第193話 喚び出してしまったモノ

 黒い煙が立ち込めるボス部屋。ただのラスボスを目前にしたエリアならではの演出なのか、ただのイレギュラーなのかわからないけど......これ、モックモクすぎやしませんかねぇ!?


 幸い天使たちは隔離空間に避難させてあるので何が起きようとも大丈夫なはず。この煙が別の空間に作用したりしてなければ。




 どうやら演出用のスモーク装置のバグらしく、そのまま五分程経過し......ようやく収まってきた。


 こちらの体調は何も変わっていない事から、コレはただの禍々しいナニカが出てきた風の演出をしただけだったらしい。


「あまりにもモクモクしすぎていたからブラックホールで消そうと思ったけど......これが干渉できない煙だとは思わなかったなぁ......」


 身体に悪そうに思ったから自分の周囲だけでも正常な空間にしようと、ブラックホールさんに吸い込もうと魔法を発動した。だけどこのモクモクは、ブラックホールに吸い込まれなくてびっくりだよ。


 驚かされたけど、煙が晴れてきたからようやくボスとご対面できる。サクッと終われせて次に進みたいんや俺は!!


 ......そーら見えてき......た!?


「............っ!!」


 俺の前に姿を現したのは、禍々しくて毛先が触手っぽくなってるけどちょっとモコモコ要素が強く見られる黒い羊。ソイツの周囲には約一秒ごとにポコポコと小さい黒羊が増えていっている。

 ......見てるだけでSAN値が削られていくようなこの感じ、嫌な予感がすりゅぅぅ。


「うわー......これ、もしかしなくてもアレだよね......クトゥルフ神話をモチーフにしてるよね......

 でもなんか、コイツが出てきたのは偶然じゃないわ......心当たりがあるモノを入れちゃってた気がするもん」


 心当たり一覧。


 ・あの角は羊か山羊の角だった可能性

 ・蹄も羊か山羊の物だった可能性

 ・あのスライムの所為で羊は無限増殖産めよ増やせよ体質に、錬金擂鉢もなんとなくブースト掛けてそう

 ・サヒモチの背骨で幻想生物的な要素や神格とかを取得

 ・俺の魔力とアーペプの鱗の所為で黒色に変化

 ・寝具セットに使われていた素材に多分羊毛があった


 俺が知ってるアレよりもモコモコになったのは、きっと寝具セットの所為。


 ちょっと触手みたいのがあって精神がゴリゴリ削られる感じがするけど......モコモコしていて触ったら気持ちよさそうって雰囲気もある。


 ただ......今までのヤツら同様、ボスとして出てきたヤツは仲間にならないんだよね。ダンジョンのプログラムかなんかなんだろうけど、対話して丸め込めそうとか、仲間に出来そうって雰囲気が無いんだよ。


 フルボッコにして屈服させた後、どうにか対話をしてってのも不可能だろうし......嫌がられたまま触るのはモフラーとしての矜持に反する。


 ......アレを発動させて触るのはいいのかだって? ウチの子になってるんだから問題無い。ヨソの子にやるのがダメなだけだ。


 いや、まぁ話が逸れた。

 さてと、とりあえずコイツどうすればいいのかなぁ......


 鑑定しておくか。


 ▼豊穣の黒羊

 95階層のボス▼


 なるほど......やっぱりアレをモチーフにしてる相手だわ。


 はぁ......とりあえずコイツを倒さないと。こっちの攻撃通るのかなぁ......


 今まで出てきた敵の中でもトップクラスにヤバそうな相手を前にしてボケーッと考え事をしていた訳だけれど、どうやら黒羊は分体らしきモノを増やす事に集中していてくれたおかげか、まだコチラに対して攻撃しようとする素振りを見せていなかった。


 自分でもクトゥルフ(っぽい)羊を前にして油断してんじゃねぇよと思うけど、色々思う所があったんだから仕方ないねん。むしろこんなのを前にして平然と出来ているヤツのほうがおかしい。


 ......はい、言い訳は終わり。とりあえずある程度は冷静になれた。

 増やしている最中は他の事が出来ないと仮定して、こちらから攻める。まずは子羊を減らそうと思います。


 それでは骨喰さん、行きますよ!!


「模擬刀の先制攻撃だべぇ!!!」


 増えていく敵が相手なので、こちらも出し惜しみなく数を減らす為に限界まで数を増やした【空断】を放つ。初めての試みでどれくらいの量が出るかわからなかったけど、百は優に超える斬撃を飛ばした骨喰さんは流石だと思います。


 増えていた黒い子羊は問題無く斬り飛ばせたけれど、本体の黒羊さんだけは骨喰さんの斬撃が当たらなかった。

 見た感じ、斬撃は透過したと思われる。なんだろう、初対面の頃のピノちゃんを思い出す......早くあの子に会いたいなぁ......すべすべのお肌にすりすりしたい。シャァァァァてされたい。



 ......早く終わらせて帰ろう。斬撃が効かないなら次は魔法だ。


「逝っけぇぇぇぇ!!」


 クソジジイを消滅させた時よりも強い黒レーザーを放つ。魔法まで透過したらどうすればいいんだろう。


 黒レーザーが黒羊を子羊ごと飲み込んでいく。さぁどうなる......



