第176話 お荷物になった日

 結構魚介類が好きなウチの子たちが、口の周りをソースでベッタベタにしながら結構な量の焼きそばを食べきった。


 食後に口の周りを拭ってあげるという保護者プレイが出来て余は満足じゃ。動物の汚れた口元って可愛いよね。


 どっかのモチモチ触感野郎は、何故か俺の履いていた海パンで口を拭いやがったけど、それはそれでまぁ......甘えてくれているみたいで可愛かったから許す。今回だけだよ。



 さて、次の階層に移動する為に改良型探知を使ったんだけど、見つけた階段の位置がこれまた酷い位置にあった。


「コレ絶対に冒険者(笑)共に攻略させる気無いよねぇ......」


 俺の呟きを聞いて、階段どこにあったの? と首を傾げるあんことツキミちゃん。こういった隠れた場所を探す系は苦手だよねこの子たち。


 ピノちゃんはこういうの得意なのはわかるけど、なんかダイフクも得意そう......チーム毎に特色があっていいね!

 自分に必要な事だと思ったら聞いてくるだろうし、やり方とかを聞かれた時は色々と教えてあげよう。


「俺らが最初に飛び降りた崖あるでしょ。そこの中腹くらいの位置から崖を掘り進めていけば、階段がある空洞に行き当たるよ」


 一度崖下に下りてから、垂直......っていうか抉れた崖を登りながら穴掘りをしていかなきゃならない仕組み。

 前の階層で海の中に階段があった事から、アホほど広くてクッソ深い海を探索させる気マンマンなんだろう。偶然見つけられるって感じでもない厭らしさだ。


 ジジィとは違うベクトルでここのダンマスは性格が悪い。あれか......ダンマスは何かしら性格がイカれていないとなれない職業なのかな?


 俺も就けそうだけど気にしたらダメな気がする。よし、忘れよう。


「崖の中腹らへんまではワラビが運んでくれると嬉しい。そして隠された小部屋まで行くのはどうしよっか......力技でブチ抜くか、あんこが掘り掘りするかだけど、どうする?」


 俺の問い掛けにいち早く反応したのはワラビ。


『ハコブ、コワス』


 おっけー脳筋。道の作り方は?


『ツヨクナッタ、ミテ』


 ぶち抜きたいんですね。わかりました。


「じゃあ頼んだよ。あんこの穴掘りはまた別の機会に頼むから、ね。元気出して」


 出遅れてシューンとするあんこを慰めながらワラビにライドオン。皆が位置に着いたのを確認してワラビが飛び立った。


 今までに見たことないくらい気合いが入っている顔が凛々しい。※目以外


「あーここでストップ、ここから真っ直ぐぶち抜いてった所に空洞があるよー」


『ワカッタ、ミテテ』


 いつもより気合いの入ったカタコトの後、角と角の間に電気玉が生成されていくかっこいい光景が展開。


「おぉぉぉぉぉー」

「わんわんっ!!」


 俺が漏らした感嘆の声と、あんこの興奮した鳴き声が重なる。


 ......チッ......あんこは角フェチなんですかね?


 複雑な心境のまま、ワラビの大技を見守る。


 悔しいけどかっこいいな......ちくしょうめ。


 暫く溜めていた青白い電気玉が一際強く光った後、ワラビがその電気玉を発射した。




 雷って単体でも相当エグい威力だけど、魔力をブレンドした雷は......俺が知ってる雷ではなかった。


「目がッッ!! 目がァァァァァァッ!!」


 なんていうか、どんな技でどんな威力なのか見ようと電気玉を直視していた俺は、技の発動後にどっかの大佐みたいになってしまった。


 まずね、光り方がね、ヤバいの。ウチの子たちはどうなってるんだろうか......目が潰れてたら、お前の角へし折るからな。


 目が完全にお逝きになる前に見たのは、岩に当たった瞬間に岩が蒸発した所まで。威力も光り方もおかしい。


「ワラビお前ぇぇぇ......あ、ダメだ......一旦さっきの場所まで戻ってくれ。それと、帰ったらその技の光り方を抑えられるように訓練しろ。それまで使用禁止だからな!!」



 トンネルは無事開通したんだろう。したんだろうけど、なんも見えねぇ。

 一旦休憩しねぇと無理。休むぞ。はよ降りろ!!




