第174話 青い空、白い雲......
「こ、これは......ッッ」
ワラビから『ココダヨ』と言われたんだけど、俺の目の前にあるのはただの平原。これが噂(?)のフィールド型ダンジョンというヤツなのか?
「なるほど......わからん」
見えない入り口があるのかなと思い、何歩分か前に進んでみるもいつものようにダンジョンに入ったような気配は無い。
ウチの子たちは何してんだコイツ......って感じで、残念な生き物を見るような目を向けてきている。そんな目で見てきていいと思っているのかい、俺このままだと泣いちゃうぞ?
「ねぇ、答えがわかっているなら早く教えてよォ......」
「わんっ」
俺の情けない発言に返事をしてくれたぁ......良い子だなぁ......と感動していたら、突如ワラビが俺に体を擦りつけてきた。
甘えてくれるのっていいね。いくらでも甘えてきていいからねー
ーーッ!!
内臓が持ち上がる感覚の後に、体外にハミ出した内臓とも言われる男の弱点がヒュンッとする。
ええぇぇ......まさかじゃれついて来ていたと思っていたワラビが、俺のことを突き落とそうとしていたとは思ってもみませんでしたよ......えぇ......
そっかぁ......このダンジョンの入り口って落とし穴なんだねー。よく見つけられたなーワラビはすごいなー。
五秒くらいの短いフリーフォールを楽しみ、そのまま地面に打ち付けられた。もっと落下時間が長いと思っていたから着地の準備してなかったねん......
あんこに指示されたワラビに突き落とされた悲しい事実を受け止め、地面に大の字に転がりながら拗ねていると顔面に影が差す。
俺が落ちてきたの方に目を向けると、ワラビに乗ったあんこたちが優雅に降りてきていた。
突き落とすのは酷いんじゃないかと文句を言おうとして立ち上がろうとした瞬間、俺の眉間に白いものが突き刺さった。そうだね、ダイフクだね。
「痛っっ......くはないけど衝撃は食らうんだからさぁ......ツキミえもぉぉぉん......皆がひどいことするぅぅぅ」
今現在、唯一の味方と思われるツキミちゃんに泣き付く。ボソッと情けないとか言うなよこのモチモチめっ。
『ツキミに泣き付く前に、あれくらいの物は自分で見つけろっ』
抗議の声を出す前に先制口撃されてしまう。事実だが、これくらいではへこたれない。
「あのね、人間の目線からだとあれは見つけにくいんだよ。どうみても普通の草原だったじゃん」
「......くぅーん」
『人......間......!?』
『えぇっ......』
『............』
「........................」
この子たちの間で、俺は既に人外として認定されていたらしい。
......いや、確かにもう人間とは言えないし人っぽい何かだけど、見た目だけは一応人のままなんだよ。
あんこですら返答に困るとか悲しい。どうせならもう見た目も人から別種族のようなモノに変わっちまえばいいのに......
はぁ......こんな事はどうでもいいねもう。攻略に向けての話し合いでもしよっか。
「まずはもうすぐ夜だから今日の攻略は無しにしてここで一泊しよう。その間に隊列とかを君たちで決めておいて。俺はこのダンジョンアタックの間、基本的に保護者のポジションで行こうと思ってるから」
俺の言葉に皆賛成してくれたので、大きめのテントを張って宿泊。
こそこそ貯めておいた血の池温泉を使ってお風呂を楽しんだ。アレは無限に湧いてくるからこういう使い方が出来るのだ。
あんこたちは寝るまでの間にしっかり話し合いを終わらせてくれたので、明日は朝からダンジョンアタックになる。
「しっかり寝て、朝はちゃんと起きてくるんだよ」
それじゃ、おやすみなさい。
◇◇◇
おーはようございまぁす。
朝起きてご飯を食べて、出発の準備が整いました。皆さんヤル気に満ち溢れています。可愛いですねぇ。
それでは出発です!
意気込んで出発したものの、序盤はとってもヌルくてどうしようもなく暇。
出てくるアイテムもちょっと強い木の棒みたいなモンしか出てこなくてつまらない。皆のテンションもエグい下がり方をしている。
このダンジョンが何層まであるのかわからないけど、本番は半分過ぎた辺りからだよと教える。
ピノちゃんが登ってきた穴みたいに、ショートカットできそうな物があればいいんだけど......地道に進むしかなさそうだねぇ......
