第181話 アザラシ回
ぺちぺちぺちぺちぺちぺちぺちぺちぺちぺちぺちぺちぺちぺちぺちぺちぺちぺちぺちぺちぺちぺち......
「キュキュキュキュウゥゥゥゥ!!」
ぺちぺちぺちぺちぺちぺちぺちぺちぺちぺちぺちぺちぺちぺちぺちぺちぺちぺちぺちぺち......ぺちんっぺちんっペちんっ!
なんだろう......ここは天国かな?
もふっもふっもふっ......もふんっ。
前足? で、俺の顔をぺちぺちしていたと思われるアザラシが、今度は俺の顔面の上で跳ねていらっしゃる。
次はどんなご褒美を俺にくれるんだろうと期待をしながら寝たフリを継続。
「「「キュウゥゥゥゥ」」」
......あっ......これらめぇぇ......!
耳元で鳴いてるはずなのに、声を反響させているのか前方向から声がして、鼓膜と脳を揺さぶってくる。あ、だめ、これ以上やられたら滅びのキラキラストリームが出ちゃう......
「お、おはよう......早起きだね。どうしたのかな?」
「キュウキュウキュウ」てしてしてしてし......
鳴きながら何かをアピールしているんだけど......ごめん、わけがわからないよ。
何をアピールしているのかな?
「......飲み物? トイレ? 暑い? ご飯? ......あぁ、お腹が空いたんだね」
それらしい事を挙げていたら、ご飯の所で反応が変わった。昨日よりも意思疎通ができる。この子結構頭がいいのかもしれない。
「キュムッ」
うむ! みたいな鳴き声を出した。何この子可愛い。
「じゃあ皆はまだ起きてないけど、先にご飯あげちゃうね。でも、今後起こす時は、脳を揺らすアレを使って起こそうとするのは止めてね。絶対だよ」
「キュッキュウ」
......頭がご飯でいっぱいになっているっぽいなぁ。
「次にアレを俺に向けて使ったら、その日のご飯はイワシ一匹になるからね」
「キュッキュ」
本当にわかったんだろうか。まぁいいか。
バケツ一杯のアジを与える。
体積以上にご飯を収納できるファンタジーな胃袋だねー。どうなってるんだろう。
バケツに頭を突っ込んでアジを貪り食うアザラシ子さん......もう少しお上品に食べてほしいものです。
じゃあ俺も皆の分のご飯作りましょうかね。
パン、ソーセージの盛り合わせ、オムレツ、コーンスープ、サラダ。朝は和食派だけど、やっぱり洋食もいいよね。
食後、アザラシちゃんに名前を付けちゃおうと思っていたけど、アザラシはバケツに顔を突っ込んだまま寝ていた。起こすのも悪いから名付けは後回し。生臭くなった体を洗ってから、あんこの背中に固定して砂漠を進んだ。
暑いのと強すぎる日射しにヤられたツキミちゃんとダイフクが俺のローブの中に避難してきたり、ワラビが流砂にハマってパニックになったりしたけど、海エリアみたいな理不尽な階段は無くてサクサク進んだ。
そして特に語る部分も無く、55階層を攻略し終えてこの日の探索は終了となった。54階層からは昼夜が逆転したので、人を殺せる暑さからは解放。
さて、ダンジョンは順調すぎて特筆すべき点が何も無いので、皆の妹であるアザラシ子ちゃんの話をしよう。
アザラシ子ちゃんは朝にガッツリ食べて、それ以外の時間はほぼずっと寝ている。とっても可愛い。
可愛いんだけど......懸念事項が二つあるんですよ。
先ず一つ目、この生活サイクルのままスクスク育っていったら、何れあんこが背負えなくなりそうな雰囲気があるって事。
アザラシって皮下脂肪溜め込むし、かなりデカくなるじゃない?
