第188話 覚悟

 一晩中、考えに考えた結果......


 ・あの子たちが起きたら、とりあえずエリクサーを五等分して飲ませる

 ・元に戻っていても、戻っていなくてもとりあえずエリクサーを飲ませる

 ・エリクサーが効かなかったら、お家に即帰還する

 ・効いた場合、皆の意見を聞いてダンジョンアタックの続行か撤退かを決める

 ・帰還を選択した場合は、皆を送り届けてからソロでダンマスぶっ殺RTA、続行を選択した場合は全員でダンマスぶっ殺



「こんなもんかなぁ......エリクサーが全部を飲ませないと効果を発揮しない場合には......可哀想だけど皆には、苦味にぶん殴られてもらう必要がある......必要な措置だけど、それをして嫌われたらどうしよう......」


 お願いだから起きたら普通に戻っていてください......そう願いを込めながら、すやすや眠るエンジェルたちを撫で続けた......




 ◇◇◇




 考えが纏まってから時間が経過して、そろそろ皆が朝ごはんを食べ始める時刻になる。


 最初に起きたのはウイちゃん。キュウキュウ言いながらご飯をねだってきた。

 お腹が空いているのはわかるけど、ご飯をあげる前にいくつか質問をした。すぐにご飯を貰えると思っていたらしく、とても悲しそうな顔をされる。辛い。




 体調はもう問題ないらしい。昨日は自分でもよくわからないうちに何もしたくないってなっていったそうだ。

 今はもう大丈夫らしい。だけどまだ心配だったからエリクサーを飲ませて、それからご飯をあげた。

 食欲はしっかりあってバケツ一杯のアジだけでは足りずに、バケツの四分の一程度の量をおかわりした食いしん坊ウイちゃんでした。


 いつものウイちゃんと変わらないね。これならもう安心してよさそう。


「元に戻ってよかったよ。皆が起きてご飯を食べたら温泉に入ろうね」


 生魚バケツに体ごと突っ込んでいたから少し生臭かったけど、お腹いっぱいになって満足そうなウイちゃんをギュッと抱きしめた。


 キュウキュウ言いながら体を擦り寄せてきてて可愛かった。

 ......めっちゃシャツが魚の血で汚れてたけど、俺で体を拭いていた訳じゃないと思いたい。




 その後はワラビ、ダイフク、ツキミちゃん、あんこの順で起きてきた。


 皆いつの間にかボーッとしてしまい、やる気が無くなってしまったそうだ。

 今はもうそんな事はないとの事だったけど、一応エリクサーを飲ませてからご飯をあげた。


 心配されていたのが嬉しかったらしく、皆が激しいスキンシップをしてきてくれて幸せだった。

 あんこは体を大きくしてバックハグをしてきてくれている。包み込まれるのってたまらないね。



「昨日はお風呂に入れなかったから、今からお風呂に入ろってリフレッシュしよっか。ちょっと話したい事があるから、続きは風呂で」


 皆とイチャイチャしながらお風呂場へと向かう。改めてもう一度、寝起きにした質問と同じ物をしたけれど、エリクサーを飲んだら完全にスッキリしたと言っていたのでもう大丈夫だろう。知覚できない程度の量のアレが残ってたんだね。



 ・アレは時間経過で完治する物と思っていいらしい

 ・そしてあの症状はお薬でも治療可能

 ・中級エリクサーでも、俺の知っているようなエリクサーをしていた

 ・ウチの子にはお薬は効き、分割しても効果はある


 この四点がハッキリしたので、エリクサーを飲ませてよかったんだと思う。飲ませるような事態にさせたあの東屋は許さん。



 精神攻撃への耐性ってどうすればいいんだろう......心や精神の成長かな?

 肉体だけ成長しても他が成長しないとね。これからは心・技・体の心の部分も成長させられたらいいなと思いました。


「これから皆で精神的な面でも成長していこうね。もちろん俺も含めてだけど。それと、今後、入手したアイテムとかで何か嫌な感じがした物があったりしたら教えて欲しい。あんこたちのような直勘は俺にはないから、些細な事でも気付いたら教えてね」


