第196話 フジヤマ攻略

 俺も含めて皆のモチベーションが上がった翌日、フジヤマの本格的な攻略に意気揚々と乗り出した俺たちだったけど......


 音速で躓いた。


 既に判明していた下り階段まで直行したんだけど、階段が塞がれていた。


 しかも、俺の本気の魔法でも破壊出来ないオマケつき。有名な破壊不能オブジェクトといつヤツか。

 イラッとした俺が皆に頼み込んで実現した家族全員のフルパワー魔法を組み合わせた元〇玉でも壊せず......


 階段の周囲は世紀末になったのに......健在な蓋と階段。くそがっ!!


 出鼻をくじかれた天使たちのテンションは下がり、フルパワー魔法でも破壊出来なかった現実を突きつけられてへこんだ。


 それはもうショボーンとしている。


 とても悲しそうな顔をしている。




 まだ見ぬダンジョンマスター様......絶対に落とし前をつけさせるので、レベルファイブを発症した某村民並な勢いで首を洗いながら待っていてください。




 落ち込んだ天使たちを身体に纏いながら階段の蓋を調べる。


 何かを嵌めろと主張する穴が六つ空いていたので、このクソ広いフジヤマ周辺から探して来いと言っているようだ。


「何かを探せと言っているらしいから、俺はちょっとソレを探しに行ってくる。皆はここで休んでていいよ......テントを張っておくから」


「くぅーん」


 俺を心配するように鳴くあんこが可愛い。だけど、パパはこれから殺らないといけない事があるの。


「なるべく早く帰ってくるから大人しく待ってて欲しい。帰ってきたらおかえりって言ってね」


「くぅーん......」


 あんこたちがㅤ上目遣いでㅤこちらをみている▽






「............皆で一緒に探しにいこっか」


「わんっ!!」


 パーフェクトコミュニケーション!!


