第164話 甘味処シアン
「じゃーーーーーーんっ」
エンジェルたちの所へ戻った俺は速攻で御神体をお披露目した。この素晴らしい像を一刻も早く見てほしかった。
この像を見た瞬間にテンションが上がったのはあんことピノちゃん。
キラキラした瞳で『おぉぉぉ......』ってなってる姿がエクセレント。マジキュート。この姿をオカズにご飯何杯でも食えるわ!
ツキミちゃんとダイフクは......拗ねてた。自分たちの姿が混ざっていないのが悔しいらしい。なんかごめん。
ヘカトンくんとワラビはキャッキャしていた。どうしたのか聞くと、これから警戒するべき範囲が縮むのが嬉しいそうだ。負担を掛けまくっていてごめんなさい。いつもありがとうございます。
大分拗ねてるツキミちゃんとダイフクを宥めながら、御神体の能力を詳しく説明。
『うぉぉぉーすっげー!!』って反応を期待していたのに、この子たちは何故か御神体の効果を聞いてヒいた。悲しい......
ヘカトンくんだけは狂喜乱舞。ここまでテンションの上がった彼を見るのは初めてだった。
牛だけに集中してればいいとわかったのが嬉しいんだって熱弁してきた。本当に申し訳ございませんでした。
偵察トカゲを発見してからは、かなり気を張って警備してたヘカトンくん。いつの間にか警備担当はブラックになっていた様です。
「......そんなになっていたのは知らなかった。温泉が出来たら一番に入らせてあげるから待っててね」
罪悪感がエグい。慰労と言えば温泉って認識の俺なので、功労者のヘカトン君には温泉一番風呂の権利を進呈。我が社は福利厚生の充実に努めて参ります。
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労働組を労い、天使たちを愛でてリフレッシュした俺は、一度自分の部屋に戻って御神体弄りを開始。
マックスまで魔力を注ぎ入れて起動。そこから効果の及ぶ範囲、味方の判断基準、警告音の種類、敵の処遇を設定。
かなり細かい設定ができる様なので、侵入者などの処遇については考え得る限り最高に凶悪な設定にした。聖域を侵そうとするような愚者共にかける慈悲は無し。苦しんで、苦しんで、精神が崩壊する寸前まで苦しみぬいてから死ぬがよい。
これを聞いてどんな設定をしちゃったのか気になっている貴方へヒントを一つ。あのジジイが作ったクソダンジョンの産物は流石だなぁって思いました......とだけ。
実際に侵入してきた者が来ちゃった時のお楽しみだね。フフフフ......
さっ、やる事やったしあの子たちの所へ戻ろう。今すごく気分がいいから沢山お菓子を用意してあげるからねー。
いや待て俺......今回はせっかくだし、皆の名前に因んだお菓子を用意するのもいいかもしれない。よし、今日のおやつはこれで決定!
ㅤ期間限定の甘味処、オープンに向けてまずは商品の発注をしなくては。
餡子は粒あんとこしあんの二種類。
ピノちゃんと同じ名前のアイスと雪を見る方のだいふく。
大福系も色々と用意。ただしフルーツ入りの大福......てめぇはダメだ。俺の好みの問題で、フルーツ入りは用意されず、生クリーム入りの大福が多く用意されたのは仕方のないこと。
ちゃんと月を見る方の大福も用意してあるし、月見と言えば団子なのでコレも忘れていない。
ヘカトンくんから連想されるスイーツは残念ながら思い浮かばなかったので、なんとなく丸くてゴツゴツした物を。
という訳で、鬼まんじゅうという角切りのさつま芋を生地にたっぷり付けて蒸しあげたどっかの銘菓を用意。
最後にわらび餅。
似たようなお菓子の日本一有名な武田さんの名前が入ったお餅もついでに。
きな粉と黒蜜さえあればモチモチした食感の食べ物は無敵になれる。バニラアイスもあればなおよし!!
後は餡子を付ける物も用意すれば完璧な布陣になる。ピノちゃんの白玉もこの際だから大量に放出しようっと。
皆喜んでくれたらいいな。あの子たちがお気に召さなくても、今回用意した品物は俺の好物なので無駄になる事は絶対に無い。
......あ、忘れる所だったわ。ちゃんとしょっぱい物も混ぜておかなくては。
ㅤ悪魔の無限ループ。甘いのとしょっぱいものの奇跡をどうぞご賞味あれ。
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皆の所へ戻ると、俺を確認した皆が一斉にこちらへ突っ込んできた。えっなにこれ?
いや、嬉しいし幸せだよ。これは間違いない。なになに......俺の体から甘い匂いがしたから......なるほど。
だけどなぁ......ワラビまで飛び込んでくるのはどうなのよ。お前でけぇから皆のように飛び込まれても、受け止めるのは無理だよ。
先に飛び込んできたあんこたちをプレスしそうだし。
ということで、すまぬ!!
