第182話 這い出るモノ

 名付け&テイムという一大イベントを終わらせた俺とウイちゃんは、二人きりで朝温泉を満喫した。温泉の効能を吸収するウイちゃんは温泉に浸かれば浸かるほど、手触りや可愛さがバーストして天使っぷりがインフレしていく計算になるのだ。


「疲労回復、肌質向上、各種病に効果、傷を癒す......肌質向上が毛皮にも作用すれば、もう無敵すぎる......あまりお披露目されない地肌だけど、触れない事もないからそれでも全然おーけー。どうなるか楽しみだ。

 それと、他の効果も吸収していけば、何れこの子は回復魔法的なのが使えるようになって、聖女とかに近い存在になれるのではないのだろうか......」


 夢が広がる。温泉に浸かる動物といえば、猿やカピバラが有名だけど......アザラシがこうなるとは夢にも思わなかったよ。


「ほーら体を拭きましょうねー。進化したことで毛並みもちょっと変わったね。美人さんになったよー」


「キュッキュウ」


 まだこの子とは意思疎通が難しい。喜怒哀楽とイエスノーしかわからないけど、前よりは大分わかりやすくなった。

 時間が経てばしっかりと会話っぽいのが出来るようになると思う。優しいお姉ちゃんたちと一緒に、ゆっくり成長していってね。


「よーしよしよしよしよし」


「キュッキュ」


 撫でる手が止まらない。これから死地に赴く俺を存分に癒しておくれ。




 ◇◇◇




 温泉からあがった後、頭の上にウイちゃんを乗せながら朝ごはんを作っていたら、よく寝るお姉ちゃんたちが起きてきた。

 ワラビの生活リズムはいい方だと思っていたけど、あれはヘカトンくんに起こされていたからなんだね。


 うんうん。早起きはヘカトンくんの徳。




 ............やっぱりだめかー。見逃してくれないかー。

 めっちゃ見てくる。八個の瞳が見つめる視線のレーザービームの威力がすげぇ。んもう、そんなに見られたら穴があいちゃうぞ......照れるぜ。


「どしたーん。皆がそんなに熱視線を向けてくるとか、今まであんまなかったから恥ずかしいにゃあ。ご飯はもう出来るから待っててねー」


「キュッキュキュー」


 待っててねー......を真似したのかな? んもう! 可愛すぎるーん。


 ふふふふふ......皆もこの可愛さにヤられたね。とても目付きが優しくなってる。


 でもさー、せっかく誤魔化そうと頑張ってたのに視線を釘付けにしちゃったらダメだよー。俺の努力がウォーターのバブルやんかー。


「はい、ご飯出来たよー。冷めないうちに食べちゃおう」


 鳥頭じゃないから忘れないだろうけど、ちょっとでも気を逸らせらんないかな。無理だよなぁ......




 いつも通り、皆美味しそうに俺の作ったご飯を食べてくれた。お腹いっぱいになってリラックスしている姿に癒される。


 ウイちゃんは魔力チューチューでお腹が満たされたらしく、今は俺の頭に乗って皆のことを観察している。いつも寝てたからあまり親交がないもんね、これからは起きてられる時間を増やして行こうねー。




 いい具合に締めて、さぁ出発だ!! とはならなかった。誤魔化しきれなかった。知ってた。


 まぁ追求を受けたよ。隠していた真実が遂に明るみに出てしまった。

 この時のワラビの剣幕が物凄かったのには驚いたよ......ハハッ。



 だから開き直る事にした。

 さぁ、洗脳を始めよう。




「俺は小動物が大好きだ!!!」


 ちっこい子にはずっとちっこいままでいてほしい。

 どの生き物も、赤ん坊の頃は小さい......だが、すぐに成長してしまい子どもでいられる時間は短い。例え中身が大人になっても、いつまでも失われない愛らしさを残した奇跡の生物だ。イエス合法ロリ、合法ショタ。タッチもできるよ!!


「俺は中型の動物も大好きだ!!!」


 小型の動物にはほぼ無いと言ってもいい凛々しさと、大型の動物よりも多く残る愛らしさが混在する奇跡のサイズだ。

 大人でも子どもでもない多感な時期のような......ギリギリを攻めるような危うさを孕む可愛さ。


「俺は大型の動物もラブだ!!!」


 小型にも中型にも無いパワフルさと、全てを包み込んで癒してくれるような包容力と優しさを兼ね備えた奇跡の存在。

 体の大きさと力の強さから誤解される事が多いけれど、大型の動物は基本的に大人しくて優しい。例外はあるけど。

 先祖が種族を生き残らせる為に、燃費を悪くしても体の大きさと強さを求めたという事なんだろう(※個人の見解です)。

 触れたら壊れてしまいそうな儚さはないが、ワイルドさと包容力はピカイチだ。だからこれからも俺を、そのおっきな体を使って癒してほしい。


 などと容疑者は供述した動物愛を語った。天使たちは多分一割も理解出来ていないと思う。

 言ってる自分もよくわからなくなったもの。そして最後に......


