第191話 揺さぶる(物理)
「あぁー......内臓がぴょんぴょんするんじゃぁ......」
ワラビから降りて蹲る。
天津ライスさんが使う技みたいな名前の乗り物に乗った後のような気分。
「ワラビさんお疲れ様です。さっきの戦いさ、俺を乗せていない方がよくなかった?」
『たのしかった。のってたほうがちからでる』
嘘だッ!!
お前そんなスキル持ってなかっただろ。
「乗ってる方は揺れとの戦いだったんだけどなぁ......まぁ【騎乗】のスキルが生えてきたから次からは乗りやすくなったと思うけど。あまりアクロバティックなのはやめてね」
『またのって』
「ちゃんと返事してほしいなぁ......まぁ散歩とかなら喜んで。激しくなりそうな時は要相談な」
『わかった』
本当にわかったのか?
まぁいいや。さて、俺とそんな話をしながらもぴょんぴょん跳ねているワラビ。俺がイマイチコイツの言う事を信じられなかった理由がわかったと思う。
あんこがウイちゃんを上に乗せながらロデオマシーンを楽しんでいる。落ちないか心配だったけどしっかりと氷で固定しているので問題は無さそう。
だけどね、これがまたものっすごい激しいの。さっきのバトル中にソレだったら俺キラキラしていたよ。
あ、ありがとうございます。
未だに気持ち悪さが抜けていない俺の前に、ローパーのドロップと宝箱を置いたツキミちゃんとダイフクの優しさが嬉しい。
じゃあ見ていこうか。
まずはドロップの......ボトル?
▼アビスローション
アビスローパーの触手から出る分泌液
滑りを良くする
麻酔効果などがある▼
うーん、麻酔効果などねぇ......うん、これは収納に死蔵決定。
はい次いくよー。
宝箱オープ......ン......んんん!?
えぇ......何これぇ......真っ黒なスライムが箱の中でグニョグニョ蠢いてる。気持ち悪い。
▼増殖する擬似生命
ある狂った錬金術師の最高傑作
生きていると言えば生きていて、放っておけば無限に増えていく▼
......これ、世に出したらダメなヤツじゃね?
解説もなんかよくわからない事言ってるし......見なかった事にしようか。なんか背筋がゾワゾワしてきた......虫タイプのモノが無限増殖しなくてよかった。
......とりあえず先に進みましょう。よくわからん粘液がそこかしこにある場所に長居なんてしたくない。
「ツキミちゃんとダイフクは俺の肩に。ワラビはそのままあんことウイちゃんを乗せてていいよ。下に下りるからはしゃぎすぎないでちゃんと着いてきてね」
◇◇◇
91階層、階段を下りて外に出たらまた階段があった。螺旋階段。
ちまちま下りて行けって事だよねコレ......めちゃくちゃ高いし、穴になっている部分を落下してショートカットしようとしてもワイヤーみたいのが物凄い量張り巡らせられているから対処が面倒。
俺だけならなんの躊躇いもなく飛び降りるけど、完璧な対処をしなければ天使たちを傷付けちゃうかもしれないからね。
「行こっか。ワラビは飛べるから、いざという時は皆を乗せて飛んでね」
じゃ、レッツゴー。
~10分後~
延々と続くゴールの見えない螺旋階段。
暗くジメジメした空間に飽きたのか、俺の肩に止まっているダイフクとツキミちゃんがホーホー鳴きだした。
俺と意思疎通出来るようにしてくれていないから、俺にはダイフクが何を言ってるのかさっぱりわからない。
でも俺にはわからないだけで、ウチの子たちの間ではバッチリ連携が取れていました。
ツキミちゃんとダイフクが俺の肩からワラビの角に移って俺は一人になる。寂しい。
そしてワラビの背中に乗っていたあんこはワラビの頭の上に移動......これで準備が完了したのか、皆が行動を始めた。
「ホーホー」
「クルルルルル」
「キャンキャン」
「キュッキュッキュッ」
「ケェーーーン」
シアンさん家の音楽隊が結成された瞬間である。鳴き声はバラバラ、声量も音の高低もバラバラ。
だけど、それは今まで聴いたどの音楽よりも俺の心を揺さぶった。感動したよ!!
