第180話 巨大な生き物は大体アレ
ウチのニューフェイス、アザラシたんの事はここまでの行動である程度は理解できた。
この子はよく食べて、よく寝る。そして、寝ている間はある意味で無敵かもしれない事がわかった。
50階層まで来る間は、ずっと俺に抱っこされたまま眠っていた。煩かろうが揺れようが......何をしようが全く起きる気配を見せない。
ここまではいい......最初の頃のあんこを見ているようでなんか懐かしい気持ちにさせてくれた。
ヤバいのは、寝てる間のアザラシは俺の索敵を弾くという事。
腕の中でだらしない顔を晒しながらスヤッスヤなクセに、俺のガチ探知に反応しないぶっ壊れ性能な隠密力。
このアザラシ子は......鑑定で波長みたいな物を操ると出た。
俺の探知は言っちゃえばエコーロケーションの亜種みたいな感じ。ほっそい魔力を飛ばして、それに当たったモノを感知して識別する。
だが、このアザラシが寝ながら特殊な物を出しているのか、ただ特殊な毛皮をしているだけのかわからないけど、流線形のプリティボディが俺の探知をヌルリと受け流し、しかも受け流した事をこちらに悟らせないという異常な現象を引き起こした。
抱っこしていないと気付けなかったわー。ちょーウケるー。
起きていれば引っかかるから、コレは寝てる時限定のナニかだ。寝る時は目の届くところに置いておかないと見失ってしまうので、今後は気を付けようと思いました。
キチンとした隠れ家さえ見つけられれば、流れ弾に当たる以外で死ななそうよね。
それにしてもアザラシか......名前、マジでどうしよう。
どうしても名前の候補がアレとアレしか出てこない。
ナスみたいなフォルムの頭を持つ男の子に飼われているアザラシとか、多摩リバーに現れたアザラシとか......
......うーん、悩ましい。何か良い名前は無いかー!! (心の叫び)
「痛ァッ......モチモチさんよぉ、なんで突っつくのさ。あっ......ごめんなさい」
俺があれこれ考えている内に、いつの間にかボス部屋らしき所まで到着していたらしく、モチモチがただ後ろを着いてくるだけのNPCになりかけていた俺を正気に戻した。
「ごめんなさい......さぁ、今から一緒にこれから一緒に殺しに行こうか。ボスを」
海エリアのボスだーれだ。鑑定っ。
▼ホワイトキラーホエール
50階層のボス▼
扉の先にいたのはキラーホエールっていう種類の魚。これ、シャチだよね?
......シャチ......シャチかぁ。
シャチ......シャチってなんなんだろう。
どう見てもガギ〇ルです。本当にありがとうございました。
ㅤカラーリングがシャチなガギ〇ルです。
「じゃあ俺はここで観戦しているから、殺っておいで。音波で三半規管を揺らしてくるかもしれないから気を付けてねー」
見た目はヤバそうでも、中身までヤバいかと言われればノーだろう。こんなんあの子たちなら余裕余裕。
あんこはこのまま抱っこされている事を選択したらしい。このダンジョンに来てからいっぱい触れ合えて幸せだよ。
でっかい使徒風シャチと向き合っているのはとっても可愛い白と黒のオウルと、立派な角を持つ六本脚のシカ。見た目だけは食物連鎖が始まる五秒前。
シャチが目の前の獲物を食べようと、お口をクパァと開いた瞬間......白、黒、青白の三色の砲弾がヤツのお口の中に吸い込まれ、頭→胴体→下半身の順に破裂していった。
はえーすっごい。サングラスを装備していなかったらまた目がヤられていたと思う。90%の遮光率は凄い。裸眼にカメラのフラッシュの方が眩しかったと思える。
「......こういう巨大な肉食生物の末路って大体が爆殺だよね。ボス部屋がバル〇ィエルの殺害現場みたいになってるけど、皆よくやったね。お疲れ様ぁ」
あんこを頭の上に乗せて、空いた手で皆の頭を撫でていく。よーしよしよし。
最後尾に並んでいたワラビは、時間が掛かると思ったのだろう。シャチのドロップ品を回収してきて、俺の前にソレをドスンと置いた。よく回収できたね。
シャチのドロップは、まぁね......想像通りだよ。ダンジョンマスターは転生者か転移者じゃねぇの? って思いました。
▼金の鯱
純金で出来た鯱
銀の鯱とセットで売れば売り値が跳ね上がる▼
▼銀の鯱
純銀で出来た鯱
金の鯱とセットで売れば売り値が跳ね上がる▼
特に効果の無い換金アイテムでしたー。
どっかのどえりゃーお城に飾れば威厳が出そうだね。
コイツもヘカトンくんみたいに変質しないかなー。あの実をブチ込んだり、魔力をブチ込めないかなー。
鯱の今後を考えるよりも、とりあえず先に進もうか。血の臭いと海鮮物特有の生臭さが凄い。
移動する前に殺害現場の証拠写真をパシャリ。帰ったらピノちゃんとヘカトンくんに、皆の頑張りを見せようと思ったから。
べ、別に、お留守番組に猟奇的な犯行現場を見せたいとか、グロ画像を見せて反応が見たいとか......そんなんじゃないんだからね!!
