第198話 ダンジョンマスター

 クマの毛皮。頭付き、爪付き、中身が無いだけのクマだった。大きさはさっきのクマよりは小さくて、五メートル程の大きさになっていた。


 完全にお金持ちが敷物とかにしているアレ。


 見た目だけなら鑑定する必要は無いだろうけど、99階層のボスの物だし見るだけ見てみよう。


 ▼イヨマンテの外套

 敷物や外套として使用する事ができる

 装備する事でイヨマンテの威光をその身に宿す事が出来るようになり、家の中に設置すれば魔除けとして効果を発揮する

 外套として使用する際は【送り熊の威光】、敷物として使用する際は【送り熊の庇護】を発動する

【自動調整】が付与されている▼


 威圧する被り物兼威圧する敷物か。なるほどなるほど。



 ............これを装備して下に行こうか。


 じゃあ次に宝箱オープン。


 ......んー、これは短刀?


 ▼拒絶の小刀

 独特な装飾が施された小刀

 魔力を使用しながら地面に刺せば、許可されていないモノを弾く結界を張ることができるようになる

 込めた魔力以上の魔力を持つ相手には効果を発揮しない▼


 おぉっと......あのオカモチから出そうと思っていたモノが出てきたぞぉ。結界か隠蔽かで迷ったんだよね......結界を願わなくて良かった!!

 こんなのがダブっても使い道なかったからよかった。マジで。



 ふふふ......あ、ごめん。食べ終わったのね。トリップしてて申し訳ない。


「じゃあ俺はクマさんに着替えるからちょっとだけ待ってて。もし着替えた後の俺が怖かったら言ってね......すぐに脱ぐから」


 使えそうでも天使たちを怖がらせるようなモンはいらないからね。




 はい、着替えが終わりました。どう見ても返り血塗れなツキノワグマです。

 可愛さ? そんなもんは無い。全体的にボスとして出てきたヤツよりも赤いです。


 山歩きをしていてこんなんが飛び出してきたら、泣き叫んで逃げ出す自信がある。こっちに来る前ならね。


 マイエンジェルたちにビクビクされたら悲しいからどうか皆には威圧が発動しませんように......お願いします。




 全然大丈夫だった。


 中の人が俺だとわかっているからだと思っていたけど別の効果もあったらしい。

 これを着たからって無差別に威圧を垂れ流す訳ではないみたいで一安心。今の俺はモフを身に纏った一つの動物になっている。



 まぁ、アレだね。

 ダイフクを筆頭に皆からモフられています。お嬢様がやけに興奮しているのが印象的で、聞いてみたら俺の匂いが毛皮のどこからでもするからって言われた。それと感触が気持ちいいからと。

 撫でる以外でも隙あらば触られるのはなんでかなぁって思っていたけど、こんな気持ちだったんだねってダイフクが言った。ようこそモフ道へ。




 ............それと、あんこは喜んでるから違うと思うけど、俺が臭いわけじゃないよね? マジでそこ気になる。


 そんな訳で、もみくちゃにされた後は皆に抱きつかれたままおねんねタイムとなりました。



 ......俺もモフみがあった方が皆喜ぶのかなぁ。でもそこはどうにもならないから、たまに毛皮を装着しようと思う。うん。




 ◇◇◇




 少し寝た後はお昼ご飯を食べて出発。

 皆のモチベーションが高い。物凄い高い。


 早く終わらせて帰るって意気込んでいる。ピノちゃんにも俺のクマフォルムを見せたいらしい。絶対気に入るよ!! ってあんこが力説してくる。


 それは嬉しいけど、普段の俺の事もよろしくお願いします。クマに包まれているとあの子のすべすべお肌が味わえないんだもの。


「前に行ったダンジョンでは物凄く面倒なヤツがラスボスとして出てきたから、無理はしちゃダメだからね。じゃあ行くよー!」


 軽く注意をしてから歩き出した。殺す殺さないは別として、悪辣なダンジョンを作ってウチの天使たちに悲しい顔をさせた落とし前はつけさせてもらうから。




 ◇◇◇




 なんか無駄に階段が長かった。階段での移動なんてザッザッザッザッで着くようにしてほしいんだけどなぁ。



 おっと、やっと到着ですか。これは、武家屋敷みたいですねぇ......

