第153話 新魔法

「......見ィつけたァ」


 十九日間も独りで彷徨い続けてメンタルがボロボロな俺さん。ようやく目標を発見した喜びのおかげでちょっとだけ心の余裕ができて落ち着いた。ほんのちょっとだけだけど、プラグ深度がヤバい領域からは抜け出せた。人に戻れなくなる前でよかった。


 ということで、遂にヤツらとご対面。

 今まで俺の感知範囲の外で、隠れながらこちらをコソコソと監視していたであろうトカゲ共。自分らのナワバリが荒らされた事にイラついたのか、こっちにバレるのを承知で堂々と監視らしきヤツらを送り込んできた。助かる。


「フゥゥゥゥゥ......シャオッッッッ」


 ヤツらの姿を確認したので空へと翔び上がり、ホバリングしながらこちらを見ていた三匹のトカゲを手刀で切り裂いた。一匹だけは道案内の為に浅い切れ込み程度にしておいたが、皆殺しだと叫ぶ精神を御するのに苦労した。


 もちろん前回のように取り逃がすなんて真似はしない。ちなみにコイツらに首輪は付いていなかった。


「こちらの言葉が理解できるなら首を二回縦に振れ。喋る事も可能ならば三回だ」


 威圧を少量お漏らししながら問いかける。

 言葉が理解できていれば道案内を頼み、言葉が理解できなければ威圧を浴びせて逃がす......うん、帰巣本能に期待って感じだ。


ㅤさぁどうだー?


 コクコクと二度首を縦に振ったトカゲ。

 喋れはしないけど言葉は通じるのね。これで手間が省けるよ。


「お前の飼い主の元まで連れて行け......連れて行こうとしなければここで殺す。俺を連れて行ったことで飼い主に殺される事になるのなら、は守ってやる。案内する気があるなら首を縦に、その気が無いなら首を横に振れ」


 俺に殺されるか、同族から殺されるか。

 トカゲ共がコイツを殺さない可能性もあるけど、ヒョウの扱いを考えれば粛清される可能性が高い。


 しばらく考え込んでいたトカゲは首を縦に振った。生き残れる可能性がある方を選んでくれてよかった。

 くっ殺タイプのトカゲだったらまた振り出しに戻るところだった。


「案内するフリをしながら隙を見て逃げようとか、ワザと遠回りして時間を稼ごうとか思わないようにね。

 その場合は早く殺して下さいって願わせるくらいに甚振るから」


 首を縦にブンブン振るトカゲ。さぁ案内よろ。


 トカゲのしっぽ切りと言うくらいだし、なかなか俺にしっぽを掴ませなかったチキントカゲ共。そこまで慎重で臆病なら俺に絡む事なんてしないと思うんだけど、何がコイツらを突き動かしたんだろうか......


 そんな事を考えながら進み出した羽トカゲの後をついていく――




 ◇◇◇




 羽トカゲと会敵した場所から更に数キロ離れた所にある洞窟に着いた。


 道中に遭遇したトカゲ共は全て殺処分。罪はない奴らかもしれないけど、喧嘩売ってきたヤツの配下だから遠慮はしない。

 残しておいても余計な遺恨を残す恐れがあるから。


 話が逸れたね。


 案内されたこの洞窟......どうやらかなり高度な隠蔽をされているみたい。道具か術かはわからないけど、もし道具を使ってるのなら、その道具欲しいなぁ。帰る時に持ち帰ろう。

 罠を警戒するのは面倒なので、そのままズカズカと中へ進んでいく。



 ......うーん、雰囲気的にあのクソ精霊の棲み家みたいな印象。元ダンジョンを改装して使用してんのかね......


 中に入ってしばらく進むと、目の前には壁。見事に行き止まりだった。


 イラッとしたのでケツをシバくとギャーギャー騒ぎ出した。煩いからもう一度......と思ったところだったが、急に壁が消えた。


 何喋ってんのかわからないのは面倒だな。とりあえず、早とちりでケツをシバいちゃった事は謝った。


 壁を抜けると開けた場所に出る。デカい洞穴が三つ、それと普通に洞穴サイズの穴がたくさん空いているエリア。

 竜人とかには変化しないっぽいねコイツら。家らしきモノは無く、巣オンリー。


 ......ふむ、あの穴の中でバル〇ンを炊いてから穴を塞いでおけば楽に駆除できるかな?

 他に出入口がなければだけど。どうだろ?



 ......これは後で試してみる価値があるな!



 あー、折角名案を思いついたのに......

 なんかゾロゾロとこちらに来ているみたいだし、そっちに集中しなきゃならなくなった。


 一際デカい穴からやってきたトカゲのボスっぽいのと取り巻きたち。カラフルなトカゲ共ですねー。目がチカチカする。


 ヤツらは出てきて早々吠えだし、羽トカゲに向かって魔法を撃ってきた。

 うるせぇ......無駄吠えすんなって親とかに躾られなかったのかよ。魔法は掻き消してあげた。


 めっちゃ威嚇してくる取り巻き共がウザい。なんでブレスじゃなくて魔法撃ったん?


