第192話 儀式

 シャキン......シャキン......


 そんな音が聞こえてきたのは半分程進んだ時だった。


「......マジかー」


 上からシャキンシャキン、下からは何かペタンペタンと人が歩いているような音がしてきた。


「どう考えても音の原因はハサミだよなー。ハサミが武器の敵に狭い空間で挟み撃ちにされるのか......」


 心当たりはあの有名なホラーゲームのアレ。ついポロッと出てしまった独り言はばっちり聞かれていたらしく、ちょっとだけ白い目で見られた。

「うわぁ......」って感じの顔と目で俺を見ないでほしい。マジで。


「上から来てるのは、シューティングゲームで出てきたデカいハサミを持ったヤツだと思う。何作目のヤツをモチーフにしているかわからないけど、バラバラにするか頭を撃ち抜けば余裕だよ多分」


 そんな話をしていたら、とうとうその音の発生源とご対面。一本道を上る俺らと降りてくるソイツ......ぶち当たるのは当然の結果だね。


 現れたのは、血で真っ赤に染まったデカいハサミを持ったピエロのようなメイクをしているガキンチョ。ハサミはオリジナルかな?


「3か......これなら倒せるな。1か2だったら不死身かもしれなかったからよかったよ。矢を射ちまくれば殺せると思うから射ちたい子はよろしくねー」


 姿を見てウワァって顔をしたあんこが可愛かった。わかるよその気持ち。ピエロってなんかゾワゾワするよね。


「俺らが上り下りしてるこの場所ってまさか時計塔? いや、別にいいんだけど......こいつらを出した所為でここのダンジョンマスターが転移者若しくは転生者って確定しちゃったなぁ......」


 魔法の矢がビッチリ刺さったシザー〇ンを見下ろしながらダンジョンマスターについて考えていたら、後方から追ってきていたヤツが現れる。


 後ろから俺らに着いてきていたのは、ト〇ベリのコスプレをした血色の悪い男。

 俺らの前に姿を現したソイツは、瞬く間に蜂の巣にされた。

 ウチのお嬢様が『気持ち悪い......』って呟いていた。その言葉は絶対に俺に向けて言わないでね。



 瞬殺されたヤツらはドロップを残して消えていった。ハサミとランタンが残っていたけど、色んな意味で呪われそうだから放置。



 一度倒したら出てくる数が増えた危ないモンスター達を撃ち殺しながら、ダンジョンマスターについて考える。


 十中八九相手は同郷。


 そう、同郷なんだよ......こっちにきてからそんなヤツらがいると感じていたけど、まさかダンジョンマスターをやっているとは思わなかった。


 そして問題のソイツ......こんなダンジョンを作ってるって事は、異世界を受け入れて楽しんでいるって事だよね。きっと相容れない。

 悪辣で殺意マシマシなダンジョンになってるわけだし、中の人が碌でもないヤツってのはまぁわかる。



 ......うん、やっぱりソイツとは仲良くはなれないわ。というか俺がなる気ない。


 それでも、こっちに来た時や来てからの話とか......それくらいの世間話くらいはしてみたいと思っている。


 それもできずに戦いに発展しちゃったら......そん時はそん時でいいや。

 ローパーをボスに設置しちゃう頭ヤバい野郎が相手だし、罪悪感とか今更湧かない。


「同郷の可能性が思い浮かんでも、その相手と仲良くなりたいとか思わなかったなぁ......ちょっと会話してみて相手がゴミなら消滅させよう。もし普通の相手だったらそのまま帰ろう」



 そう結論を出した俺らはそのままダンジョンを進んでいく。

 大きなハサミを持った男と女、デッカイ斧やハンマーを持った男、農薬散布するような装備をしたヤツとか色々出てきたけど、なんとか95階層まで無事に辿り着けた。



 その道中、あんこたちから質問がちょろちょろ飛んできた。


『この敵知ってる。ここのボスはご主人の知り合い?』


 こんな質問や似ている質問が寄せられた。


「知り合いならもっとすんなりダンジョンを進めているはずだよ......多分、出身が同じなのかなぁって思ってる」


『ふぅん......じゃあ出身が同じだったらソイツと仲良くしたいの?』


 仲良くしたいのって聞かれても......俺にそんな気は無い。俺は君たちが居てくれればいいのよ。


「どういう経緯でここに来て、どうしてダンジョンマスターなんかをやっているのか聞きたいくらいかなぁ......こっちに来たばっかりの時に知り合っていたら別の選択肢があったかもしれないけど」