「ウチの子たちは強いけど......ちっこい子が多い。外敵からは見た目でナメられる。だから君には、おっきくなって皆を守って欲しい......それが出来るのはワラビだけなんだよ」


 本心は語らず、それっぽい事を言って締めた。とりあえず大きくなってほしいという事は伝えられたと思う。


 訳すと、はよ最終形態になーれ☆ってだけどね。





 まぁ、その伝えたい事はしっかり伝わったみたい。

 ワラビが今までにない程燃えている。角がスパークしてるのよ。


 俺はソッとサングラスを装着した。よし、ダンジョン攻略に行こう。




 ◇◇◇




 56階層はピラミッドだった。

 ワラビのカミナリタックルで門番っぽいスフィンクスを一撃で粉砕。内部は迷路だったけど、ウイちゃんがエコーロケーションを使って正しい道を案内してくれた。


 その頑張りを見て、皆でこれでもかって程甘やかしたのは言うまでもない。

 上に登る階段みたいのがあるのかと思っていたけど、普通に下に降りる階段があった。なんか納得いかない。


 57階層、58階層、59階層も普通にピラミッド内部だと思われる迷路だった。

 キュウキュウ言いながら案内してくれたウイちゃんに皆デレデレだった。モンスターはワラビが感電していた。


 60階層に到着。ここまでずっと起きてくれていたウイちゃんの電池が切れた。


 あんこの背中に乗っかって、ウイちゃんがキュウキュウ言っているエモい光景も遂に見納めとなり、大型犬サイズになったあんこが小動物たちを乗せて歩いている。

 ツキミちゃんとダイフクは、ウイちゃんが落ちないように支える役と流れ弾に警戒する役に別れて乗っている。俺もあんこに乗りたい。


 そう思ってあんこを凝視していたら、ワラビが背中に乗せてくれた。ありがとう。



 60階層のボスはミイラとマミー。ボス部屋に入ると棺桶が開いて、そこから這い出てきた。ミイラはブリッジで。


ㅤホラー染みた動きで気持ち悪かった......アレですかね、ミイラは幼女のパンツでも覗こうとしてるのでしょうか。ミイラが死んだら孫娘が暗殺しに来るとかやめてね。


 ▼ミイラファラオ

 60階層のボス▼


 ▼ネフェルマミー

 60階層のボス▼


 ファラオかぁ......エキセントリックな髪型のあの人を思い出すなぁ。あっちはこんな変態じゃないけど。


 あ、どうぞどうぞ。ワラビさんお好きに殺っちゃってください。俺は棺桶から這い出るミイラごっこをしているあの子たちを観察しながら応援するから。


 俺を降ろしたワラビがファラオにカミナリをぶち込んで蒸発させた。


 だけどマミーはなんとノーダメ。あの包帯は絶縁体なのかね......チートすぎるでしょ。


 まぁ、カミナリを防いだとしてもタックルと角の威力には勝てなかったみたいだけど。さすがアンデッドという脆さでした。


 ファラオのドロップはただのピラミッドの置き物。鑑定しても何もなかった。

 ピラミッドの中の宝箱からもゴミしか出なかった。


 夢も希望もねぇなぁ!!


 サウザンドなアイテムとか、千年的なアイテムとか、お宝がザックザクとかさぁ......なんか夢がある物が出てくるかもと思っちゃうじゃん。なんでジジィのダンジョンの方がそれっぽいのを出すんだよ!!


 納得いかねぇ!!


 ちなみにマミーから出たのは絶縁体。それも小指が巻ける程度の量しかない。


 ▼絶縁包帯

 絶縁体になっている包帯

 嫌いな人の指に巻けば、その人との縁を切る事にも使える▼


 二重の意味で絶縁体だね。ハハッ。


「この下に降りたら今日は終わりにしよっか。お疲れ様だよ」


 まだこのピラミッドエリアでの取得物に納得のいっていない俺は、お姉ちゃんとかお兄ちゃんとかではなく、父や母のような目をウイちゃんに向けているウチの子たちにそう伝えた。



 妹に夢中な皆を引き連れて61階層に下りた。寂しさでイジける俺を見たツキミちゃんが、俺の胸に飛び込んできてくれた。優しい。好き。


 そんなこんなでやってきた61階層は......



 ......なんだコレ。



 闘技場......コロシアム......



ㅤえーっと、ダンジョン内で天下一武闘会でも開かれるんですかねぇ!?

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