......只今、大変不適切な言動がありました。誠に申し訳ございません。ごめんなさい。
◇◆◇
~side???~
『なんか今凄くイラっとした』
『同じく』
◇◆◇
「ふぁっ!?」
背筋に冷たいモノが走った。......風邪かな?
気持ち悪い声を出したのはごめんね。そんな蔑むような目で見ないでおくんなまし。
「と、とりあえず、早いとこ下の階に下りて今日は終わりにしよう。よく頑張ったね」
51階層はどんな場所なのかな? 「あんこはどんな場所だと嬉しい?」 とあんこに語りかけながら進んだ。
あんこは、『初めてお魚を食べた場所に似てたら嬉しい』と仰った。覚えてくれていて嬉しいよ!!
「なるほど、あんこは草原エリアで小川があるのがいいんだね。懐かしいねー」
あっ、着いちゃった。ダンジョンマスターさん、空気読んでね。絶対に空気読むんだぞ。空気読め。
「あーあ、おりっく〇ばふぁろーず......」
どうやらエアーをリードするスキルはナッシングだったらしい。ダンジョンマスターへの殺意がぐーんと上がった。
えぇ、只今わたくしの目の前に広がっているのはSABAKUでした。
どうしようもない程に砂漠。鳴門海峡並に渦を巻いているアリジゴクみたいのが沢山あるのよ。
生き物を効率的に殺すのに必要なのは、圧倒的な暴力でも数の暴力でもなく、自然に任せるのが一番だよね......ハハッ。環境に適応出来ないヤツから死んでいくもの。
「あんこごめん。この砂漠エリアが終わるまで、アザラシを守ってあげて。多分暑すぎて死んじゃうから。それと、俺もこの装備を替えないで外に出たら死ぬ」
ちょっと大きくなったあんこの背中にアザラシを置いてからお着替え。
すっごくモコモコでした。また寒いとこでは頼むよ。
砂漠はローブだけじゃ顔が死ぬから、スーツ、ローブの上からマフラーを巻く不思議な格好。これは仕方ない......人に目撃されなければいい。見た奴は消す。
ここの階段は、狭くてお泊まり出来なそうなので諦めて砂漠に踏み込む。時刻はもう夜になるくらいのに、めっちゃ太陽が出てる......
諦めてテントを張り、あんこにテントの周囲を氷で覆ってもらった。空気穴を開けた後、その内側に遮光カーテンをびっちり貼り付けて人工的な夜が完成した。
「はい、それでは今からお風呂に入るよー。血と肉片と海水の成分でベッタベタだから、しっかり洗うからね」
あんこシャワーで全員の体を洗い流し、ボディソープで全身を隈無く洗う。洗う。洗う。
洗い終わった子から温泉へ移動してもらう。血を洗い流した後に血に浸かるという狂気の沙汰の極みのような映像になってるけど、温泉だからセーフ。
寝ているアザラシもこの隙に洗ってしまおうと思い、桶に入れた温泉を常温の水程度まで冷ましてから、アザラシを浸ける。
これでも熱かったら起きるだろうし、その時はあんこに冷やしてもらおう。
抱っこした時から思っていたけど......この子、めっちゃふわっふわだ!!
そのクセ吸水率は悪い。まぁ当然か。
魅惑の流線形ボディにふわっふわな体毛、それと愛らしいおめめとお顔。
パーフェクトだ。俺ら家族の末っ子に相応しい。洗われて気持ちいいのか、ちょっとキュウキュウ言ってるのもポイント高い。
あーたまらん。洗っている手も気持ちいいとか卑怯だよ。
濡れてしっとりするもふもふも気持ちいいけど、濡れてもふわふわなもふもふもヤバい。
洗い終わったアザラシ子を桶に入れたまま温泉に浸かり、体を労る。
アザラシを洗いながらニヨニヨしていたのを見られていたらしく、ゆったり浸かれた時間は少なかったがもふもふにもみくちゃにされて最高だった。
騒いでいた煩さと、桶が揺れた所為でアザラシ子が目を覚まし、キュウキュウ騒ぎながら温泉に落ちるという悲しい事故が起きた。
アザラシにとっては熱湯とも言える温度のお湯に落ちたが、どうやらモンスターには関係が無かった。驚いたのは最初だけで、その数秒後にはスイスイ泳ぎ出す図太さに驚く。
モンスターの適応力ってすげー!!
ハイパーご機嫌になったアザラシ子を皆で構い倒しながら、温泉内で海フロアお疲れ様会を開催。
簡単な料理を温泉に浸かりながら食べたりしてこの日は終わる。明日からは砂漠かぁ......頑張ろうね......(ゲッソリ)
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