第177話 敵は自然

 時間経過と共にしっかりと視力は回復し、寝る前には軽くチカチカする程度になっていた。治らなかったらどうしようかと思ったよ......


 なんていうか、アレだね。俺のボディは物理や魔法にはめっちゃ強いけど、搦め手系は常人よりもちょっと強い程度らしい。バステは殆ど効果無いけど、デバフは多分効く。


 特に弱いのは自然ダメージや、鼓膜とか網膜とか粘膜とかの膜系......どうやれば丈夫になるのかわからん部分は弱いままらしい。気をつけなきゃ......ここらへんの部分こそ人ではなく、魔の部分が頑張れと言いたい。声を大にして言いたい。


 でも、久しぶりに俺に頼られて張り切るモードのあんこが見れたのは嬉しかった。お姉ちゃんモードも可愛いよ。好き好き好き。




 ◇◇◇




 一夜明けて、俺さん完・全・復・活!!


「めっちゃ足引っ張ってごめんね。もう治ったから、ここからは足引っ張らないようにするからね!」


 朝イチで謝罪。それともう一つ。


「......あんこの興味がそっちに移ってて悔しかったから言い方がキツくなっちゃった。ワラビは全く悪くないのにごめんね......このダンジョンを攻略するまでサングラスを常時装着しておくから存分にやっていいよ」


 完全に私怨でのアレへの謝罪。申し訳ございません。わたくしめがジェラっただけでございます......


 よーしよしよし......張り切っちゃっただけだもんね。頑張ってたねー。よーしよしよし......


 ははは......体を擦り寄せてきちゃって。見た目はイカついけど可愛いやんけ......



 うん、ごめんよ。


 仲直りも済んだ事だし、バカンスに最適な海フロアを残りの階層内で見つけ隊......出陣じゃあ!!




 ◇◇◇




 意気込んでスタートした45階層の探索だったのに、急に迷宮タイプのフロアになっていてびっくりだよ!!


 潮の香りはするから海辺の洞窟って感じなんだろうけどさ。なんとなく納得いかないけど皆のモチベーションが高いから、水を差さないよう保護者に徹する。


 時々人の叫び声みたいのが聞こえてくるけど、これはアレだよね。


 ......確か、風の影響やらなんとかかんとか......ん? 水が噴き出すの前兆だったっけ?


 わからん。けど皆ならなんとか対処できるでしょ。俺は大人しーく後ろをついていきましょー。


 おっと。その前にサングラスをお取り寄せ。光ダメージを90%カットとか出てるやべー装備品が出てきた。やったぜ!


 海パン、サングラス、ビーサンのバカンスに来ましたよスタイルであんこを抱っこしながら、飛びながら進んでいく鳥ちゃんズとワラビの後をついていく。



 うーん、全く以て危なげのない進行。

 ダイフクがホーホー鳴くと、ツキミちゃんとワラビがビュッと小さい弾を撃ち出す。すると少し遅れて断末魔が聞こえてくる......派手さの無い探索だが、安定感パない。


 聞くところによると、これは昨日俺がお荷物になってる時に確立したやり方なんだって。子どもの成長は早いなぁ......解説のあんこ様、ありがとうございました。


 たまに威力調整を間違えたのかズドンッて音もしたりするけど、そこら辺は些細な事でしょう。



 洞窟タイプのフロアだったから隠し部屋や、青の洞窟みたいなポイントとかを期待していたけれど、まぁ何も無かった。


 物凄く入り組んだ迷路のような洞窟を四時間程掛けて進み、ようやく46階層に下りる階段に辿り着く。


 ここで一度休憩を取る。

 昼飯は、焼いたタイの解し身をなめろうっぽい味付けにした物を混ぜ込んだご飯を、焼きおにぎりにして食べた。

 やはり焼いた魚系の物は皆に好評で、喜んで食べてれている。ご飯粒を頬に付けて顔を綻ばすツキミちゃんが可愛すぎた。



 そして46階層、今度も洞窟かと思っていたけど、海エリアに戻った。


 海に戻れた事、それは自体はとても嬉しいんだけど、生憎の超絶悪天候。超大型台風接近中の海岸沿いを中継しているような絵面になっている。

 時折竜巻も発生していて、サメが巻き上げられて飛び交っていないか気になりすぎる。


「竜巻に乗って飛び回るサメとか幽霊なサメとか出ないといいなぁ......」


『サメって最初に見たアレだよね? 泳がないでお空を飛ぶの?』


 辺りをキョロキョロ見回しながら呟いた俺の言葉に反応するあんこ。穢れを知らない純粋な瞳でこっちを見ないで!!