「今までコソコソしてたトカゲの大将が、ようやくお出ましという訳ですか。こっちは腸が煮えくり返ってるから、お前らに慈悲をかけるつもりはないよ」


 軽く煽っても返答は無し、威嚇が一層強くなっただけ。

 まぁいいんだけどね。ここに住んでるヤツらは一匹も逃がすつもりはないし。そん中に一匹くらいは喋れるヤツいるだろ。


 隔離空間を最大範囲で展開すると、この領域内はすっぽり覆えた。練習の成果が出て嬉しいよ。この洞窟内にいるヤツはもう袋のトカゲ。


 隠れてるヤツらは後回しにして、出てきているヤツのお相手を先にしましょう。


「喋れないのかなー知能指数はトカゲらしくアレなんですねー」


 こうまでしても喋ろうとしないから本当に喋れないのかもしれない。このトカゲはただ単に図体だけがデカくなっちゃったトカゲか......


 話せないならば余計な問答はする価値無し。

 ではこれより、暖めていた新魔法のお披露目です。


 効果のイメージ良し!

 魔力良し!


 いくぞっ!!


 ――魔法の発動と同時に発生した黒い靄がトカゲに吸い込まれていく。


 その靄に驚き、靄を振り払おうとしたトカゲ共だったがその靄は振り払えず......逆に身体へと纏わりついていく。


 こうなってしまえばもう終わりで、すぐに口から、体表から、あらゆる場所から黒い靄が体内へと浸入していく――



 ......よし、上手くいったぞ!!


 自分が狙っていた通りの効果が発動したらしく、ガクガク震えながら崩れ落ちるトカゲ共。しかし俺が予想よりも魔法の威力が強かったのか、それともヤツらが脆弱だったのか......既に自分の重さでヤバい事になっている。


 俺の事を一番威嚇していたトカゲの前に進み、小石を軽く放り足にぶつける。


 すると......まるで致命傷を負ったかの如く苦しみ出す取り巻きトカゲA。

 のたうち回ろうにも身体が言う事を聞かず、ただただ叫ぶだけ。

 そして、叫ぶだけでも身体にダメージが入ったのか、血を吐きしている。


 この結果には俺もニッコリ。


 俺が使用した魔法は【脆弱化スペ魔法】と名付けた。


 主人公が段差から落ちただけで死亡してしまうような脆さの某ゲームをヒントに作成。

 デバフするイメージで展開した闇魔法と、身体を形成している組織を崩壊寸前まで脆くする為に崩魔法を混ぜ混ぜ。身体レベルを大幅に下げつつ、体内をボロッボロにする魔法になった。


 何故闇魔法でデバフが掛かるのかは未だ解明されていない。そうなったのはゲーム等でのイメージのおかげかもしれない。


「なんで俺の事を襲えと命じたのか、俺にわかる言語で説明できるヤツこの中にいる?

 説明できたヤツだけその苦しみから解放してあげるよ?」


 そう問い掛けても、ヤツらからは呻き声が響き渡るだけだった。うそやろ......?


「......喋る気がないみたいだし、このままコイツらが潰れるのを、時々ちょっかい出しながら眺めてるから、話せそうなら話してね」


 缶コーヒーを取り出して一口飲み、タバコに火を付ける。

 コイツらは瞬殺なんてしない。それをしてしまうと俺の溜飲がいつまで経っても下がりそうにないから......ゆっくりじっくり。早く帰ってモフりたいけど我慢。


 当然だけど、吸えばどんどん灰に変わっていくタバコ。それを見て閃く。


 ......コイツら、灰の重みでもダメージ受けるのかな......と。


 一度そんなことを思ってしまえば好奇心が疼いて止まらない。見た目人間の野郎如きの前で這いつくばり、灰皿代わりにされる自称ドラゴンなトカゲ......


 一番偉そうなヤツの前に進んでいき、灰をポトリと頭頂部に落とすと、するとガクンと身体が下がった。


 たったこれだけ......重みとも言えない重みに負けるトカゲ。ぷーくすくす。

 今ならお前らレベル1のコ〇ッタにも余裕で負けるれるね。


 悔しそうな目をこちらに向けながら唸るだけ。色々画策していた割にはとっても脳筋な集団で拍子抜けだ。


 まさか裏に何かがいるのか?


 ......まぁいいか。プライドも心も全て圧し折ってから問いかけてみよう。喋れないけど言葉は通じてるみたいだし。



 そんなコイツらの心を折るのに、丁度良さそうな道具に一つ心当たりがあるので取り出す。


 テテテテン


「う~ろ~こ~と~り~(ダミ声)」


 パッと見拷問器具に見えなくもない道具、そして不穏な名称。


 トカゲさん、俺が何をするのか気付いたみたいだね。目に怯えが見えるよ。でも......もう止まれないのよ。

ㅤ防御力マイナスの状態で鱗取り。ショック死しない事を祈る。


「いざ参らんっ!!」




 高度な隠蔽が施された洞窟の中、一人の人間の笑い声とドラゴンの叫び声が木霊する。


 声がしなくなる頃には、カラフルだったドラゴンは皆一様につんつるてんになっていた。


 大仕事をやり終えた人間は、最後にこう呟いた。


「鱗の分が軽くなって楽になったかな?

ㅤ それと、お前ら全員地肌は同じ色してんだな(笑)」......と。

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