第171話 色々あった冬が過ぎ......

 順風満帆な雪山ライフを過ごし、一ヶ月が経過した。

 予想していた劇物合計百個での進化は叶わず、ワラビは今日もおめめをウルウルさせながら劇物を食べている。

 ウルウルなおめめなのに光は一切灯っていない。かなり不気味な絵面だ。


 進化までまだまだだろうけどがんばえー。



 あ、そうそう。この一ヶ月の間に、三つのイベントがあった。


 一つ目、聞こう聞こうと思っていたけど忘れていたアレを、骨喰さんのお手入れしている最中に聞いてみた。


 夜寝る前だったけど、外に出て龍さんと明王さんを出してしばらく談笑。


 なんと、龍さんは女性である事が判明した。オスメスって言い方は失礼かなーと思って女性と呼ぶ。

 ......まぁまぁ長い付き合いのクセに今更アナタの性別はなんですかと聞いたのも相当失礼な事なんだけど。

 明王さんは見たまんまの性別で漢だとわかる。漢女じゃなくてよかった......


 龍さんに龍の性別の見分け方をレクチャーしてもらった。角の丸みや鱗の形状の些細な違いやらを熱弁されたけど......正直全く違いがわからなかい。

 俺に性別を把握されていなかった事がショックだったらしく、かなり熱のこもった講義だった。ごめんね。



 二つ目、勇者パーティが遂に魔王の元へ辿り着いた。


 ......カッコ良さげに言ったけど、牛が七頭でパーティを組んで挑んできたってだけだ。


 牛の文化はよくわからないんだけど、アレかね?君らは戦いに挑む前に絶対にメスを孕ませる決まりでもあるのかいなと言いたい。メスが六頭ご懐妊、オスが一頭萎びていた。

 萎びたオスにレッドマムシドリンクを差し入れるようにヘカトンくんに指示したのは、俺の優しさだ。


 結果は......まぁ。うん。


 でも、この牛肉達七頭のパーティでこの前の黒トカゲに挑んでいたら、取り巻き達も含めても圧勝できたと思うくらいには強かった。


 そのうちの一頭を解体。まだ本職のようにとは言えないモノの、かなり上達したと思えた。

 まだメスの肉は少ないから今回もオスを使用。あまり作ったことのなかったビーフシチューを作ると、コレがかなり好評だった。

 ピノちゃんが一番喜んでたのが驚きだった。新たな好物を発見できてよかった。


 ちなみにあんことツキミちゃんが俺の晩酌に突撃してきて、ハチノスとギアラのトリッパ風煮込みをつまみ食いして気に入った。

 ホルモンの味を覚えるのはまだ早いのに......面倒だしあまり量が作れないから秘匿しておきたかった。残念......


 くっ......笑顔が眩しい......


 ってな事があった。他の子には内緒にしておいてねとお願いすると、嬉しそうに頷いた。


 秘密の共有が嬉しかったらしい。惚れた弱みというか、女の子っぽい部分を見せられるとどうしても抗えない......卑怯というか、可愛すぎやねん!! 好き!!

 また内緒で晩酌しようね!!



 そして三つ目、遂にウチの天使たちが舐めプに一定の理解を示してくれるようになった。


 勇者パーティの牛達の攻撃を、完全に防御しながら一度受けてから反撃をしていた俺。それに疑問を持った天使たちが質問をしてきた。


『なんでそんな無駄な事をするの?』


 って質問が来たのが事の発端。


「えーっと、頑張って修行や準備をしてから満を持してラスボスとの戦いに赴いてきた勇者達を、何もさせずに瞬殺するのって可哀想だと思わない?」


『でも攻撃されるのを見るのは嫌』


 子どもたちを代表してあんこが俺と話す。心配してくれるのが嬉しい。好き。


「まぁそうだけど......でもさ、皆は狙撃の特訓を頑張ってたじゃん?

 あんこたちがその特訓の成果を俺に見せるぞ!! って意気込んだお披露目の場で、最初から最凶難易度の最難関な場面からスタートして何も出来ずに終わっちゃったらどう思う?」


『............やだ』


 しっかり俺が言ったような場面を想像してくれたらしく、皆が一斉にショボーンとした。可愛い。


「ちゃんと考えられて偉いね。こちらは絶対に怪我しないように防御を固めながら、相手がこれまで頑張った成果を見てあげるのは悪い事かな?」


「くぅーん......」


 全身で悲しさを表現しながらあんこが飛びついてきた。役得です。ありがとうございますっ!!


