだけ環境問題に関心のあるってだけの人です。




 そんな事を考えていた俺はというと、残念ハイエルフと二度目の対談中。対談なんて言ってるけど、これはまぁただの釘刺しと確認。


「いずれこちらを侮ってバカな事をするヤツが出てくるだろうけど、そんなヤツらはキチンとそちらで対処してね。こちらが迷惑を被ったと感じた場合には、後悔する暇すら与えずにハイエルフを全滅させるから......わかった?」


 どんなに優秀な組織だとしても、必ず一定数の愚か者はいるからね。一人が暴走したら種が絶えるから気をつけるんだよ。


「......本当にありがとうございます。貴方様の手は絶対に煩わせません」


「うん、頼むわ。俺の本気よりも怖い事は無いでしょ。頑張ってね」


 ハイエルフ一同は深く頷いて帰っていった。俺の所有物になったと思い込んでいるレンジアちゃんもヤル気に満ち溢れていたが、年一くらいで来ていいからしっかり頼むよと言ったら納得して帰った。ここまでする気は無かったけど、ハイエルフの長や迷い込んだ六人が案外ちゃんとしてそうだったからね。期待を裏切るなよ。


 こちらの期待を裏切ってレンジアちゃん達が本格的に面倒な存在になったのなら、その時はその時。サクッと消しちゃえばいいや。ハハハ......はぁ......



 それと、もう一つ面倒事の気配がある事を教えてくれた。帰り際に、隠蔽空間から出て【テレパシー】が使えるようになったハイエルフから、結構な数の人間が集まってこの山に侵入してきているよって言われた。

 人間如きがあの悪辣ジャングルを抜けられると思っていないけど、こちらも気にかけておこう。お疲れ様でした。




 ◇◇◇




 ハイエルフが帰った後、俺は隠蔽空間の設定変更を行った。

 長い事閉じ込められていたのにそこまで衰弱していなかったのは、迷い込んだ生物が全て同じ空間に居たから。食べられる生物を狩りながら過ごせていたからだってさ。


 他の生き物はそこそこ弱っていて、サバイバルが得意なら余裕で過ごせましただとさ。なので、少しだけ設定を変更。


 ・人型の生き物が彷徨うエリアと野生動物の彷徨うエリアを別ける

 ・休みやすそうな場所にはなるべく辿りつかないように設定

 ・食い物にならなそうな虫等は人型が彷徨うエリアにご案内


 これだけでかなり変わるでしょう。今後迷い込んだヤツが居たら感想でも聞きましょう。うん。



 設定を終わらせてようやく一息つけた俺は、温泉に浸かってセルフ慰労会。昼間っから温泉で飲むお酒さいこー。

 まだ夏になる前なので体を撫でる風が気持ちいい。


 屋敷を設置する位置や温泉設備の充実すべき点などを考えながら、ゆったりとした午後を過ごした。



 長風呂をしすぎて火照りまくった体を冷ます為に、収納しておいた雪を出して全裸ダイブして遊んでいたら、天使たちが全員集合。


 一人で楽しそうな事をしていた事を咎められたけど、一緒にやろうよと誘ったらすぐに機嫌が治った。チョロ可愛い。

 初夏の山の中、雪の塊に飛び込んでいく無邪気な子どもたちが可愛すぎて、ハイエルフの事や山に入ってきた人間の事とかがどうでもよくなった。


 あんなヤツらの事を考えるよりも、目の前で楽しそうにはしゃぐこの子たちの姿を目と脳に焼き付ける方がよっぽど重要だろう。


 ワラビの角に登ってアクロバティックに雪に飛び込むあんこ。

 ダイフクと一緒に雪と一体化していたピノちゃんが、ウイちゃんに居場所を看破されて構え構えされてる姿。

 温泉と雪を行ったり来たりして蕩けているツキミちゃんの姿。

 あんこの要求に困惑しながらもちゃんと付き合うワラビ......皆、可愛すぎてやばい。


 はぁ......眼福眼福。荒んだ心が凪いでいくわぁ......でも見るだけじゃダメだね。しっかり記録にも残さないと。


「皆ァァァ!! ちょっとこっちに目線頂戴。君たちの可愛い姿を永久保存させてください。お願いします!!」


 我慢出来なくなった俺はこの後めちゃくちゃパシャパシャした。ウチの子の可愛さは世界一。好き。




 ◇◇◇




 久しぶりにこれでもかってくらい遊んだ。気付いたら夕方になっていたけど後悔も反省もない。

 それではこれより、本日のメインイベントである憧れの一軒家のお披露目となります。


 本当はもっと早く、昨日の内にやる予定だったけど、ハイエルフが居たから仕方ない。予定なんて立てても、その予定通りに行動できる方が稀なのだ。人生はイレギュラーの連続だから......



