第173話 お出掛けしよう

 あんこのお誕生日会を行ってから、約半月が経過した。


 気候はとても春めいてきて、周囲の雪も溶け出してきている。ウキウキで蕗の薹や土筆を探しにいったけど、こちらには無いみたい。


 それ以外にこの半月の間にした事といえば、お誕生日会の翌日に拠点の周辺に木を何本か植えた事と、ただひたすら引きこもって魔力牛のビーフジャーキーを改良する日々を過ごしていた事だけ。



 そんな毎日を過ごしていた俺だったが、ビーフジャーキーの改良を納得のいく形で終えた俺の目に飛び込んできたのは......拠点の周囲に立派な成長を遂げた樹木が五本、それとなんかよくわからない花が咲く花壇が出来た。


 たった半月で何故こうなるのか......


 それは、ピノちゃんが張り切った。これだけ。



 実験で劇物の種を二つ地面に埋め、その近くに召喚で取り寄せた桜の木、梅の木、個人的に好きな枝垂れ桜を一本ずつ植えた。

 桜とかは成木が来るのかなと思っていたけど、手元に出てきたのは苗木だったのでこれを植える事になった。


 たまに様子を見にくればいいかなーと気楽に考え、ソレらを植えた後は放置してしまった俺。特にやりたい事も思いつかなかったので、その後はビーフジャーキーの生成に熱を入れた。


 調味液や調味料の工夫や肉の乾燥方法、途中で燻製など......まぁ色々試した。

 あんこが好んで食べていたビーフジャーキーに似た味わいになるように、ほぼずっとジャーキー作りに専念。


 春になり雪が溶けた事で行動範囲が増えた皆が、個々での活動に勤しんでいて俺が寂しかったってのも、ビーフジャーキー作りに没頭してしまった要因でもある。


 その甲斐あってか、シアンお手製ビーフジャーキーはしっかり完成した。

 完成品を皆に振る舞うと、これにはあんこだけではなく全員が歓喜し、度々おねだりされるようになった。上目遣いでジャーキーをおねだりする姿は最強すぎて血反吐を吐きそうになった。



 俺がそんな事をしている間、俺や皆の監視の目が無かったマイペースなピノちゃんは、優雅に日向ぼっこをしながら【木魔法】を練習していた。手に入れてから今まで日の目を浴びておらず、すっかり忘れていたピノちゃんの【木魔法】だ。


 何年経過すれば立派な木になるのかなーとのんびり構えていた俺を嘲笑うかのように、ピノちゃんはダラけながらもグングンと【木魔法】の熟練度を上げていき、それに伴い植えたばかりの木もグングン育っていく。



 その結果......


 経過を観察していなかった木達は、半月足らずで立派な木になってしまっていた。

 桜や梅はしっかり育ちきり、それはもう見事な花を咲かせていた。


 ピノちゃんが俺を呼びに来て、『どーよ』とドヤりながら木を見せてくれたので、そこでようやく発覚する事となる。


 結果が出るまでは、幻影をフルに活用して木の成長具合をバッチリ隠蔽していた小狡いピノちゃんに脱帽。

 集中してソレを意識しないとわからないレベルの幻影を掛けていやがりましたよ......この子......やりよるわぁ......


 劇物の木はあの森で見た物よりもまだ全然小さく実も付けていなかったけど、『後半月くらいで実も付けられるくらいにまで成長させられるよ!』と、これまたドヤりながら報告をしてくるピノちゃん。


 ドン引きしながら、【木魔法】についての取り調べを行った。

【木魔法】を使ってみた感想は、植物を一センチ育てるだけでも魔力をかなり使うらしくて、普通の人が使う場合使い勝手が悪すぎて魔法を使っても、普通に成長させた時との違いは誤差レベルだと教えてくれた。

 でも、ほぼ無限に魔力を使えるピノちゃんは【木魔法】を見事使いこなしてしまい、悪魔的なまでのチートっぷりを発揮して今に至る。


 この報告には愛想笑いをするしかなかった俺だけど、これで鳥ちゃんズが欲しがっていた大きい木の条件を達成できたので素直に喜んだ。

 ......うん......言いたいことはあるけど、ピノちゃんありがとね。




 こうして俺は、伝説の木と実を無限増殖させる術を手に入れましたとさ。めでたしめでたし......




