第145話 備え
翌日、朝食の後に全員を集合させて、これからまだ見ぬアホ共への俺が考えた対策を伝える。俺とこの子たちの楽園を侵そうというつもりならば、俺は修羅になる。
仏に会えば仏を斬り、鬼に会えば鬼を斬る覚悟だ。
「えーっと、昨日ですねー......ここを観察していると思われるアホ鳥にあんこちゃんが気付いて、ソレを撃ち落として鑑定した結果、ソイツはどっかの国の偵察要員と思われる事が判った......まぁ疑惑の段階なんだけど。それで、ヤツは高高度からの監視をしてきやがったから俺は気付けていなかったんだけど、君たちは気付いてた?」
俺の問いかけに首を横に振るウチの子たち+ヘカトンくん。この話を聞いた途端、目付きが鋭くなったのでイラッとしたんだと思う。
俺は【千里眼】で逃がしたトカゲ野郎を追おうとしたけれど、スキルの扱いが下手すぎるのか、スキルが発動する条件を満たせていなかったのか......残念な事に逃げたトカゲを追う事が出来なかった。
なので今からこの子たちに、ヤツらが再び来た時にしてほしい行動をお伝えしようと思っています。
「君たちの感覚は......まぁ、ぶっちゃけ俺より鋭くて正確で、今回気付かなかったとしても......そんな事例があったとわかっていればどうにかできちゃうと思ってる。だから君たちがそれらを見つけた時や、不快に思う相手を見つけた時には遠慮なく迎撃しちゃってください。責任は俺が全て負います......ここまででわからない事、質問のある方は挙手をお願いします」
あ、ピノちゃんが挙手......挙尾をした。尻尾をピンと伸ばした姿勢が可愛い。
あっはい、続きを早く言え......ですね。わかりました続けます。
「大好きなあんこ、ピノちゃん、ツキミ、ダイフク、それとヘカトンくん......君たちとの平穏な生活を邪魔されるのは許し難い事です。なので、見敵必殺を徹底してほしい。相手の事情なんて一切省みず、目撃=射殺がベスト......ここまではいい?」
全員コクンと頷く。
うん、士気が高まっているのを肌で感じられる。この子たちからも俺を好きと思われているのが嬉しい。
「それと、これから皆には長距離射撃を特訓してほしいと思っています。本当は俺だけで対応できればいいんだけど......ハハハ、俺だけだと難しいから皆に頼っちゃうダメな俺を許してほしい」
この子たちはなんでこんなに良い子なんだろう。俺との生活を本気で好きと思ってくれている。泣きそう。
返答は満場一致で『任せて!!』だった。
「ありがとね。意見や質問あればどうぞー」
ワサッと大量の手が挙がる。一つだけ挙げてくれればいいんですよー。
「はい、ヘカトンくんどうぞー」
えーっと、『明らかに迷い込んだだけのヤツでも殺すの?』ですか。いい意見ですね。それと漢字もしっかり使えてて素晴らしい。
「うーん、殲滅が一番後腐れが無くていいと思うけど、悪意とかには俺より敏感だろうから、君たちの判断で見逃して大丈夫。それでも、見逃す場合にはしっかりと口止めをしてから見逃してね」
理解したらしく、ビシッと敬礼してくるヘカトンくん。それも一つの手だけでいいよ。
おっと、ツキミちゃんが羽根を広げてる......挙手と思っていいのかな?
指名すると、『特訓ってどんな事をやるの?』と聞かれた。
「はい、いい意見ですね。遊びながら特訓って雰囲気にしようと思っているよ......的を俺が幻影で生み出し、それを君たちが撃ち抜くって感じ。大まかな案は出来てるから、それを俺が上手く表現できるかをこれから試してみる感じかな」
そう、これからこの子たちが楽しみながら射撃の腕を上げられるように、シューティングゲームの完全再現を目指します。
隔離空間、幻影、多重思考のレベルアップをしながら、エンジェルたちの射撃スキルの爆上げを目指す完璧なプロジェクトだ。
ヘカトンくんには負担をかけてしまうけど、普段の業務の後に参加してもらう。その分報酬もしっかりあげるから許してほしい。
訓練にはFPSを模倣した物を用意、完全なるお遊びにはTPSを模倣した物を用意する予定。
ハテナが浮かんでいるツキミちゃんだけど、実物見せた方が早いと思うから本番まで待っててほしい。これ以上は上手く説明出来ないから、待っててと伝えると納得してくれた。
「他には意見あったりするかなー?」
......いないみたいだねー。天才すぎだろウチの子たち。
「それで......誰かに正式版の前に体験版をプレイしてもらいたいんだけど、やってみたいって子いる?」
誰かいるかなー程度の提案だったんだけど、なんと全員が挙手してくれた。んもう、パパ嬉しくて泣きそうになったじゃないか!
