第150話 修羅場
俺たちのサンクチュアリに、何かがやって来た気配を感じて目を覚ます。
現在は周囲真っ暗なので、やはり真夜中らしい。寝てる時に目が覚めたからそんなこったろうとは思ったけどさ......
なんでこういうのは、真っ昼間とか朝食後しばらくしてからとか、こちらにとって超絶丁度いい時間帯に来てくれないんだろう。
お、ヘカトンくんもちゃんと察知しているみたいだし、急いで行く必要はなさそう。
......いや、ダメだ。急ごう。
此処を敵視しているヤツの居場所を聞き出す為に、最低でも一人は生かしておかないとあかん。Gへの対策もそうだけど、こういうのは巣ごと消滅させないと安心できない。
外は寒いのでローブを羽織り、寝ている天使たちを起こさないように慎重に部屋から出て、急いで現場へと向かった。
敵と思しき反応は四つ、ヘカトンくんは遠距離から殺そうとしていないらしく、現場へと向かっているので途中で合流できそう。
この様子なら急ぐ必要無かったなと思いながら移動していると、ヘカトンくんも俺を察知していたらしく、向かう途中で合流できたので一緒に不審者を迎撃しに向かった。
向かう途中でキチンと仕事を果たしているヘカトンくんを褒めると、敬礼を返してきた。後で撫でてあげよう。
さてさて、どんなヤツらがここを狙っているんだろうなー。
◇◇◇
現場へと到着し、愚か者共の姿を確認した俺らは一旦、不審者の事を隠れて様子を見るスタイルに落ち着いた。
問答無用で情報提供者一体を残して殺ってもよかったんだけど、ヤツらは人の形をしていなかったので様子見となった訳でございます。
......うん、見事に獣なんだよ。
ヒョウだよなアレ......猫科で豹柄。しかも親子に見える。
......それにしても猫科かぁ......猫科の生物は俺に絶対に懐いてくれないんだよね。何がいけないんだろう......さっぱりわからん。逆マタタビ体質なのかにゃぁ......
まぁいいや、えーっと......ヤツらの姿は、オーソドックスな柄と色で、毛並みはそこそこ汚れていて、首と後ろ脚に千切れた鎖付きの枷が付いている。パッと見た感じは、完全に脱獄or脱走して逃げてきた逃亡者。
でもね、君たち......来る場所があかんのよ。偶然の一言で片付けるのは無理。余りにも違和感たっぷり。
まず此処は偶然辿り着けるような場所では無いし、別に此処まで来なくてもいくらでも隠れる場所はあるんですよ。
生活環境に耐えきれずに脱走するような酷い状態のヤツだったとしても、複数匹、それも子ども連れで来れる場所でもない。
必死に逃げて逃げて逃げて......逃げていった先に偶然此処があった的な感じだとしたならば、ヤツらは余りにも綺麗すぎる。
そして、ここまで余裕で来れるようなヤツらなんだとしたら......誰かに隷属させられたり、捕まるなんて事はないだろう。
結論、ものっそい怪しい。
ヘカトンくんに索敵を頼むも、感知できる範囲に他の生物などの反応は無し。俺の索敵にも何も引っ掛かっておらず、上空にもそれらしきモノはいない。
......はぁ、とりあえず鑑定でもしてみようか。
▼ハキムレオパード
非常に頭の良いヒョウ▼
うん。
......どうしよう。鑑定したら余計に胡散臭くなってしまった。
頭が良いヤツを相手にするのなら、直感型や本能型をぶつけるのがいいんだよなぁ。俺が相手にするとしても言葉がわかんないし......
事が済んだ後にガッツリ謝って許してもらえばいいか。
「ヘカトンくん、ウチの子たちを起こしてここまで連れてきてくれないかな。アレから色々聞き出したいから」
サムズアップしたヘカトンくんが天使たちを起こしに向かった。
......俺が行けばよかったかな。寝ぼけた天使たちを見たかった。ぐぬぬぬ......
実際俺が迎えに行けばよかったと後で後悔するんだけどね......ハハハッ......
逃げられないように隔離空間でアレらを囲んで......天使たちの到着がわかるように一箇所だけ扉っぽい構造にして開けておく......
これでよし。
さて、ではヤツらに姿を見せよう。居るのは気付いてただろうし。
俺がヤツらの前に姿を見せると一瞬ビクッとしたが、すぐに持ち直す。余りこちらを警戒していないように見えるけど......
考えてみてもさっぱりわからないから、諦めて話しかけてみよう。賢いって説明があるくらいだから言葉とかは理解できるはず。
「お前らはどうしてここに来た?」
俺の問い掛けには「グルルルル......」という返答があった。なるほど......さっぱりわからん。早くピノちゃん来てくれぇぇぇ!!
経験値が足りなさ過ぎて、猫科の動物とはどう接していいかわかんないのっ!!