 とまぁ浸るのは後でいい。存分に遊んだマイエンジェルたちがウトウトし始めてるから、早いとこ終わらせないと不味い。


「おねむだろうけどもうちょっとだけ我慢してね。これから皆が住むことになるお家を出すから。それでは皆さんご唱和ください......行くぞー!! 1、2、3......ダァーーー」


ㅤファイッ......ファイッ......ファイッ......ファイッ......


 てーてーてーててーててー


 てーてーてーててーててー



 実際にはダーの部分でズズゥン......って音がしたんだけどね。いやー、感慨深い物があるよ。長かった......あぁ......長かったよ。


 あっ......やべっ......忘れてた。


 骨喰さん! 龍さん! 明王さん! 皆出てきて!!


「という訳で、目標だった俺らのお家がようやく完成しました。長い間フラフラしてたし、仮住まいだったけど......今日から此処が俺ら全員のお家だよ!!」


 マイエンジェルたちはそれはもうソワッソワしている。話なんかいいから早く中に入らせろって言ってるんですね。わかります。


 普段はクールを気取るしっかり者たちも意思疎通を忘れてガチの鳴き声を出している。興奮しちゃって可愛いぞ。

 さっきまでウトウトしてたのに、もうそんな面影は無いね。


「お待たせ。じゃあお好きにどうぞ。壊さなければ自由にしていいからね! 気に入った場所があったら言ってねー」


 玄関の戸を開けると、待ってましたとばかりに走っていく。行ってらっしゃい。




 ......ごめん、ワラビは活動出来る範囲が限られるんだわ。縁側の戸を全て開けとくからそっちからよろしく。


 角って弄れない? あぁ、無理なのね。羽とかは弄れるのになんで?


 ......あぁ、わからないならいいよ。狭いかもだけど。この戸の開け方は覚えた? なら好きに使っていいからね。




 ふぅ、ワラビ問題は解決。後は......


「申し訳ございません。やっと憧れのマイホームがお披露目できると思ったら気が逸ってしまったんです。あんこの次に付き合いの長い骨喰さんたちを忘れる事なんてある訳ないじゃないですか」


ㅤ俺の隣でジト目の龍さんと明王さん+カタカタしてる骨喰さん。

 まぁね、うん。ちょっとだけ怒っている骨喰さん一派に謝罪タイムですよ。


 久しぶりにめっちゃカタカタしてて怖い。だけど俺には、骨喰さんの機嫌を治す方法があるのだ!!

 ダメだったら素直に謝ろう。うん。


「龍さんと明王さんは一度戻ってくれるかな? 俺が骨喰さんたちの事を忘れていなかった事を証明するから」


 龍さんと明王さんが中に戻った骨喰さんを持って俺も屋敷の中に入る。


 間取りがわからないのでウロウロするハメになったが、無事に目的の場所に到着。


「立派な床の間でしょ。魔樹製だからいつまでも新品同様。そして、此処に刀掛けを設置します......はい、完成。これでどうかな?」


 ついでにそれっぽい掛け軸や彫り物も設置。時代劇にありそうな空間が出来上がった。


「......あぁよかった。気に入ってくれたんだね。ふふふ......」


 さっきまでの不機嫌ですよオーラが綺麗さっぱり消え去り、余は満足じゃオーラが出ている骨喰さん。

 本当はポンポンしたりすれば絵になるんだろうけど、ウチのじゃじゃ馬刀は布で拭くだけでいいので締まらない。本格的なやり方を求められても出来ないから仕方ないんだけどね。


 龍さんと明王さんも満足したようで、今日は骨喰さんと共にこのまま此処で休むらしい。

 いつもありがとう。これからもよろしく。



 よーし、次はあの子たちのお気に入りスペースを聞いて装飾だ。もうお気に入りの場所見つけたかなー?

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