第178話 流氷地帯での遊び

 右か左か。


 この子たちはどちらを選ぶんだろうか。


 俺なら左側にある方を選ぶかなー。迷ったらとりあえず左を選ぼうって、なんとなく昔からそう思っている。本当になんでそう思うんだろコレ。


 無意識に左を選ぶ不思議を解明しようとしていると天使たちが動き出した。行く方向が決まったらしい。


 どうやらあんこたちも左側に向かって進む事になったっぽい。迷ったら左の法則は動物にも適用されるんだね。ふっしぎー。



 迷いなく進んでいく浮ける子たち。俺は浮けないので、足元に注意しながら進んでいく。

 いくら寒さに強いモコモコ装備でも、キンキンに冷えた水の中に落ちたら危ないだろうから慎重になる。遅くて申し訳ない。


 出てくるモンスターは南極っぽい動物を凶悪にしたようなモンスター共。


 抱き着いたら気持ちいいんだろうなと思うんだけど、如何せん可愛さが足りない。ヘカトンくんやワラビで全体どこ見ても可愛い生き物以外にも耐性は出来たけど、ここに居るのはどう頑張っても見ても可愛さが見付けられない。


 キュートなホッキョクグマみたいな子やペンギン系がいたらきっと理性を失う。そんな子が見付かればいいのに......どこかに可愛い子はいねがー!!




 俺が飛べないせいだったり、モンスターに気を取られたりで移動に時間がかかってしまったりしたが、ようやく逃げ回る階段を視界におさめられる位置にまで到達した。

 視界に入ったとしても、すぐに逃げ出すのでまた追いかける羽目になるのだけれど。




 さて、ここで問題が発生。


 ......どう見ても階段が上りに件について。


「あぁ......ハズレの方を引いちゃったねぇ」


 皆ショボーンとしている。この子たちの勘が外れるのは珍しいなぁ。


『あっちが正解だったねー』


 ずっと抱っこされていたあんこはあまり気にしていない感じであっけらかんと言い放った。


『むぅ......』


 ダイフクが一番悔しがっているのが印象的だった。


「あのハズレ階段は【千里眼】の対象にならないかな?」


 なんとなく頭に浮かんできた事を実行してみる。

【千里眼】の説明に、一度確認した事のあると鑑定に書いてあったから、生き物じゃなくてもイケるような気がしたのだ。



 あっ......見えた。


 見えたんだけど......見えるだけなので対象の位置や逃げ出した先を把握するまでには至らなかった。


 モン〇ンみたいにペイントボールっぽい効果があると思っていたのにぃ......マップ的なスキルと一緒じゃなかったり、特徴的な背景が見えないと意味ねぇ!!


 ......監視用、覗き見用でしか無いとわかっただけでもよしとしよう......もっとスキルを極めていければもっと汎用性あるスキルなのかなぁ。


【千里眼】のプロフェッショナルであるダイフクに依頼するも、結果は同じで断念......ぐぬぬぬぬぬ......



 逃げる階段、メタル系モンスターよりタチが悪いじゃねぇか!!


 この日の探索はここで断念し、流氷の上でテント泊を決行。


 食いしん坊なアイヌ少女を思い出し、夕食は収納に眠っていたイノシシ肉のオソマ味噌鍋を作って食べた。


 寒い時の鍋はヒンナヒンナ。食後は軽く体を洗って皆で固まって眠った。

 もふもふしたお布団になってくれたウチの天使たちが体を包み込んでくれて、とてもぬくぬく。気持ちよく寝る事ができました。




 ◇◇◇




 翌朝目が覚めると、昨日と変わらずぬっくぬくのモフモフに包まれていた。


 皆が起きてきたので、天使たちには昨日の鍋の残ったツユをうどんにぶっかけた物を用意。

 俺は卵かけご飯にそのツユを掛けて食べた。すき焼きの残ったツユを調味料にして食べるのが美味しいから、ハズレる事はないだろうとわかっていた。

 卵かけご飯ってアレンジ利きまくるから素晴らしい。


 あーたまらん。


 うどんも好評なようでよかった。めっちゃ汁はねしてるけど。お世話するのも楽しいから全然おっけー!


 手が掛からなくなっていくのは悲しいからどうかこのままでいて欲しい。



 さて、流氷フロア二日目、逃げ回って俺らを惑わす階段をどうにかする方法を寝ながら考えていた。その方法を今から実践するとしよう。


 逃げ回るのなら捕獲してしまえばいい。という訳でいざ!!