 ようやく魔力の奔流が収まり放ったレーザーが消えた。子羊は八割方消え去っていて、後方にあったダンジョンの壁には大穴をあけていた。

 しかし、目標の黒羊だけは健在であり、なんの痛痒も感じていない様子でメェーメェー言いながら佇んでいた。


「あー、やっぱり効かないのね......となるとあのクソジジイと同じタイプか......それとも俺のスーツと同じタイプか......」


 そんじゃまぁ崩魔法を......んー、とりあえずスペ魔法の方でいいか。


 これが効かないならどうせ崩魔法も効かない。このフロアをぐちゃぐちゃにするだけになってしまう。





 放ったスペ魔法が黒羊を包み込んでいく......が、しかしこちらも効果が無いのか、平然としている。え、今何かしたの? って感じでメェーメェー鳴いているのが憎たらしい。


 その後は糸、水、エコーと試して見る物の何一つ効果が無い。


 一方で黒羊も分裂以外の行動をするが、俺に攻撃を当てる事が出来ない。

 子羊も無敵だったら詰んでいたかもしれない。そこは助かった。


 クソジジイに使ったように拘束系アイテムは使えない。首枷ならいけたかもだけど、手枷は無理。



 うーん、困ったなぁ......




 ◇◇◇




 ぽんぽこぽんぽこ産まれてくる黒い子羊を狩りながら、どうすればいいかを考えた。

 途中で一度、龍さんと明王さんに出てきてもらい、俺は隔離空間に戻ってモフりながら頑張って考えた。


 隔離空間内では放置プレイさせられていて退屈だったのか、全員で寄り添って眠っている姿に精神が癒され、寝ている子どもたちを起こさないようにソーッと撫でていたら心身共に完全回復した。


 まぁそれはどうでもいいか。いつもの事だし。


 それで考えて考えて、考え抜いてひり出した対抗策がこちら!!


 1、魔法陣と黒羊を同時に攻撃

 2、反転薬をぶっかけてみる


 こういう無敵系の敵って大体はどっかからエネルギーを持ってきて、そのエネルギー源というかギミックをぶっ壊せば戦えるようになるじゃない?

 だからなんとなく魔法陣を消し飛ばせばいけるかなーって......


 んで、それでも無理なら反転薬をぶっかけ。

 物理魔法共に効果は抜群になり、どんどん減っていく白いナニカになるっぽくない?


 まぁ物理魔法共に効かない相手が薬品をぶっかけられるのかと言われたら、どうなるんでしょうってなるけど。


 どっちも効かなかったらとっとと退散してお家に帰るだけだ。


 俺、この戦いが終わったら......皆といっぱいイチャイチャするんや......




 考えが纏まったので隔離空間から脱出。

 幻想生物同士の対決でなら決着が着くかなとか少し期待していたけど、効果はなかったみたい......そして龍さんと明王さんはちょっとだけ疲れてるみたいだった。俺の代わりに頑張ってくれてありがとう。


 お疲れの龍さんと明王さんには骨喰さんに戻ってもらって、俺は早速黒羊殺しに取り掛かる......と言っても準備はすぐに終わる。


 黒羊と魔法陣を巻き込む大きさ、そして先程の1.5倍の威力にセットした黒レーザーをぶっぱなす。

 これで終わってくれたら楽なんだけど......さぁどうだー?



 ......消えてないですね。どうやら俺はガチでヤバい生物を呼び出してしまったらしい。


 じゃまぁ、最後の賭けになるけど反転薬さんお願い致します。ヤツをどうにかしてください。


 ▼反転の薬液

 この薬液を浴びた者は全てが反転する▼


 シンプルイズベスト。

 ごちゃごちゃした説明がある能力よりも、一行で説明が終わる能力の方がいざと言う時に使い勝手がいいよね。


 それじゃ......よろしくお願いします。


 神の域にまで達した身体能力を使って黒羊に接近、薬品の封を開けて黒羊の口に突っ込んだ。



 ......飲ませられちゃったよ。そしてコイツ、素手なら触れた......


「羊の攻略法は素手での戦闘だったんかよっっ!!」


 取り乱してしまった。薬品と労力の無駄遣い感が半端じゃなかったけど、一応は黒羊との戦いはこれにて終了。


 なんとも言えない感情が押し寄せてくる。


『ヌエェェェェ』


 もう羊とは言えない白いモノが、不思議な鳴き声を出しながら消滅していく様を、心を無にしながらジッと眺めていた。


 ソイツが完全にこの世から消滅するまで......

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