 ◇◇◇




 夢だった日向ぼっこしながらのお昼寝や、皆でワイワイお花見を行い、非常に有意義で満足だった四月を過ごした。



 そうして、とうとう四月が終わりを迎えそうになったある日の夜......


 隠蔽の外に出ても問題のない強さになったワラビがお外から戻り、俺らに報告を行った。

 ちなみにワラビはあれからも劇物を食べ続けているが、未だ進化するまでには至っていない。


『ココカラ、アマリ、トオクナイ、イチニ、ダンジョン、ミツケタ』


 あらやだ、とても簡潔な報告ぅ。


「それは何処で見つけたの? 此処からダンジョンまではどれくらいの距離なのかな?」


『ゼンリョクデ、トンデ、サンジカン、クライ』


「結構近いんだねー」


『ダンジョン!!』

『行こっ!!』


 その報告を聞いて、ワクワクが抑え切れなくなったツキミちゃんとダイフクのテンションが振り切れる。

 あんことピノちゃんは普通のテンション。ヘカトンくんはお留守番だから我関せず。


「あー、んー......じゃあ、ダンジョン行こうか。もし行きたくないって子がいるなら無理に着いてこなくてもいいよ」


 鳥ちゃんズのテンションに押され、前から約束していたダンジョン攻略に踏み切る事が決まった。



 ここでお留守番の意向を示したのはピノちゃん。理由を聞くと、あの大きい木を最後まで育てたいからと言われてしまった。


「えー......マジかぁ......」


 お留守番してもいいよと言った手前、俺がここでゴネるのは間違っている。間違っているんだけど......寂しさが抑えきれずにしょぼくれてしまう。


 もうすぐで完成だからと頑として譲らないので、ここは大人しく諦める。

 その際、もっとあの木を増やしていいかとも聞かれ、二十本までならと制限を付けた。

 あの木をアホほど増やされても困るから、どうか二十本まででお願いします。


 それでももう少し増やしたいピノちゃんにゴネられちゃったので、仕方なく他の植物を用意する事に。


「他にも違う植物を何本か植えとくから、それで我慢してください」


 ここまで言ってどうにか納得してもらえたので、ここでダンジョン攻略前夜の話し合いは終わった。




 そして翌日、出発前に木材として使えそうな種類と役に立ちそうな種類を植えていった。

 松、樫、黒檀を五本ずつ、桃、楓、白樺も五本ずつ、それと竹をそこそこ多めに。

 竹は万能素材としてだけでなく、筍ご飯や焼き筍が食べたくなったから。


 これだけあればきっと大丈夫......ピノちゃんも満足してくれるはずだ。

 俺ができる事はこれまで......後はあの子が張り切りすぎて、帰ってきた時に思いもよらない光景になっていない事を祈るのみだ。


 お願いだからしっかり管理するんだよ。頼むよ!!



 残りの問題点も解消していく。

 ダンジョンをクリアするまでにどれだけ時間が掛かるかわからないので、ご飯類や必要そうな物は一年分ほどヘカトンくんの収納袋に詰め込んでおいた。

 後は牛の処置などについても色々お話した。


「じゃあ俺らはダンジョン攻略に行ってくるからお留守番頼んだよ。牛と植物のお世話はしっかりやるんだよー!!」


 両肩にツキミちゃんとダイフク、定位置にあんこをセットした俺は、ワラビの背に飛び乗って角を掴む。


「行くどー」


 俺の掛け声と共に羽根を広げて飛び立ったワラビが、どんどんスピードを上げていく。この子、やけにテンションが高い。


 初めてのダンジョンと、俺らを乗せて飛ぶ事が楽しいのかな?


 龍さんに乗った時以来の空で少し落ち着かない。ていうか、早い高い怖い。

 落ちても無事なのはわかるけど、なんか怖い。風圧がやばい......


「そ、そこまで急がなくていいから......もう少しスピード落とそうね」


 楽しそうにカッ飛ばすワラビを宥めてスピードを落としてもらい、やっと落ち着いて空の旅を楽しめるようになった。


 ......スピード違反はダメだね。法定速度は遵守しましょう。


「あぁぁぁ落ち着いたスピードで飛ぶ空の旅って気持ちいいぃぃぃぃ」


 不満そうにするワラビには悪いけど、スピードをあげようとする度に威圧を飛ばして牽制。


 それから約六時間をかけた空の旅を楽しみ、日が傾きかけた辺りでようやく目標のダンジョンへと辿り着いた。

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