その後、緊急会議が開かれ、モンスターやアイテムを無視して駆け抜けようと結論が出る。頑張ろー。
◇◇◇
ジジィのダンジョンであったような隠し部屋、アレはやはり相当レアな部屋だったらしい。無視するとは言ったけど、隠し部屋は特別だから部屋に入った瞬間にサーチはしている。
ワラビが爆走してくれたおかげで通常階層のモンスターは轢き殺しながら進んでいき、ボス部屋に出てくるヤツは皆がヘッドショットをキメてしゅんころ。
そんなこんなで三日で40層まで来たものの、有用なアイテムも手に入れられず、隠し部屋らしきものも未だに発見できていない。
この中での唯一のダンジョン経験者のあんこちゃんだったが、あまり面白くない......としっぽが垂れ下がっている。
ダンマスものの小説のように、DPとかあるのだろうか。もしあるのなら今すぐ全ポイントを注ぎ込んで、あんこを楽しませてくれませんかね。頼んますよ。
ダンジョンに入ってから四日目、41階層に到着した俺ら全員が皆歓喜に震えた。
41階層に何があったのかというと......
なんと!
......なんと!!
ピタリ賞が......なんと!!!
出ませんでしたー。
いや、すいません冗談です。
なんと、海があったんですよ!!
めっちゃ南国っぽい海でヤシの木っぽいのもしっかりある。当然テンションがぶち上がる俺ら。
辛抱堪らず俺らはウッキウキで海フロアへと飛び出していく。俺も続けとばかりに真っ先に駆け出していったあんこを追いかける。
「海だぁぁぁぁぁ............あーあ......」
青い空に白い雲......そう、ここまではよかったんだよ。
肌を灼くような日差しと灼熱の砂浜。鋭い鋏と剣山のような甲殻のカニが砂浜にひしめき、岩場にびっちり張り付くシーコックローチとかいうガチなG......鑑定さんの説明文にはフナムシ亜種と書いてあった。
それだけでなく、肝心の海はサメの背びれがびっちり見えるという、殺意マシマシ悪意チョモランマな光景でした。
喜び勇んでフロアに駆け出して行ったあんこが、ピタッと静止して一吠え。
悲しそうな鳴き声が聞こえてきたと思ったら、常夏風だった景色が一瞬で消え去り......ビーチに氷河期が訪れた。
空に浮かんでいた太陽はダンジョンが作った紛い物らしく、あんこの怒りに触れて凍りついていた。
大仕事をやり終えて、こちらを振り向いたあんこの悲しそうな顔が頭から離れない。
......あんこたちにとって初めての海だったからなぁ......
感情が抜け落ちた顔でとぼとぼとこちらに戻ってくるのを見た時は、心が張り裂けそうだった。
怒りで保護者ポジションなのを忘れてしまいそうになる。
「よしよし......この下の階もこれと同じフロアだったら、俺が消し飛ばしてあげるから元気だしてね」
凍ったモノを削り取りながら下におりる為の階段を求めて階層を探索していく。
俺の探知でも階段は見つけられなかったので、仕方なく地道に探す。
探している間はずっと張り付いているあんこを慰め、これでもかというほど可愛がった。
とても長い時間よしよしなでなで出来た事は喜ばしい事だけど、このフロアを隅から隅まで探したのに何故か階段が見つからない。
時刻は既に夕方過ぎ......予想以上に時間を無駄に使ってしまったので、これ以上は面倒と判断して本日の探索はここで終了。
一度下りてきた階段の所まで戻ってテントを張った。
「今日は残念だったね......ここから十階層は多分似たようなフロアだと思うから、安全そうな場所があったら一日バカンスに使おうと思ってる」
初めての海に興奮していた皆をこのままガッカリさせたままでいるのは偲びないし、それに俺も海の食べ物を食べたいからこのままってのは許せないからこんな提案をした。
『ほんとに?』
「ほんとほんと。俺も海を見たのにこのまま何も無いのは嫌だからね」
『うん!!』
ようやく元気を取り戻したあんこが胸に飛び込んでくる。ツキミちゃんとダイフクも飛び込んできて嬉しい。よーしよしよし。
「皆も海を見たのは初めてだよね......ここで見たのはダンジョンマスターの悪意が満ち溢れてるだけのニセモノだから、本物の海とは全くの別物だって思っておいてね」
これでウチの子たちが海嫌いになったらどうしてくれるんですかね。全くもう......
――ダンマスは会ったら絶対に泣かす!!
元気を取り戻してきた皆とゆっくり温泉に浸かってリフレッシュし、俺らの残念な一日は終わった。
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