第190話 ご機嫌なキメラ

 朝、ダンジョン内で朝が来るという不可解な現象に遭遇する。ほんとどーなってんのコレ?


 ただ、やはりこれは紛い物の朝であり、朝特有の憂鬱な感じとか空気感とかが皆無だ。

 こっちに来て一年......家族も得て幸せなんだけど、やっぱり朝はこれから仕事って感覚が抜けなくて憂鬱になる。



 甘えてくる子や寝ぼけてる子、無防備な寝顔を晒す子、俺にしがみついて寝てる子を見れば、精神的な部分では大幅なプラスになってくれるからあの頃のようにマイナスオンリーじゃない。


 まぁ、何が言いたいかと言うと......皆の寝顔が可愛いから朝が好きになった。


 可愛い。しゅき。




 おはようからおやすみまで、ずっと皆と寝室で過ごしたい。食べちゃいたい。


 はい、おふざけは終わり。

 今からご飯を用意してきます。早起きする朝ご飯ガッツリ派の子が新加入したから、俺が惰眠を貪ってあの子を飢えさせる訳にはいかない。


 ウイちゃんは今まで魚は丸ごと食べていたけど、エラやぜいごを取ったモノを好むようになった。

 なので俺の朝飯作りはウイちゃん用の生魚の処理から始まる。


 処理した生魚をバケツいっぱいに作ったら、お次は皆のご飯。と言ってもこちらは今まで通りだから楽チン。


 だいたい俺の分を作っている辺りでウイちゃんが起きてくる。そしてバケツに刺さる。シアンファミリー朝の風物詩。


 朝飯を食い終わったウイちゃんは、昨日入ったお風呂の残り湯に向かっていく。温かいお湯は夜、朝は温かくなくていいとの事。

 新しいのを冷ますよと言っても、これがいいと言って聞かず......なんか俺が嫌なので、湯上りにサッと新しいお湯で体を流すことを条件に許可。

 天使たちの残滓ならいいけど、俺の成分も入っているからしっかり洗ってほしい。


 この子たちもいつか......年頃の女の子が世のパパさんに吐く呪いの言葉みたいな事言い出したりするのかな......

 言わないままでいて欲しい。ダークサイドに堕ちてしまうから。



 悲しい事を考えていると自分の分のご飯を作リ終わっていたので、天使たちのお目覚めを待たずに食べ始める。


 お食事シーンを見逃したくないのもあるし、まだ眠い子の食事のお世話もできるから......それまでにやれる事は全て終わらせておく必要がある。


 あーんしてあげると喜ぶし。



 本日のご飯も美味しゅうございました。


 サッと後片付けをして正座待機していると、待望の天使が現世に御降臨。今日も麗しい......



 いつもと違うのは、モチモチが天使筆頭のあんこに咥えられてやってきたこと。羨ましい。



 どうやら昨日の飛行訓練で無理をしすぎて体がバッキバキらしく、フルフルしているモチモチ。


 ......ハハッ。だから筋肉痛を舐めちゃあかんぜよと言ったじゃん。

『僕はそんなのならない』って強がって、寝る前のマッサージを拒否したモチモチ。盛大なフラグ回収お疲れ様でした。


 ご飯を食べた後に、しっかりとストレッチしたりして筋肉を解しましょうねー。


 ん? 拒否権なんてないよ。

 今からマッサージを受けるのは、右足を出して左足出すと歩けるってくらい当たり前の事だよ。


 大丈夫。今日はずっと抱っこしててあげるから、安心してマッサージされなさい。



 こら、じたばたすんな!!

 揉みづらいだろうが!!


 昨日張り切っていたワラビとあんこは、モチモチと違って元気いっぱいだった。

 ......君たちもマッサージしようか。


 あ、いらないっすか......残念......




 ◇◇◇




 本日の移動時のフォーメーションは、俺の頭の上にウイちゃん、腕の中にダイフクとツキミちゃん、足の間にあんこ。

 そして俺らを搭載したワラビが爆走する形となっております。


 ワラビは馬の本能なのか知らないけど、俺らを乗せて走りたいって願望が強かった。

 だから今日はずっとワラビオンステージ。頑張って!!