 もしかしてここのダンジョンマスターは古い時代のヤツだったりする?


 うーむ......まぁ行ってみればわかるか。


 偉人とかガチ侍とかはやめてください。お願いします。



 それはそれとして、この屋敷......どうにかして持って帰れないかしら......



 あ、門が開いた。行くぞー。



「ちょっとこの屋敷を持って帰れたら持って帰りたいから、なるべくダメージ与えないように戦ってほしい。無理だったら諦めるから」


『わかったよー』

『うん』

『おっけー』

『わかった』

「キュッ」


「いつも通りの可愛いお返事ありがと。わがまま言ってごめんね」


 歩きながら建築をパシャリパシャリ。ここを手に入れる事が叶わずとも、マイハウス建築の時の参考にさせてもらうぜ!!


 転んでもタダでは起きない男。それが俺なのだ。ははははは。



 あ、人が居た。ダンジョンマスターだろうね。あーどもどもー。


「よくここまで来たな不法侵入者共よ。我が屋敷内ではお前らの力は十分の一にまで抑えられる。そして我のレベルは1000で誰よりも強い。ここまで来た事を後悔しながら死ぬがいい!!」


 クソジジイみたいに話が通じないなんて事は無かった。よしよし。

 見た目は三十代の痩せ型のポニーテール男。服装は着流しって言うのかな? そんな感じ。

 なんか凄く香ばしい事を言っててイライラする。どれくらい力が抑えられているのか試していいよね。まず最初は会話をしてみたかったけど、話が通じないヤツの典型みたいな対応されたからね。仕方ないよね。



 じゃあレッツ威圧ターイム。【送り熊の威光】発動!!




 あっ......ちょっと待って。なんで体が勝手に動くのかな?


 ......キャンセルしたいんだけど。

 ちょっ、両手を上げた荒ぶるクマさんのポーズをしてる......キャンセルさせてください。嫌な予感しかしないんですよ!!


 あ、ダメ......恥ずかしい......止めろ.....止めろォォォォォォ!!


 BBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBB......


 Bボタン効いてくれよォォォォォォォ!!



「ガオガオーっ」



 ............ザ・ワー〇ド!! 時よ止まれィ!!


 WRYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYY!!!




 いやぁぁぁぁぁァァァァ......見ないで、あんこちゃん、ツキミちゃん、ウイちゃん、ワラビ......あたいを見ないでっっ!!

 おいコラモチモチてめぇ! 笑うな!!


 あーもうやだ......何この強制黒歴史製造機......馬鹿なの?


 そして時は動き出す......


 よし、死のう。


 あ、死ぬ前にコイツを殺さないと......イッコクモハヤクイマノヲナカッタコトニシナイト......


 クマさんをパージッッ!!

 神体強化を全開......威圧も全開!!



「死ねコラァァァ!! 君がッッ!! 死ぬまでッッ!! 殴るのをッッ!! 止めないッッ!!」


 威圧の効果なのか、ドン引きしたのかわからないけど、相手の時がまだ止まっている今がチャンスだ。


 あっ......聞きたい事があるからまだ殺せないのを忘れてた......悔しいけどボコボコにして記憶を飛ばさないとあかん。




 こいつレベル1000だし、十分の一にまで弱体化してる俺の力程度じゃ死なないよね。


 後五発くらい殴らせてくれたらスッキリすると思うから。お願いしますね。




 ◇◇◇




 五発くらい殴ってようやく少しだけ気分が晴れた。


「......忘れた?」


 コクコクと辛うじて顔を動かすダンジョンマスターくん。


「それで......呆気なく弱体化した俺にボコられた君は何者なのかな?」


「ヒューヒュー......」


 細かく震えながら喘鳴のような音を出すだけのダンジョンマスター。


 話が進まないので顔面に中級ポーションをぶっかける。

 あんこたちは途中で興味が無くなったのか、俺がパージしたクマの着ぐるみの上でウトウトしていて可愛い。さて、喋れるようになる前に鑑定しておくか。


 ▼草野 直人

 転移者・ダンジョンマスター▼


 ジャパニーズ転移者。名前的にはそこまで古い時代という事ではなさそう。


「もう喋れるよね。草野さん、お話しようか」


「はい......」


 こうして転移者との恥辱に塗れた初めての接触は終わった。

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