 俺らを撹乱する上り階段を別の空間に隔離。俺の探知から動き回るモノが一つ消え去り、動き回るモノが残り一つになった。


 よし、完璧だ!!


 あんことツキミちゃんが普通に感心している。めっちゃ嬉しい!!

 ダイフクはちょっとヒイていて、『力技......』ってボヤいていた。ワラビの感情は......まだ俺にはよくわからない。


 こうして目的地が一つに絞れたので、後はそっちへ行くだけになった俺らはサクサクとそちらへ進んでいった。


 ただ、なんというか......ダンジョンの防衛機能なのかトラップカード発動なのか知らないけど、モンスターがアホほど湧いて襲ってくるようになった。どれも可愛くないので、俺らの視界に入った瞬間に頭が弾け飛んでいる。


 無視してもよかったんだけど、湧き出すモンスターは漏れなくこの子たちの糧になってくれるありがたいステージ。なので対処は全て任せて、俺はドロップで有用そうなヤツだけ拾っていく。


 ここのダンジョン、とことん普通の人間が攻略できるように作られていないなー。ウケるー。

 それにしても......ダンジョンってなんの為にあるんだろう。資源が手に入るのはわかるし、多分ごみ捨て場にもなっているんだろう。


 ラノベとかには、人間や野生動物がダンジョンの資源になっている描写があったけど......

 ここは完全に誰も来させたくないって意志を感じるからなんか別のエネルギー源でもあんのかね?


 うーん......さっぱりわからん......


 そしてダンジョンマスターの美的センスもさっぱりわからん。ここのダンジョンマスターが会話可能だったら色々問い詰めてみよう。


 とりあえず、気を紛らわせてくれるようなかわいいのが出てきてくれないかなー!!



 それから三十分ほど延々とモンスターが湧く→ヘッドショット→湧く→ヘッドショットを繰り返し、ようやく湧くスピードが緩やかになってきた。


 ウチの子たちは、前にやっていたシューティングゲーム気分で楽しみながら倒していっていき、ようやく湧いていたモンスターが止まる。そして、皆さまは現在とても上機嫌になっている。


 皆はなんと、自分が倒した数をカウントしていたようで、各々倒した数を報告してきた。一番倒していたのはなんとダイフクで、珍しく俺に抱っこをせがみながらドヤっている。普段大人ぶっている分、無邪気な反応が可愛いなぁ。

 あんこは俺に抱っこされながらの参戦だったので、残念ながら一番数は少なかった。しかし、抱っこされたままなのが嬉しかったらしく、最下位だった事は全く悔しくなかったらしい。


 お疲れ様って皆を撫でながらご褒美のジャーキーをあげていく。よく頑張ったね!!





 思いがけない殲滅戦を終えた俺は、一旦探知を繰り出す。どうやらこの階層にいるモンスターの残りは、先程のプチスタンピードに参加できないような弱っちい反応が流氷の下に多少残っている程度だった。


 残ったのは小魚とかかな?


 小魚......


 ワカサギ釣りっぽい事できるかな。余計な事や無駄な寄り道をするのも、旅の楽しみじゃけぇ。


「ねぇ、釣りってのやってみたくない?」




 ◇◇◇




 ワカサギ釣り用のちっこい竿を取り寄せ、餌を付けてそれぞれに渡していく。

 あんこは釣り用の小さい椅子にチョコンと座りながら器用に竿を持っている。

 ツキミちゃんとダイフクも羽根で器用に挟みながら竿を持った。

 ワラビはどう足掻いても無理だったので、角に糸を括り付けた。角便利だなぁ。


 やり方を一度見せたらちゃんと覚える皆が可愛い。

 皆ワカサギっぽいようなちっこい魚を何匹かずつ釣り上げていて、バケツが賑やかになっていた。


 俺はこっそり指竿を用意して皆に負けないようにしていたが、さっぱり釣れない......何故だ......




 いい感じに小魚のストックが溜まり、バケツがほぼ一杯になった。弱って死んだのもいるけどドロップにならないので、これらはモンスターじゃないらしい。


 ......こんなとこでも自然発生する生物はいるんだね。生態系どうなってんだろう。

 釣った後にドロップに変わる事すっかり忘れてたけど、無事でよかった。



 そろそろワカサギっぽい魚を天ぷらに......と思い釣りを切り上げようと思ったところで、指竿に小魚とは思えないアタリがあった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る