そこからマイ従魔ズが集まって何かを話し合っている。この光景をYou〇ubeで配信したとしたら、絶対バズるよね。
俺ならその配信を仕事中でも視聴してしまう自信があるもの。
真剣に眺めていたいけど、俺の為に真剣に話し合っているのを無為にしたくないので、頭の中でFPSゲームのイメージを固めていく。
高高度にいる敵、ステルス機能持ちの敵、スピード特化の敵、小賢しいor小狡い敵、クソ程耐久の高い敵など、あらゆる事態に対応できるように敵を作り上げていく。
自分が相手にしていてイライラする敵を思い浮かべていけばいいだけなので、これは案外上手くいった。
......あのジジイを悪く言えないかもしれない。いや、でもリアルでソレを作り出すあのジジイの方がイカれている。絶対にジジイと同類では無いと思っておこう。
次はシチュエーションやフィールドだけど、これはこの山の環境をそのままトレースさせてもらう。
俺がこのFPSの運営に慣れてきた時に別パターンを作成すればいい。先ずは俺が慣れる事が先決だ。
従魔会議をチラ見すると、ヘカトンくんが弾かれたみたい。一番の下っ端だから仕方ないのかな......と、思っていたけど違ったらしい。
俺の視線が気になったのか、『牛の管理があるから辞退した』ってボードに書かれた。
「ごめん」
それしか言えなかったけど、本人は気にしていないみたいだった。君の頑張りにはしっかり報いるからね!
得点の配分など、細かい所はテスターの意見も参考にさせてもらおう。
業務に戻っていくヘカトンくんに飴をあげ、従魔会議が終わるまで試行錯誤していた。
◇◇◇
テスターとして参加する子はピノちゃんに決まり、これから体験版をプレイするということで......本日の集まりは一旦解散となった。
ピノちゃんが選ばれた理由は......
・従魔たちの中で一番はっきり俺に意見を述べられるという事
・一番冷静な判断ができるという事
・幻影の扱いが上手く、狙撃も上手いので、体験するという役を選ぶのならばピノちゃんが最適と従魔ズの意見が一致
という事らしい。
まさかのガチな理由からの選出。
マイエンジェルたちは俺なんかよりも絶対的に生物としての格、そして知能が高い気がする。
これからは毎朝この子たちが寝ている時に拝ませて頂こう。
あんこには、鳥ちゃんズに弾丸の撃ち込み方を指導してあげてと依頼した。
お願いねーと手を振り、歩いて去っていく後ろ姿を見送る。
......あっ。
............
........................
あんこはモノを教えるのあまり上手じゃなかったような気もするけど、きっと気のせいだよね。うん。
ウチの子たちは皆天才だから、天才型同士でフィーリングとかはバッチリ合うと思うし大丈夫だよ......きっと。
細けぇこたァ気にしちゃダメだよな。HAHAHAHAHAHA!!
さ、ピノちゃん。久しぶりに二人っきりだね。
俺と一緒に最高のシューティングゲームを作成しようじゃないか!
......ん?
肩に乗ったピノちゃんがクイクイッと襟を引っ張る。
さっきの会議の意見が纏まりすぎていたのは、スンナリと決まったように見せかけたかったらしい。
あんこも、ツキミちゃんも、ダイフクも、ヘカトンくんも、そしてピノちゃんも、体験版に参加したくて会議はかなり白熱していたと教えてくれる。
こんな事を言うのは恥ずかしいだろうに......可愛いなぁ。
一番やりたがっていたのはあんこ、次いでダイフク。
ツキミちゃんは射撃が得意ではないので辞退、ヘカトンくんは言い出せなかったのか、大人しくしていたらしい。
ふむふむ......それで、ピノちゃんは?
そう聞くと、そっぽを向いた。この雰囲気だとアピールしたんだろうな。可愛い。
夜にでも誰かに聞いてみよう。プイッとしているピノちゃんを撫でながら隔離空間の中へ入っていった。
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