まぁ、そこら辺は俺や天使たちの誰かがアザラシ子に注意すればいいんじゃないのだろうか......となる。
だが、それは無理難題だ。
そんな事を言ってしまった日には、天使たちから心だけをタコ殴りにされるしまうだろう。
あんこもツキミちゃんもダイフクもワラビも、今か今かと心待ちにしていた初孫を見る老夫婦のような優しい目で、すやすや寝ているアザラシ子を眺めているんだもん。そりゃあもう、隙あらばアザラシ。
あんこの背中でキュウキュウ言いながら寝ているのを眺めるのがマイブームになっているのよ。
ピノちゃんがアザラシ子と邂逅したら、文句を言いながらも速攻で堕ちるんだろうなと思う。ヘカトンくんはめっちゃ世話焼きそう。
そして、そんな愛され末っ子アザラシちゃんに関する懸念事項二つ目......どのタイミングでテイムしようか......だ。
多分テイムしたら、ワラビに今まで内緒にしていた事がバレる。俺のキメラ最終形態になるまでテイム状態にしない計画が白日の元に晒されてしまう。
ここまで黙っていたのなら、もういつ暴露しても結末は一緒だよね......誰にも相談出来ないことも相俟って、バレるまではもうずっと黙っていたいと思っているが、アザラシ子の安全の為にはテイム状態にした方がいいから迷っている。誰か助けて。
はぁ......考えても考えても、何もいい案が出てこない。とりあえず今日はここで休もう。この階層は夜の砂漠だから昼の砂漠よりも過ごしやすい。
◇◇◇
「キュキュキュウ」
今日も昨日のように顔をぺちぺちされて起こされる。
昨日寝る前に必死で考え抜いた結果、この子をテイムしてしまおうとなった。
レベルが上がっても、月日が経っても......みんなあまり大きさが変わらないから、モンスターでも魔力の大きさ云々で成長具合も変わるんだと結論付けた。いつまでもちっこいままでいて欲しいという俺のわがままだ。
「ちょっと肌寒いから一緒に温泉入ろうか。お話したい事もあるし」
「キュウゥ......」
はいはい、お腹空いてるんですね。わかりましたよ。
「お腹いっぱいになるまでは食べさせないよ。残りは話をした後でね」
悲しそうな顔をしたアザラシに、バケツの四分の一くらいの量のアジを与えてから温泉へ向かった。
「キュッキュウ!!」
温かいお湯も余裕なアザラシが湯船の中を泳いでいる。俺が湯船に入るとパシャパシャ泳いで寄ってきてくれた。
「これから何個か質問をするから、はいなら水面を一回、いいえなら水面を二回叩いてね」
「キュッ」パシャ
可愛いお返事と共に水面が叩かれた。可愛い。
「じゃあ聞くね。このまま俺らと家族になってほしいんだけど、どうかな?」
「キュウ」パシャ
おっしおっし!! お許しが出てよかったにゃァァァ!!
「ありがとうね。あー、そうそう。体は大きくなった方が嬉しい?」
「キュキュ」パシャパシャ
ノーと言えるアザラシ。大きくなりたい願望があれば、ここでのテイムは見送っていた。
「これから俺が君に名前を付けるけど、それは受け入れてくれる?」
「キュウキュウキュウキュウ!!」パシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャ......
............興奮してるのかな。イエスかノーかわかりにくい。
「俺が名前を付けてもいいってことかな?」
「キュ」パシャ
「キュッキュウ」パシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャ
イエスの後に、はよ名前付けろやコラァ!! って事でいいのね?
「ありがとう。じゃあこれからもよろしくね“ウイ”ちゃん。後は、俺の指から魔力を吸ってくれればお話は終わりだよ」
「キュキュキュゥ」
俺の指に吸い付いて魔力をチューチューするウイちゃん。
「キューゥ」
お腹いっぱい! って感じで指から口を離し、ラッコのように温泉に浮かんでいる。しっかりパスも繋がったので無事終了。
あんなにグダグダと考えていたけど、やってよかったわ。ウイちゃん可愛いよ、ウイちゃん。
............あれ?ちょっとウイちゃん光ってる。
まさか......進化......!?
「あ、終わったっぽい」
数秒だけ発光したけど、直ぐに元に戻った。
進化を果たしたウイちゃんは、目と毛の色に若干赤みが差した。大きさや愛らしさは変わらない。
なんで進化したんだろう。不思議ダナー。
▼ウイ
温泉フォーバスㅤ0歳ㅤ
レベル32ㅤ魔力---/---
スキル:【エコー】【水泳】【潜水】【気配遮断】【泉質吸収】【闇魔法】
アザラシ型魔物の特殊進化個体
温泉が大好きで温水も冷水も大好きだが、暑さには弱い
温泉に入るとバフが掛かり、バフの内容は入った温泉の泉質で変わる
特殊な音波を操る
食べる事、寝る事、甘える事が大好き▼
「......おっふ」
0歳児再び。名実共にウチの末っ子ですわ。
それよりも、見た目変わっちゃった。言い訳......うまく出来るかな......ハハハ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます