第161話 受け入れ

 安心して眠る。


 そんな事が出来る環境というのは、生きている者にとってなくてはならない大事な物である。



 なんかもう何が言いたいかよくわからなくなってきた。

 まぁアレだ。うん、なんと俺は一日半も寝続けてしまったらしい。

 久々の自宅、愛する天使たち、ふかふかのお布団、寝不足......爆睡できてしまう環境が整いすぎていた所為だ。


 自分ではちょーぐっすり寝れたって感覚しかなかったから、起きた時にエンジェルたちから寝すぎたって真実を告げられて驚いた。

 こんなにも長く俺が寝た事はこっちに来てから初めて。起こしてもいいのか、それとも寝かせたままにすべきかの判断に迷ったとの事。


 本当にごめんなさい。自分でも、まさかこんなに寝続けられるとは思わなかった。


 お腹が空いたらベッドから抜け出し、ご飯を食べてからまた戻ってきてくれていたらしい......皆の心遣いに感謝。

 起きた時に一人だったら拗ねるんでしょと、ピノちゃんに言われた時は苦笑いしか出なかった。俺の生態をよくわかってらっしゃる。愛のなせる技だね。


 幻影で寂しさを紛らわしていたあの時と違って、体温や重さをガッツリ感じられる幸せを全力で噛み締めながらイチャイチャした。

 二十日分の遅れを取り戻すには全然足りなかったけど、空腹感に負けてご飯を食べる事になるまでイチャイチャした。


 食後の一モフは当然した。




 ◇◇◇




 食後の一モフのつもりが十モフくらいになった所でツッコミが入る。


『いい加減にしろ』


 と、ダイフクに怒られた。解せぬ。

 続いてピノちゃんからも援護射撃。


『忘れているようだから言うけど、キメラの処遇を早くどうにかしてあげないとヘカトンが可哀想』


 ......やっべ。完全に忘れていたでヤンス。

 俺がお家に帰って寝た後、放置されしまったキメラをヘカトンくんが保護してくれていたらしい。後で飴ちゃんを大量に差し入れしてあげよう。


「あと五分だけ......五分だけでいいから......」


 体は正直とはよく言ったものだ。頭は行動をしなくてはと思っているのに体が言うことを聞かず、未だにもふもふし続けている。

 食欲、睡眠欲、モフ欲。俺という人間モドキの三大欲求。生き物は欲望には逆らえないモノなのだよ......ふふふ......脳が、手が、全身が、モフるという行動を肯定している。

 ドーパミンドバドバ。




 体感では一分も経っていないのに、五分経ったから早く行くぞ、とダイフクとピノちゃんに告げられる。


「んもう......まだ一分しか経っていないから後四分は残ってるでしょ。嘘はダメでちゅよー」


 俺は俺の感じた時間を信じる。

 よーしよしよしよし。素直になりなさーい。

 俺の言葉を聞いて不機嫌そうな空気を出すも、大人しく撫でられているツンデレさんたち。よーしよしよしよし。


 優しいエンジェルたちは十五分程延長してくれた。ありがとうございますっ!!

 ちょっとだけプリティなお顔が顰められていたような気がした。うん、気がしただけだろう。




 ◇◇◇




 俺にべったりのあんことツキミちゃんを抱っこしながら、キメラとヘカトンくんの所へ向かう。ピノちゃんとダイフクも、俺にべったりしてくれていいのに......

 道中であんことピノちゃんがキメラと話し合いをした結果を聞いた。


 どうやらキメラは本心から俺らと一緒に居たいと思っているらしく、群れに加えてほしいと頼み込み、ウチのNo.1とNo.2から許可を既に得ていた。


 ツキミちゃんもダイフクもヘカトンくんも、キメラを仲間にするのに賛成の意を示していて後は俺の承認だけとの事なので、なんの問題もなくキメラの加入が決定した。俺の承認は一番最初にしたと思ったんだけど、寝てる間に俺の気が変わるかもしれないとの配慮により、最終決定はまだ下されていなかった。


