第169話 オブジェ制作

 いつもと同じ時間に目が覚め、皆の朝ごはんを準備。

 ぬくぬくのお部屋の中で布団にくるまって寝ている天使たちの幸せそうな寝姿を、【千里眼】を使ってチラ見しながらのご飯作りとなります。


 今日はちょっとやりたい事があるので、後ろ髪を引かれながら朝ごはんを先に食べる。食べ終わったら書き置きを残して出勤。皆はこのままゆっくり寝ていていいからね......行ってきます。





 外に出ると雪がめっちゃ降っていて、いつもより寒かった。顔面と手だけが冷気に晒されてすぐに冷える。

 いつも着ているチート装備のおかげで気軽に外出とか出来るけど、これが無かったら冬の間はずっとコタツとお布団がマブダチだったと思う。


 さて、バルブがあるおかげで自由度が高くなっている温泉を改造していきましょう。

 上手くいかない場合には作り直せばいい。うるせぇ上司とかにいつまでに終わらせろとか言われないゆるゆるな職場はさいこー。



 では始めよう。


 適当にパイプを繋いで伸ばしていき、目標地点まで達したらバルブを捻って水が通るか確認。水漏れなども無く、問題なく水が通った。

 素人工事でも何とかなったのは、召喚で出した道具等がなんやかんやご都合主義を発揮してくれたんだと思う。結果良ければ全て良し。深く考えたら負けだ。


 これさえ上手くいったなら後は楽ちん。岩やレンガを加工しながら見栄えがよくなるように組み上げていく。


 素人なりに上手く出来たと思う。問題点が見つかれば、その都度手直ししていけばいい。


 いい感じに時間も過ぎたし、一度戻ってツキミちゃんとダイフクにモデルになってくれとお願いしなくては。




 ◇◇◇




 ちゃんと起きて朝ごはんもしっかり食べた天使たちは、コタツに入ってダラけていた。

 俺もそのままコタツに入ってダラけたいけど、今入ったら抜け出せなくなるので諦める。めっちゃ誘惑してくるけど......我慢。


 全身全霊でコタツを満喫しているツキミちゃんとダイフクに、ちょっとコタツから出てきてくれないかなって頼むのはキツい......そんな残酷な事しなければいけないのか......


「ツキミさんとダイフクさん。お願いしたい事があるのですが、少しお時間をいただいてもよろしいでしょうか?」


『なに?』

『いいよー』


 ちょっと今忙しいから後にしてって、コタツ民特有のお断りをされると思っていた。あざーす。


「ツキミちゃんとダイフクにはモデルになってもらいたいのよ。なにかしらポーズを取った姿を写真に撮らせてください。お願いします」


『コタツから出ないとダメ?』

『どんなポーズをとればいいのー?』


 ......出なきゃ無理でしょって言いたかったけど、コタツに埋まったままの姿もイイな。ツキミちゃんは優しくて可愛いねー。


「じゃあダイフクはその格好のままでいいよ。何枚か写真を撮らせてもらうから。ツキミちゃんは外に出ても問題ない?」


『じゃあ勝手に撮って』

『抱っこしてくれるならいいよー』


 腕がちぎれかけていようが骨が折れていようが、意地でも抱っこしますからねー。

 撮影の許可が出たので、色んな角度からダイフクをパシャる。ダラけたお顔のドアップも撮ったので、煽られた時とかの反撃用にしようと思っている。




 ダイフクのあられもない姿をパシャり終えた俺は、ツキミちゃんを抱っこして再度温泉へと向かう。


「この前、あんことピノちゃんの像を見た時拗ねてたから、動物の口からお湯が出るっていうオブジェをツキミちゃんとピノちゃんをモデルにして作ろうと思ったのよ」


 この説明ではあんまりピンと来ていないツキミちゃんだったけど、自分をモデルに作ってくれるって所は嬉しかったみたい。


「こういう感じのなんだけど、どうせなら可愛いポーズの全身像にしたいなと思ってる」


 どっかの大富豪の家の風呂にありそうなライオンのアレを召喚。実物を見せたら何となく理解したツキミちゃんのテンションがあがり、顔面に飛びついてきて全身で喜びを表現してきた。


 とても気持ちよかったです。


「流石にあのお湯の色だと、口から出すスタイルにするのは見た目的によろしくない。だからツキミちゃんは可愛いポーズを取ってほしい。何となく水を生み出している様に見せるから」


