第151話 私刑
「......ちゃうねん」
その一言をなんとか捻り出した後は蛇に睨まれた蛙状態の俺と、お嬢様方のプレッシャーをモロに当てられてガックガクなヒョウママ。
あ、ブチ切れお嬢様がおっきくなった。凛々しいね、かっこいいね、それでも失われない可愛さは流石です。でもさ、ちっこいままでもよくないかな?
ㅤヒョウママの震えが一段階強くなった。
おっきくなったあんこは俺の襟を咥えると、部屋の隅へと俺を放り投げた。扱いが雑くて悲しい......
口から言い訳を垂れ流そうとしても、「お前は黙ってろ」の集中砲火になりそうなので、判決が下るまで大人しく待っていた方が、裁判官様たちの心象を良くできそうと思ってひたすら黙秘しておく。
反省の意を示そうと正座で待機していると、俺の方にピノちゃんが寄ってきて、なんでこんなにあんこがブチ切れてるのかの説明を受けた。
戯れているだけだと思っていたあのヒョウ達は、完全に俺を殺しにかかっていたと説明された時は衝撃だった。
噛まれていた箇所を思い返しながら触ってみると「あぁー......」となり、納得。
頸動脈と喉笛とか、急所と言われるような場所だったんだもの......こんな事にすら気付けないほど浮かれていた自分のアホさ加減に落ち込む。
いやー二重の意味でショックでしたわ。異世界にまでやって来て、ようやく俺も猫科の生物と仲良くなれるチャンスが与えられたのかと思っていたのに......
涙目になりながらピノちゃんを抱きしめる。こっちもまだ怒ってるんだよ! って言ってくるけど、密着しながらでもお説教できるよね。
反省はしているし、言われる事は全て大人しく聞くから......どうかこのままでお願いします......そう誠心誠意伝えるとピノちゃんは折れてくれたので、この抱きしめた状態のまま説明が続いた。優しい君が好きです。
まだブチ切れているあんこの唸り声をBGMにしながら、ピノちゃんの説明が続く。
・あんこは俺が襲われていた事にブチ切れているらしい
・夜中に起こされて急いで駆け付けたら、首元を執拗に攻撃されている俺を発見
・ピノちゃんもその光景を見てカッとなってヒョウを殺っちゃったけど、俺が自分たちの噛み付きでもダメージ無かったのを思い出してクールダウン
・そして今の説教に至る
ザックリ言うとこういう事らしい。
説明を受けている最中に、ツキミちゃんとダイフクもこちらにやってきて肩に止まり、両サイドからコメカミにつつく攻撃をされている。甘んじて受け入れますよ......えぇ。
こんなクソミスカスな俺の事を心配してくれてありがとう。世界は愛に溢れている。俺は、とっても幸せ者だったんだね......
猫に好かれないからなんだっていうんだ。俺にはこの子たちがいるじゃないか!!
ごめんねと呟きながら、ツキミちゃんとダイフクもホールドする。これは感謝の気持ちを伝えたいだけであって、決して私欲的な行動ではありませんよ。
一通り言いたい事を言えたからか、ピノちゃんは落ち着き、それを見てツキミちゃんとダイフクも落ち着いた。
どうやら浮気現場目撃からの修羅場って訳じゃなく、この子たちの大好きな俺が、殺意剥き出しの輩に襲われていた事がダメだったらしい。
うふふふふ......めっちゃ嬉しい。
なんだかんだ言われつつも、愛されている事を確認できたので幸せです。
そこからしばらくガウガウワンワングルグルと話し合っている声を聞いていた。
それが急に止まり、間髪入れずに今度は苦しんでいるような声が隔離空間内に響いた。
一分ほど悲しい鳴き声が続き......ヒョウママの首が弾けた。
「......はァ!?」
驚いて声を出してしまったがこれは仕方ないだろう。中学生を拉致って殺し合いさせるアレみたいな首輪を付けられていたって事だろ......この件を仕組んだ黒幕野郎......なんて酷い事をしやがるんだ......
何が起きたのかはよく知らないけど、一応決着を見せた今回のヒョウ事件。
......なんだろうけど、崩れ落ちたヒョウママを一瞥してから、今度は俺を睨むあんこ。その視線がまぁ冷たい。
俺の事を道端に落ちているクソでも見るような目で見てくるあんこたんだった。
「わんっ」
あんこが軽く吠えたと思ったら、腰から下を瞬時に氷で覆われてしまった俺。そして俺の腕の中からそそくさと逃げていくマイエンジェルたち。
......よくわからないけど......アレか......
