第175話 素潜りと釣り

 翌朝準備を終えた俺たちはテントを出る。


 階段のあるエリアからフロアに戻ってみたけれど、あんこの本気によって永久凍土と化していたビーチは......未だに溶けず、昨日と同じまま凍りついていた。


 フロアを一度移動してからまた戻れば、破壊されたりしたフロアは元通りになる......なんてファンタジーお馴染みの事象は起こらない事がわかった。


「一日経っても全く溶ける気配がないとは......やっぱりあんこは凄いなぁ」


『ワフンッ』


 めっちゃドヤりながら胸を張るあんこが可愛すぎて撫で回す手が止まらない。



 それはさておき......これからどうしようか。

 まさかこのフロアが最下層だったなんて事は無いはず。ボスも出てないし。


 後探索していないのは砂浜の下と海の中、それと何も無いと思いこんでいる空中。



「上と下には探知を飛ばすなんて事してなかったからなぁ......一応試してみるか」


 上下左右、自分を中心に探知をゆっくり伸ばしていく。あんこが生き物の生命活動を止めていてくれたおかげで、脳に大した負担もなく探知する範囲を拡げられた。


 やはりというかなんというか......階段があったのは海の底。それも沖の方。


「海の中に階段を見つけたよ。攻略させる気無いなぁコレ......酷いと思わない?」


 ダンジョンを知っているあんこは俺の言葉に頷き、初挑戦組はダンジョンって面倒なんだねって感想を伝えてきた。


「氷を溶かさないようにしながら道を作っていこうか。やりたい子はいねがー?」


 俺の肩に止まっていたモチモチが羽根を広げてやりたいとアピールしてくる。


「じゃあよろしく。方角はあっちね」


 階段がある方に体を向けると、ノータイムでダイフクが光線を放った。



 ......いっやぁ......光魔法って結構強いんだね。


 俺の生み出した幻影相手と隔離された空間内でしか今まで使ってこなかったから、イマイチ正確な威力がわかってなかったよ。


 ぱっくり割れた凍った海......なんだっけコレ。確か地球でも海を割った人の伝説あったよね。


 まぁいいや。モチモチの力ってすげー。





 ......はい、やってきました42階層。


 階段を下りた先には、今度は有名なサスペンスドラマのクライマックスシーンによくあるような崖の上からのスタート。そして遠くに見える下りてきたはずの階段。どうなってんだよこのダンジョン......


 テテテテッテテテッテーテー(空耳)


 周囲を見渡してみた感じ、どうやらここから飛び降りるしか選択肢は無いらしい。


 前の階層のように心をへし折るようなギミックや生物は見えないので、皆には自由に探索していいよと伝える。



 躊躇いなく崖から飛び降りていく皆に少し困惑するも、俺もここを楽しもうと海パンとゴーグルに加えて銛を装着して飛び込む。


 ちょっとでもズレると尖った岩に突き刺さるやべー階層だけど、なんとか無事に着水。


 海流はこんな立地のクセに緩く穏やかなのでとても快適。水も透明感があり遠くまで見渡せる。


 こりゃあ良いぞと思い、とったどーごっこに励む前に皆が休めるような休憩場所を岩場を削りとって作り、ベンチとビーチチェアを設置した。



 じゃあ俺も楽しんでこよっと。逝ってきまーす!





 あかん......ここは深すぎる......

 AGI極振りかってくらいの速度で逃げ回る魚。銛の攻撃範囲には入ってこないし、もう無理だと思ったら海底に向けてマッハで逃げ出す始末。


 そこまで長い時間息は続くことはなく、水圧に耐性が無いのでまず追い付けない。

 このチートボディを持ってしても、水の中でここまで動きが制限されるとは思っていなかった......



 という事で銛は諦め、一度休憩場所に戻る。


 ウェットスーツやフィン、酸素ボンベなどを取り寄せればなんとかなるかもしれないし、潜水、水泳、耐圧とかのスキルも生えるかもしれない。


 でもそこまでして銛突きをしたい訳ではないし、それらを一々装着していくのはダルいので今回は諦める。

 そんな中で俺は何をするべきなのかというと......