 ◇◇◇




 もしもし、わたしシアンさん。視力が戻らないの。


 探知でなんとなく周囲の状況はわかるからいいんだけど、三十分くらい経っても視力戻らないとかヤバくね?


 目に最高級のポーションぶっかけたけど、沁みるだけで効果は無かったし......


 時間経過で視力が戻ってくれるのを待つしかない現状。天使たちの尊い御姿を拝めないのがなによりもキツい。


 どうやらあんこは何かしらやって光を防ぎ、ツキミちゃんは闇でガード、ダイフクは光で中和したので全員無事だったらしい。あんこはどうやったねん......


 そして今、耳にはわんわんホーホー聞こえてきている。多分だけどガチな説教をされているっぽい雰囲気らしいね。


ㅤキメラざまぁァァァァァァ!!




 虚しい......はぁ......



 失意の中体育座りで待機していると、顔にモフッとしたものが当たる。どうやらワラビへの説教が終わったから俺の所に来てくれたらしい。


 このモフみは......右側があんこで、左側がツキミちゃんだな。気持ちいい。


 ん?


 ......ふむふむ......なるほど、わかった。じゃあお言葉に甘えるね。


 おっきくなったあんこが俺を背中に乗せて、そのまま次の階層へと進むよって教えてくれた。どうやら潮が満ちてきているらしく、このままだと休憩所が水没するんだって。


 優しい。可愛い。大好き。


 よしっ。それならさっさと進もう!!




 ◇◇◇




 あんこがぴょんぴょん跳ねながら進んでいくのを、もふもふな背中にギュッと抱きつきながら楽しむ。


 どうやってんのか聞いたら、氷で空中に足場を作って移動してるんだって。空歩みたいな事をやるなんて優秀すぎぃ。


 俺と一緒にあんこにしがみついているダイフクが珍しく興奮している。


『凄いね! 凄いねッ!』


 無邪気にはしゃいじゃって可愛いなぁ。空を飛べる種族なのに。


『飛ぶのと跳ぶのは違う』


 あー、なるほど。あんこは凄いもんね。それと、ダイフクもちゃんと凄いからねー。


 開けた大穴に突入し、まだ燻っている岩場を凍らせながらあんこが歩いていき、ようやく43階層への階段へ辿り着いた。

 ワラビはまだ凹んでいるらしく、トボトボと後ろをついてきているとツキミちゃんが教えてくれたけど、お前はこのままもう少し反省してなさい。


『このまま進むね』


「お願い」


 確認を取ってきたあんこに撫でながら返事をすると、嬉しそうにワンと鳴きながら歩き出した。


 歩く動作による揺れのおかげで身体全体が気持ちいい。すっげぇよコレ。

 女の子をおんぶした男が、背中に伝わる柔らかな感触に全集中するようなモノだ。

 視覚を遮断すると、他の感覚が鋭くなるのは本当なんだねー。階段さいこー!!





 全身でもふもふを享受していた変態だったが、不意にあんこの体の傾きが通常のモノに戻りテンションがガクッと下がった。


 階段が終わっただけなのに、絶望した某王子のようになってしまった。たかが揺れが少なくなっただけなのにだ。


「もう終わり......か。ねぇあんこちゃん......これから階段を下りる時はずっとコレをしてくれないかな? いや、このダンジョン内にいる間はずっとこうしてたいんだけど、どう?」


『ずっとはヤだ。わたしも抱っこして』


「......ッッ!! お任せあれ!!」


 変態は単純だった。




 ◇◇◇




 43層と44層も海エリアだったが、シアンの目が回復しておらず、遊ぶのは別にいいやと思った天使たちは目の前に現れた敵を容赦なく撃ち殺して進んだ。

 前の二つの階層を経験していたおかげで、隠された階段もサクッと見つけて下りていく。


 天使たちの成長を喜ぶという高度な思考を持ったお荷物シアンを45階層まで運び、この日のダンジョンアタックは終了となった。


「遊びたかっただろうに、俺のせいで遊ばせてあげられなくてごめんね......やっと回復の兆しが見えてきたから、もう大丈夫だよ。

 明日は今日のお詫びとして、一日中俺がパシりになるから、海を皆で楽しもうね」


 こうして、シアンが異世界に来て初めて......ガチなお荷物になった一日は終わった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る