第152話 絶許

 はい、回想終わり。


 そんなこんながありまして......今、俺は独り山の中を駆けている。


 あんこ裁判長は追放と言っていたけど、補足すると“敵と俺の間に存在する問題”を解決してくるまで、此処に帰って来んなって意味だった。



 泣いたよ。あの時に言われた一文だけじゃそうなるのは仕方ないよね。死刑にも匹敵する......いや、死刑の方が楽だと思えたんだもの。

 おっきくなってるあんこたんの足に、みっともなく泣きながら縋った。それだけは勘弁してください......と。



 ......そんな俺の姿を見て不憫だとでも思ってくれたのか、裁判っぽくしたいが為に端折りまくっていた先程の一文の、本当の意味をピノちゃんに教えてもらえた。


 そのおかげで災厄を撒き散らすだけのモンスターに変貌しなくて済んだよ。危うくソウ〇ジェム魔王の卵が穢れMAXになって、卵の顔が血涙を流しながら叫びだして怪奇な日蝕が起きる所だった。

 いやー危ない危ない。山の中の天使たち以外の生物とクソトカゲ共を、躊躇なく生贄に捧げてしまいそうでしたね。


 それと、ヒョウに付着していたあの爆弾首輪......詳細を聞いたら、まぁ酷いモンだったよ。

 三つの命令をインプット可能で、それに背く行動をしたら縮んでいき、最後に爆発するんだって。子ヒョウに付いてた首輪が最大威力のモノだったらしい。

 俺が鑑定する前にあんことピノちゃんが消したので、こんなんだったよって俺が拠点から追い出される前に教えられた。



 本当にさぁ......今まで秘境に隠れ住んでいた引きこもり爬虫類如きが、どんな目的を持って俺に接触を図ったのか知らんけど、俺の心とモフいヒョウ一家を傷付けたその代償は......決して安くないからな。


 どれくらいで終わるのかわからないけど、全力で事に当たり、なるべく早くあの子たちの元に帰るつもりであります。帰りはワープできるので、なるべく行きの時間を減らす事だけに集中......禁断症状でヤバい精神状態になる前に終わらせたいものである。



 ファイト一発でお馴染みの栄養ドリンクでドーピングしながら山道を進んでいく。


 キヒヒヒヒッ......首が磨り減るほど洗いながら待っていやがれ爬虫類共。




 ......あっ......骨喰さん持ってくんの忘れてた。龍さんに運んで貰えれば楽できたのに。




 ◇◇◇




 ~三日後~



 不眠不休で走り続けて三日が経過した。

 俺はいい感じにぶっ壊れてきている。キレッキレの身体とボーッとする頭。

 身体に疲れは無いけど、とても眠い。ドーピングして誤魔化してはいるが、その場凌ぎにしかなっていない。


 寂しい。


 なんで......なんでこんな事になってしまったんだろうか。


 許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない



 ~五日後~



 会えない、寂しい、辛い、苦しい、温もりが欲しい。


 身体のキレも無くなってきた。眠い。早く帰りたい。


 もう山をぶち抜いて直進出来る道を作るのが最適解な気がしてきた。


 殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる絶対に許さない殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる



 ~七日後~



 いくら人を辞めていると言っても、一週間不眠不休は流石に無謀だったみたいだ。フラフラする。


 早くあの子たちに逢いたい。単身赴任は辛い。


 羽が生えているくらいでイキりやがって......クソトカゲ共め......


 殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺


 殺してやる



 ~十日後~



【悪食】さんが異物としてドーピングを無効にしている可能性に気付いて落ち込む。プラシーボ効果だけで十日間走り続けられた俺、流石に気持ち悪いね。強烈な欲望と強い負の感情は、生物を突き動かす原動力になるとはよく言ったモンですよ。えぇ。

 なんとか山も終わりが見えてきたので、テントを張って寝ることに。さすがに限界だったみたいで、クッションに毛布を被せ、ソレを抱いて横になるとすぐに意識が途絶えた。



 気絶するように寝落ち、そのまま半日以上寝ていたおかげか、かなりマトモな思考回路になった気がする。気がしてるだけかもしれないけど、寝る前よりはマシだろうと思っている。


 とりあえず思うことは、この世界は広すぎておかしい。あのヒョウ共は途中までトカゲが運んだのか、転移で来たんだろう。ヤツらの健康状態では一から進むのは無理だわ。

 帰りの転移道具を持たせてなかったのは使い捨てる気しか無かったんだろうね。

 ちゃんと帰りの時用の道具を持たせてれば、今の俺がこんなに苦しむ必要は無かったのに......


