第202話 ハイエルフ怖い
「お前らはどういう目的があってここに来た?」
......さて、なんとなく勢いで声を掛けてしまったけど、これからどうすればいいんだろうか。
......面倒な相手だったら消そう。俺は何も見ていないし誰にも会っていない。それで行こう。うん。
「っ誰だっ!?」
まぁそうなるよね。でもさ、それは俺も思っている事ですよ。警戒してる事を隠そうともしない態度のエルフの男さんよ。
......んー、ここからどんな態度とテンションでいけばいいかわからない。
......もう諦めてこのままでいいか。話しかけた時のテンションで行こう。悪役みたいになるけど、もう既に何度も悪役みたいな事をしているから別にいいや。
俺と話をしている男、女の前に出て庇うようにしている男、その隣で同じような行動をする女、その他三人の女がいる。
その中でも一番後ろに居る女が一番大事にされていそうな雰囲気。
「もう一度聞くぞ。お前らはどういう目的があってここに来た? お前らが今どんな立場に置かれているか......その事をしっかり考えてから返答しろよ」
ちょっとだけナニカをお漏らししながら問いかける。問答無用で無かった事にしてもいいけど、初めての侵入者だから罠に掛かってみた感想とかを聞いてみたいから大人しく答えてくれ。
「......わ、我らはハイエルフだ。冬にこの近辺で起きた異常な魔力を放ったモノの調査に来たんだ」
あー、そう言えばエルフにも上の存在が居るって前に聞いたか調べたかした記憶があるぞ。
よーく見てみると、マゾ豚エルフとは全くの別物だねぇ。見た目からしてこっちの方が綺麗だし。
............んーと、異常な魔力とはなんぞや?
「あーなるほどなるけど。そんなんだ。んで、異常な魔力の調査とやらの原因はわかったのか?」
「何もわかっていない。それよりも、その件については貴様の方がわかるのではないか? 貴様から尋常ではない魔力が盛れだしているぞ」
おーけーぐー〇る。異常な魔力の原因を教えて。
ウチの子たちじゃないからはっきりとはわからないけど、コイツらが嘘ついてるような感じは今のところしていない。少しだけ警戒度を下げてみよう。
「そんなもん知らんよ。冬? どんな事があったのか教えてくれ。俺が知ってる事ならば話そう」
一瞬迷うような素振りを見せたハイエルフだったが、観念した様子で話し出した。
「あれは......――」
話し始めたハイエルフから聞かされた出来事は、俺のよーーーーく知っている事だった。いや、すいません。はい、わたくしが元凶でございました。
申し訳ございません。
◇◇◇
それから色々と聞いた。そこまで話さなくてもいいと思う事までも。
いやー......世の中には俺の知らない事がまだまだたくさんあるんだね。
種族スキルで【テレパシー】なんてもんがあるとは思いもよらなかった。他の種族にもそのようなスキルはあるらしいけど、特にハイエルフが持っているのはヤバかった。
通信機器の発展していないこの世界で、リアルタイムで情報のやり取りをできるなんて......そりゃあ連戦連勝できる訳ですわ。それも、弱者ではなくハイエルフなんて種族......頭が良くて魔力が高い、そんなヤツらがそんなもん持ってるなら、防衛戦でハイエルフが負ける訳がないのは当たり前ですよね。
他種族にとって幸運だったのは、ハイエルフが亜人族、それも森や自然を愛する引きこもり集団だった事だ。好戦的な種族だった場合は、既にこの世界はハイエルフに牛耳られていたであろう。
......あ、ヤバい。ここの情報が筒抜けになってるかもしれない。それなら今コイツらを始末してももう遅いわな。
......ハイエルフ、根絶やしにするしかないか。
「今回の件は俺が悪かった。しかし、俺はなるべく静かに、そして穏やかに暮らしたいと思っている。今の話を聞く限り、ここの情報はお前達ハイエルフに筒抜けな筈だ。俺と話しながらも出来るだろうし、俺と話していないヤツらがもうこの情報をお前らの主に話しているんだろう?」
お前らの魂胆なんてまるっとするっとお見通しだ!! そしてこちらの情報もまるっとするっとお見通しされている。
「もしお前らが俺の平穏な暮らしを邪魔すると言うのならば、俺はお前らハイエルフ全てを根絶やしにしないといけない。なんとなく察せていると思うだろうけど、俺はお前らが見たあの黒い柱をほぼ無限に撃ち出せる......お前らがどんだけ情報を駆使して策を張り巡らせようとも、俺はただ力でゴリ押していけばいいだけだ」
見た感じ、コイツら六人がどう足掻こうがウチのエース牛一頭にすら勝てない。
散り散りになって逃げたとしても、亜人族の領域を全て滅ぼすまで帰って来んなとブログラムしたクラヤミを放てば終わらせる事ができる。
「だからお前が今誓え。そしてここで得た情報を持つハイエルフに誓わせろ。絶対に他に漏らさない、こちらの縄張りに干渉しないと。今回は俺が悪かったから、これさえ守ってくれれば何も手出しはしない。守ってくれると誓うならば」
元凶が何言ってんだって感じだけど、これだけはどうにもならない。安寧を脅かすのなら根絶やしにしないといけない。その他大勢よりも俺は家族が大事だ。
さぁ、返答は如何に。
「ちょっ、ちょっと待ってくれ。話がデカすぎて俺には返答できない。俺らは下っ端も下っ端でそんな権限は持ってない。それと、この場所では【テレパシー】がここにいる俺らだけにしか使えていない」
......おぉっと。隠蔽空間はスキルを外に通さないのか?