「俺が間違っていたよ......ごめんね......皆、俺に力を貸して」


 再び殺る気を漲らせた天使たちが俺に飛びついてきた。もみくちゃにされたけど悔いはありません。




 ◇◇◇




 なんとなく想像が付いていたからソロ活動をしてサクッと終わらせようとしていたんだけど、やっぱりひとりぼっちは寂しいもんね。


 フジ五湖+フジヤマ内部orフジの樹海にキーアイテムが有ると予想している。



 違ってたらトカゲの時みたいにローラー作戦をする予定です。では、サクサク攻略していきましょう。



 エントリーNo.1:カワグチコ


 全力で探知した結果、湖の底に高度な隠蔽を施された祠らしきモノを発見。

 あんこが新しく発明した水中移動用の氷船に乗り込み、祠を守っているシーマ......人面魚の群れをあんこがサクッと蹴散らし、中に入っていた小さい玉をゲット。



 エントリーNo.2:サイコ


 こちらも中に祠があった。

 またあんこにお願いしようとしたけど、ウイちゃんがキュウキュウ言いながら潜っていってしまった。

 心配してオロオロした俺だったけど、皆が大人しく待ってろと強めに言うから大人しく待機。

 五分くらい待つと湖の色が若干赤くなり、ちっちゃいお口に玉を咥えたウイちゃんが戻ってきた。


 ......中で何があったかは聞かない方が良さそう。



 エントリーNo.3:ヤマナカコ


 到着した直後、ワラビが角を湖に浸けて放電。

 その後何事も無かったかのように湖に潜っていき、玉を咥えて帰ってきた。


 君、陸海空全部行けるんだね。万能すぎ。


 あ、キメラだからか。色んなの食わせたもんね。



 エントリーNo.4:ショウジコ


 張り切っていたツキミちゃんとダイフクだったけど、水の中は無理だったらしくすぐに断念。

 魔法で中のヤツらを全滅させた後、勢いを付けて水に突撃するも羽毛で思うように動けず、速攻で浮かんできた。


 俺が糸で玉を回収した。樹海で頑張って貰うからええねん。適材適所や。



 エントリーNo.5:モトスコ


 ワラビが放電して邪魔なモノを消し、あんこが湖をまるまる凍らせて、俺がその凍った湖を削って祠までの滑り台を作った。

 その後は皆で滑り台を楽しんでから玉を回収。


 ちょっとだけ凍った湖の上で遊んだ。皆すごく楽しそうにしていて目が幸せだった。



 エントリーNo.6:フジの樹海


『絶対に手出ししないで』

『戦闘は一番弱いかもだけど、森の中は得意』


 ツキミちゃんとダイフクが燃えていた。だからお任せする事に。

 探知した結果、この樹海の中に祠があったからお任せ。俺なら全てを消し飛ばしかねないから丸投げするねん。しかたないよね、樹海って森だもの。




 時折ピカッと光ったり、ブラックホールのような物が見えたり、木が倒れたり、ナニカの断末魔が聞こえたりとなかなかのカーニバルっぷりが伺える。


 樹海を眺めていたら心がザワザワしてきたのであんこを撫で回しながら待つ事二十分。


 嘴に石を咥えたツキミちゃんと、足で何やら黒い生き物を掴んだダイフクが戻ってきた。


「おかえりー。大分派手にヤったねー。それで......えーっと......ソレ、何?」


『ただいま!! 頑張って石見つけてきたよ!!』


『何か足止めがどうのこうの言っててうるさかったから連れてきた。知ってる事吐かせる?』


「グヘッ」


 石を俺に渡した後、ものすごい勢いでスリスリしてくるツキミちゃん。えぇ、もちろんこれでもかと撫でましたよ。可愛すぎだ。


 ダイフクは何か変な物を捕まえた経緯を説明したあと放り投げた。糸でグルグル巻きにされていたので顔面から落ちてった。

 石だけじゃなくて、なんか変なのも捕まえてきて偉いねー。よーしよしよし。


 二メートルくらいの高さから落とされた変なのは悶えている。なんかウザそう......もっと勢いを付けてから落とさないとダメだよ。


「よーしよしよしよしよしよしよしよーし。頑張ってたの見てたよ。お疲れ様」


 気持ち良さそうに身をよじるダイフク。モチモチしてて気持ちいい。


「ふぅ......さて、お前は何かな? 足止めってなーに?」


「ギャギャギャギャ! クボッ」


 うん、何言ってるか全然わかんない。でもきっとムカつく事を言ったんだろうね。ワラビが怒った顔をしながら蹴り飛ばした。


「あー、何て言ってたのコイツ。あとワラビはそれ以上やらなくていいから俺の隣にいて通訳してくんない?」


『わかった。てしたにたたかわせるおくびょうものっていってた』


 まだ怒りが収まらないのか、地面をガツガツ掘っているワラビさん。耳元でバチバチしてるの怖いからちょっと落ち着こうねー。


「そっかー。じゃあ通訳よろしくね......あ、何言われても怒らないでね。俺の言葉はわかるー?」


「ギシャ! ギャッ!?」


『しるかっていってる』


 態度が気に食わないワラビが、ヤツの股間スレスレに稲妻を放った。その近辺は俺もヒュンッてするから止めよう。


「ふーん......理解出来てるっぽいね。ねぇねぇ、その臆病者の手下に手も足も出ずに負けて捕虜になった気分はどう? 恥ずかしくないの? この臆病者に今の気持ちを教えてほしいなー」


「ギャギャギャギャ!! ギュッ......」


 学習能力の無いアホがあんこの殺気を受けて黙った。俺の為に怒ってくれて嬉しいよ。


『おくびょうものめおれといったいいちでたたかえっていった......もうころしていい?』


「だーめ。あのね、昔の武将がこんな格言を残していたんだよ。『吐かぬならㅤ吐くまで心へし折ってから生まれてきちゃった事を謝罪させてから殺そうㅤホトトギス(字余り)』って。だから素直に吐くまで色々すればいいんだよ」


『わかった』

『......(コクリ)』

『......(グッ)』


 ワラビ、あんこ、ダイフクが俺の言葉に反応した。ヤツの言動にイライラしてたからね。


「時間をかけてもいいから丁寧にヤルんだよ。俺の為に怒ってくれてありがとう!!」


 動き出した子たちを見送った後、ローチェアを出してそこに座る。

 ツキミちゃんとウイちゃんを俺の膝に乗せて撫で始める。コイツはいつまで生意気な態度を取れるかなー。はっはっは。




 ◇◆◇




 side~謎の生き物たち~


「謎の黒い柱の合同調査に強制参加させられましたが、ウチの狂信者が作戦開始前に独自の調査を行った結果、あの黒い柱はあの御方の物である可能性が高いと言われた時は心躍りましたね」


「ですね。リーダーなんてこちらが心配になるほどテンション上がっていましたもの......恥ずかしながら私もですが」


 各国から集められた選りすぐりの冒険者達。

 その中には、昔シアンが気まぐれで助けた女性たちが作ったクランのメンバーも含まれていた。


 そのクランの中でも狂信者と呼ばれるメンバーが、黒い柱に世界が震撼する中......ただ一人歓喜に包まれていた。


 彼女は魔力感知に優れており、犯人スーツ畜ペンモードの魔力をずっと覚えていて、黒い柱の魔力が畜ペンの魔力と酷似していたからだ。

 その日からの彼女は、正しく狂信者と呼ばれるに相応しい働きだった。


 どんな小さな噂でも目撃証言でもひたすら集め、遂に黒い柱の上がったあの山方面に向かっていったと結論付ける。


「正直この軍は邪魔ですが、防壁を越えるのにこれ程便利な物もありませんからね......ただ、いつ瓦解しても可笑しくありません。生きてもう一度あの御方に会う為に、各自絶対に生き延びなさい」


 クランの中で激しい選抜戦が行われ、それに勝ち残った六人。

 泣きながら自分たちを送り出してくれたクラメン、そして得意分野がサポートな所為で勝ち残れなかった狂信者の為にも......


 四面楚歌、どこを見ても足手まといの集団の中、今日も静かに謎の生き物は牙を研いでいく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る