第197話 弱点?

 ▼セイジインプ

 96階層のシークレットボス▼


 ......シークレットボスってなんやねん。

 玉集めの順番とか玉集めの評価とかで変わるのか?


 それと、セイジってなんだったっけ?


 ......だめだ、全然わからん。香草とかでそんな名前あった気がするけど......コイツは痛めつけたらいい香りがするとか?


 どうでもいいか。とりあえずカスの悲鳴が心地いい。




 ◇◇◇




 しばらく続いた悲鳴が止み、こちらに向かって走ってくる三つの影が見える。

 さぁいつでもこい! 受け止めてやるぜ!


『終わったよー!』

『うるさかった』

『すっきりした』


 あんこが俺の顔面に張り付き、ダイフクは頭の上に止まる。突っ込んでこれないワラビは俺の肩に顎を乗せ、リラックスしながら報告を始めた。



 うるせぇインプはフジの樹海の奥地で秘密の儀式を行う魔法使いだったらしい。

 正しい解除手順以外では何人たりとも干渉する事ができない封印を階段に施していた。

 術者を殺すか玉を回収して封印を解くか以外では、神でもあの階段を突破出来ないというレベルのモノだった。

 侵入者に見つからないように隠蔽を重ねがけして聖域に引きこもっていた......とヤツは供述したらしい。


 人間如きには絶対に見つかる事が無い場所に居たはずなのに、従魔を嗾けられた所為で見つかってしまったのがムカついたんだってさ。その所為で俺への罵倒が止まらなかったそうだ。



 ......コイツを倒せば封印の解除が強引に出来るからシークレットボスだったんだね。

 備えあれば憂いなしってレベルで引きこもっていたはずなのに、あっさり見つかってしまい発狂......ラストは天使たちの怒りを買って自滅と。


 これさ、アホな自分とダンジョンマスターを恨むべきだよね。これ俺悪くないやん。

 絶対に見つからないような隠蔽をしなかったクソの怠慢と、この程度の隠蔽を施しただけで満足してしまったダンジョンマスターの怠慢。


 あとさ、俺が攻略に向かっていたらこんなもんで済んでなかったよ。

 あんピノ球フルパワー版を適当に投げ込んでいたorヴァニラ・〇イスごっこをしていた。

 多分ソレが行われていたら隠れ潜んで余裕ぶっこいたまま消滅していたよ君は。どっちの結末が幸せだったんだろうか。



 さて、このどうしようもない感情はダンジョンマスターに向けるとして......シークレットボスはドロップを落としたらしく、ワラビから変な葉っぱを渡された。


 ▼セイジセージ

 別名賢者の草

 知識が詰まっている

 香辛料にもなる▼


 ......そっかぁ。あのクソは賢者だったんだねぇ。

 バカが知識を得ても、上手に運用できなければ結局はバカのまま。

 余計な知識を得なければもっと長生きできたかもね。ははは。


 とりあえずこれは収納しておこう。


 俺が舐められた事が許せなかったのか、いつにも増して甘えてくる子どもたちが愛おしい。ダイフクよ、お前はもっと普段から素直になりなさい。




 ◇◇◇




 ちょーっと気分が盛り上がって時間を浪費してしまったけど出発。97階層はどんな場所なんだろうかと、ワクワクしながら階段を下りた。



 ............


 ..................