「よしよし。本物の敵ならそこら辺は容赦しなくてもいいけど、牛達は俺の都合でこうなってるから......せめて悔いが残らないように、ヤツらの最高の攻撃を受けてから倒そうって思ったんだよ」


『......うん。わかった』


 この子たちの精神面での成長、そして俺の父親としての成長ができたような気がしたのはそうだけど、この様子なら舐めプに対しても理解をしてもらえそうに思ったので、畳み掛けることにした。


「じゃあここで応用を一つ......圧倒的な力を見れば敵は絶望するのはわかるよね?

 それとは別に普通に戦ってる最中に敵が絶望するのはどんな時かわかるかな?」


『......絶対に勝てないとわかった時?』


「正解。ご褒美のなでなでを進呈します」


「わんっ」


 頭を撫でてあげると嬉しそうな声を出した。俺の父性が暴走しそうになるぜ......


「よーしよしよし......うん、話を進めるね。じゃあ一番自信のある攻撃が直撃した後に、相手が無傷で、しかも余裕そうにしてたら......どう?」


『......うん。すごい嫌』


「そうそれ。ギリギリの勝負をしていたと思った相手は賭けに出て、大技をぶち込む。しかし、こちらは無傷でこんにちは......最初からこれまで、ずーっと舐められていたんだとわかった瞬間は......」


『うぅ......』


 想像したらしく、顔を顰めるあんこ。そんな君も美しい。


「ね。やられたらすっごく嫌で、やった側からしたら超絶気持ちいいでしょ。

 特に自分が最強と思っているヤツを相手にした時、相手が殺ってやったぜってなってる時からの落差がたまらないのだよ」


『ご主人......性格悪い......』

『......さいてー』

『途中まで為になるいい話だったのに台無し』

『そんな主も素敵だよ』

『楽しそう』

『リュウト、タタカッテイル、トキ、ヤッタヤツ、ダネ』


「............グスンッ」


 言葉の刃が俺の心を切り刻んだ。途中で気分がノッてきちゃったのが敗因か......


 一番付き合いの長いあんことピノちゃんからのお言葉は致命傷。もう無理だった。


 しあんはㅤにげだした▽




 逃げ出した先でソロキャンプ。

 あの子たちのご飯は俺が居ない時用の蓄えを用意してあるので、食事などの心配はしていない。俺は逃げ出したその日から、合計三泊四日の家出を敢行した。


 一週間くらい家出する予定だったけど、寂しさとモフみと癒しが不足し、途中で音を上げて帰宅。


 久しぶりに帰った俺を出迎えてくれたのはあんことツキミちゃん。他の子は監視カメラダイフクによる実況により、俺の様子は把握していたので家出野郎をわざわざ出迎えなくてもいいかってなっていたらしい。


 ......皆様のお手を煩わせてしまい、誠に申し訳ございませんでした。


 しかし、なにやら思う事があったのか、その日の夕食の時の話し合いである程度の舐めプが容認された。あの時のお話と俺の家出は無駄じゃなかったらしい。




 とまぁ......こんな事があった一ヶ月だった。


 春以降に行く予定のダンジョン攻略の時に、自分たちも舐めプするって言い出してしまったあんこたち。

 あんだけ舐めプを熱く語った俺が、あの子たちを説得して止めさせるなんて芸当は不可能だったのは言うまでもないだろう。






 こうしてなんやかんやありつつも、これ以降は特に大したことも起こらず。冬は穏やかに過ぎていった。


 そして......色々あった俺の異世界生活一年目が終わり、二年目に突入となる春がやってきた。


 この異世界に来てからこれまで、俺はステータスを見ても自分の年齢が増えていなかったのだが、まだ山には雪が残るある日......朝起きると勝手にステータスが表示された。


 見ると年齢の所に一歳加算されていたので、この日が俺の誕生日になるらしい。異世界に飛ばされた記念日でもある。


 まだ確信は持てないので保留。明日、あんこの年齢が加算されたら確定という事で。


 ダンジョン内で暦どうこう言ってたけど、あの後結局確認する事ができなかったので、今日から日付けをカウントしていこうと思う。

 幸い春夏秋冬があるし今日を四月一日と仮定しておけば来年には正確な暦がわかるはずだ。ダンジョンに行っている間のカウントは、ヘカトンくんにお願いする。


 こっちに来た時の正確な日付けは思い出せない。転移の際、名前と共にそこらへんの記憶も失くしたのかな。

 ......まぁもう未練も無いから別にそこはいい。


 異世界ハッピーバースデー俺。今年はこの子たちと平穏に過ごせますように。

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