 87、88、89階層とずっとサバンナ。一度もワラビから降りずに、サバンナを駆け抜けた。

 出てくるモンスターは轢き殺されるのが八割、感電死が二割かな。この暴走キメラ、ノリノリである。


 スピードを抑えているとはいえ、結構なスピードで走っているワラビに追走するサボテンや、西部劇とかで出てくるよくわからない風に吹かれる乾燥した植物の塊の群れに襲われたりとか......まぁ色々あった。


 コロコロしてくる植物がモンスターとか世も末だなーと思いながらも、そこら辺はウチの子たち無双。


 88階層のボスはどんなんだろうと思っていたら普通のフロアだったり、バギーに乗ったモヒカンとか出てきそうとか思っていたけど、最後まで出てくることなく無事に90階層へ到着。



「ねぇワラビちゃんワラビちゃん......ズンズン進んで行ってるけどさ......この扉の先はボスだと思うんだよね。俺がこのまま乗ったままでいいの? 降ろさずにこのまま行きたいの?」


 迷わず行けよ、行けばわかるさ♡って雰囲気で進んでいくワラビ。♡を付けたのはワラビがマジでウッキウキな所為。♡が幻視できる。


 ......とりあえずシカトしないでほしいなぁ。出てくるモノによっちゃロデオマシーンになりそうで怖い......足の間、両手、頭の上、それぞれにフラジール搭載。



 あ、ちょっ......待って! ワラビくん早漏すぎる。角で扉を開けるのだめぇぇぇぇぇ!!



 90階層のボスに遭遇しました。

 中には5ワラビくらいの大きさのローパー? 触手野郎がいたよ。見た目が完全にアウト。

 生理的に無理!! 気持ち悪いです......たしゅけて!!



 ▼カオスローパー

 90階層の仕置人▼


 解説の鑑定さん。仕置人ってなんでしょうか......必殺する感じなんですかね。特にメスに対して。


 ワイヤーみたいので吊るすあの人? 整体師みたいなあの人? 風車ぶん投げてくる感じ?


 よし、降りてセルフ空間隔離して逃げよう。アレ気持ち悪すぎ............んぉ?


「ごめん、ワラビちゃん。僕の事降ろして貰えませんか? なんか君のサラッサラな毛が俺の足に巻き付いてるんだけど......コレ......ナニ?」


『だめ、のってて』


「......じゃあ俺が速攻でヤツを消し飛ばしちゃうね」


『だめ、みてて』


 えぇぇぇぇ......


「......わかったよ。でも、絶対に触手攻撃は全部避けて早く終わらせてね!! ダメそうなら悪いけど消滅させるからね!!」


『だいじょぶ』


 ヤル気まんまんなのはいいんだけど、本当に頼むよ。


 ッッ!!


 うぉぉぉぉぉっ!! 急に動き出さないでぇぇぇ!!


 ローパーの触手が振りかぶられた瞬間、ワラビが跳躍。

 さっきまで俺らのいた場所には振り上げられた触手とは別の触手が突き込まれていた。


 ......こ、これはまさか......伝説のトンファーキックみたいなアレか......


 絶対にヤバイ効果の付いた触手だろうし......殺意高すぎね? こっわ。


 そんなヤツを相手取るワラビは、見事に触手をヒラヒラと躱していく。


 躱して、躱して、躱して、躱して......お前、カモシカ混ざってんだろ!?

 某ヤッ〇ルさんの要素混ざってんだろ!? ねぇ!?


 よ、酔うって......下半身だけが固定されてるから上半身がががががが......

 触手を避け、避けられそうにない触手は雷で焼き切っていく。そしてアクロバティックに動くワラビに振り回されるあたち。


 ウイちゃんを落とさないように糸で固定して揺れないように、色んな筋肉を総動員させて耐えている。だけど、そんな俺の苦労を知らないウイちゃんは「キュッキュッ♪」って跳躍に合わせて鳴いています。


「あんこちゃん......楽しいのはわかるけど、しっぽブンブンは自重してもらえないっすか? 擽ったくて力が抜けるぅぅぅ......」


 従魔の乱inダンジョンボスの部屋。

 俺の苦労なぞ知ったこっちゃないモチモチは、ここぞとばかり肋骨の隙間を突っついてくる。


 唯一の良心はツキミちゃん。きゃーこわーいとばかりに抱きついてきてくれている。若干擽ったいけどこれくらいなら大丈夫。


「ワラビさん!! まだ? 早く終わらせて!! 無理そうなら手ぇ出すから」


『すぐころす、まってて』


 そう言った瞬間、ワラビの胸毛が光輝く。


 そしてその胸毛から発生した無数の針が、触手ごとアビスローパーの本体をぶち抜いていく。胸毛針......でいいんですかね。


 針が止まり、そこに残っていたのは穴だらけで死にかけのローパー。


『しね』


 その一言と共に、大きく跳躍したワラビ。まだ事切れていなかったローパー目掛けて極太の雷が落ちた。




 えー、現場はバチバチ言っていますが、無事にグロ触手は消滅しました。わーパチパチ。


 ......絶叫マシン搭乗後に似たフワフワ感がある俺です。それでですね、最後にワラビが大技を放って着地した時に反動がほぼ無かったんですよ。


 バトルが終わった事で静かに着地する余裕が出来たのかなーと思ったんですが、どうやら最後の最後で俺に【騎乗】スキルが生えたらしいです。えぇ。


 ......遅いんじゃクソがッ!!

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