 それにしても寂しい。


 休んだせいで今日は移動しようと思う気持ちが湧いてこない。会えない時間が増えるけど、今日はオフにしよう......


 幻影で天使たちを生み出し、幻の天使たちをガン見する。触れない。虚しい。

 天使たちが嫌がる可能性しかなくて食べられていなかった納豆ご飯を食べた。二杯目は納豆+生卵。めっちゃ美味しかった。


 食後は部屋の隅で毛布を被りながら体育座りのまま過ごした。触る事のできない幻影を眺めていると一日が終わっていた。


 ハハッ。


 手のひらサイズのトカゲとかでも、視界に入った瞬間に殺してしまうほど極まってきている。



 ~十五日後~



 三日に一度休養日を設けると心に決め、休日以外は移動とトカゲの集落探しに勤しむ。

 俺の傍らには愛しのあんこ、ピノちゃん、ツキミちゃんとダイフクの姿がある。


 もちろん幻影。


 なんで本物の子たちは一緒にいないんだろうなぁ......不思議だなぁ......




 多節棍みたいなギミック付きの槍を扱うう赤い女の子が、絶望して指揮者になってしまった青い女の子に寄り添って爆死するあの場面みたいに......誰かに側にいて欲しい。


 温もりが足りない。愛情が足りない。もうやだ。




 ......ていうかさぁ、コレ......よく考えたら俺、完全に巻き込まれただけだよね。

 敷地内に侵入してきたヤツらに殺されかけてただけやん。




 ......絶対に許さない、絶対に滅ぼしてやる。


 山を抜けてから結構進んだけど、何かが住んでいそうな気配がする場所は見つからない。環境破壊しながら進めばトカゲは巣から出てくるのかなぁ。


 ......寝不足と疲れと心労で、とりあえず壊せばいいかって思考になってきている。だがそれでいい。正攻法なんてクソ喰らえだ。


 どうせ此処は俺が住みたいなぁと思える場所じゃないし、憎きトカゲの領域だからぶち壊す事に罪悪感は湧かない。


 うふふふふっ......ヤツらが湧くのが早いか、ヤツらの領域が更地になるのが早いか勝負しようじゃないか。俺に手を出した事を後悔させてやる。

 死が生温いと思えるほど追い込んでやるよ。




 さて、魔法はイメージとはよく言ったモノである。


 ここ最近、ずっとシューティングゲームの運営に苦心していた俺のスキルレベルはかなり上がり、魔法の扱い方もかなり上達した。


 実は隔離空間の中でコソコソ魔法の練習したりもしていた。

 解体が上手く出来なかった時のストレス解消が主だった理由だけど。例えそれが偶然の産物だとしても、とても有難い結果を俺に齎してくれた。


 あのクソ精霊の領域で試した時にわかったけど、俺が作成したクラヤミもどきは若干意思があるように思えた。そしてコイツは簡単な命令なら実行してくれる。


 さぁ、やろうか。


 動きのイメージはル〇バの掃除機。

 ソレに下す命令は......

・俺から二十キロ以上は離れるな

・指定した範囲内にある生き物と、俺に関係があるモノ以外の全てを対象にしろ

・俺が止まれと言うまで吸い続けろ


 ステータスにまだ魔力が表示されていた頃くらいの量を注ぎ込み、禍々しい黒いモザイクを作成。それを三つ生み出す。


 プログラムはしっかり出来ているようで、「行け」と告げると即動き出した。


 後の事はアイツらに全て任せ、俺は優雅に散歩をしていけば......

 あーら不思議。いつの間にかここら一帯は草の一本も生えていない地に早変わりとなる訳ですよ。


 結構広い範囲を指定したので、周囲を忙しなく動き回るモザイクたちを横目に歩いていく。


 さートカゲ共、早く出ておいでー。出てこないと更地になっちゃうよー。

 隠れて俺を見ていようが、しばらくすると隠れる場所が無くなっちゃうよー。

 餌場も、お気に入りの場所も、棲み家も......ぜーんぶ跡形もなく消滅しちゃうよー。


 まぁ出てきたら出てきたで、お前らと云う存在がこの世から消え去るんだけどね。



 そんな強制更地ツクールを、ゆっくりと散歩をしながら楽しんでいった。


 そして............



 ~十九日後~
















「............見ィつけたァ」

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