 完全に理解したツキミちゃんは、俺の顔から腕に移動してポーズを考えだしたのか、うんうん唸っている。


 コタツから出てポーズをする事すらしなかったダイフクは残念だけど、コタツから顔だけ出してる姿......緩んだ顔で口から血を垂れ流す像になる。済まんな。


 打たせ湯スタイルにしようと思っている所はダイフク像を、壁からお湯が出る場所にはツキミちゃん像を設置予定。


 頑張ってポーズを考えてくれているツキミちゃんを撫でながら、なるべく白い色の岩を糸でカットしていく。

 細かい作業は指から出さないといけないけど、大雑把な作業の時は適当に出した糸で問題はない。


 リアルなのが作れなかった場合にはデフォルメした物に変更予定。

 俺の内に眠る美術的なセンスよ......頼みますよ!




 ◇◇◇




 ダイフクオブジェを制作していた俺に、ポーズが決まったよと伝えてきたツキミちゃん。

 ツキミちゃん自慢のポーズを360度あらゆる角度から撮影。


 最初は恥ずかしがりながらパシャられていたツキミちゃんだったけど、途中から吹っ切れたようでノリノリで撮影に挑んでくれた。


「イイ! イイよ!! その角度とってもセクシー!!」

「ハイそこ!! そこで止まって!! 可愛いよーとっても可愛い!!」

「はい、そこで流し目を!!」


 途中からただのグラビア撮影になってしまったが、目的の写真は撮れた。残りの写真はアルバム残して大切に保管します。


 あんこの定位置に収まったツキミちゃんを撫でながら、ダイフクオブジェ作りを再開。


 一時間程で完成。


 ......そう、完成したのだけど、なんかリアルすぎて可愛さが減少している。

 石では毛のふんわり感や、生き物ならではの温かみが再現できない。

 なにより可愛さが足りない。


 結構似ているのはツキミちゃんも同意してくれている。だが、これで満足かと言われると「うーん......」と言わざるを得ない。


 ちっちゃい石でデフォルメしたダイフクを作ると、こっちの方がいいと力強く言われてしまったので、リアルさを減らしたダイフクオブジェに切り替えた。


 時間が掛かるからツキミちゃんはお部屋に戻っていていいよと伝えたところ、『今日はワタシが主を独占するの』と言われた。



 こんな可愛い事を言われて大人しく作業なんてできる訳がない。


 俺には無理だ。無理に決まっている。


「今日はもうおしまい」


 神速で全てを片付けて立ち上がった。


「夕飯の時間になるまで二人っきりで過ごそっか」


 そう提案すると体の向きを変えて抱きついてくるツキミちゃんが狂おしい程可愛い。ローブの内側に腕を入れてこちらからも抱きしめる。


 これだけでも作業を止めた甲斐があった。この子たちと個別に過ごす事が少なかったと反省。これからはなるべくこういう時間を作ろうと思う。


 抱っこに全神経を注ぎながら何かしたい事がないかツキミちゃんに訊ねると、抱っこしたままお散歩してほしいと言われた。んもう、甘えんぼさん可愛すぎる。




 俺の胸元からヒョコンと顔を出してご機嫌なツキミちゃんと一緒に、雪原お散歩デートを楽しむ。


 散歩中、俺が単身赴任をしている間にどんな事をしていたのかを話してくれた。

 詳しく聞いたところ、あの子たちは結構好き放題やっていた。これは少し教育的な指導が必要かもしれぬ。特にダイフクはほとんどの時間をコタツで過ごしていたらしい。



 俺とあんこの二人だけだった時の事を聞いた時に、定位置に入っての移動の部分がとても羨ましかったらしい。帰り道はフードに入れてほしいとも言われた。


「他の子がいる時にやった事あるけど二人きりでは無かったからね。ごめんね。でも、言ってくれればいつでもしたのに」


『皆が居る前で言うのは恥ずかしい』


「そっかぁ」


 ここまで喜んでくれるなら、これからも定期的にデートしようと思った。なんだろうこの初々しさ......ほんと可愛いなぁ。



 約半日のお散歩デートを凄く喜んでくれたツキミちゃん。

 デレデレのままお家に帰り、この日は寝る時もずっとべったりで可愛かった。


 夕飯の時にワラビの姿が変わっているとか、ちょっとびっくりするような事があったけど、今日はツキミちゃんの日なので大したリアクションをとる事ができなかった。

 ごめんねワラビ......そんな目でこっちを見つめるのは止めようか。それと、ヘカトンくんはしっかり依頼を果たしてくれてありがとう。

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