これは......俺に有罪判決が下ったという事なんだろう。
罪状は一体なんなのだろうか。死刑判決は出ないと思うけど、実刑は確実と思われる。
ヘカトンくんも裁判官の方についている様子なので、これは俺に情状酌量の余地は無いな。検察、裁判官、弁護士でもう話はついていて、後は判決を下すだけのようだ。
............被告人の俺は、このまま大人しく刑を言い渡されるのを待つしかない......か。
この子たちの親権没収だけはやめてほしい。お願いします。お願いします。
そして――コト〇マの残弾ゼロな学級裁判が幕を開けた。
裁判官からこの事件の内容が淡々と語られていく。かなり胸糞な事件だった。
・あのヒョウはやはり刺客だった
・黒幕の入念な情報収集により、俺の弱点は可愛い動物と判明
・こちらのもふもふ状況を把握されており、こちらの陣営と被らず、一番俺の油断を誘えそうと判断されて送り込まれたヒョウ一家
・あっさり標的を殺れたなら殺れたで良し、それがダメならば、威力マシマシ首輪を付けた子ヒョウ爆弾を起爆すればなんとかなるだろうとの事
・ヒョウ達が俺を殺り、無事に帰ってこられた場合には、彼等に手厚い報酬を与えて自由にしてやるとの事
・黒幕は亜人でも魔族でもなく、龍の中でも最強の一族
・この山を抜けた更に奥、まだ人間共に見つかっていない領域に住んでいるらしい
・もっと詳しい事を聞き出そうとしたら苦しみだして死んだ
ㅤ・ポッと出のヒョウにデレデレしてたのは許さない
この話を聞いて、さすがの俺も察したよ。
俺に優しい皆が、一様にこんなにも冷たい目を向けてきている意味を。
まんまとモフ仕掛けに引っ掛かり、挙句の果てに無抵抗で急所を攻撃されまくってたんだからね。
頭を下げようにも、謝罪をしようにも、いつの間にか鼻から下は氷に覆われてしまっているので、話を聞く事と鼻呼吸、視線を動かす事しかできない無力なわたくし。
無情にも判決を受け入れるという選択肢以外は残されていなかった。
そして判決。
ギルティ
ギルティ
ギルティ
ギルティ
ギルティ×50
うーんこの圧倒的裁判員裁判。
この状況は、猫型ロボットみたいな声をしたクマロボットが、ノリノリで「エクストリームゥゥゥ!」とか言ってそうな状況ですねー。
まさか、票を持っているのがヘカトンくんの頭全部とは思ってもみなかったよ。五票なら意見が割れる事はないはずなのに、更に四十九票も追加して偶数にする必要ないやん。
まぁ仕方ない。一瞬でも猫モフの夢が見れたし、そもそも俺が最初にした決断から間違っていたんだから......
罰を受け入れる覚悟の決まった俺に下された判決は二つ。
一つは、あんこ様を除いた全ての子どもたちからのオシオキ。
もう一つは、一つ目が終わった後にあんこ様直々に下されるらしい。
そして俺へのオシオキが執行される事となる――
【無期銃殺刑】執行。
四か所に穴の空いた分厚い円形の氷の中に押し込められ、マッパで磔にされる俺、ついでと言わんばかりに下半身と口はガッチガチに氷で覆われている。
動けない、喋れない。
空いた穴には、執行獣がスタンバイしている。
......嫌な予感しかしない。
そして、あんこ様の
シューティングゲームを散々やらせてきたのが仇となっちゃったよ。ハハッ。
どんどん撃ち出される一撃必殺の威力を擁した弾丸が俺に撃ち込まれていく。もう目を瞑っていても動かない的程度なら百発百中のクセに、なぜか数発に一度ワザと当てないように撃ち込む執行者たち。
何故そんな無駄な事をしたのかは、すぐに体で理解させられる。
いつの間にか跳弾などという高等テクニックを身につけていたようで、四方からの弾丸だけではなく360度、どこからでも降り注ぐ弾丸の雨霰。
ほんとーに、いつの間にこんな技術を会得したのさ......飛んでる弾に当てて軌道を変えるとか怖いよ......
俺じゃなきゃとっくに死んでるんだからね!
もうやめてっ、シアンのライフ(精神面)はゼロよっ!!
◇◇◇
そこから体感で一時間くらい、ずっと弾を当てられ続けた。この刑罰にした理由は、お前の無駄に高すぎる防御力をちゃんと自覚しろと言いたかったかららしいです。はい。
その防御力への圧倒的な信頼感のおかげで無遠慮な全力射撃を続けられたって、刑の執行後に伝えられた。執行者が飽きるまでやり続ける予定だったとさ。
その信頼通りに無傷での解放となった俺。
お手数をお掛けいたしました......今後、動物がじゃれついてるのか、殺しに来てるかの判断はしっかりやります。ごめんなさい。
充分に反省して、釈放されるつもり満々だった俺は、もう一つ刑があるのを忘れていた。
そう、ここまで内容を一切告げずに勿体ぶっているあんこ様の求刑。
さっきのより酷い刑なんてあるのかと思っていたけれど、あんこ裁判長から告げられた刑は、俺の心を深く抉った。
『主文、被告を追放刑に処す』
ぐにゃぁぁ~~~
何でそんな言い回しを知ってるかと考える以前に、告げられた言葉の意味を脳が理解した瞬間、俺は目の前が真っ暗になった。
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