 そんなキメラくんは、俺が爆睡している間はヘカトンくんに教わりながら牛のお世話を積極的に行ってくれていたそうです。

 キメラはヘカトンくんと同じタイプで真面目系いい子。そんな子を放置していた罪悪感が今更になって俺を襲ってきた。ごめんなさい。


 ふぅ、結構な大所帯になったにゃあ。七人家族+家畜がいっぱい。

 俺の家族構成はしっかり者が二名、真面目系が二名、甘えんぼが二名、マダオマジでダメな男が一匹。

 この構成は完璧なバランスではないだろうか。もうちょっと甘味が強くなってもいいと思うけど。



 さて、問題発生だ。

 受け入れる事が決定したキメラの名前を早いとこ考えなきゃいかん。ヘカトンくんの例もあるし、適当に呼んでたらその名前で定着しちゃいそうだし。

 ヘカトンくんは完全に事故。まさかアイテムが進化して生物になるとは思わないやん。



 さて、名前だ。

 それにしてもシカ、ウマ、コウモリ(羽)、キメラか......体色は茶色が多い。


 全然思いつかない。どうしよう。

 ヘルプを求めてチラチラとエンジェルたちに視線を向けるも、プイッとそっぽをむいてノータッチの姿勢を貫いている。一緒に考えてよ。


 はい、すみません。頑張って考えてみます。


 んー......何がいいかなぁ。


 甘いお菓子系だと、チョコバットとかふ菓子、かりんとう、麦チョコみたいなのしか思い付かない。色合い的に。


 うむむむ......

 いや待て、ヘカトンくんで崩れたから無理に甘いもの縛りをしなくてもいいかもしれないな。キメラはそこそこおっきいからスイーツって感じでもないし。


 とりあえず枠を広げて食べ物系をメインカテゴリにして考えてみようか。




 ◇◇◇




 はい、やってきました牛エリア。考え事をしていたらいつの間にか到着していた。


 雪の上にヘカトンくんとキメラが座ってのんびりしている。寒くないの?

 牛達は相変わらずなんかよくわからない特訓をしている。体がかなり絞れていてもう牛と思えないような体型のヤツもいる。可食部分が減っちゃうのはNGだから、そこに気をつけて今後は鍛えろよ!


 あ、子牛だ......まだちっこいなぁ。母牛の乳に吸い付いている姿はほんわかする。


 ......いやほんわかするのはダメだ。絆されないようにしなきゃならん。いずれ牛肉として食卓に並ぶことになるんだから、可愛いとか思っちゃダメ。


「あー、ヘカトンくんはキメラと牛のお世話をしてくれてありがとう。キメラは放置しちゃってごめんね。ヘカトンのお手伝いをしてくれてありがとう」


『大丈夫』


『ヘイキ』


 んー、やっぱりヘカトンくんとキメラってガチで相性ばっちりみたいだわ。


「これからヘカトンとキメラはコンビを組んでもらっていいかな?

 君たち専用の住居もしっかり用意するし、キメラと連携すればヘカトンくんも自由な時間増えるよ。ていうか仕事たくさん押し付けちゃっててごめんね」


『問題ない』


『ダイジョーブ』


 あぁぁ本当に良い子たちやぁぁぁ!!

 しっかり者の末っ子コンビ。これからもよろしくお願いします。


「ありがと。じゃあ夕飯の時までにキメラの名前を考えておくから。それと......これから君たちの住居を出すけど、仕事内容や欲しい物とかの要望があったらじゃんじゃん言ってきていいからね」


 住居を用意するといっても、春までは建築関係は何も出来ないので住居はコンテナになる。これは正直すまないと思っているが、まぁこの子たちで上手く住みやすい環境に改装してくれるでしょ。


 キメラでも余裕のある大きさのコンテナを出し、床面にはカーペットを敷き、クッションやら布団やらを用意。


 風呂は俺らの使っている物を共用。トイレもざっくりした物を外に作った。


 今までヘカトンくんが使っていた物は本人に相談した結果、新コンテナの横に設置する事に決まった。

 欲しい物は決まったら言うと言われた。いくらでもおねだりしてきてくれていいからね!!


 何がしたいのかを結局聞く事はなかったけど、此処に来たばっかであまり自己主張してこなさそうだからこれでよかったと思っておこう。希望があれば聞くって言っておいたし問題ないでしょ。



 さて、これで夕飯までは自由だ。


「片付けなきゃダメな問題は解決したことだし、これからは皆の為の時間だよ。あんこたちは何かして欲しい事とかあったりする?

 今なら出血大サービス、俺にできる範囲内の事ならなんでもお願い聞くよ」


 こんな事を言ったのが悪かったのか、あんこが一鳴きした後に俺の腕の中からツキミちゃんと共に抜け出し、ピノちゃんとダイフクを引き連れてキャンピングカーの中へ入っていってしまった。連携が取れすぎててびっくりだよ。


 後を追って中に入ろうとしたけど、内側から鍵を掛けられていた。鍵の掛け方とか教えてないんだけどなぁ......

 またあの目の保養会議をしているんだろうか。【千里眼】で覗き見しても気付かれそうだし......


 お外で大人しくしているしかないか。


 いいもん......

 今のとこトカゲ限定だけど上手に解体できるようになったし、トカゲ肉を大量に使ってキメラの歓迎会でもやろう。決してハブられた寂しさをトカゲ肉にぶつける訳じゃないんだからね!!

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