第147話 成長記録

 クソゲーの初回プレイをしてから、一週間が経過した。


 その間に俺のスキル運用も上達したようで、敵が倒されてから消滅するまでのタイムラグがほとんど無くなった。......まぁ、未だにそこしか成長させられていないんだけど。

 難易度調整は加減が難しく、ハードがハードと思えないくらい温いと言われたので、難易度上げてみたらやりすぎと苦言を呈される。難しいデス。


 あんこ、ピノちゃん、ヘカトンくんのエースクラスはルナティックで詰んでいる。意地があるようで難易度調整しようか持ち掛けるも、このままでいいと固辞される。

 悔しそうにしているあんこ、ピノちゃん、ヘカトンくんに無差別乱射はしないのか聞いてみたけど、それだと訓練にならないって怒られた。

 すぐ楽な方に逃げてしまう俺と違って、この子たちは偉い......どうしよう、パパは自分が情けなく思えててきちゃった。


 難易度ルナティックまではゲームと同じ感覚でやってもらっていい。

 ほぼ同じ敵が、ほぼ同じ行動パターンをし、ほぼ決まったペースで出現する。

 敵の動きや攻撃パターンをよく観察しながら覚えればいいんだよとアドバイスをすると、何度か頷いた後にやる気満々になった。


 現実だとヘルモードクリアくらいで無双できそうだけど、俺やこの子たちに何か不測の事態が起きてしまったらと考えると、どうしても過保護気味な思考になってしまう。

 もし、あのジジイみたいなのが出てきたら......っていう懸念もあるし、やり過ぎくらいで丁度いいんだと思っておく。


 それと、皆が楽しんでプレイしているのもあるし、真面目な顔で挑んでいる姿も尊いものがある。



 鳥ちゃんズは堅実なプレイでメキメキと成長している。

 ダイフクは長距離射撃の精密さが群を抜いている。頭部破壊の上手さや早さはウチの子一の腕前だろう。

 連射性能は低いけど、他の子と一緒に居る時は無敵かもしれない。


 ツキミちゃんは中距離のスペシャリストに仕上がりつつある。威力は低いものの連射性能が高く、主に下半身を撃ち抜くスタイル。

 相手の機動力を封じればワタシの火力でも問題ないって言い切った時はカッコよかった。

 部位破壊や部位のダメージ蓄積にも対応できるようにしないとあかん......って難易度調整のヒントを貰ってしまった。


 オールマイティに何でも熟すあんことピノちゃんのダブルエース。

 弾幕要員であり最後の砦なヘカトンくん。

 長距離スナイパーのダイフクと、中距離から敵対者の機動力を絶対殺すウーマンのツキミちゃん。


 人間共が相手なら今の時点でも、全人類が一斉に襲いかかって来ても余裕で対処できるだろう。人類相手なら。

 しかしあのジジイレベルを相手にすると仮定するならまだ足りないだろう......



 あれ!?


 なんか最初の目標からズレてきている気がする。まぁいいか......ウチの子たちが楽しそうにしてくれているなら。

 楽しそうで嬉しそうな姿。それがこの世で最も優先されるべき事柄なんだから。




 ◇◇◇




 またまた一週間が過ぎた。

 もう山は完全に冬景色になり、朝起きてから最初にやる雪掻きが日課になっている。

 これは拠点の周りだけスキルは使わずにやっている。他は収納したり消し飛ばしたり。


 牛牧場は全くのノータッチ。ヤツらの行動範囲にある雪は、いつも少ない。

 これはオス牛共のトレーニングのせいで、火魔法の得意な牛が、魔法で燃え盛りながら駆け回って雪を溶かしているから。

 溶かした雪を水魔法の得意な牛が水辺に流し込み、土魔法の得意な牛が地面を整備している。


 ......まぁなんだ、スクスク成長しているので文句はないけど、何になろうとしているんだお前達は。


 そしてメス牛も進化したのがチラホラ出てきているので、今後の楽しみが増えてきている。

 牛たちは放置すればするほど美味しくなっていくので、挑まれない限りはそのままにしてある。


 妊娠しているメス牛は、お腹がパツンパツンになっていてそろそろ出産しそうな雰囲気。がんばれおかーさん!