 階段を下りた先、目に飛び込んできたのは大パノラマの禍々しい景色、それと小石だらけの山。


 どうやら俺たちはどこかの山の山頂に降り立ったらしい。そして、振り向くと階段は消えていた。


「あー......懐かしい。そういえばクソジジイのダンジョンでも階段が消失するクソ仕様あったわ......あ」


 足元に石碑らしき物があったのでそれを読んでみる。


『オソレザン』


 現在地の名前だけが書いてあった。霊的な現象だけはやめてね。


「階段は......一番下にあるね。どうせギミックがあったとしても階段を確認しないとわからないよね。

 ワラビは俺らを乗せて階段まで走ってくれない? 道中の敵は俺らでぶち殺すから」


『のって』


 相変わらず淡白な返事だけどソワソワしてるので内心ウキウキなのがわかる。

 天使たちを抱っこしてワラビに乗ると物凄い勢いで走り出し、オソレザンを駆け下りていく。


 なかなかのスリルだったけど、何の問題もなく階段まで一直線。俺は全力で探知しながら、皆が気付かなかった撃ち漏らしを処理。


 五分もかからず敵の殲滅及び下山が完了。この階は何のギミックも無かったらしく、普通の階段がそこにあった。

 拍子抜けしたままそのまま階段を下り、次に進む。



 98階層は宝物庫だった。一面に広がる宝箱の群れ。その数は少なくとも五千はある。


 ダンジョンマスターは延々と続く単純作業+ミミック地獄を演出したかったんだろう。

 だけどね、ウイちゃんによって強化された俺の探知に抜かりはない。ミミックだろうがなんだろうが、俺を騙すなんて不可能だ。


 数ある宝箱の中から正解だと思われる一つを選んで開けると、その宝箱が階段に変化した。


「呆気ないね。行こうか」


 99階層に向かって降りていき、階段を下りた先で一泊する事になった。

 入り口に立て看板があり、そこには『カムイコタン』と書いてあった。




 ◇◇◇




 翌日、準備を終えた俺らがテントから出ると、外は霧が立ち込めていた。面倒なことに魔力だけで行う探知程度だと通用しないクソエリア。


 だけど、エコー含みの探知なら全く問題なく、その厄介な霧自体もあんこの冷気で凍らせられたり、ワラビの雷で蒸発させる事ができた。ツキミちゃんとダイフクにはそもそも通じていない。



 うん、めっちゃヌルゲー。

 フジヤマやクソ天候エリアの方が面倒だった気がしていますよ。


 そして、驚く程アッサリと99階層のボス部屋へと辿り着いた。


 天使たちの導きのおかげですね。


「長かったダンジョンも後は此処のボスと、ダンジョンマスターのみ。だから今日でこのダンジョンをクリアするつもりだよ。皆、準備はいいかな?」


『うん!』


 代表してあんこがお返事をくれた。可愛い。


「じゃあ行くぞーい」


 こうして俺らは99階層のボス部屋に入った。





 ある日、ダンジョンの中、クマさんに出会いました。


 ▼イヨマンテ

 99階層のボス▼


 全長30m⑅はありそうなクマさんがㅤ起き上がりㅤこちらを見ている▽


 神話的なモンが出てくるのかと思ってたんだけどなぁ......

 ツキノワグマみたいな三日月マークが胸元にあるクマさん。

 その三日月は血のように真っ赤に染まり、爪も牙も同じように真っ赤に染まっている。


 ちょー怖い。


 日本で一番人に死を覚悟させる生物の一つであるクマだからだろうか。


 俺に存在している日本人だった部分が、このヤバそうなクマさんを畏れているみたいな、何とも言えない気持ち悪さがある。


「皆は大丈夫? なんか俺はちょっと気分が悪いんだけど」


『大丈夫だよ』

『怖いの? ギュッてする?』

『待ってて、すぐ倒してくるから』


 今までにない反応をした俺を心配してくれたツキミちゃんを抱きしめて心の平穏を取り戻す。


 日本人特攻でも付いてんのかあのクマ......俺の精神耐性を突破するナニかがあるんか......




 あー......それ有り得そう。俺がダンジョンマスターだったら現地人よりも転移、転生、召喚された者を警戒するわ。

 現地人+日本人パーティなら転移者が無効化されたらほぼクソだろう。

 フル日本人パーティならクマさんに出会った直後に三毛猫みたいな名前の事件になる気がする。




 あ、のんびりしてるけどクマさんはどうなったかって?


 俺らの事はどうでもよくなったのか、床と熱いキスをしてるよ。


 今ワラビがヤツの頭に脚を置いてる。ミシミシって音が聞こえてるような気がしてるけど気のせいだね。




 あ、終わった。


 残念なクマさんは、クマの敷物みたいなのと宝箱に変化した。


「ありがとね。なんかすごく情けない所を見せちゃったよ......あはは」


『いいよ。それで何があったの?』


 あんことツキミちゃんを撫でながら説明。正体不明の謎の恐怖を感じただけなんだけど。


 それを聞いた皆は、『怖い物なんてあったの!?』と驚いていた。

 失礼な......ちゃんとあるよ!!


「助かったのは事実だし、何も言えねぇな......ドロップと宝箱を鑑定したらラスボスに挑むからゆっくりしてていいよ。鑑定してる間はコレでも食べて待っててね」


 皆の好物を用意してからドロップと宝箱の鑑定に移る。さて、ラスボス前のボスからはどんなもんが出てくるのかなー。




ㅤ──────────────────────────────


ㅤ私事ではありますが、この度運命の出会いを果たしました。


ㅤスーパーに売っていたあんぱんなんですが、実に理想的なホイップあんぱんでした。休憩の度に食べてしまうくらいです。


ㅤ忙しくなってきたのでたまにお休みする日もあるかもですが、そのあんぱんを食いながら更新頑張ろうと思います。季節の変わり目が一気に来ましたが、体調には十分お気をつけくださいませ。

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