しあんは ひらりと みをかわした▽
俺に避けられたワラビは頭から雪に突っ込んでいった。まさか避けられると思っていなかったんだろうなぁ......
「避けたのは悪いと思ってるけど、君は自分のサイズを理解してくれ......あのまま飛び込まれていたら腕の中のあんこたちが潰れる所だったんだよ」
ヘカトンくんが雪から引き抜いたワラビに向けて軽いお説教。これからは気をつけるんだよ!
しょんぼりしているワラビを撫でると元気になったので、本日のメインイベントである甘味処を開店したいと思います。
「とりあえず中に入ろっか。いっぱい甘い物を用意したから皆で食べようね」
ヘカトンくんとワラビのお家の中に駆け込む天使たち。超偏食だった最初の頃から随分と変わったな。
うんうん。好きな食べ物が増えていくのは良い事だ。
お座りして待機している皆の前にお菓子を敷き詰めた大皿を置いて、これがどんな物なのかを説明していく。
皆が自分の名前の由来になった物から食べ始めていく。ごめんね、安直な名前付けちゃって......
ワラビは上手く取り分けられていなかったので取ってあげる。主食は生肉だったワラビに甘い物が刺さるかはわからないけど、気に入ってくれたら嬉しいな。さっき甘い匂いに誘われてたから、劇物の影響で味覚が少し変化したのかもしれない。
では俺も食べようかね。
最初はオーソドックスに黒蜜きな粉。ガキの頃にわらび餅をガッついた時、きな粉が器官に入って死にかけた苦い思い出がある。
見た目の涼やかさのせいで冬に食うイメージはないけど、暖かい室内で食べる夏の食べ物もまた乙な物だ。
ぷるぷるの食感で口の中でスッと消えるこの感じが好き。言うまでもなく黒蜜ときな粉がいい仕事をしてくれている。
あっという間に第一陣を食べ終えてしまったので、一度緑茶で口の中をリセット。
余韻を味わった後はわらび餅第二弾。
第二弾はきな粉の代わりに抹茶を掛けて味わう。
仄かな苦味と鼻を抜ける抹茶の風味に黒蜜が合わさると口の中がパラダイス。
本来はゆっくり味わうべき物なんだけど、他にもいっぱい甘い物があり、それらも食べたいので急ぎ気味に食べ進める。
あんこは団子とバターロールに餡子を付けて食べている。うんうん、その食べ方美味しいよねー。雪見のだいふくに粒あんを付けて食べるのも美味しいよ。
ピノちゃんはピノと武田さんのお餅を食べている。温度調節できるようになったから冷たいのもイケる。あの頃のピノちゃんはもういない。幸せそうな顔をしててこちらも嬉しくなる。
ツキミちゃんは生クリ大福に夢中。今度ホイップあんぱんを差し入れしてあげよう。ようこそ高カロリー愛好会へ。
ダイフクは用意してある大福を全種類制覇しようとしていた。欲張りさんめ。
白いモチモチが白いモチモチにを食べてモチモチしている姿は癒される。思わずパシャリとしてしまった。
ヘカトンくんは月見団子と白玉に夢中。あのサイズが丁度いいんだろうね。いっぱい食べてくださいませ。
ワラビは相変わらずわらび餅。抹茶はお気に召さなかったみたいで、ずっと黒蜜きなこ。他のお菓子には目もくれていない。
これからも色々食う機会があるだろうし、今は好きな物を好きなだけ食いなさい。
心が浄化されそうな光景を眺めながら初めて食べるお菓子に手を伸ばす。
持った感想は結構ずっしりしている。
蒸してあるからか見た目よりも食べやすく、ホクホクした甘みと芋に隠れた生地がとてもいい相性。
だが、これはとても腹に溜まる。ちょっと今後の配分を考え直さないといけなくなってしまった。
ふぅ......これ、かなり腹にクるな。よし、今は冷たいのを食べたい気分だからあんこと一緒に雪見餡子だいふくを食べよう。
半分にカットしてその上に粒あんを乗せた物を手に、あんこの元へ向かう。
ほーらこれが俺オススメの食べ方だよー。
膝の上に乗せたあんこのお口に雪見餡子大福を運ぶ。
イチャイチャしながら食べさせていると、ちょっとむくれたツキミちゃんも乱入してきて幸せだった。
思っていたよりもこの催しは好評だったので、次回は洋菓子をメインに開催してみようと思います。
ただ、俺も含めた全員が食いすぎてぐったりしている。この様子だと誰も夕飯食べないっぽい。
あー、もう今日は動きたくないっすわ......
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