 そして俺は空いた時間に狩りに行き、解体の練習を頑張っている。真冬なのに冬眠する動物が少ないのはありがたい。

 結構上達したと感じているので、そろそろ牛を捌いてみてもいいんじゃないかと思っている。

 ゲームのクオリティは、動きの滑らかさが格段に上昇した。他は全然まだまだです......すみません。


 あんことピノちゃんとヘカトンくんは、未だにルナティックに苦戦しているけど、かなりの成長をしている。皆で挑めばルナティッククリアできるだろう。


 蓄積ダメージや部位破壊等の仕様を追加したので、多少やりやすくなっていると思われる。前より楽くなったとも言われたし......ごめんね。


 ダイフクとツキミちゃんは、とうとうヘルモードをクリアした。めっちゃはしゃぎながら喜んでるダイフクとツキミちゃんを見て、パパは不覚にも涙を流してしまいました。子の成長はいつ見ても素晴らしいものであります。


 その日の夕飯にはお赤飯を用意した。

 ダイフクだけは気に入ってくれたみたいだけど、他の子にはあまりウケなかった。

 いつになってもいいから、いつかお米大好きになってくれる日が来てほしい。

 お祝いのご飯と言えばお赤飯かなーと思っていたけど、次回からは別の物を用意しましょう。


 尾頭付きの鯛とか、めげずに米系の鯛めしとかにしたら喜んでくれるかな......それともローストビーフとかの方がいいかな?


 ......んー、次回のお祝い時には両方用意してみよう。考えても何があの子たちに刺さるのかわからないから、数打って当てよう。

 これらの料理はいつ用意してもいいんだけど、俺の中では特別な時のご飯って印象が強いからそうしてみたいというわがまま。

 気に入ってくれなかった場合はショックを受けるんだけど、俺自身が好きだから一人で処理できるので無問題。


 あ、はい、おかわりですね。りょーかい。




 食後、ずっと特訓を頑張ってくれた皆にマッサージを施していく。ピノちゃんとダイフクは、提案した瞬間に警戒しやがったけど、やってやってと喜びながらせがむあんことツキミちゃんを先に施術しているのを見せると、ようやく警戒を解いた。


 そんなに露骨に警戒されると、いっその事フリなのかなって思っちゃうじゃないか。やったら怒るからやんないんだけど(半ギレ)。


 そのクセやり始めるとあら不思議......気持ちよさそうに蕩けちゃう。マッサージってスキルがいずれ生えたりするのかなーと思いながら、ウチの子自慢のプリティボディを揉みほぐしていく。


 施術中に寝ちゃったピノちゃんが可愛かったです。




 その後はお風呂に入り、明日はお休みにして一日中遊ぼうねと伝えてから解散。


 ずっと寝惚けてたピノちゃんが俺から離れなかったので一緒に就寝。

 途中で寂しくなったらしいツキミちゃんも乱入してきて幸せだった。




 ◇◇◇




 この日の夜、爆睡していた俺は部屋の中に侵入してきたヘカトンくんに頭を揺すられて起こされる。


 ピノちゃんとツキミちゃんを起こさない為の配慮だと思うんだけど、頭だけ揺さぶられて若干気持ち悪い。


「......まだ眠いんだけどなぁ......ヘカトンくんどーしたのかな?」


『お腹が大きいウシが苦しそうにしてるけど、どうしていいかわからないから呼びにきた』


 寝起きでボーッとしていた頭が、一気に覚醒する。


 ......まさか......出産!?


「まじか......うん、起こしてくれてありがとう。多分このまま放っておいても大丈夫だと思うけど、万が一に備えて様子を見てくるよ」


『大丈夫なの?』


「平気平気。牛の子どもが産まれるんだよ。病気じゃないから大丈夫。ありがとね、ヘカトンくんは休んでていいよ」


『わかった』


 帰っていくヘカトンくんを見送り、俺は牛の元へ向かう。

 出産で気が立っているかもしれないから、久しぶりの犯人スーツを装着し、限界まで気配を殺して闇に紛れて牛たちを見守る。


 夜の冬山......精神的にキツかったけど、そこから二時間ほどで無事に牛は出産を終えた。

 難産かすんなり産まれたかは、知識が無いからよくわからないけど、母子ともに健康そうでよかった。


 十分ほど観察を続けたけど問題はなさそうなので、産まれたての仔牛と出産を終えた母牛に、いらん情が移らないうちにそそくさと退散した。


 まぁアレだ......出産おめでとうございます。スクスク育っておくれやす。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る