俺の問い掛けに返事をした父親っぽいヒョウ、体半分程後ろに位置している母親っぽいヒョウ。
そんな母親の後ろにいて、俺が姿を現してからずっとこちらをチラチラ観察していたヤツらの子ども......らしき小さいヒョウが不意に駆けだし、勢いをつけて俺に飛びついてきた。
攻撃かと思い身構えるも、単純にじゃれついてきただけだった。
......何だこれはっっ!! 遂に俺にもモテ期がきたのか!?
ちょっと爪が立っているものの、身体を擦りつけながらミャウミャウ言っているヒョウの子ども。肩と首元がハムハムされている。
............苦節二十一年と数ヶ月......異世界にまで来て、ようやく猫科の生物と触れ合えるようになりました......した......シタ......シタ......(エコー)
こ、これ......な、撫でちゃってもいいのかな?
触った瞬間にシャーってされないかな? かな?
恐る恐る手を差し出して撫でてみようとすると、子ヒョウは俺の指を甘噛みした。ガブッとヤラれるかもしれないとビクビクしていたけど、そんな事はなかったらしい。触らせては貰えなかったけど結果オーライ。
「フフッ......フフフフフフ......」
自分でもわかる。わかるよ。気持ち悪い笑いが溢れているってことは。
わかってるけど止まらないんだから仕方ないじゃないか。君たちにこの気持ちがわかるかい?
子どもが好きなのに子どもに避けられ、ギャン泣きされてしまうような強面のおっさんが、ようやく子どもに懐かれた......そんな心境なのですよ今の俺は!!
このヒョウ達が怪しいって?
そんな事実はなかったよ。このヒョウ達は俺と出会う為に此処まで来てくれたんだ。
「......フヒヒッ......可愛いなぁ......この様子なら、夢だったチ〇ールって言う誇張されまくった猫との触れ合いCMの再現が出来そうだな」
子ヒョウはそんな俺の妄想なんて知らんって感じで、俺の首と喉仏辺りを甘噛みしてきている。
父親ヒョウさんと母親ヒョウさんがガウガウ言いながら話し合いっぽいのをしているけど、相変わらず何言ってるかわからない。
君たちもこっちにおいでよ。ほら、子どもたちに混ざって俺に飛び込んでおいで。
ここには俺とヒョウ以外はいないから、恥ずかしがる事は無いんだYO!!
さぁ......大人だからとか、子どもを優先しないととか、余計な事は考えずに欲望を解き放つんだ......今まで逃亡生活をしていた君らは、ここで俺に甘えてくるべきなんだ!!
「さぁおいで」
出来る限り緩んだ顔をキリッとさせ、大人のヒョウに向けてイケボ(当社比)で呼びかけた。
さすがヒョウといった感じのしなやかな身体の使い方で、俺に飛びついてくる父親ヒョウさん。母親は傍観している。
ヒョウに襲いかかられている気持ちになったけど、見た目がアレなだけで実際は可愛いもんだ。
じゃれてくるヒョウかーわーいーいー!!
デュフフフッ......このヒョウ達の名前はどうしよっかなー。やっぱり甘い物シリーズで統一するべきよね。
ツキミちゃんとダイフクのおかげで、ニコイチの名前でもおっけーな前例がある。夫婦と子どもたちでそれぞれセットにして考えよう。
ふふふふ......何がいいかなぁ......
キット〇ットとかパ〇コとか......色々あるよな......
んもうっ、真剣に考えている最中なんだからくすぐるのやめてくれ。
「ちょっとダメだって、毛がくすぐったい」
父親ヒョウまで俺の首を甘噛みしてくる。なにこれ、親愛の意思表示とかなの?
ついでにママンもしてくれていいんだよ。愛情表現はいくらでもやるべきだ!
父親がグルグル言いながら噛み噛みしてくる。ついでに子どもたちも便乗してたので衝撃映像みたいになっていると思う。
だけど可愛くって仕方ないから問題はない。そろそろ俺のターンをしてもいいかな?
ㅤもうコイツらをモフっていいよね!?
意を決して父親の背中を触ると、毛は案外ゴワゴワしていた......しっかりケアしないとダメじゃないか!!
急に触られてビックリしたのか、甘噛みしていた父親ヒョウの口に少しだけ力がこもった。不意打ちしたせいで驚かせてしまったようだね......ごめんなさい。
懲りずに子どもたちも触ろうと思い、子どもたちの頭に手を伸ばしそうとした瞬間――母親以外のヒョウ達の頭が弾け飛んだ。
ついでに子どもを触ろうと伸ばしていた手に、氷の弾と炎の弾がぶち当たった......
痛かった......俺じゃなきゃ手が爆散してる威力だよコレ......
氷と炎......?
ッッ!?
......ハハッ......ヘカトンくんがお使いを完遂してくれたみたいだね。でもどうして、あの子たちはヒョウを殺しちゃったんだろうか......
「......ヒィッ」
なんで殺したのかって疑問を抱えながら入口の方に視線を向けると、ブチ切れているあんことピノちゃん、不機嫌そうな鳥ちゃんズとオロオロしているヘカトンくんの姿があった......
「......ちゃうねん」
ㅤ激おこな天使たちを前に、そんな言葉しか出てこなかった。
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