 残った手段は、釣りだ。


 素潜り漁では辛酸を嘗めた俺だけど、今度はチートな海釣りを披露してリベンジしてやるぜ。


 両手の指から細ぉい糸を長ぁく出します。

 先端を針のように加工します。

 右手の釣り糸にはイワシ(地球産)を、左手の釣り糸にはアジ(地球産)を付けてキャストします。


 後は【多重思考】さんを活用して各糸を操り、獲物が掛かるのを待つだけの簡単な作業です。



 待つこと二分ちょい、右手小指竿にヒット。立て続けに右手中指竿と左手親指竿にもヒット。


【多重思考】パイセンがいなかったらパニックになっていたと思う。各指の糸を引いていく。超強力な魔動リールと悪夢のような強度の糸。

 魚の口などのパーツが耐えられれば確実に釣り上げられる計算となっております。最初なのでどれくらいまでなら平気かの実験を兼ね、遠慮なく巻き上げる。



 ここの魚は結構頑丈みたいで問題なく釣り上げることが出来た。

 ただ、釣り上げる時の勢いにより魚が絶命したのはなんか納得いかないが......


 まぁいい!


 念願だった海の魚だ......やったぜ!!




 ............しかし、他のも釣り上げてしまおうとちょっと目を離しているうちに、いつの間にか魚が一切れの切り身に変わっていた。


 そうだった。


 ダンジョンのモンスターはドロップに変わるんだった。というかこの見た事あるようなフォルムの魚もモンスターだったのか......くそぅ。


 だが魚の切り身が手に入るのならこれも無駄ではないのだ......



「唸れ俺のすごいつりざお!!」


 パパ頑張ってアホほど魚を釣りまくるよ!! お腹いっぱいになるまでお魚を食わせてあげるからね!!




 ◇◇◇




 三時間程熱中して頑張った結果がこちらでございます。


 ~戦利品一覧~

・カツオ柵×10

・マグロ赤身柵×4、中トロ柵×2

・ブリ柵×7、ブリカマ×1

・タイ切り身×11、タイのお頭×1

・サバ切り身×26

・カワハギ切り身×13、カワハギキモ×1

・カサゴ切り身×1

・カニ脚×140くらい、カニ甲羅×8

・エビ剥き身×400くらい

・タコ脚×300くらい、タコ墨×16

・イカ胴体×20、イカゲソ×400くらい、イカ墨×3


 他はゴミみたいなハズレが多数。途中から投網したりしたのは内緒。

 それと戦利品には全て、※〇〇っぽい魚のって注釈が付くのは仕方ないよね。


 もっと沖の方に行けばヤバいの居そうだけど、今はこれで満足しておく。


 ......満足しておくけど、大トロも欲しかったわぁ......レアドロップがレアすぎるのが悪い。くそぅ。

 ピノちゃん御守りあってコレだから、俺自体の幸運値だけではもっと悲惨だったと思われる。




 皆はまだはしゃいでいるけど俺は疲れたから、海の家っぽいモノをオープンさせて待っていよう。


 昼飯というには遅い時間になるけど、メニューは海鮮焼きそばとイカ焼きでいいよね。


 ついでに夜用のシーフードカレーも作っておこう。

 異世界初のシーフード飯、喜んでくれるといいなぁ!



 ......そういえばコレらはドロップ品。

 生のイカだったら危ないかもしれないけど、ドロップ品だから寄生虫とかは居ないはずだ。


 イカを刺身で......イっちゃっていいよね。生のイカはアニーさんがアレだからイカソーメンばっかりだもの。


 刺身サイズに糸でスライスして、飾り包丁を入れて完成。

 甘みや食感が変わるのもあるが、醤油の絡み方も変わるので結構大事。あと、万が一アニーさんがいた時の対策も兼ねている。


 では早速......



「うまっ!」


 寝かせてしっとりねっとりしたイカも美味しいけど、新鮮な......ドロップ品を新鮮と言っていいのかわからないけど、コリコリした食感のイカもまた美味しいね。

 あっちで食う物よりも甘みが強い......寝かした物も食べてみたいけど、やり方がわからん......


 どうやるんだアレ。


 昆布で挟んだりする昆布締めはうろ覚え程度だけはわかるけど......


 うん、さっぱりわからんからお家に戻ってから要検証だね!



 うむ......刺身には日本酒もいいけど、ビールも美味しいわぁ。

 あの子たちはイカ刺は食べるのかな? 一応お昼に出してみよう。



 たっぷり遊んで帰ってきた皆に、海鮮焼きそばとイカ焼きを振る舞った。

 刺身は全然ウケなかったのを残念に思うが、焼きそばとイカ焼きはめっちゃ好評だった。


 海遊びに満足していたので、後半は次の階層へ行って探索する事に決まる。


 ほら泳いでお腹空いたでしょ? まだたくさんあるからたーんとお食べー!!

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