ついでに脳や内臓も揺さぶられたけど。
「凄い凄い!! どっからそんな発想が出てきたのかな。ヤバイ......コレはミリオンセラーいけるぞ」
某脳を揺さぶる歌手さんも大人気になれたし、ウチの子たちでもイケるだろ。
本家はどう脳を揺さぶればいいのかわかっているようだけど、こっちはガチのマジでダイレクトに揺さぶられるのが難点。
あ、だめ......もう立ってらんない......
「ウイちゃん......気持ち良く歌っている最中に悪いんだけど、エコーを切ってくれないだろうか......そろそろ俺の中身がやばい」
色んな所からボトボトって音が聞こえてくるから、揺さぶられているのは俺だけじゃないんだろう。
「キュッ......キュッキュッキュッ♪」
あっ......よかった。普通の天使の歌声になった。
このお歌なら永遠に聞いていられる。よっしゃ。この子たちが気持ち良くお歌を歌えるように露払い頑張るよ。
◇◇◇
楽しみができると時間が過ぎるのが早くなる。
イヤイヤやる仕事や勉強は、時間経過が異常な遅さになるのにね。
まぁアレよ。お歌を聞きながら進んでいたらいつの間にか螺旋階段が終わっちゃったの。
途中からは俺も参戦した。
鼻歌程度だけど、俺のリズムに合わせてくれたりして可愛かった。そのおかげか、天使たちのお歌が物凄く上達した。
俺だけかもしれないけど、聞いていると脳が溶けそうになるレベル。
それと、お歌のレッスンの副産物としてウイちゃんが音を聴ける生き物の天敵に進化した。音や振動を完全遮断する術を持たない生き物は近付くことすらできなくなったと思う。
レッスンの成果が出たのか、途中からピンポイントに狙った相手だけ揺さぶれるようになったし。また俺は可愛くて強い生き物を生み出してしまったぜ......
......強可愛い生き物か。
......改めて考えてみると、かなりヤバイよなウチの天使たち。
水・氷のスペシャリスト
火・幻のスペシャリスト
覗き魔
闇と同化
投擲の鬼
雷と消化液使いのお馬さん
音のスペシャリスト
後は回復役......特に精神的な部分の回復が出来る子さえ加わればこの子たちだけで天下取れるね。
まぁそんな物騒で面倒な事させる気はない。どうしてもしたいんだって言われたら許可しちゃうかもしれないけどね。
あっ......とうとう階段が終わっちゃった......
お家に帰ったらピノちゃんにも参加してもらおう。指揮者はヘカトンくん。観客は俺。
......あれ、ここの門番......いや、階段番はいないのか。最後の10階層はずっと階段番いたような記憶あるけど......ラスト5階層だったっけ?
まぁいいや。時間的にも丁度いいし今日はここでおしまいにしよう。
アホほど長い階段で疲れたしね。お疲れ様。
◇◇◇
翌日、起きて色々準備して皆の体調を確認。
問題も無いのでこのまま92階層へと進んだ。長かったダンジョンの終わりがようやく見えてきたからなのか、全員
よーし、今日も頑張るよー!!
92階層......次は上りの螺旋階段だった。空洞だった部分は塞がれており、閉塞感がヤバイ。
『ショートカットは許さない。ショートカットした場合は91階層の入り口まで転移させる』と書いてある看板が、上り階段のすぐ横に突き刺さっていた。
これはこれはご丁寧に......はぁぁぁぁ......
91階層よりも若干短くなっているから、多分コレでバランスを取っているんだろうね......めんどくせぇ......
「......えー、という訳で上り階段です。昨日下りたよりも短いから頑張りましょう......」
本日はワラビに全員搭乗。
面倒くさそうな顔をしていたワラビだったけど、俺らがワラビに乗ると表明した途端目がキラキラしだした。
「面倒だろうけどよろしく頼むよ。じゃあ出発ぅ」
「ケェーン」
返事をするように一度鳴いてから走り出したワラビ。
昨日聞いた時も思ったけど、お前の鳴き声そんなだったんだね。これまでずっと頑なに鳴き声を出さなかったから、こいつは鳴かない生き物なのかなと思っていたからなんか凄く意外。
【騎乗】スキルが生えたおかげか、乗るのがすっごい楽になった。なんとなくワラビも走りやすそう。
時間は掛かったが、何事もなく螺旋階段の半分ほどまで進んだ。
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