 あんな文化は知る必要ありませんよ!!


「......あのね、俺の故郷にはね、特殊でエグい能力を持ったサメがいっぱい居たんだよ......それが出てきたら嫌だなぁって思っちゃったの」


 嘘は言ってない。どう誤魔化せばいいかわからないだけだ。


『えっ......怖い』


 多分余裕で倒せるだろう。そして、こっちでも探せばソイツら居そうだけどねー(笑)

 こんな事で怖がるあんこが可愛い。ギュッてしがみついてくれてありがとう。


「出てもワラビが雷で殺るから大丈夫でしょ。雨が凄いからコレを着て進もうねー」


 いつものクセでローブの中に入れようとするけど、今の俺は海パン一丁だったのを思い出したので、急遽雨具を召喚。


 取り寄せたのはカエルさんのポンチョ型レインコート(小型わんこ用)。

 お洋服はあまり好きじゃないあんこだけど、これは大人しく着てくれた。


 ......うーん、グレイトフル・ワンコ。めっちゃ可愛いーっ!!


 デフォルメされてればこんなに可愛いのにね。実際のカエルはちょっとアレすぎるのが悪い......


 おっと、立ち止まってこちらを見ているではないか。皆を待たせてはいかん。

 それと、ワラビの背中に乗るくらいなら俺の肩や腕の中でもいいんじゃないかな?


「待たせてごめんね。皆も雨具使わない?」


『いらない』

『飛べなくなる』

『ヒツヨウナイ』


 ..................。


「濡れると風邪引いちゃうよ。絶対似合うし可愛いから着ようよ。ね?」


『いや』

『いらない』

『ジャマニナル』


「えぇぇぇぇ......」


『早く進むよ』


「......ッス」


 皆を代表して、ダイフクが面倒くさそうに先へ進む事を強要する。ワラビにセレブカットなプードルスタイルの物を着させたかったのに。


 このフロアにはあまり良さそうなモノが見当たらないので、スルーしてサクサク進んでいく。


 悪天候の中、風とかを物ともせずにサメが飛んできたと思わせるサイズの魚が飛来してきて、ソレを鑑定したらストライクカジキという人体刺突に特化した魚だったり、ハリセンボンが無数に空から降ってきたりした。

 どうやらここは、悪天候で動きを封じ、挑戦者を刺殺しようとするフロアだった。


 階段は沖に浮かぶ小島にあり、ワラビにそこまで運んでもらってこの階は終了。



 悪天候エリアの次の47階層は、何故か南極みたいなフロアだった。

 気候変動の幅が、エグすぎやしませんかねぇ......体が弱い人なら音速で体調崩すぞぉ......


 見た感じ、金塊争奪皮剥ぎバトルグルメ漫画に出てきそうな流氷がめっちゃ多い。氷がメインになっていて、あまり雪は積もっていないが微妙に吹雪いていて視界は良くない。


「階段まで遠そう......そんで、君たち+俺はビッショビショ。外に出たら瞬間冷凍されそうなので、一度ここで体をあっためて、よく乾かしてから向かいましょう」


 ホッカホカの温泉に浸かって一休み。


 嵐の階層をマッハで終わらせたせいで、本日の予定を終わらせるにはまだ早すぎる中途半端すぎる時間。


 温泉に浸かってホコホコになった体の水気をしっかり拭き取ってあげる。ピノちゃんがいたらこの作業はかなり楽なんだけど、まぁ仕方ない。


 俺は久しぶりのモッコモコ装備に身を包んで準備万端。天使たちは装備は拒否し、寒すぎたら俺に抱っこをせがむと伝えてきた。


 こういう時にモフいボディ持ちは強いよね。

 あんこは中型犬サイズになってウキウキしている。


「そんじゃ行きましょうか。寒さに負けそうな場合はしっかりと申告するんだよ」


 クッソ寒そうなフロアに向かった。


 全員が外に出ると、上への階段の乗った氷がスーッと流されていき、あっという間に見えなくなった......


 どういう仕組みなんだろうか。ダンジョンの謎がまた一つ増えたぜ......


 いやー......まさかとは思うけど、下に続く階段もこのフロア内の何処かを彷徨っているとかないだろうな。


「えーっと、とりあえず......皆はこの寒さが辛かったりしないかな?」


 全員問題無いとの事なのでこのまま探索へ......向かう前にエリア内を探知してみると、俺らから遠い場所で動く二つのモノが見つかる。


 これは......まぁ、十中八九上りと下りの階段だよね。


 究極の二択。どっちに狙いを定めて進んでいくのか......楽しみだな。


 俺なら絶対初回は外れを引く自信がある!

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