『......それならいいの』


 そう言って抱きついてきてくれた。可愛い。何か思うところがあったらしい。


「可愛いなぁ。俺はどこにもいかないから安心してねー」


 大好きだよー。


「よーしよしよしよしよし」


 庭園みたいなステージの94階層を踏破した俺らは、階段を下りた先のボス部屋前で存分に皆をもふもふした。




 ◇◇◇




 夕飯を食べ終えた俺たちはそこで一泊、ずっとイチャイチャして過ごした。


 いきなり同郷の同種族が現れた可能性が高まり、俺が自分たちよりもソイツに熱を上げるかもしれないと思った事を話してくれた。

 全くもう......そんな事は天地がひっくり返っても有り得ないのに。だけど、俺がこの子たちにとても好かれているのが改めてわかってとても嬉しかった。


 あのモチモチ野郎でさえ昨日からずっとべったりになった。普段からそれでもいいんだよと声を大にして言いたい......伝えたら突っつかれたけど。

 離れたくなさそうだから、このフル装備のまま今日は進むとしましょうか。


「こんな穴ぐらの中でイチャイチャするよりも、早くお家に帰って......家族全員でイチャイチャする方がいいよね。だから後6階層、ちゃちゃっと終わらせて帰ろう」


 今ここにいないもう一人のツンデレと、可愛さがちょっと足りない素直な子を思い出しながら皆にそう告げる。


『『『おー』』』

「キュゥゥゥ」

『はやくかえる』


「うん、いい子いい子。さぁ出発」


 いい感じに気合いの入った皆と一緒に95階層のボス部屋の扉を開けた。





 ............えー、ボスがいません。


 中は魔法陣が一つとなんか変な紙が一枚。それ以外には階段も隠し部屋も無い。


 ......怪しいけどこの紙を読むしか無さそう。


 えーっと......


《供物を


 触媒を


 魔力を


 器を捧げよ


 捧げた物の質でこの階の守護者が変わる


 こちらが定めた値以下の難易度でクリアした場合、異物として弾かれ、再びこの地を踏む事を許さない》


 なんか儀式して、呼び出したモノを倒せ......と。雑魚を呼んだらダンジョンからポイってされて入れなくなる......でいいのか?


「めんどくせぇ......」


 要らないモノを詰め合わせちゃえばいいか。収納内の扱いに困る物をこの機会に一斉在庫処分セールしちゃおうか。


「ちょーっと作業しなきゃいけなくなったから、ワラビを枕にでもして寝ながら待ってて。ごめんね、君たちから離れたくないけどやらなきゃ進めないから」


 べったりな子どもたちに泣く泣く離れてもらい、訳アリ商品を出していく。こうさ、ボーナスタイムの時に限って強制イベントになるのやめてほしい。死ね。


「変な杖は確定として......供物だって言う角も確定......蹄と擂鉢も入れちゃおう......スライムも......後は......」




 悩みに悩んだ結果、儀式に使う物が決定した。


 ラインナップはこちら。


 ・サヒモチの背骨

 大太刀や片刃の長刀に加工すれば凄まじい斬れ味の名刀になるって言う幻想生物の骨。俺には骨喰さんがあるからいらない。


 ・アーペプの鱗

 夜の闇を象徴するような鱗で加工の難易度が異常に高いらしく使い道が無い。綺麗だから取っておいたけど今ぶち込もうと思う


 ・夢幻の寝具セット

 お伽噺の世界の寝具とも言われる夢幻シリーズの寝具が絶対に魘される事の無い快適な睡眠をあなたに......

 って言うコレ、なんか怖いからこれもぶち込もうと思う。あの東屋を体験した後だと、コレで寝たら永眠しそうだし。それとなんとなくコレは器として使えそうな気がした。


 他にもあったけど、役に立ちそうな物は残してある。後はここで入手した物を。


 ・錬金擂鉢

 ・呪物の角

 ・文字化けの杖

 ・文字化けの蹄

 ・増殖する擬似生命


 これだけ入れれば難易度が低いのは出てこないでしょ。これでお外に出された場合は、外からこのダンジョンに向かってクラヤミさんをフルパワーでぶち込むつもりだ。



「......よくわからんから適当にコレらを配置して......これでいいかな? 後は魔力を億くらい......そんで、あんこたちを隔離して......と。


 よし......あれ、何も起きない......


 んー、あ!? なんか言えばいいのかなぁ。呪文的なモノ......コレでいいか......タッカラプトポッポ〇ンガプピリットパロ」




 言い終わった直後、95階層の部屋の中が魔法陣から湧き出た真っ黒な煙に包まれた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る