『『『『おー!!』』』』

「キュッ!!」


 この後めちゃくちゃ風呂場でイチャイチャした。




 ◇◇◇




 存分に英気を養った俺たちは、81、82、83、84階層と破竹の勢いで攻略していった。

 鬼気迫る勢いでサーチアンドデストロイをしていく天使たちと、目に魔力を込めながら見る物全てに鑑定を仕掛けていく俺。


 こっちに来て初めてと思われる成長したいと願いながらの行動。

 天使たちも何かしら思う所があったのか、とても真剣に敵を撃ち殺している。


 うん、異世界に来てから一年とちょっと......それだけ経って初めて味わう真剣な戦いの空気。


 俺が不甲斐ない所為で、ガチらせちゃってごめんね。



 ちょっと思っていたのと違う成長をしちゃったけど、まぁなにはともあれ精神的に成長してくれたっぽいから良しとしておこう。

 戦闘中以外は普段通りでお願いします。



 そんな感じで進み、辿り着いた85階層。


 ボス部屋です。てっきり88階層かと思っていたけど、まぁボスなら無駄に階段を探し回らなくていいから楽でいい。


 じゃ、行こうか。


 俺の意を汲んでくれている天使たちに戦闘はお任せして、俺は鑑定を......と言うか目を使いまくる。

 85階層は墓場だった。あんこは臭いがキツいのか、顔を顰めていて心が痛い。


 ▼カオスリッチ

 85階層のボス▼


 ▼リッチバトラー

 85階層のボスの従者▼


 ▼リッチメイド

 85階層のボスの従者▼


 偉そうなリッチとお付きの者が複数。ガイコツにオスメスがあるとは初耳だ。いや、まぁ男の骨と女の骨があるのはわかるけど......生前の性別そのままリッチになったのかね......


 あ、戦いが始まった。頑張れエンジェルス。




 骨が砕け散り、骨が飛び散り、骨が撒き散らされ、骨が転がる。

 俺の為なのかワザとなのかは知らないけど、時間を掛けてリッチを倒してくれている我が子たち。

 いい加減スキルさんが進化してほしい。頼むよ......



 相当数鑑定してきたけど、使い込む以外の方法じゃないと無理なのかなぁ......

 相変わらず名前とちょっとした補足以外のモンが表示されない。


 天使たちの優しさに応えられない自分が憎い。俺の知っている主人公たちならここら辺でヌルッと秘められていた力が覚醒するのに......


 まさか、ざまぁ系の世界観......!?


 この子たちに俺が捨てられて死にかけ......たりはしないだろうけど、廃人になるレベルの絶望は味わうだろう。


 いや、うん。絶対嫌。


 というか、どっちかって言うと俺は悪役側だったわ。

 力が欲しいかって言われる方だね。ただ、ざまぁされた主人公とのアレコレがないのが問題だ。


 どうしたら俺は成長できる......

 敵を倒していけばレベルは上がる......他に何かあるか!?



 他に......他にッッ!!




 あー......


 いや、まぁあるね。あるにはあるけどアレは違うだろ。違う。





 ............。


 ......やはりアレから目を背けてはダメだな。


 俺はアレで成長してきた。あんことアレが無かったら今の俺は無いと断言できる。


 だが、どうすればいい......どうすればスキルもしくは目が成長する......




 劇物を身体強化しながら食べる以外でスキルと身体を成長させる方法......


 それで成長出来ているならもう既に最終形態になっているはずだ。だからやり方が間違っているんだろう。

 ならどうすればいいのか......


 思い浮かんだ案は一つだけ。





「やっぱ目薬......しかないよなぁ......成功すれば十中八九進化すると思う。でも失敗すれば最悪失明。


 そして成功失敗関係無く、俺は物凄くダメージを受けるだろう......コレは仕方ない。痛みなくして得る物は無い。

 ただ分の悪い賭けじゃなさそう......失明する確率は結構低そうなんだよな。恩恵の割に実は不味いだけ。嫌がらせ特化なブツだから、身体的なダメージは少なそう......物凄く沁みる説が有力」




 ......うん、決まりだ。ギャンブルにはなっちゃうけど、やる価値は大いにある。


 劇物の搾り汁で点眼。

 だけどやるのは最後まで足掻いてからだ。具体的にはダンジョンから出るまではこのまま。

 ダンジョン内で自爆して失明とかあってはならない。


 ダンジョンにいる内に進化したら、それはそれで嬉しい。


 光が見えてきた。元々何も可能性が無かったんだからこれでもいい。



 オール・オア・ナッシング


 光を失うか、更なる力を手に入れるか。


 やってやろうじゃねぇの。目が見えなくなっても存在さえ感知できていればいい。触れあえればいい。


 最悪の場合はファンタジー成分マシマシのファンタジーなオペをしよう......

 あの子たちの安心と安全を買うためなら俺の目を賭けるくらい安いもんだ。



 あっ、終わったんだね。


 ドロップを咥えて戻ってくるあんこと、二羽協力して宝箱を運んでくるツキミちゃんとダイフク。そしてウイちゃんを運ぶワラビ。


 最高に可愛いよ!!!


「よーしよしよしよし......お疲れ様。怪我は無いみたいだね。臭いだろうし早く下に行こっか」


 劇物目薬を実行する前に、皆のキュートな姿を死ぬ程網膜に焼き付けとくからね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る