一方通行の隔離空間、迷子機能付きって事になるぞ。それだったらあの御神木は優秀すぎる......
下っ端なのはしゃーない。だが、ここから出したら即バレる。だから、誓えないのならばこの中で朽ちるか、今ここで死ぬかの二択だけだ。
「ならば余計に今ここで誓って貰うしかなくなる。ここから出した瞬間に情報が筒抜けになるんだからね。それと、俺はお前らが本当の事を話しているとも信じていない」
本当の事を話しているという前提で話しているけど、全て信じるなんてピュアッピュアな思考はしていない。喋る事が出来る知的生命体なんて、ほとんどが詐欺師みたいなもんだ。ウチの天使たち以外は。
「我々は本当の事を話しているんだが......どうしたら信用してもらえるだろうか」
「その話が真実かどうかについて、お前らは何を賭けられる? いや、そうだな。一番後ろでお前らに庇われているその女の命を賭けると言うのなら、真実を語っていると思って話を続けよう」
我ながら悪どいと思うけど、大事にされていそうなヤツが一番利用価値があるからね。
まぁ嘘をついてさえいなければ何も問題は無いのよ。
「少し......少し彼女と話をさせてくれ」
「わかった。けど、長くは待たないよ」
五分ほど待つと、決意を固めた顔で女が近付いてきた。うん、じゃあ文字通り命を賭けてもらうね。
「あー......「これからよろしくお願いします。ご主人様!! 私、ハイエルフのハイドレンジアといいます。レンジアとお呼びくださいませ」
話出そうとする俺を置き去りにするかのように、初手から大技をぶち込んできたハイエルフの女性。わけがわからないよ。
命を賭けろとは言ったけど、身柄を寄越せとは言っていないんだよなぁ......
「......おーけーわかった。一旦落ち着こうか。命を賭けろと言ったんだけど、何処をどうしたらそうなるのかな?」
「生殺与奪の権利を持つ者、それはもう自身の全てを委ねる主人ではないですか。ならばこそ、私自身の全てをご主人様になる貴方に捧げるのです」
言われてみれば確かにそうなんだとは思うけどさ、飛躍しすぎでございます。奴隷文化みたいのは知らねぇんだよ!!
「悲壮な決意を無駄にして悪いんだけど、俺は君の身柄が欲しい訳ではない。俺が今から行おうとしていた質疑応答は、嘘をつけば命が無くなる物な訳。それで君達の中で一番大事にされてそうな君に、命を賭けてそれに挑んでもらえば信用できるな......って考えて先程の提案をしたんだよ」
いや、「正気かコイツ?」みたいなツラをしないでもらえるかな。俺からしたら、そっちが「正気かコイツら?」ってなってるんだけど。
カルチャーショックって怖い。ぶっ飛んだ思考回路の女性って怖い。そんな事を思った異世界二年目の初夏なのでしたー。
◇◇◇
その後、若干やけくそ気味になったレンジアちゃん。天秤を用いた質疑応答を怒涛の勢いで全て終わらせ、無事にハイエルフ一行は信用できる者として俺に認識された。
俺は悪くないのにとても居た堪れない気持ちになったので、お詫びの意味を込めてミートブルの焼肉を振る舞いながら色々と話を詰めた。
吹っ切れたレンジアちゃんが怖かったから俺らの住居にご招待はせず、今夜は隠蔽空間で一泊してもらう事にした。
テントは持っていたので、我が拠点名物の血の池温泉を用意。風呂を見てヤバいくらいに喜んだ女性陣を見てちょっとヒいた。
まぁ、ゆっくり休んでくれ。明日になったらもう少しだけ話そう。
あーだめだ。癒しが足りない。一刻も早く天使たちに癒してもらわないと......うふふふふ......
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます